第三十八章 最後の追い込み?
これで終わりだ。この距離じゃもう何もできない。攻撃も逃走も間に合わない。
とはいえ、こんな風に忍び寄ってきた奴が俺を殺すつもりなら、とっくに無駄口叩かずにやってるだろう。映画じゃあるまいし、悪の親玉が観客に自分の計画をぶちまけた後、茂みから降ってきたピアノに潰されるなんてことはない。
声の方に振り向いて、思わず後ずさった。見た目が、こっそり近づいてきた敵にしてはあまりにも似合わなさすぎる。見たところ、2メートル半はある長身の人間で、妙な中世風の鎧を身につけている。というより、過去と未来を混ぜ合わせたような代物だ。痩せた体を覆う装甲板の胸甲、二つのバージョンを組み合わせたような複合肩当て。肘のあたりに鋭い突起のついた篭手、上向きに尖った膝当てのついた脛当て。尖った爪先のブーツに、頭頂部に小さな「角」のついた小ぶりな兜。そして文字通り、この鎧全体が鈍く光る線や文様、記号で覆い尽くされている。どうにか見分けがつくものとしては、膝のあたりに百合か、あるいは歪んだ十字架のようなもの、胸には鳥か天使のようなものがあった。兜には明るい点が無数にあって、どれが目の穴なのか判断がつかない。
だがそれも、巨大な黒いマントがなければまだ受け入れられただろう。翼のように折り畳まれたそれは、広げれば優に4、5メートルはありそうだ。いや、もしかしてこれはマントに似た翼なのか?
「何か言えよ、俺も興味あるんだ。まあ、そうでもないか」見知らぬ男は話し続けた。
「あ、えっと。あ、いや、別に誰かを尾行してたわけじゃなくて、ほら、ただの用心ってやつだ」
「ふーん、なるほどね。感心感心。まあ俺も話のきっかけが欲しかっただけなんだが。殺せ! 馬鹿な獣をバラバラにしろ! サイラスが持ってた石材は何だった?」
なんだか緊張するんだよな、この「行間」に挟まれる叫び声。別の口調で言われるやつ。それに、どうやらサイボーグのことを言ってるらしい。
「ああ、お前がジョニーを捕まえたやつか? 確か通信の石材だったと思うが」
苦々しいため息が聞こえた。
「もう通信には本当にうんざりなんだよ、試練ってやつは全部これがないと始まらないって感じでさ。いい加減殺させろ! なあ、ちょっとそいつを貸してくれないか」
俺は石材を取り出して、慎重に「コレクター」へと差し出した。奴は空中から同じ石材を取り出すと、一瞬だけ両方を接触させ、その後俺のを返してきた。
「ちょっと考えたんだ。そうだ、そうだ。お前が他派閥のゾーンを開けられるってんなら、嘘じゃなければの話だが。嘘つきだ、殺せ! 試練のない暇な時にでも、どうだ、協力し合うってのは悪くないと思ってさ。弱虫なんかいらねえ! ほら、俺もここにはそう頻繁に来られるわけじゃないし、レアで新しいのを手に入れる絶好のチャンスだろ。ああ、家にいた方がマシだったか」
とても奇妙な男だった。一番不気味だったのは、喋っている間ずっと微動だにしなかったことだ。身振りも手振りも一切なし。提案についてだが……結局のところ、俺は今のところ何も失うものはないわけだし。
「コレクター」は続けた。
「まあ心配すんなよ。お前、初めてなんだろ?どれ選んでも同じじゃん。だから最初のやつで死んじまえばいいのさ!それでもし気に入らなかったら、俺が別のに交換してやるよ。それに、俺は結構リソース溜め込んでるんだ。アルヴァー派閥には空気みたいに必要なもんだろ?ただ、売るのが面倒くさい奴がいるだけでな。その代わり、ベラベラ喋るのは面倒じゃないらしい」鎧の方からまた溜息が聞こえた。その直後、その姿が突然三つに分裂した。
正確には、オリジナルと全く同じ三体の分身が現れたんだ。そのうちの一体が俺に近づいてきて、肩に手を置いた。そしてまた喋り出した。
「まあいいや。とにかく、お前にはあと十分くらい時間がある。近くにキルハイヴのゾーンを見つけたんだ。先に言っとくが、もし断ったら、俺は絶望のあまり、この攻撃的な相棒を抑えきれなくなるかもしれない。まあ、投票でもするか?俺はアルヴァーには手を出さない方に一票。どうでもいい、殺せ、背骨引っこ抜いて吊るし上げろ!俺はどっちでもいいけどな」
分身がいるにもかかわらず、全ての声が同時に全員から聞こえてきた。目の前にいる奴だけでもなく、それぞれの分身が別々に喋ってるわけでもない。各分身に声が割り振られてるわけでもなかった。これで完全に混乱して、俺はただ頷くことにした。もう議論する余地もない。
「よし!」
「コレクター」は俺を掴むと、壊れた窓から飛び出した。視界の端で、二体目の分身がジョニーにも同じことをしてるのが見えた。ジョニーは汚い言葉で罵りながら、必死にもがいてた。
素晴らしい景色だった。ただ、移動速度が速すぎて堪能する暇もなかった。とにかく、一分も経たないうちに、全ての分身が沼地のような場所に着陸し、一体に戻った。
「さあ、アルヴァー、行け! 俺がお前を始末して沼に沈める前にな! どのみち俺は行かないからよ」
あまり楽しくない餞の言葉だが、俺は慎重に前へ踏み出し、注意深く固い場所を探った。残念なことに、近くには森すらなく、沼地はまるで荒野のど真ん中に突然現れたかのようだった。ジョニーが近づいてきて囁いた。
「なあ、兄弟、あのイカれた野郎は何なんだよ? お前、知り合いか?」
「まあ、完全にってわけじゃないが、お前に憑依してたのはあいつだ。ただ、あの時はもうちょっと大人しかったな。お前がいい影響を与えてたんだろうぜ」
「うわ、気持ち悪い。で、今度は俺たちに何の用だ?」ジョニーは身震いして、固まったままの「コレクター」を振り返った。
「おそらく、いつも通り、先へ進んでゾーンのガーディアンが起動する場所を見つけろってことだろうな」
ジョニーは辺りを見回した後、頭を掻いて俺に言った。
「ライフル貸してくれよ。当面、お前には必要ないだろうしな」
心の底では俺も彼に賛成だったので、余計な口は挟まず武器を渡した。ジョンは武器を杖代わりに使って、硬い地面を器用に選びながらさっさと先を急ぐ。俺も彼の後を追い、足跡を踏むように歩を進めた。
やがて沼地の真ん中にある小島に辿り着いた。ここなら地面の心配をせずに立っていられる。
「お前、やるじゃねえか。どこでそんな技術を身につけたんだ?」
テクガンの男は誇らしげに胸を張った。
「へへ、兄弟、俺を誰だと思ってるんだ。ジョニー・レンジャーの名は伊達じゃねえぜ。どこへでも連れてってやるし、どこからでも連れ出してやるさ」
どうやらジョニーには、口にした言葉の数だけあだ名があるらしい。
前方のガラスケースの中に、粘液質の何かが入っているのが見えた。俺は近づいて、ガラスの下にある認証パネルに必要なチップを埋め込んだ指を当てた。
「キルハイヴ、認証中……承認。写本を受け取ってください。注意!神々の試練一回につき、写本は一つまでです!」
「神の石材を入手しますか? はい/いいえ」
当然だろ、他に何をするってんだ。
「了解。ゾーン6の石の守護者を起動」
俺は弓を手に取った。信じられないような咆哮、カチカチという音、キーキーという鳴き声が四方八方から聞こえてきた。
沼地の表面をいくつかのクリーチャーがゆっくりと進んでいた。俺にはもう見覚えのあるでかい蜘蛛。うねる触手に覆われた体を持ち、口が二つに裂けて鋏角を剥き出しにした、大型の狼のような何か。下水道のマンホールほどもある複眼で俺を悲しそうに見つめる巨大な蠅、その下半身は引きずられた獣の死骸で出来ている。そして他にも悪夢のようなクリーチャーがたくさん――その多くは、もう二度と会いたくないと思っていた連中だ。
「なあ兄弟、お前まだグレネード持ってるよな?」
「いや、残念ながら」
「ほら兄弟、グレネードだ」
ジョニーが俺に二つ渡してくれて、自分は一番近いクリーチャーを撃ち始めた。俺は迷わずグレネードを次々とモンスターの群れに投げ込んだ。強力な爆発の轟音に続いて、怒りに満ちた悲鳴、悪臭を放つヘドロの噴水、そして周囲に飛び散った腐臭漂う肉片が広がった。
「アルヴァー、開けるだけって頼んだだろ。あはは、血だ!」
「コレクター」が俺たちの前に降り立った。沼地が霧に包まれたが、今回は数秒で消えた。蜘蛛は軌道を変え、鋭い脚をバタバタともがく蠅に突き刺し、その目玉を貫いた。虫が羽音を立てて爆発し、蜘蛛の脚を引きちぎった。
鎧自体が虚空から巨大な戦斧を取り出すと、全身の紋様が一層明るく輝き始めた。「コレクター」が二体に分裂する。一体目は光を失い、代わりに石の外殻に覆われ、さらに二倍ほどの高さになるまで巨大化した。生まれた巨人が咆哮を上げて化け物どもに突進し、武器を一振りするたびに何匹もの命を奪っていく。
二体目は眩いほどに光り輝き、そのまま地面に胡坐をかいて座り込んだ。目の前に空間の裂け目が現れ、その中に化け物たちの背中が見える。光が波のように下半身から頭部へと流れ、兜から途切れることのない紫の光線が迸り、最も遠くにいる怪物どもを焼き始めた。
俺とジョニーは呆気に取られてその光景を眺めていた。
「俺もずっと考えてたんだよな、力があるのに誰も上位派閥に喧嘩売らないのはなぜかって。なるほどな、兄弟、こんなヤバいもんに出くわすってわけか」
「本当にな、俺も唖然としてるよ」
まさかアルヴァーが発展のピークに達したら、これ全部に対抗できるようになるのか?そうであってほしい。だってこのシステムが存在してるのには、意味があるはずなんだから。
すぐに辺りが静まり返った。目の前に見慣れた色合いの小石――カオスポータルが現れた。石材がこんなに少ないのか、それともこの乱数生成器が妙なせいで同じものばかり出すのか、どっちなんだろう。
「コレクター」が一体に融合し、俺に近づいて手を差し出した。俺は石材を彼に渡すと、初めて反応を見た。装甲は報酬を兜に優しく近づけ、表面をそっと撫でさえした。
「ありがとう、アルヴァー。嘘をつかなくて良かったよ、まあそれほどでもないが。今のところは殺さないでおく」
「なあ、もし俺たちが一緒に仕事をするつもりなら、派閥で呼び合うのはやめないか?」
「ああ、分かった、ニコ。俺はアクワイア・イラ・イグナヴィアだ。アクワイアでいい、残りは省略する。お前、頭イカれてないか? まあどうでもいいけどな」
「よろしく。それで、ポータルはどうするんだ?」
「ああ、そうだな」
俺たちは来た時と同じ方法で戻った。リーパーは広場の端で相変わらず微動だにせず立っていた。
タイマーの残り時間は二分を少し切っていた。
「幸運を祈る、ニコ。死ぬなよ、俺が殺すんだからな。じゃあな」
アクワイアは端末から離れ、ジョニーに手を振った。
「え、どういうことだよ、俺、こいつと一緒に行くのか?」テクガンの男が不安そうに声を上げた。
「俺にもわからない。これから何が起きるか知らないが、とにかく、約束したことを忘れるな」
「了解!」ジョニーが近づいてきて、俺たちはしっかりと握手を交わした。
5…… 4…… 3…… 2…… 1……
「従僕のポータル、開放準備完了。石の所有者――アルヴァー派閥。おめでとうございます」
ああ、これで全部か?
ターミナルの近くに黒い点が現れ、瞬く間に細長い楕円へと膨れ上がっていった。最初は普通のポータル程度だったのが、どんどん大きくなって、直径5メートルを超えるまでになった。楕円は位置を変え始めたので、俺は離れた場所へと下がった。
ポータルが地面に収まったところで、ようやく全てが止まった。
轟音が響いた。ポータルから這い出てきたのは、石のような皮膚に覆われ、青い光を放つ巨大な前足だった。続いて二本目。現れた頭部は、歪んだ人間の頭蓋骨のようで、頭頂部から両側へ伸びる巨大な真っ直ぐな角を生やしていた。骸骨の口と眼窩は、内側から揺らめく青い炎に照らされている。さらに体の一部が姿を現したが、胸の上部だけが皮膚で覆われており、それより下は全て骸骨の姿だった――巨大な肋骨と脊椎。化け物の背には、ボロボロに破れた革のような翼が生えていた。
「従僕到着」
モンスターは俺を一瞥もせず、逃げようとするジョニーを掴むと、虫けらのように潰してしまった。その後、従僕の前足がアクワイアへと伸びた。彼は俺に手を振り、従順に頭を垂れた。モンスターは鎧を掴むと、大きな音を立てて押し潰し、さらに火を放って、溶けた金属の水たまりだけを残した。
リーパーは膝をつき、両手を上へと掲げた。従僕の手が彼を丁寧に掬い上げ、頭蓋骨の口へと放り込んだ。数秒間噛んだ後、モンスターは溶けた部品を吐き出した。
その後、従僕は俺を見据え、異世界の声で大きく告げた。
「最終試練の時が来た」
◇◇◇
ラズは姉妹たちに向き直り、この質問にはお前たちが答えろと全身で語っていた。
クリスティーナは口ごもったが、こう言った。
「あのね、にゃ。その、にゃ、パパは、えっと、今ここにいないの」
フロルガは不満げに尻尾を振った。ようやく尻尾をいじるのをやめたばかりだというのに。
「そんなこと見ればわかる。もっと具体的に言いなさい。何を隠してるの?」
「別に何も隠してないにゃ! ただちょっと後で来るってだけにゃ!」
「ああ、運が良ければね」とアルビがぶっきらぼうに呟いた。
「なによその悲観的なの、にゃ!」クリスティーナはカッとなり、白い子猫の尻尾を引っ張った。
「お、おい! 落ち着いて。つまり、本当に大丈夫なんだな? 何も隠す必要はないんだぞ、うちは小さな村だし、お互い心配し合ってるんだから」狼娘は別の角度から攻めようとした。
「はいはい、フロルガおばさん、ほら、姉さんたちが言ってるでしょ? だったらそういうことですよ」とラズが言った。彼女自身が原因となったこの詮索に、もう飽き飽きしていたのだ。
狼娘は諦めてため息をついた。
「わかった、あんたたちを信じるよ。でも、彼が戻ってきたら、伝えてくれるかい……」
「おばさん、彼に惚れてるんですか?」ラズが首を傾げて尋ねた。
フロルガは真っ赤になった。明るい髪と毛並みを背景に、それは特に目立った。
「違うってば! ただ、会うのを楽しみにしてるって、怒ってないって伝えてほしいだけなの」
これ以上突然の発言を避けるため、狼娘は急いでその場を去った。
「ラズ、そんなこと言うなんて無神経よ!」クリスティーナは妹を正そうと試みた。
「うーん、どうだろう。私としては、繁殖の話題って、例えば食べ物の話と変わらないと思うんだけど。もしかしたら、あなたたちともっと一緒にいたら、少しは考えが変わったかもしれないけど、でもママは別に気にしてないし」
「ああ、ごめんね、リカ。あなたが来てくれた時、あんなに嬉しかったのに、結局一緒に遊んであげられなかった。恥ずかしいわ!」クリスティーナは静かにそう言うと、彼女を抱きしめた。アルビは黙って二人に加わった。
「平気よ」ラズは嬉しそうに答えると、紫色の瞳を閉じて、姉たちをぎゅっと抱きしめ返した。
角笛の長い音が鳴り響いた。
「これ、何?」ラズが困惑したように尋ねた。
息を切らしたフロルガが姉妹たちのもとへ駆け寄ってきた。
「急いで、みんな、センターに隠れて! 襲撃よ!」
◇◇◇
「現在の残存寿命――15+(68)。能力発動用ボーナス年数:13(8)(係数1.2)。
アルヴァー派閥とのシナジー(100/100)。
テクガン派閥とのシナジー(60/100)。
キルハイヴ派閥とのシナジー(40/100)。
フレムテック派閥とのシナジー(15/100)。
死すべき者の現在の兵科モデル:ヘビータクティカルナイト(回復中)、スナイパーアーチャー。
現在の建設:リバーサイト鉱山。
軍隊:
ランク3:3体。シールダー、ロングボウ射手×2。
ランク2:15体。ロングボウ射手、戦士×4、闘士×3、スナイパー、セフィーナ、ジェシー、ケル。
ランク1:3体。闘士×3。
ランク0:4体。闘士×4。
訓練中:0。
待機中:0」




