第五十章 天使の怒り
少女は笑いながら、俺の体をすり抜けて飛んでいった。
「できるだけ早くな」俺はアイヴィにそう伝えた。もう逃げられないことは分かっていた。
「せっかちだねー。ほら、受け取ってー」
アイヴィが空中に飛び上がった。彼女の手にリンゴほどの大きさの金属球が現れる。球体が火花を散らすと、地面に無数の小さな黒いポータルが開いた。従僕と同じだな?
ポータルから半壊した金属の戦士たちが這い出してきた。人間にはあまり似ていないが、人型ではある。エキゾチックな鎧のように見え、内側から青く光り、額に角があり、牙の生えた顎を持っている。武装は短い刃と盾だけだったが、それだけで十分厄介な事ができそうな印象だった。きしむ音を立てながら、やつらは集まり始め、俺の前に壁のようなものを作り上げた。
天使がチャージを終えて引き寄せ始めたが、俺には届かなかった。何体かの存在がマニピュレーターの方へ飛んでいき、その後やつは停止した。鈍い金属音とともに召喚された兵士たちが地面に叩きつけられ、メカは武器を再チャージする羽目になった。
「よっしゃ、殴り合いの時間だー!ゴリアテ、来い!」
少女の手から結晶が一つ滑り落ち、地面に新たに開いた真新しいポータルの中へと消えた。数秒が過ぎると、楕円の縁に金属の指が引っ掛かった。穴からアスリートのような体格をした8メートル級の巨人が器用に飛び出してきた。金属なのか特殊な石なのか判別できないゴリアテだ。その全身には模様が刻まれていて、一部がオレンジ色に発光し、巨人を完全に包み込む炎の色と見事に調和していた。鼻のない顔、大きく離れた赤い目、口の位置にある切れ込み――何の表情も浮かべていない。ゴリアテは指を合わせて尖った武器に変え、天使に突進した。
メカは損傷した武器を装備したマニピュレーターを前に突き出し、近接戦で敵を阻もうとした。巨人は機械の腕による腹への一撃を受け止めると、即座に上から叩き斬り、切断した。損傷箇所から火花を散らしながら、天使の腕が外れ、轟音とともに砂に激突し、溶けた金属の飛沫を撒き散らした。ここで初めて俺は気づいた――アイヴィが召喚した存在が通過した場所の砂がキラキラ輝いている。まさか、ガラスになるまで溶かしたのか!?
天使は武器を装填し、ゴリアテに向けて球を放った。フィールドが巨人を包む炎を内側へ吸い込み始めたが、それ以上は何も起こらなかった。巨人は身を逸らすと、急に腰を落として天使の脚を腕で薙ぎ払った。メカが唸り声を上げて飛び上がろうとしたが、ゴリアテの方が素早く、片脚を切断し、もう片方を掴んだ。天使のエンジンが咆哮を上げ、拘束から機体を引き剥がそうとしたが、巨人は跳躍すると機体の胴体を掴み、蹴りを一発見舞ってから地面へ力任せに叩きつけた。翼の破片、もぎ取られた頭部、ブレスレットのリング、そして何トンもの瓦礫が四方八方へ飛び散った。
ゴリアテの背後に黒いポータルが現れ、巨人はその中へと飛び込んだ。
「だよねー、意外と早かったねー。もっとふんだくっておくべきだったよー」アイヴィが不満そうに呟きながら、俺の上に浮かんでいた。
戦闘中に指が少し治癒したおかげで、耐え難い痛みは引いていた。フレムテックのポータルが閉じていくのを見て、俺はなんとか笑みを浮かべることができた。
「ありがとう。まあ、お前が一体何者で、何ができるのか、まだよく分かってないんだけどな」
「あらー、もっと仲良くなりたいのー?うーん、どうしよう、急すぎるよー!」少女は悪戯っぽくウインクして、両手で頬を押さえた。
「当然だろ。お前、八派閥のどこにも属してないよな?」
「うー、そう簡単に全部教えてあげないんだからぁ。ひーっひっひ、抜け目ないねー!」少女はそう言いながら、もっと聞いてくれと言わんばかりの態度を取っていた。
俺はあくびをして、そっぽを向いた。
「まあ、幽霊娘に何を期待してるんだろうな、俺は。大して面白い話も聞けないだろうし」
「おい、おい、ミスター! 待ってってばぁ!」
だが、俺はもう石ころを回していた。他の連中が駆け寄ってくるのが見えたからだ。奴らが参戦しなかったことは責めない。あんなとんでもない代物、俺だってもう一回やりたいとは思わないからな。
「ナパームで焼き尽くすとか、兄弟、マジでやばいぜ。なんで最初からそんなやばいもん呼ばなかったんだよ?」ジョニーが嬉しそうに笑いながら、俺の肩を叩いてきた。俺がドラコニドの姿をしていることなんて全く気にしていない。ただ、他の連中は明らかに驚いて、俺をじろじろと観察していた。まあ、ケルは別だが。あいつはこっそりとよだれを拭いていた。
戦闘の高揚感が引いた後、頭の中で響く残響が強まっていて、少し緊張した。それに、ラズに集中して、俺たちは無事だと、ポータルが閉じちゃって別の帰り道を探さなきゃいけないってこと以外は問題ないって伝えることができなかった。
指の状態を確認してから、みんなを無駄に神経質にさせないように、指輪を解除した。
「で、どうすんだよ、ジョニー? これからどうやって帰るんだ?」
この軍人野郎は頭を掻きながら、考え込んでいた。それから、こう言った。
「まあ、とりあえず五日ほど待つってのはどうだ? 悪くない話だろ? 俺んとこに泊めてやるよ。王様の宮殿みたいに扱ってやるからさ、あはははは!」
五日後にまた同じ連中と戦わなきゃならないなんて、考えたくもなかった。こんなに何度も戦闘を経験して、よく全員発狂しないもんだ。いや……死ぬから発狂しないのか? 俺は慣れることができるんだろうか?
「他に選択肢はないのか? 俺が『ロートク』を借りて、後で自分のを返すとか」
「ああ、別に構わないぜ」ジョニーは簡単に同意すると、あたりを見回し始めた。「それにしても、どこに……」
そうだ、確かにバギーが見当たらない。運ちゃんが勇敢な死を遂げたとも思えないし。
「あのクソ野郎!」テクガンの男が叫んだ。俺と同じ結論に達したらしい。「マジかよ、信じられねえ、あのクソ野郎!」
その案はボツだな。よし、まだこの近くの半壊した拠点がある。あれはどうだ?
「ところで、ここって誰の居住地なんだ?」俺は直接聞いてみることにした。
ジョニーは半壊した拠点を懐疑的に見渡してから答えた。
「まあ、俺のギルドのものなんだが、今となっちゃ大して意味ないけどな。見ての通り、全部ぶっ壊れてる」
「俺は家を一軒建てればそれでいいんだ」
「好きにしろよ。お前の勝手だ」
俺はケル、アルビ、アルド、エンディスを集めた。
「よし、ぐずぐずしてないで家を建てに行こう。それから地下室から俺たちの拠点にテレポートして――それで終わりだ。計画はそれだけだ」
基地に向かって歩き出すと、スピーカーで歪んだ甲高い大音声に俺は身を震わせた。
「死は終わりではない」
声は天使の残骸の方から響いてきた。機械の中で何かが動き、電子音声が時間をカウントし始めた。たった15秒。
こういう自爆野郎どもに何を期待できるっていうんだ――お決まりの、クソッタレな手段じゃないか。
テクガンの連中は走り出した。アルドもだ。女の子たちが俺を見た。俺はただ気まずく笑って、両手を広げるしかなかった。抱き合って、俺たちは秒を数えた。ケルは気丈に構えていた。エンディスは救いの藁にすがるように俺にしがみついた。アルビは細かく震えていた。
眩い閃光、突風――最初はメカから、そして次はメカへと、まるで俺たちをブラックホールに吸い込もうとするかのように。
耐え難い炎と、耳をつんざく爆発。
全てが終わった。
遠くからシステムメッセージが聞こえた。
「システム『ロートク』に致命的損傷……
自動修復システム、機能停止……
診断システムの故障……
建築システムの故障……
変更をベース状態にロールバック中……完了」
「治癒、寿命-2年」
俺は一人きりになった。誰かを残すこともできたが、それはきっと新たな犠牲者を生むだろうから、今はこれで十分だ。
それとも計算を間違えたか?近くに誰かが横たわっている。重く息を吸い込みながら、焼け焦げたケルが痙攣するように呼吸を取り戻そうとしている。体中焼けただれて無事なところなんてないじゃないか……
「あ、ニコ……は……無事なんだ」
「喋らないでくれ、頼むから」
少女は笑おうとしたが、できなかった。痛みで呻くだけだった。
「こ……殺して。お願い……」少女の静かな懇願が、俺には酷く大きく聞こえた。「愛してる……あなたを」
目を閉じて、リストを開いて殺害を選んだ。ケルが静かになった。
基地を押そうとしたが、やっぱりその場で蘇生することにした。シャザがこんな姿を見せたのは初めてだった。
傷が癒えると、少女は立ち上がって俺に駆け寄ってきた。
「ニコ、また助けてくれたのね!」
俺がここに連れてきたんだから、これくらいは当然の代償だ。
「ああ。お前がいなきゃな」
女の子が尻尾で俺を巻きつけてキスをしてきたが、俺は抵抗した。以前なら、まあ時間を使うのはあまり正しくなかったとはいえ、できたかもしれないが、今はもっと不適切なタイミングなんて考えられない。
周りには無事なものがほとんど残っていなかった。俺は基地の中心に近づき、溶けた杖を拾い上げた。地面に刺して起動させようとしたが、何も起こらなかった。あのクソ野郎どもがこんな高価なおもちゃを壊しやがったのか? 信じられない。
俺が『ロートク』をいじっている間、ケルは瓦礫の中を歩き回っていた。そして聞いてきた。
「ねえ、このメカって全部人間が操縦してるんでしょ?」
「メカのこと?」
「そうそう」
「まあ、そうだと思うよ」
実際、二体のネメシスは天使の爆発の後で無事じゃなかった。でも……ああ、そういうことか。なんて抜け目のないサソリ娘だ。
俺が顔を見て察したのを見て取ったケルは、嬉しそうに微笑んだ。
俺たちは撃破されたタナトスに向かった。装甲のおかげで大破を免れたようだ。直感的な知識のおかげで、パネルを見つけて内部に通じるハッチをすぐにこじ開けた。残念ながら、この知識もここまでだろう。バギーですら適切なモデルなしで危うく事故るところだったんだ、こんな巨大な代物を操縦できるとは思えない。まあ、どっちにしろ壊れてるんだが。騎士を起動して、中に入った。あちこちで赤い非常照明が点滅している。少し進むと、ガサッという音が聞こえて俺は銃を構えた。だが、嫁さんの尻尾の方が早く、テクノ歩兵を壁に叩きつけた。
角から銃を突き出してきた二人目の方は、俺が個人的に片付けた。ついこの前、破片に貫かれた場所と同じところに弾丸を撃ち込んでやった。
10メートル級の機体の内部はかなり広かったが、警備はいなかった。まさか強襲されるとは誰も想定していなかったんだろう。技術通路を彷徨った末、俺たちは操縦室に辿り着いてドアを開けた。
赤い照明が通常の明かりに切り替わった。どうやら光電素子か何かを横切ったのが感知されたらしい。すると、浴槽みたいな装置の陰から拳銃がこちらを狙った。ケルは無造作に尻尾を振るうと、間抜けな戦士の手から武器を弾き飛ばした。
「出てこい」
「バスタブ」からゆっくりと少女が立ち上がった。華奢で、無垢な美しい顔立ち、青い瞳に白い肌。肩まで届くピンクがかった紫色の淡い髪が乱れていて、その姿にさらに無防備さが加わっている。そして服装はキューよりもさらに大胆だった。変わらぬ手袋とニーソックス。水着の代わりに、わずかな黒い布が脇腹と胸をわずかに覆っているだけ。胸から下には透明な布が伸びていて、プラスチックのように見える。どうやらそれがパンツの役割も兼ねているらしく、明らかに股間も覆っていた。透明な部分が控えめな暗い三角形に変わって、大事なところを検閲している。
んー、別に凝視しに来たわけじゃないんだが、もうしちゃったな、くそ。
俺が近づくと、少女は明らかに怯えた。
「怖がるな。アグネスとその取り巻きに飼われている今の立場に満足してるのか? 二番手で這いつくばるのが好きなのか?」
パイロットの怯えた視線が、意識的なものに変わった。少女は不安げに頷いて、それから首を横に振った。どっちなんだ? どうやら俺が理解できなかったと察したのか、少女は小さく呟いた。
「もちろん満足してません」
「なら俺についてこい。協力してくれるなら酷いことはしない。あのエンジェルに俺が何をしたか、見ただろ? そんな人間を敵に回したいか?」
少女は力強く首を横に振り、一歩近づいてきた。
「俺が助ける……」
手を伸ばし、彼女の手を取った。強制的な発動なんてなしで済ませられる。
そして、見てみよう。
「繋がり:市民の統計情報。
名前:ワイ15。
種族:人間。
年齢:20(60)。
役割:軍人。
兵科モデル:重量メカのパイロット。
婚姻状況:未婚。
派閥:フレムテック、アルヴァー」
可哀想に。それにキューなんて、一体何度殺されたんだろうな。
俺たちは女の子と一緒に外に出た。ワイは眩しい光に目を細めた。一体どれくらいタナトスの中にいたんだ?ここじゃ本当に、吸血鬼みたいに光で焼け死にそうだ。
「まだ手助けが必要なら、ウィングが二機無事よ」女の子は相変わらず、ほとんど聞こえないくらいの声で囁いた。
俺はポータルがあった方を見た。ああ、機体の残骸がそのまま転がってる。爆発の中心から遠すぎたんだろう、巻き込まれなかったみたいだ。
妙な戦術だよな。メカの中に最後まで閉じこもって、俺たちが装甲を開けられない原始人だとでも思ってたのか?
すぐにウィングの残骸まで辿り着いた。ワイは手にはめた手袋に向かって何か小声で囁いた。それからもう一度。十秒ほどすると、ウィングの機体がシューッという音を立てて開き、中からキューが飛び出してきた。彼女を見るのはすごく違和感があった。確かにキューなんだけど、何かが違う。もしかして目つきか?俺を見る目が全然違うんだ。
少し離れたところに転がっていた二機目のウィングも開いた。キューが二人。
ワイには威厳があったようで、新しい娘たちは俺に食ってかかることなく、素直に手のひらを差し出してきた。
キュー141と143。
それにしても、まともなロボットが一台もいないのに、この役立たずのハーレムを引き連れてどこに行けばいいんだ?まあ……
俺たちはタナトスに戻り、倒した歩兵たちから奪ったライフルをキューたちに渡した。ワイは自分のピストルをそのまま持っている。
どこに向かえばいいのか、さっぱりわからない。壊れた杖を隠してから、俺はドラコニドに変身して集中した。
「ラズ?」
「パパ、パパ!ふう!やったー!」――リカの喜びに満ちた声が聞こえて、俺も嬉しくなった。
「みんな無事か?」
「ああ、まあまあってところかな、お前がいないのを除けばだけど。確かに、テクガンの新入りが増えたけど、ジョニーはなかなかいい奴だよ。お前のことは文句言ってるけどな、その場で治せたのに治さなかったって」
「そう、実はそいつに用があるんだ。ジョニーに聞いてくれないか、知り合いを見つけるにはどっちの方向に向かえばいいか」
「わかった、パパ! ちょっと待ってて」
俺は辛抱強く待つことにした。
「ニコ!」――不意にケルが俺を呼んだ。
考え事に集中しすぎて、周りが見えなくなっていた。辺りを見回すと、遠くに砂埃の柱が見えた。そして、こんな距離からでも微かに聞こえる、激しく響くメタルミュージック。
どうやらジョニーの奴、襲撃の後にレイダーがやって来るって話を言い忘れてたらしい。
◇◇◇
「現在の残存寿命――23+(91)。能力発動用ボーナス年数:27(4)(係数0.3)」




