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第六十一章 狩りと宮廷の企み

挿絵(By みてみん)

そんなことを考えていると、薬草使いが嬉しそうな顔で俺のところに駆け寄ってきた。


「死すべき者!やった!うまくいったんだ!」


必死に記憶を掘り返して、俺はようやく苔についての何かを思い出した。


俺の反応を待たずに、薬草使いは細かく砕いた苔をたっぷり一掴み見せてくれた。荒野で俺が集めたのとまったく同じやつだ。


その植物をじっくり眺めながら、俺は確認した。


「で、どうやって使うんだ?」


俺の質問に、薬草使いは口ごもって、その一掴みの苔を見つめた。まるでそこに答えが隠されているかのように。


「正直言うと、俺も使ったことはないんだが、試してみるか? 充電が切れたアイテムは持ってるか?」


俺はクリスタライトのダガーを取り出して専門家に手渡そうとしたが、彼は手を振って断った。


「いやいや、あなたがやってください」


「どうすればいいんだ? 苔を擦り込むのか、それとも巻き付けるのか? それとも他に何か?」


薬草師は肩をすくめた。俺は溜息をつき、馬鹿みたいな気分になりながら、植物をダガーに擦りつけ始めた。不思議なことに苔の光が消えていったので、もう一つまみ掴んで続けた。薬草師が持ってきた量の半分ほどを使ったところで、メッセージが表示された。


「石『魂の吸収』――充電回復」


おっと、これはいい。実にいいじゃないか。


「素晴らしい! で、この苔はどれくらいあるんだ?」


誇りと喜びで顔を輝かせながら、薬草師は言った。


「今はまだ余分なものばかり持ってきてしまいましたが、収穫量を増やせるよう頑張ります」


二つ目の一握りを受け取った。薬草師は苔が乾燥しないよう特別な袋まで用意してくれていた。俺は専門家に礼を言って別れを告げた。


よし、騎兵兵舎を建てよう。木材と石材が各200、道具が30。それからネクロマンサーの塔も。木材100、加工石材250、クリスタリット50、道具50。うーん、結局道具がかなり減ったな……今のところこれ以上は必要ないし、様子を見るか。これでまたテクガンの建物を後回しにしちまったが、あっちは基本的なものばかりで、こっちは潜在的な可能性だからな。


新しいモデルを見たいという単純な欲求をそう正当化して、そうだ、ケルのところにポータルの件を聞きに行くかと思った矢先だった。石の再充填ができそうな可能性が見えてきたところだし。そんな時、突然市民が死亡したという通知を受け取った。どういうことだ?


繋がりを開くと、ソフィアだった。拠点で蘇生させると、怯えた娘がセンターのそばに現れるのが見えた。急いで彼女のもとへ駆け寄り、俺は尋ねた。


「ソフィア、誰だ?誰に襲われた?」


すぐには我に返らず、少女は何かの幻影を振り払うように頭を振った。それから慌てて喋り始めたが、つっかえたり言葉を飲み込んだりしている。はっきりわかるのは、森のことを話しているということだけだ。だがそれじゃあまりにも範囲が広すぎる。


「見せられるか?」


不安げに頷くと、少女は走り出し、俺を引っ張っていった。一人で行くべきか? 大勢いたなら、兄妹も気づいたはずだと思うんだが。それとも、森に群れをなして潜んでいる敵がいるのを、寿命1年の代償で知ることになるのか。


少女の話からすると、かなり遠くまで行ったらしい。ドラコニドに変身し、娘を抱え上げると、強烈なアドレナリンの放出を感じながら空へ舞い上がった。力強い翼で難なく飛行を維持できる。どうやら変異は本当に効いているようで、能力値が上がっているみたいだ。


上空からだと娘が場所を把握できないかと思ったが、彼女は林縁や伐採地といった見覚えのある場所ですぐに方向を掴んだ。小さな指で適当な場所を指差したので、俺は降下して彼女を降ろし、家に戻るよう言った。さっき弟の死亡メッセージを受け取ったことは、彼女には言わなかった。


言うとおりにソフィアは走って戻り、俺はもう一度飛び上がって、慎重に目的地の近くへ着地した。


周囲は静まり返っている。追跡の専門家じゃないんだが、コマンドに切り替えた。いくつかフィルターを試し、サーマルで止めた。徐々に前進すると、遠くにシルエットが見えたので、さらに慎重に進んだ。


大きいのが一つ、近づいてみると騎乗者だと分かった。それともう一人、人間だ。やがて視界を遮る木のない場所まで辿り着いた。フードを被った男が、ローブ姿の女に何か小声で素早く話しかけ、女の方はそれを細かくメモしていた。こんな場所で妙な連中だ。


ボタンを押すと、ヘルメットの内側に文字が流れ始めた。俺はそれを見つめた。


「解析中……ニコライ・ヴィノグラードフ、ようこそ! 私は特殊作戦用汎用キットSC200型の管理者AIです。何かお手伝いできることはありますか?」


「弾薬切り替え」俺は静かに囁いた。


表示されたリストに睡眠弾を見つけた。武器がほとんど無音でカチリと鳴り、確認メッセージが届いた。


俺が準備している間に、女はもうテントのようなものの中に姿を消していた。その連れの男に狙いを定め、俺はそっとトリガーを引いた。小さなダーツが見知らぬ男の首に命中し、男はすぐさま引き抜こうとしたが、数秒後には黒豹から転げ落ちた。ところがその獣は何故か俺の居場所を嗅ぎつけたらしく、唸り声を上げて襲いかかってきた。


何発か撃ち込んでみたが、効果はなかった。それとも効くのが遅すぎるのか。遅すぎだろ! ドラコニドに切り替えて上空へ飛び上がったが、黒豹は驚くべき身軽さで近くの木を伝って追ってきた。しつこい奴だ。


距離を取って着地し、スナイパーアーチャーに切り替えてしつこい獣の頭に一発撃ち込んだ。邪魔者を片付けて戻ろうとしたところで、再びコマンドに切り替えた。女の姿はどこにも見えなかった。もう一度フィルターを切り替えてみたが、何も見つからなかった。何だよ、どういうことだ? まさかあんな短時間でそこまで逃げられるわけがないだろ? それともテレポートしたのか。


俺が投げかけた質問への答えは、強烈な水流だった。それに足を取られて吹っ飛ばされ、近くの木に叩きつけられる。流れが弱まった瞬間、素早く体を回転させると、魔法使いだったらしい少女の姿が目に入った。何発か弾を撃ち込んだが、地面から噴き出す水流で防がれてしまう。


すると突然、俺の体が水に包まれて宙へと持ち上げられ始めた。ヘルメットのおかげで溺れずに済んでいるが、酸素の残量は間違いなく限られているはずだ。ちくしょう、うっとうしい。


無料ドローン。


直径半メートルほどの円盤型の小型機体が俺の近くに現れ、武器を展開すると、ヒュンヒュンと音を立てながら魔法使いに向けて大量の弾丸を撃ち込んだ。集中力を乱された少女は、俺を閉じ込めていた水の球体を解き放ち、自分の前にさらに多くの水流を空中へと立ち上げた。


小口径の弾丸は水の中に入ると急速に減速し、結局、相手まで届かない。一方の少女は、周囲を旋回する機体に向けて直接水流を放ち始めたが、ドローンは驚くほど器用に回避していた。


魔法使いが周りを飛び回るドローンに気を取られている間に、手榴弾を投げてみた。テニスボール大のそれは押しボタン式で、静かにピピピと鳴ると、水流に運ばれて上空で爆音とともに炸裂した。ロボットは水の球体に捕まって動きを止められたが、上から枝が降り注ぎ始める。ドローンの弾丸で幹を穴だらけにされた何本かの木が傾き、倒れ始めたのだ。


少女は倒れてくる木々を警戒して素早く後ろへ飛び退いたが、その拍子に水流の直撃を浴びてしまった。あれだけ水を使いまくっていて濡れずに済んでいるのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい。


テスラ歩兵に切り替えて、稲妻を放った。電撃が水面を駆け抜け、少女に直撃する。俺がやりすぎたのか、それとも基礎威力がこんなものなのか、水流は全て消え失せ、魔法使いはその場にへたり込んだ。


彼女に駆け寄ってみると、死んでいた。まあ、そうだよな。


最初の衝突があった場所に辿り着くと、俺はこいつらの隠れ家から記録と道具を全部引っ張り出し、眠りこけているライダーを担ぎ上げてドラコニドに変身した。捕虜のためにリアクティブパックの出力試験なんかやってる場合じゃない。


基地に戻ると、俺は発見品をブレンに渡した。斥候も含めて全部だ。フロルガはどこだと聞こうとしたんだが、ブレンが先回りして言った。


「ニコ、妹がずっと待ちわびているんだ。あんたが呼んでくれるのをな。だから俺と一緒に来なかった。焦れてるのがバレるのが怖かったんだろう。もう引っ張らないでやってくれ、な。あんなの見てると辛いんだ」


「ああ、できるだけ早くする」


まったく、一日の時間が足りなさすぎる。計画立てることはできるが、どうせくだらないことが湧いて出てきて全部ぶち壊しになるんだ。


屋敷に向かいながら、俺は考えを巡らせた。今日は12日目。ということは、あと一日で試練にまた駆り出される可能性がある。もしあれが週一ペースなら、だが。そしてそれが前回と同じくらい長引くとなると、15日目の攻撃に間に合わない。もちろん、まだ何も分かっちゃいない。フレムテックは天使だのタナトスだのを次から次へと量産できるのか? それとももっと軽い戦力で我慢するしかないのか? そもそも、二度も痛い目に遭って、また突っ込んでくるのか? テクガンも同じだ。あれはジョニーが手を回したギルドだったが、今や彼はここにいる。アルヴァー派閥から「ロートク」をかっさらって逃げようって連中が他にも出てくるかもしれない。それに王も……


ああああ!試練でわざと負けた方が簡単じゃないか?いや、それも無理だな。シャドマーのあの女を思い出せば、敗北後に寿命が減っていた。俺の寿命はそんなに無駄遣いできるほど多くない。ましてや、ジョニーみたいな仲間の助けがなくても勝てる新しい手段がこんなに増えたんだから。噂をすればなんとやら、そのジョニーが来たぞ。


いつもの格好で、ニヤニヤしながら兵隊野郎が俺に近づいてきた。


「よう、兄弟。元気になったみたいだな?」


「ああ、ぼちぼちな。お前は?」


そんな質問を待っていたかのように、ジョニーは一歩下がって両手の人差し指を俺に向け、陽気に言った。


「兄弟、俺が何をしようとしてるか当ててみろよ?」


「何だってできるだろ!」と思ったが、口に出したのは別のことだった。


「何かとんでもないこと、例えばここの女の子全員を口説き落とすとか。確かお前、『種馬』って呼ばれてたよな」


大笑いしながら、ジョニーがウィンクをした。


「いや、兄弟、ここはお前の縄張りだ。お前には敵わないよ。可愛い女の子の半分が、蓋を開けてみればお前の娘か奥さんだったんだからな。兄弟を裏切るようなマネはしたくないんだ」


俺は何だか申し訳ない気分になった。だが、その通りなんだ。


「じゃあ降参だ」


ジョニーが俺に駆け寄って、耳元で囁いた。


「俺、結婚しようと思ってるんだ、兄弟!」


確かに、予想外だった。


「それで、誰と?」


「可愛いサユリとだよ!ほら、お前のところの狐娘、バーサーカーの」


ここで初めて考えた。そもそも俺の前に派閥間の結婚なんてあったのか? どうも無かったような気がする、襲撃より先に進んだことがないんだから。これがどう影響するんだろうな?


「やるじゃねえか、ジョニー。末永くお幸せに、ってやつだな。お前これからジョニー――狐娘たらしこみ専門家ってか?」


兵隊崩れの目が飛び出しそうになった。なるほど、図星か。すぐに落ち着きを取り戻して、ジョニーは言った。


「いや、その、兄弟、自慢しに来ただけじゃねえんだ。そっちはどんな感じで進めるんだ? 俺らの方は簡単なもんだったけどよ」


「ああ、指輪が要るんだ。金の。ファリンに聞いてみろよ、俺の時も手伝ってくれたから。式も彼に取り仕切ってもらえばいい」


拳を握って承認の意を示すと、ジョニーは別れを告げてセンターへと駆けていった。


俺は屋敷へ向かった。


◇◇◇


エルフの女が手当たり次第にあらゆる物を投げつけ、人間離れした叫び声を上げ始めると、宮廷魔術師は慌てて床に這いつくばった。


「ひ、陛下、どうかお願いです……」


「そんな話を聞かされて、お願いなんてできるわけないでしょう!」女王は荒い息をつき、その赤い瞳が薄暗い部屋の中で鮮やかに輝いていた。


愛する息子を先頭にした軍隊の凱旋と、一つか複数の「芽」を手に入れての帰還を期待していたのに、息子の死についての戯言を聞かされるなんて!


「そもそも、ユリウスだって間違えたかもしれないじゃないですか。遺体は見つからなかったと報告していたわけですし……」老人は怒り狂った女王を横目で見ながらぼそぼそと呟いた。


エルフの女は目を細め、魔法使いをじっと見つめた。その瞳の中で不吉な炎が燃え上がる。ゆっくりと、一語一語を強調しながら、彼女は言った。


「私の。息子を。遺体なんて。呼ぶんじゃない」


老人に飛びかかった女王は、片手で彼の頭を掴み、力任せに持ち上げた。骨の砕ける音が響き、魔術師の体がぐったりとなる。唇を一文字に結んだ彼女は、死体を脇へ放り投げると、素早く身支度を始めた。


部屋を飛び出した彼女は、足早に隣の棟へと向かった。使用人たちは大騒ぎで、扉を開けたり丁寧にお辞儀をしたりするのに精一杯だった。そして最終的には、誰も中に入れるなと命じられていたはずの衛兵たちまでもが、エルフの女が目的地に辿り着くと脇へ飛びのいた。女王は自分の部屋によく似た、ただ一つ、ここは非常に明るいという違いしかない部屋に踏み込んだ。


鮮やかな青い瞳で退屈そうにこちらを見つめているのは、真っ白な髪と耳と巨大なふさふさの尻尾に同じ色の毛皮を持つ狼娘だった。


「ザラ、力を貸してくれ!」エルフの娘は開口一番そう言い放つと、ビロードで覆われた柔らかい椅子に腰を下ろした。


狼娘は悲しげに溜息をつくと、ふさふさした睫毛の下から招かれざる客を一瞥し、牙を剥き出しにしながら長々と欠伸をした。


「どうもそうする理由が見当たらないんだが」彼女は短く答え、エルフの娘の真剣な視線を意に介さなかった。


「だって、私たちは家族じゃないか!」客は渋々そう絞り出すと、自分でも顔をしかめた。狼娘は笑い出し、尻尾を手に取って撫で始めた。


「なるほどね。自分以外にも女王がいることを思い出したときだけ、家族の絆がどうこう言い出すわけだ。結構結構。で、話は?」


エルフの娘は喜びを必死に隠しながら、「芽」のことで全てが始まったという部分を省いて話し始めた。


「息子は敵対派閥と勇敢に戦っている英雄たちとの補給線を確立しようとしていたんだが、彼の部隊が襲撃されてしまった! 繋がりが完全に途絶えてしまったんだ! 報告によると、どうやらもうテクガンが暗躍しているらしい」


眉を驚いたように上げて、狼娘は話が終わると言った。


「そこに本当にテクガンがいるなら、なんで私のところに来たんだ、ローラン、旦那のところじゃなくて?ありのままを話すか、さもなきゃ失せな」


歯ぎしりしながら、エルフの女はもっと本当の話を語った。ザラは満足げに頷き、尻尾を出して爪を眺め始めた。


「最初からそう言えばよかったんだ、私を出し抜こうとして息子を殺しちまったってな。いいだろう、軍勢は出してやる。ただし条件付きだ」


息子についてのそんな評価だけでもう我慢の限界だったローランは、黙って狼娘を見つめ、続けるよう促した。


「見つけた『芽』は全部私が貰う。それとお前は人の褌で相撲を取らず、自分で行くんだ。私が監視する」


怒りで歯を鳴らしながら、エルフの女は頷いて出て行った。自分の棟に戻ると、使用人に指示を出した。二人の娘と一人の青年が部屋に入ってくると、彼女は告げた。


「さあ、子供たち、支度しなさい。あんたたちの兄を助けに行くわよ」


◇◇◇


「現在の残り寿命――18+(112)。能力発動用のボーナス年数:44(44)(係数0.4)」

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