第九十二章 「ほぼ」平穏な昼下がり
ああ、もう本当に悪魔の仕業としか思えない。どこまで問題児なんだ、この娘は。
「そんなこと今まで一度もなかったけど、せめてどうしてこんなことになったのか、何か心当たりはないのか?」
少女は数秒考えてから肩をすくめた。素晴らしいね、まったく。
「じゃあ、このまま待っていれば良くなるのか? それとも、家に送り返してみるとか?」
エルフの娘は否定するように首を横に振った。つまり、自力で何とかするしかないってことか。それにしても、どうして黙ってるんだ?
その問いに対して、少女はまたしても首を横に振った。
「わかった、もういい。ってことは、スティレットのことも何も話せないのか? もしかして、何も情報を掴めなくて、それを認めるのが怖いだけとか……」
少女の内面で葛藤が渦巻いているのが見て取れた(まあ、彼女にとってはこれが通常運転なんだろうけど)。ついに耐えきれなくなったのか、彼女は言った。
「もちろん分かったわ、今教えてあげる。なんて可愛いの、食べちゃいたい、あむ!」
最後のフレーズは甘ったるい声で言われた。そしてそれを言い終わるや否や、少女は再び俺に飛びかかってきて、器用に騎士の指輪を回すと、俺の耳を舐め始めた。なんとか図々しい娘を押しのけると、クリオシタが飛び退いて自分の体を両腕で抱きしめているのが見えた。
「ごめんなさい。ガウディなしで彼女を抑えるのは難しいの。ほら、こっちにおいで、私のシュガー!」
エルフの娘は再び俺にしがみつき、今度は首を舐め回し始め、同時に服の上から絶え間なく俺を撫で回してきた。飛び上がった俺は素早くテクノコマンドを起動し、弾薬を確認してから睡眠弾を撃った。
「天使ちゃん」は大人しくなり、俺は彼女を寝室の一つに運び込んだ。その後、フェラグをポータルに呼び戻した。
元気になるまで、鍵でもかけて閉じ込めとくべきか? 誰かこれを手伝ってくれる奴はいないもんかな。コレクター、かもしれないが? いや、試練の後じゃ話したがらないだろうな。他に知り合いなんていやしないし。
指輪を回して、俺はアイヴィを呼び出した。
「ニコニコ、こんにちはー!」少女が嬉しそうにさえずりながら、俺の周りを飛び回った。
「よう。なあ、アンジュヘルについて何か知らないか?」
飛び回るのをやめて、少女は目を閉じ、思い出そうとした。
「大まかなことだけね。私たちの大陸には、昔の形でさえもう存在していないの」
なるほど、ここも空振りか。
「で、どうなんだ? 何か手伝えることは決まったか?」
クスクス笑いながら、アイヴィは近づいてきて俺の顔の近くに浮かんで、うっとりとした吐息とともに「ええ」と告げた。
「それで?」
アイヴィは唇を尖らせたが、こう言った。
「とにかく、私の代わりになる、すごく価値のあるものが必要なの」
「別のヘルパーか? それとも石材?」
少し間を置いてから、アイヴィは肯定するように頷いた。
「ええ、たぶん大丈夫だと思う。あなた、他にもヘルパーがいるんでしょ? だったら……」
「嫌だ」
俺の即答に、アイヴィは顔をしかめた。
「なんであのニワトリと年寄りヴァンパイアなんかにこだわるわけ? 私がいるじゃない、若くて、一番元気な盛りなのに!」
「お前らのどっちが優秀かなんて話じゃない。俺には全員が必要なんだ。念のためにな。不要な奴が見つかったら、その時考える。お前は他の貢ぎ物でも考えておけ」
「もう、つまんない」不満げな声で娘が言った。俺は指輪を回す。イビスはなおさら知らないだろう。ギルもアイヴィと同じ大陸出身だから、多分知らない。全部空振りだ。
ため息をついて、俺は下へ降りた。ちょうど時間だ。ワイに関しては、正直支える気持ちなんて全くなかった。子供は別だが。まあ、いつも通り、みんなちゃんとやってくれたみたいだな。
近づいてみる。おお、男の子が一人。もしかしたら、俺に似てるかもしれない。この年じゃ判断しづらいが、髪の色は明るいし、目も似たような感じだ。ワイは警戒したように子供を見つめていた。何が起きたのか、まだ完全には理解していないような顔で。
「名前、どうする?」静かに訊ねると、娘はびくりと震えた。子供に夢中すぎたらしい。
「ごめん、私、全然わからなくて……」
ああ、結局いつも通りだ。「ニコ命名係」。せめて一つくらいあだ名が定着すればいいのに、みんなジョニー、ジョニーばっかりだ。
でも、こういう時はいつも、くだらないことばかり頭に浮かぶ。象徴とか、類推とか、ただの知り合いの名前とか。それとも……
「アダム?」
「いいわね」ワイは微笑みながら赤ん坊を眺めて言った。
「市民ステータス:+1(172)」
「ステータス更新中......完了」
「新生児登録完了:アダム・ヴィノグラードフ、派閥フレムテック/アルヴァー」
まあ、いざとなったら俺の世界の宗教を引き合いに出せばいい。新世代の長男だとか、派閥への遺伝子注入だとか、何とでも言えるだろう。そうすれば、俺がアダム・ジェンセンとあのサイボーグの強化パーツ全部を思い出して名付けたなんて誰にも知られずに済む。いや待てよ、あいつサイボーグだったんだから、エクスマッハで付けるべきだったんじゃないか!
心の中で「良き父親」ポイントからさらに何点か差し引いて、俺は息子にキスをすると、クスリと笑って外へ出た。
朝のうちはまだ天気も悪くなかったのに、今は巨大な雲が押し寄せていた。周囲は夜遅くのように暗くなり、氷のような風が吹き始め、細かい霧雨が降り出した。
炎に変身して、蒸発する雨粒を弾きながらセンターまで走った。いったいまた、みんなどこに消えたんだろう。
すでに準備が本格的に始まっていた。ジョニーは蜂の巣をつついたように走り回り、あらゆることを監督しようと躍起になっている。サユリも負けじと動き回っていた――彼女には加速のアミュレットがあるからな。
切る、煮る、焼く、その他もろもろの工程が途切れることなく進んでいた。セフィーナがシェフの役割を引き受け、ジェシーとエンディスがサポートに回っている。
面白いことに、ケルとラズまで作業に加わり、肉の担当をしていた。サソリ娘は全身全霊を傾けているようで、爪を何か大きな動物の死骸に突き立てている。一方ラズはクスクス笑いながら、すべてを均等な大きさに切り分けていた。
フレムテックまで参戦していた。138がフードプロセッサーのようなものを組み立て、そこに野菜を放り込んでいる。いったい何で動いてるんだ、あれ? 他のキューたちは飲み物の準備に取り掛かっていた。
どうやら今のところ、俺はここで邪魔になるだけだな。というわけで、ファリンのところへ向かった。
ああ、予想通り、彼は爺さんから子守りに転職していた。まあ子守りか。どっちでもいいんだが。
今回は子供たちがお互いを避けたりしなかったのが嬉しい。もっとも、これは一日しか生まれた日が違わないせいかもしれないが? まあ、この世界の成長システムでは、それが数年の差になって現れるわけだけど。
二人のエルフの女の子だ。瞳の色は少し変わっていたが、全体的な緑の色調は変わらない。ただ、一人、長い髪の方――ロレインは、もっと明るい色をしていた。もう一人、短めの髪型の方――ウェンディは、少しくすんだ色だった。
女の子たちは自分のことをしていたので、ファリンはそれほど苦労していないようだった。もっとも、彼女たちがテクガンの武器に関する本を読んでいるのを見たときは、少し心配になったが、すぐにここではそれが普通なんだと思い出した。そうだ、七歳の女の子が二人、真っ白な可愛らしいワンピースを着て、口を開けてアサルトライフルの構造を眺めている……
もう二人の子供たち、狼の子たちは、活発に遊んでいた。エヴィナから受け継いだらしい木剣を、ヒルダの小さな手が握っている。彼女は細い声で唸りながら、何度も何度も、クッションを盾のように使って防御する兄を攻撃しようとしていた。ヴィクは耳をぴんと立てて、一つ一つの攻撃を見守り、毎回タイミングよく飛びのいていた。羽毛の防御すら使わずにだ。
妹が苛立ち始めたのを見て、少年はほんの小さなミスを犯した。初心者には気づかないようなミスだ。もちろん、俺は自分を熟練した剣士だなんて思っていないが、すでにいくつかの剣士のモデルをロードしているおかげで、どの動きが上手くいって、どの動きがダメなのか、よく分かるようになっていた。勝ち誇ったように吠えて、ヒルダは剣を突き出した。ヴィクは大げさに叫んで、「刃」を体と腕の間に通し、芝居がかった様子で床に倒れ込んだ。
尻尾を振りながら、女の子は嬉しそうに兄のもとへ駆け寄り、二人は床の上でころころと転がりながら、可愛らしく唸り合っていた。
結局、俺に気づいてもらえた。エンディスがここでがんばっていたんだから、エルフの娘たちが本を丁寧に閉じてから俺に駆け寄ってくるのも当然だろう。
「わあい! パパ! ファリンおじいちゃんが今日死んじゃうかもって言ってたんだよ! 無事でよかった!」
ロレインが泣き出して、俺はファリンを雄弁に見つめた。この世界じゃ子供たちにバラ色の眼鏡を長く掛けさせておくべきじゃないってのは分かるけど、わざわざ話を盛る必要はないだろうに。
長老は慌てて、自分の爪が長すぎやしないか確認するのに夢中なふりをした。
やがて、キャンキャン吠えるモフモフの塊が俺のところに転がってきて、誰がどこにいるのか把握すると、兄妹も俺に飛びついてきた。
モフモフの耳を撫でてやって、俺はようやく問題の少なくとも一部が片付いたと実感した。
「なあ、みんな、明日どっか行かないか? ピクニックとか!」
エルフの娘たちが揃って嬉しそうに叫び、狼の子たちは最初何のことか分からなかったが、ファリンが「野外で肉」と囁いてやると理解した。
よどんでいた室内の空気が、モフモフの尻尾が振られ始めたせいで途端に爽やかになった。
子供たちを抱きしめながら、もしかしたらこの子たちとなら、大きくなる前に一緒に時間を過ごせるかもしれないと思った。もっとも、後でみんなを集めて一緒に休むのもいいな。結婚式ももちろんいいが、あそこの雰囲気は家族的とは言い難い。
二人をとりあえず放っておいて、俺は少しでも何か片付けておこうと決めた。もちろん、基地をチェックしてフレムテックに新しい発注をかけて、ようやくテクガンも確認しなきゃいけないんだが、もう一つやっておかなきゃならないことがある。じゃないと、一生踏ん切りがつかない。キルハイヴと協力するつもりなら……
天気はすっかり悪くなってしまった。明日は良くなってくれるといいんだが、そうじゃないとピクニックがあまり楽しくなさそうだ。まあ、確かテクガンの連中がテントを持っていたはずだけど。
階段を駆け上がり、俺はコンバーターに入った。
「確認させてください。インセクトイドのモデルはパーマネントですか、それとも他の兵科モデルと同様ですか?」
「インセクトイドのモデルはドラコニドと同様、オンデマンド適用です」
そうか、ありがたい……
「適用」
「金貨150枚、ムタゲン3個」
値段はかなり控えめだ。まあ、あのドラコニドのときもそうだったけど。
「変換完了」
指輪にはキチン質の脚が描かれていた。唾を飲み込んで、俺はそれを回した。
「解析中……雄性個体。エラー。制御不能な変異。進行度10%……25%……45%」
「待て、停止しろ!」
「プロセスは不可逆」
俺は体を貫いた激痛に叫び声を上げた。体が裏返しになるような感覚だ。まるでバラバラに引き裂かれた後、誰かが麻酔なしで巨大な針を使って全部を無理やり縫い合わせようとしているみたいに……
痛みが脳を完全に埋め尽くし、俺は意識を失った。
◇◇◇
セフィーナはフライパンでジュージューと音を立てる肉をかき混ぜていたが、ふと耳がぴくりと動いた。
「何か聞こえなかった?」と猫娘はジェシーとエンディスに尋ねた。
「ん、いや、別に?」
落ち着かず、彼女はエプロンを外して出口へと向かった。土砂降りの雨が壁のように立ちはだかり、さらに雲で、ほとんど何も見えない。いや待てよ、彼女の方へ走ってくる兵士の輝く鎧なら、かなり早く気づいた。
「早く! 死すべき者の館が大変です!」
雨など気にせず、セフィーナと兵士の声を聞いたテクガンの娘たちは館へと駆け出した。そして全員が、屋根裏部屋のあたりの壁に開いた巨大な穴を見て息を呑んだ。周囲には破片が散らばっている。つまり、何かが中で起きたのか。それとも……中から飛び出したのか?
◇◇◇
魔法が機能している以上、ウルカストはマナでシールドを作り出し、ますます正確に自分を狙ってくる連射から身を守った。走る速度を上げ、兵士は射撃ゾーンを素早く突破し、無傷で壁際まで辿り着いた。さて、問題は真っ直ぐ行くか、それとも門を探すか。考えた末、ウルカストは自分の潜在能力を使うことに決め、マナでドリルを作り出し、銃眼の一つに叩き込んだ。ズタズタに引き裂かれる壁から、コンクリートの欠片が飛び散った。
直径を広げながら、ウルカストは中に滑り込めるだけの十分大きな穴を作り出したが、その前に手榴弾を投げ込んだ。爆発が元銃眼から更なる埃と破片の噴水を吹き飛ばし、その後兵士はマナのシールドで身を守りながら中に飛び込んだ。
誰もいない。素早くライフルを全ての隅に向けて確認し、ウルカストは出口へと急いだ。そこにはすでに武装した連中が集まり始めていた。もちろん、プロフェッショナルとは言えないが、この人数なら大抵それも必要なかった。
炎と風。強力な爆発が銃を持った奴らの一部を吹き飛ばし、残りは散り散りになって、どこからか引っ張ってきて慌てて積み上げた箱や土嚢の陰に隠れた。
ウルカストはもう一度こいつらを爆破するつもりだったが、軽い疲労を感じた。
「なんだこれは? 俺はここでそんなに弱体化してるのか、くそったれ!」
直感的に、今まで浮かばなかった考えが湧いてきた――この兵科モデルのスタミナの蓄えが尽き始めていて、魔法能力の使用は控えめにすべきだと。
こんな制限じゃタイタンやドラゴンのことは当分考えられないが、でもクエーサーと会う前だって、どうにか戦い抜いてきたじゃないか。
見慣れないライフルの弾の散らばりを思い出し、ウルカストは隠れ場所の一つの上に手榴弾を投げ、素早くトリガーを引いた。手榴弾は空中で炸裂し、かなり離れた場所にいた奴らまで巻き込んだ。
その隙を利用して、兵士は壁に作られたトーチカ用の窪みから転がり出て、盾で身を守りながら、最寄りの建物の壁という自然の遮蔽物の陰へと滑り込んだ。
興奮した声がいくつも聞こえてきた。明らかに、この図々しい奴を取り囲もうと計画しているようだ。
建物をよく観察したウルカストは、高く跳躍すると窓枠に手をかけ、ライフルで勢いよく窓を叩き割った。体を引き上げて中に飛び込むと、周囲を見回してから階段を探して部屋を出た。建物は住居として使われているらしく、様々な部屋がやたらとたくさんあった。
足音が聞こえたウルカストは、角に身を寄せてライフルの設定をいじり、ヘルメットのスクリーンに映像を表示させた。面白いもんだ。以前なら、こんな素人向けの補助機能なんて絶対に使わなかったんだが、今のモデル――確かニコがこう呼んでたはずだ――を使っていると、ウルカストはこういった新機能を本能レベルで理解できていた。
ライフルを角の向こうに構えたウルカストは、廊下を監視し始めた。最初のテクガンの兵士が現れると、もっと近くまで引き寄せ、廊下が兵士で埋まったところで引き金を引いた。
何百発、いや何千発もの微細な弾丸が兵士たちを血まみれのボロ切れに変えた。
「冷却中」とライフルが歌い、ウルカストは毒づいた。角から顔を出して増援がいないことを確認すると、兵士は近くに落ちているライフルを拾い上げた。ヘルメットに表示が出た。「テクガン派閥の武器を使用するにはデータが不足しています」
「銃を撃つのにスキルが足りないだと? ふざけんな!」
役立たずの武器を元の持ち主に投げ返し、ついでに頭蓋骨をかち割ってやると、ウルカストは急いで上階へ向かった。
道中、誰にも遭遇しなかったので、兵士は冷却を待たずにそのまま屋上に飛び出した。
この建物は周囲と比べてもかなり高い部類だった。扉の前にはすでに突入部隊らしき連中が集結しつつある。
縁まで忍び寄ったウルカストは、もう一発爆発を起こし、四肢を辺り一面に撒き散らした。もっとも、兵士自身もその後、片膝をついてしまったが。
すぐ近くに敵の大部隊は見当たらなかった。だが、少し離れたガレージに戦車があるのが気になる。それに、軽武装ヘリコプターが待機しているヘリポートも碌でもない。
武器の戦闘能力が回復するのを待ってから、ウルカストは助走をつけて、今いる場所から四メートルほど離れた最寄りの建物へと跳び移った。
くるりと身を翻した兵士は、同じ要領でさらに二、三棟を渡り、開いたままのガレージの扉にかなり接近した。見つかったのか、それとも用心したのか、戦車がすでにエンジンを唸らせて動き出し、ガレージ前の広場へと滑り出てきた。
◇◇◇
現在の残存寿命――49+(172)。能力発動用ボーナス年数:68(65)(係数0.4)(捕虜――4)




