2、召喚士がケンカ
『キミ、シューゴだよね?』
『・・・そうだけど、キミは?』
シューゴは少女に問う。なぜ自分のことを知っているのか、もしかしたらこの世界にいる理由を知っているかもしれない。
『自己紹介が遅れたね。あたしはリア。ジョブは召喚士だよ。って言っても最初は誰も信じてくれないけどね』
真っ黒な瞳を持った少女、リアが答える。
しかし、シューゴの疑問は深まるばかりだった。召喚士だって?冗談じゃない、これでは某最後のファンタジーと似たような世界じゃないか。
ただ、信じてくれない、というのはシューゴにも何となく理解できた。彼女、リアが魔導師系の職業だとしたら、服装が普段着すぎてそれらしくない。普通はローブとか神聖(?)なものを着るだろう。しかもなんだかチャラい。
『なあ、教えてくれないか?ここはどこでなんで俺はここにいるんだ?』
とにかくシューゴは現状を把握したかったため、核心に迫る質問をする。
『あ、そうだった。この世界はオプクトゥって呼ばれていて、キミのいた世界の平行世界にあたる。でもその事実を知る人はほとんどいないけどね』
『平行世界?』
『時間の流れを共有してるけど、物理的方法では決して行き来できない関係だよ。世界の狭間を通せばなんとかなるけどね』
シューゴは聞き慣れない単語ばかりでもうクラクラだった。でも一番気になることがある。
『でさ、なんで俺はこっちの世界に来ちゃったんだ?』
『あたしが召喚した!』
『エ?!なんでまたおれなんか?』
『なんか長老さまのお告げで呼ぼうってなったの。詳しいことはまだわかんない』
シューゴは落胆した。
『ま、まあまあ!長老さまに会いに行ったら理由くらいすぐに教えてくれるよ!』
『じゃあすぐにその長老さまに会いに行こう!』
『でもスッゴく遠いよ。いくつか山越えになるし』
シューゴは再度落胆した。あまりに試練が多すぎて自分の体力や精神がいつまでもつかわからない。
しかしいつまでもここにいても仕方ないと思い直したシューゴはついに旅にでる決心をするのだった。
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『あっ、そうだ。シューゴさぁ、そのまま町の外にでたら即死だよ?』
『へっ?』
とりあえず外へ出ようとしていたシューゴは衝撃の事実に驚いて、派手にひっくり返ってしまった。せっかくコーディネートした服が砂だらけになってしまった。
『じ、じゃあどうすればいいんだ?!』
『いい?この世界の冒険家たちは誰でも一つは「ジョブ」を持ってるの。さっきも言ったように、あたしは「召喚士」よ。ジョブを持ってないシューゴのような状態、いわゆる「すっぴん」のときは基本的に全ての能力値が低いの。例外はあるけどね』
『・・・なるほど。じゃあ俺もなにかジョブを持てばいいのか』
ただ、シューゴは実際にどんなジョブがあるのかは全く知らなかった。その点について、リアが説明してくれた。
『そうだなぁ・・・。シューゴは男の子だから前衛ジョブがいいんじゃない?戦士とか侍とかね』
『侍か・・・!侍がいいな。昔から日本刀で戦うのに憧れてたんだ!』
『オッケー!じゃあコレ、持って』
リアがどこからか取り出したものは刀の鞘だけだった。
『それに念じて!上手くいったら刀が現れるから、そうなったらジョブチェンジ完了よ!』
『念じるって・・・こうかな?むっ!』
シューゴは頭の中に日本刀をイメージし、気合いを込めた。すると急に鞘が重さを増し、真っ黄色の柄が現れていた。
『ん?なんか黄色いな・・・』
『ほんとだ。こんなの見たことない・・・。まぁ能力はそのうちわかるから、とりあえず出発しよっか』
刀をベルトに差して歩く。町の入口につくまでに市場で携帯食糧を買った。
道中、いかにも冒険家かと思われる屈強そうな人達とたくさんすれ違った。鎧やローブを着ている人達に対してシューゴ達はかなり特殊な服装だったため、かなり浮いていた。リアによると、ギルドがある町には食糧や酒などを求めて冒険家たちが集まるらしい。
そんなことを話していると、4つの大きな影がシューゴ達の行く手を阻む。
『おぅおぅ、お前チビでもやしのくせになにいっちょ前に刀なんて持ってんだよ。荷物全部置いていきな』
4人のでかい男の中でもリーダー格の男が上から見下ろす。男達は体格に見合った大剣や鉄槌を担いでいるから、恐らく「戦士」だろう。
シューゴは思わず刀に手を伸ばすが、リアはそれを制止してウインクをする。ここは自分に任せろ、ということだった。
『ちょっとあんた達、そこどいてくれない?でかい図体が無駄に邪魔なんだけど』
『あん?なんだと小娘!もう一度言ってみな、ただじゃおかねぇぞ!』
『邪魔っつったろ?このウスノロ』
シューゴの背筋に悪寒が走った。リアの醸し出す雰囲気が異常に冷たくなったのだ。目は完全に据わっていて、殺気さえ感じられる。しかし、男達は気づいてないようだ。
『このアマ・・・!やっちまうぞ野郎共!』
リーダーの男が大剣を振りかざし、リアに襲い掛かる。
――ガキンッ!!
リアの右腕を一瞬青白い光が包み、振り下ろされた大剣を腕一本で受け止めた。その手にはさっきまで持っていなかったトンファーが握られている。
『なっ・・・!馬鹿な、この剣は200kgの重さがあるんだぞ!』
その時、リアの瞳がカッと紅く光った。
『っらあああああ!!!』
男の身体にリアの上段蹴りがめり込んだ。
男は大剣もろとも吹っ飛ばされ、地面に伸びてしまった。
『う・・・うわぁぁ!頭領がやられた!逃げろぉぉ!』
残りの3人はリーダーの男を担ぎ上げ、全速力で逃げていった。
シューゴはあまりの出来事に息を飲むことしかできなかった。そんな彼にリアが声をかける。
『ああいうのがよくいるの。身体だけでっかくてぜーんぜん強くないやつ』
再びリアの腕を光が包み、トンファーが消える。彼女の瞳はもう元の曇りない真っ黒な色に戻っていた。
『なぁ、リアって召喚士じゃなかったっけ?』
『そうだよ、でもただ単に魔物を召喚するだけじゃザコを相手にするときに力を無駄に使っちゃうでしょ?だから召喚技術を応用して武器を呼び出してるの。ちなみに「格闘」アビリティを持ってるから基本能力が高いの』
今の話でシューゴの中の疑問がすっかり解けた。ついでに、ジョブを極めることで他のジョブの時にも能力が反映されることもわかった。恐らくリアは格闘家の経験があるのだろう。
シューゴは学んだ。リアを怒らせると骨の一本や二本ではすまないと。
『とにかく、邪魔なやつもいなくなったことだし、町をでようか』
『そ、そうだな』
町の入口であるアーチをくぐり、シューゴの旅は始まった。




