第九十一章 アルヴァーのアバターと「日常的な問題」
猫娘はその場で動きを止めた。ロボットならこの距離でも彼女を探知できるはずだが、この場所にそんなものがいるとは誰も報告していなかった。しかも、機種も標準的なものじゃない……
機械の背後に、走ってくる少女の姿がフレムテックの工作員の目に映った。状況が複雑になってきた。
フェリはその場に停止し、再スキャンを実行している。猫娘は、ネメシスに搭載されているものと似たアンテナを見て焦った。今この基地から脱出したとしても、フレムテック基地での工作活動が全部バレるかもしれない。奴らを始末すれば、それはそれでパニックになるだろうが……少女を密かに殺して、ロボットをハッキングすれば……そうすれば問題は起きないはずだ。
再スキャンでは何も検出されず、フェリはアイリーンと共にセンターへ向かった。中に入ると、ロボットは再びスキャンに気を取られた。
周囲には他に誰もいなかったため、フレムテックの工作員は行動を開始した。近づいて、静かなクリック音とともに少女の後頭部に発砲し、素早く弾薬を交換すると、汎用ハッキングモジュールでフェリを撃った。
「システムアクセス取得、プロトコル変更1%……2%」――モジュールがヘルメットの内側にメッセージを送信し、ロボットが停止している間に、少女は急いで倒れた体に駆け寄った。
「キルハイヴの驚異的生命力――使用」
アイリーンの身体を抱え上げ、猫娘はここで見た部屋を素早く思い出しながら、すぐには遺体が見つからない場所を検討し始めた。その思考を遮ったのは、背中に走った激痛だった。
死んだと思われていた少女が、工作員の背中にマルチツールの針を突き刺した。カモフラージュシステムが損傷し、点滅した後、偽装が消えた。アイリーンは激しくもがいて弱い拘束から抜け出すと、ロボットに駆け寄ってハッキングモジュールを引き剥がした。
「しぶとい野郎が」猫娘は毒づきながら、アイリーンの額に発砲した。
「フレムテック最後のチャンス――7…6…5…」
アイリーンは跳ね起きると、相手の足元に飛び込んでバランスを崩させた。フェリが再起動して唸りを上げ、向きを変えると立ち上がろうとする娘を鉗で殴りつけようとした。アイリーンは銃を持つ手を掴んで照準を定めさせまいとしたが、不意に力が抜けて床に倒れ込んだ。
「フレムテック最後のチャンス――起動時間終了」
「アルヴァーの自己犠牲――アイリーン・ヴィノグラードヴァ。基地に回収して蘇生/その場で蘇生」
一体何が起きてやがるんだ⁉
「全員、すぐに基地へ戻れ! 襲撃の可能性がある!」俺は叫びながらテスラ歩兵を起動し、スロットルを全開にした。
急いで現場に到着すると、サーマルビジョンを起動した。くそ、死者の位置が表示されないなんて、マジで最悪じゃないか……。
とはいえ、今この時間帯に基地内にいる人間はごくわずかで、大半は壁の外で作業中だった。見張りは持ち場にいる。一体何が起きたんだ? 監視塔の一つに飛んでいくと、突然の訪問に呆気にとられている兵士に、ここ数分間で何か変わったことはなかったか、と素早く確認した。
「あー、それが、旦那の娘さんが例の機械と一緒に走ってましたよ。センターの方へ行きました。それ以外は、えーと、特に何もなかったかと」ゴーストヴィルの兵士の一人が報告した。
礼を言って、俺は急いでセンターへ向かった。まさか、ロボットがアイリーンに何かしたのか?
ドアを開けると、娘の遺体が目に入った。ロボットはその場で停止していた。だが、アイリーンの傷は銃創で……。
辺りを見回しながら、俺は状況を整理した。よし、シルエットが二つ、もう一つは離れた場所、そしてもう一つは他の連中みたいに座ってるんじゃなくて、立ってやがる!
テクノコマンドに切り替えて、睡眠弾を装填した。ここまで俺たちの所に潜入できる奴なら、もっと詳しく調べる価値があるだろう。
静かに近づいていくと、敵のポジションはなかなか悪くないことがわかった。ただし、存在を知られていない相手にとっては、という話だが。
さらに近づいて、俺は加速を発動させて前方に飛び込み、移動しながら撃った。
こっちにも弾が飛んできたが、ヘルメットが防いでくれた。腕の立つ野郎め!
ぴったりしたスーツを着た猫娘がふらついて倒れ、穏やかな寝息を立て始めた。
アイリーンを蘇生させてから、俺は見知らぬ女に近づいて繋がりに追加した。
「市民ステータス:+1(171)」
目を細めて、俺はステータスを確認した。
「繋がり:市民の統計情報。
名前:ケイトリン・リヴィングストン
種族:獣人、猫
年齢:20(55)
役割:工作員/上位クローン
兵科モデル:「カメレオン」システム使用者
婚姻状況:未婚
派閥:フレムテック、アルヴァー」
そこで俺は、敵対する可能性がある相手をすぐに強化するのはまずいんじゃないかと考えた。襲ってきたアルヴァーの連中はまあ仕方なかったが、今後のことを考えないとな。そういえば王様のところでは、シアディンだけが繋がりに繋がっていて、たとえばラミは繋がっていなかった。あれはどういう仕組みだったんだ? もしかして他にも設定があるのか? でもこのインターフェースはそんなに複雑じゃないし、何もかもカジュアル仕様になってるんだが……
ここでの最初の日を思い出そうとして、考えてみた。俺を見つけられなかったってことは、地球から来たのは俺が最初だ。ってことは、王はどこか別の場所から来たんだろうが、子供たちを見る限り、似たような存在のはずだ。まあ、俺の子供たちで判断するなら、何も分からないんだけどな。種族の遺伝は母親の方に従うから。
何だか変なところに考えが飛んでった……ふむ、ってことは、あいつは別の方法で繋がりを管理してるのかもしれない。俺にとって管理コンソールがターミナルに見えるのと同じで、他の奴らには本とか、有機的な何かとか、そういう風に見えてるみたいに。
「パパ!」アイリーンが俺に駆け寄ってきて、嬉しそうに抱きついて泣き出した。怖かっただろうな。実質一人で行ったようなものだし。
「大丈夫だ、よく頑張ったな」俺は静かに言って、娘の乱れた髪を撫でた。「それで、何があったんだ?」
まあ、大体分かった。特に嬉しかったのは新しい強化だ。少なくとも、致命的なダメージを防いでくれるんだろう。それとも、あらゆるダメージか? もし後者なら、そこまで便利じゃないかもしれないが、かなり助かる場面もあるだろう。小指を角にぶつけただけで発動したりしなければいいんだが……
アイリーンは落ち着いて、頬を俺に擦りつけてから離れた。
「うまくいった?」
「ああ、今回は大したことなかった。攻撃も弱かったし、何も怖くなかったよ。もうサプライズはなしで、少しは平穏に暮らせるといいんだけどな」
少女は素直に頷いて、微笑みながらドアへ向かった。俺はスパイ女を抱え上げて外へ引きずり出した。
仲間は全員戻っていた。ブレンが女を引き取って俺たちの「牢屋」へ引きずっていく。残りの連中は、無事だと分かると各自の用事へ散っていった。
ふむ、クリスティーナの力は結局試せずじまいだったな。試す相手がいなかったからな。今なら乗り気になってくれるだろうか?
猫耳姉妹がちょうどセンターへ向かっているところで、俺は追いついた。
「パパ、にゃ~!」娘たちが嬉しそうに声を揃えて言った。まるで事前に練習してきたみたいに。そんな可愛い挨拶に思わず笑みがこぼれて、俺は言った。
「よう! 今日は大した問題もなくて良かったが、そろそろお前の型を試してみないか、クリスティーナ?」
少女はためらったが、エヴィナが尻尾を掴んで退路を断った。悲しげに耳を垂らして、クリスティーナは黙って頷いた。
「えーと、本当に嫌なら別の機会でもいいんだぞ。ただ、お前が何ができるか把握しておかないと、いざって時に戦術を立てられないからな」
少女は頷くと、決意を込めた眼差しを俺に向けた。
「行きましょう!」
バギーに乗り込み、少女たちがどうにか座席に押し込まれるのを待ってから、基地を飛び出した。まあ、近くに広い平原があるし、そこを実験場代わりに使っても誰も文句は言わないだろう。基地をここに置く理由もないしな。テラフォーミングで環境は改善されるとはいえ、古い拠点の近くの方がいいに決まってる。
目的地に着くと、全員で車から降りた。クリスティーナは深呼吸すると、指輪を回した。見慣れたリング状の腕輪が光を放つ。俺は心の中で、これほどの代償を払う力とは一体何なのかと考えていた。
目を閉じ、少女は両手を高く掲げた。
地面から丘が隆起し始めた。というか、岩というべきか。どんどん大きくなっていく。これが無から生み出されているのか、それとも地面の土から形成されているのか、判断が難しい。ポータルがない以上、ここにあるものから作り出しているんだろうが、こんなに大量の石があるとも思えないんだが。
山の側面から、さらに二つ、少し低い山が出現した。しばらくすると、それが頭部と、うーん、肩当てのようなものだと分かった。人型の存在がどんどん大きくなり、実質的に巨大なゴーレムのようなものになっていく。
「頭部」の周囲には魔法陣が刻まれた石板が回転し、巨大な岩でできた腕の周りには、クリスティーナのものと同じリングが旋回している。少女が手を振ると――巨人がそれに倣った。
ロボットを操縦するのとはわけが違うんだぞ、ヴィンセント……
巨人――いや、どうやらアルヴァーのアバターと呼ばれているらしいそいつは、俺の見立てでは高さ20メートル以上はあった。いずれにせよ、俺たちがこれまで倒してきた重メカのどれよりもでかい。
姉妹たちは驚いて口をぽかんと開けて立ち尽くしていた。そして大声でにゃあと鳴くと、クリスティーナに抱きつこうと駆け寄った。
「わあ、すっごいにゃ! クリスちゃんはやっぱり最高だにゃあ!」エヴィナが喜びながら、姉をどんどん強く抱きしめていく。
「本当にすごいわ!」もう少し控えめだが、それでも嬉しそうな笑顔を浮かべてアルビが言い、抱擁の輪に加わった。
巨大な怪物が実在しないハグから逃れようともがいている様子は、不気味でありながら同時に滑稽だった。
自分の出来に満足したクリスティーナは、小さくゴロゴロと喉を鳴らしてから指輪を解除した。アバターは、まるで最初からいなかったかのように消えた。
「完璧だよ、クリスティーナ。これならフレムテックもそう怖くないな。ゴリアテなしでも何とかなるだろう」
まさか本当に人生が好転しているのか? もう息を切らして、手当たり次第に敵を蹴散らさなくて済むのか?
とはいえ、油断は禁物だ。王の立場も不明だし、テクガンの基地へのポータルも開いたままだ。それにあのスティレット連中も……
女の子たちがはしゃぐのを待ってから、俺は再び車に乗り込んで皆を素早く送り届けた。あんな巨大な物体は遠くからでも丸見えだったから、多くの者が疑問を抱いた。ゴーストヴィルの兵士たちには知らせない方がいいだろうってことで、猫娘たちは身内だけを集めて妹分の新しい力について話すことにした。
俺は死すべき者の館に戻った。ワイももうすぐ来るだろうが、他の連中がブレンとフロルガを呼ぶ手配をしてくれたから、その心配もなくなった。
上の階に上がって、俺はクリオシタ――正確には頭に霧がかかったフェラグを探し始めた。
だが最初に出くわしたのは、退屈そうなエルフの天使ちゃんだった。
「よう、ガウディ」
彼女は獰猛な笑みを浮かべた。今回はいつものバカみたいにポジティブな叫び声は飛ばさなかった。
「やあ、ニコ。こっちに来てくれない? 私、ちょっと……試してみたいことがあるの」
ん? 何を企んでるんだ、こいつは。
「悪いけど、今は無理だ。クリオシタを探してるんだ」
踵を返して立ち去ろうとした瞬間、背中に何かが激しくぶつかって、俺は壁まで吹っ飛び、頭を打ち付けた。
気を失っていたのはほんの一瞬だったと思うが、気がつくとエルフの女が俺の上に乗っかっていた。よだれを垂らしながら、俺のズボンを引きずり下ろそうとしている。
身をひねって女の下から抜け出し、騎士の指輪を回した。妻も子供もいる身で今更清廉ぶるつもりはないが、こいつは明らかに頭がおかしくなってる! ゆっくりと後ずさりしていると、エルフの女が翼を大きく羽ばたかせて突進してきて、俺を反対側の壁まで引きずり、叩きつけた。肺から空気が全部絞り出されたような気分だ! 殺すこと自体は簡単だが、その後の結婚生活に支障をきたすだろう。まあ、そもそもこの結婚という企画自体、成功する気がしなくなってきたが……
足音が聞こえた。シャドマーの姿を見てこれほど嬉しいと思ったことはない。フェラグの口から霧の塊が飛び出し、俺は強化を発動させて、暴れる小娘を両腕で押さえつけた。とはいえ、俺の上に滴り落ちる大量のよだれと、とろんとした目つきを見る限り、むしろ喜んでいるようだった。
クリオシタが中に入ってくると、エルフの女はおとなしくなった。
「どうしたんだ、お前?」
無邪気に微笑むと、彼女は俺の上から立ち上がり、指を顎に当てた。
「あら、ニコ、私も気になるわ。リビは目を覚ましたのに、ガウディが消えちゃったの。こんなこと初めてよ!」
アンジュヘルの妻枠を全部埋めることはないだろうな、と思う。
◇◇◇
ポータルから飛び出したウルカストは素早く周囲を見回すと、すぐに動き出した。ポータルの近くには装甲兵員輸送車が二台と、とりあえずヘリコプターを使った作戦を試そうと決めた兵士たちが少し残っていた。だが、たった一人による反撃が彼らの計画を少々狂わせてしまった。
兵士は一瞬のうちに装甲車との距離を詰め、敵が発砲する前に到達した。記憶の中では、自分がタイタンだった頃のこと、ドラゴンに変身できた力が鮮明に燃えているが、この異世界に現れてからずっと、それらすべてが消えてしまったことを感じていた。まるで過去の楽しい思い出になってしまったかのように。今の彼は、数十年戦い抜いた後、ゴミのように捨てられた、あの兵士そのものだ。ただし今は若い体が戻り、人間の限界を超える特性を備え、さらに魔法を使う力まで手に入れている。この素人どもは、誰を相手にしているのか分かっちゃいない。
装甲兵員輸送車の車体に隠れて二台目からの射撃を避けながら、ウルカストは器用に車上へと飛び乗り、力強い拳の一撃で特に好奇心旺盛なテクガンの兵士をノックアウトした。静かな射撃音とともに弾丸の雨をもう一台の敵に浴びせると、兵士は運ちゃんの覗き窓へと移動した。運ちゃんは車を動かして図々しい侵入者を振り落とそうとしていたのだ。小さな炎魔法の流れがテクガンの兵士の熱意を冷ましたが、二台目の装甲兵員輸送車は反対側から近づいてくることにしたようだった。
飛び上がったウルカストは装甲兵員輸送車の上に降り立ち、力任せにハッチをこじ開けると中に手榴弾を放り込み、そのまま反対側に飛び降りた。死にゆくテクガンの連中の周りをぐるぐる回っている仲間の攻撃範囲から再び逃れるためだ。
けたたましい爆発音とともに手榴弾が一台の装甲兵員輸送車の乗員を一掃し、あらゆる隙間から煙を吹き出した。
もう失うものは何もないと悟った二台目の車両の射手は、動かなくなった残骸にロケット弾を撃ち込み、車体を木っ端微塵に引き裂いた。破片の一部がウルカストに食い込んだが、彼はすでに敵に向かって走っていた。爆発の瞬間を陽動作戦として利用したのだ。
小さな傷はすぐに治癒したが、そんなことを考えている暇はなかった。他の能力が使えないのに、どこから再生能力が湧いて出たのか不思議ではあったが。
焼け死んだ運ちゃんと同じ手を繰り返し、ウルカストは車両に飛び乗ると機銃を曲げてからハッチへ向かった。仲間の苦い経験に学んだテクガンの連中は、装甲化された避難所の扉が脇に投げ捨てられるやいなや発砲を開始したが、次の手榴弾から逃れることはできなかった。爆発物の贈り物を処理する間もなく、残った敵たちは仲間と同じ運命を辿った。
もう一度あたりを見回して誰もいないことを確認すると、ウルカストは門が閉じるのを目にした。いや、正確には普通のポータルではなく、本物の門だった。こんなものを帝国への道に設定できたら最高なんだがな。だが、そううまくいくわけがない! 近くにそびえ立つ基地に向かって走り出しながら、兵士はライフルを軽蔑の眼差しで見た。AIによる射撃制御、山ほどの無駄な機能が取り付けられている。なんだこのおもちゃは、まともな武器はどこにあるんだ……
基地はコンクリートの壁に囲まれていて、等間隔に銃眼が配置されていた。上部には有刺鉄線が張られ、小さな高台には機関銃が設置されている。だが、基地の所有者が襲撃を想定していなかったのか、それとも兵士全員がどこか別の場所に駆り出されていたのか、接近してくる人影を発見しても誰も発砲してこなかった。狙撃手もいないようだった。ただ、回転式のプラットフォームに設置された機関銃だけが遠距離から発砲を始め、地面から小さな砂の間欠泉を叩き出していたが、強化能力を持つ老兵がそんなもので怯むはずがない。
◇◇◇
現在の残存寿命――49+(171)。能力発動用ボーナス年数:68(65)(係数0.4)(捕虜――4)




