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8、竜騎士の個人教育(2)

『てやぁっ!!』



ゴスッ!と鈍い打撃音の後、ゴブリンが血を吐いてその場に崩れ落ちる。

手に握られていたメリケンサックが青白い光を纏って消滅し、腕を振り回しながらリアがぼやいた。



『まったく、数が多いったら。確かにこれ以上増えると戦争ものよね・・・』



リアほどの実力があれば10体のゴブリンを同時に相手するくらいは大したことないが、さすがに広範囲を一気に潰すにはそれなりの力を使わなければならない。そんなことを続けていればリアでもバテてしまうのは目に見えている。



『そちらも終わったようですね』


『あ、ラマだっけ?なんとかね。シューゴ達の方はどうなってんのかな?』


『・・・どうやら、合流できたようですね』



シューゴとミズにゃんが遠くに見えた。二人も大量のゴブリンを相手にしていたらしく、かなり疲労の色が見えていた。



『ハァ、ハァ、やっと見つけたぁ〜!リア、もう敵はいないのか?』


『バテ過ぎじゃない?そんなんじゃこの先持たないわよ!』


『そんなこと言われても俺、本物持ったのはこっちきてからだしなぁ。せめてこいつの使い方さえわかれば・・・』



シューゴは腰に挿した刀をみつめながらそう言う。

実のところシューゴは、元いた世界で剣道を習っていた経験があるのだ。だから素人よりは刀や剣の扱いは上手いのだが、使っていたのは所詮竹刀である。実物の刀の重さとは差がありすぎる。



『真剣を使った剣術なら私も習ったことがあります。騒動も治まりましたし、なんならこれから指導して差し上げますよ』


『マジか!じゃあ頼むわー』


『では町の外でやりましょうか』


『ちょ、ちょ、ちょっと!なに勝手に決めてんのよ!?あたしも付き添うんだからねっ!』



さっさと歩いて行ってしまったシューゴとラマを追ってリアが走っていく。



『あたいは適当にうろついてるからゆっくりしてくるといいにゃん』


『オッケーわかった』



シューゴが答えるとすぐにミズにゃんは視界から消えてしまった。


―――――――――――――――


町の外、草原である。周りには誰もいないため、武器を使う修業にはちょうどいい。

シューゴとラマは互いに向かい合い、5mほどの間をあけて立っている。これからラマによる個人教育が始まるのだ。



『シューゴさん、貴方が手にしている武器は「刀」でよろしいですね?』


『あぁ。これはどう見たって『剣』じゃないだろ?』



シューゴは鞘から刀を抜いて見せた。

シューゴの刀は、柄が黄色く刀身が銀色に鈍く光っている。鍔は普通の物より小さく、長さはまちまちである。



『いいでしょう。では始めます。とりあえず型を教えるので、納刀してください』


『え?型って、構え方のことじゃないのか?それだったらしまう必要ないんじゃ・・・』



シューゴは言われた通りに刀を鞘にしまう。一方ラマは背負っていた長槍を手に持って、バトンチアリングでもするように槍を器用に操り、手慣らししている。

シューゴがどうしたらいいかわからずおどおどしていると、ラマが解説を始めた。



『いいですか?シューゴさんは剣術を習っていたと聞きましたし、先程の戦闘を少しばかり拝見したところ、基本的な振りや体捌きは既に熟練のそれに及ぶか及ばないかの域です』



実際、何体ものゴブリンを斬り捨ててきたし、ジャングルで迷ったときの魔物も、シューゴが人並み以上に動けなかったらとっくにやられていただろう。



『ですから、シューゴさんには「侍」としての剣術を伝授するのです。ご存知の通り、「侍」というのは「戦士」の上位ジョブです。「戦士」の上位転職は力、防御、魔力、そして速技の特化によるものです』


『おいおいリア、そんなの聞いたこともないし、俺は最初から侍だったぜ?』


『知らないわよそんなの。あたしいつも適当に転職してるから』



草原に一本だけある大樹の枝に座っているリアが膨れっ面で機嫌悪そうに応える。さっきからずっと無愛想であるが、その原因のひとつが自分であることにシューゴは気づいていない。



『シューゴさんの場合、鍛えていたおかげか元の能力が普通より高かったようですね。だから既に「戦士」を経験したものだということでしょう』


『ヘ〜俺ってけっこう運動神経いいほうなんだ』


『ここからが本題です。今の貴方のジョブ「侍」とは剣技を極める職、つまり力に頼るのではなく技で勝負するのです。ですから鍔ぜり合いのようなことはしませんね』



シューゴはさっきのゴブリンとの戦闘で、何度か相手の武器を刀で受け止めて反撃していた。ゴブリン単体のは力が弱いため反撃することができたが、自分より筋力のある相手が重量級の武器を使っていたらすぐに潰されてしまうだろう。



『なるほど一理あるな・・・。じゃあ、技と納刀することとはどういう関係があるんだ?』



ラマはそこで一呼吸置いて言葉を続けた。



『侍の主たる技、奥義といっても過言ではありません。それは「抜刀術」です。故に構えは納刀なのです。では一度やってみましょうか』



ラマが話し終えると同時に槍を回す手が止まる。彼女は身の丈よりも長い槍を地面と水平に上段で構え、攻撃の体勢に入った。



『私は今から攻撃しに接近しますので、シューゴさんはそれにカウンターを合わせるように抜刀し、攻撃を打ち落としてください』


『え?嘘だろ・・・』



突然の指示にシューゴがうろたえる暇もなくラマは地面を蹴り、瞬く間にシューゴの喉元に槍先を突き立てる。直線的な動きだがそのスピードは尋常なものではなく、閃光という比喩がぴったりだった。



『は、速・・・!』


『気をぬいてはいけませんよ。私を斬るつもりで来てくださいね』



ラマは一歩引いて振りかぶり、すぐに槍を振り下ろしたが、今度はシューゴが片手で抜刀し槍を弾き返す。すぐに左手を添えて袈裟切りに振り下ろすが、ラマは体勢を崩しながらもバックステップでシューゴとの距離をとった。



『お見事です、シューゴさん。ではもう一度、練習しましょう』



ラマはニコッと笑顔を作り、楽しむように攻撃を再開した。


―――――――――――――――


『次は10回です、いきますよ!』



抜刀術の修業は数時間続き、もう日が暮れようとしている。現在46回目の攻撃である。シューゴの動体視力は回数を重ねるごとに成長していき、抜刀後でもラマのあらゆる方向からくる連撃をことごとく弾き返すことができるようになっていた。



46回目の今回もラマの10連撃を順調に受け流し、反撃しようとしたその時、シューゴの体に電撃が走り、さっきまでとは格段に違う高速で刃がラマを襲った。間一髪でガードした彼女の目は驚嘆で見開かれていた。



『!これは・・・』


『な、何だ、今の・・・?』


『!?あれってまさか!』



観戦していたリアが何かに気づいて大樹から飛び降りてきた。ラマも同じく気づいたことがあるようだ。

二人して刀を眺め回し、結論がでたのか、リアが叫んだ。



『あんたの刀、魔力が宿ってるわ!』



魔力の宿る武器。魔武器や魔法剣と呼ばれるもので文字通り武器から魔法が発生するのだが、伝説の賢者に選ばれた職人しか作ることのできない謎の武器である。しかも武器は使用者を選ぶらしく、どういう条件下で魔法が発生するのかもわからないので使いこなせる人はなかなかいない。



さっきシューゴの体を電撃が這ったのは本人も自覚している。だが発生条件がわからず、完全なまぐれだったのだ。



『まさかシューゴさんが魔武器を持っているなんて・・・今の、もう一度できますか?』


『う〜ん、だめだわかんね。意識して使った訳じゃないし突然だったから感覚も思い出せない』


『そうですか・・・。まあいいでしょう、シューゴさんが魔武器に選ばれたのなら使い方はそのうちわかってきますよ。さて、もう日が暮れます。町に戻って休みましょうか』



一行は町に向かって歩きだした。

歴史に残る大事件がもうすぐ起きようとしていることなど知るよしもない・・・。

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