第三十五章 玉座の間
どれくらい時間が経ったんだろう?分からない。どうにか目をこじ開けて、何か見えないかと試みた。周りは暗くて、まったく何も見えない。だが床の上に転がっているのは分かる。手足を動かせない。じめじめして冷たいから、たぶんまだ城の中にいるんだろう。
俺の近くで何かがごそごそ動く音が聞こえた。
「ジョニー?」
「おお、お前もいたのか、兄弟。なんか俺たち、やばいことになってるみたいだな。いっそすぐに殺されてた方がマシだった。こういうのは本当に勘弁だぜ」テクガンの男のだるそうな声が聞こえた。
「まったくだ」
「黙りなさい、二人とも」威圧的な女の声が響いた。
炎が燃え上がり、部屋の中に松明が二、三本灯った。
俺は声がした方を振り返った。そこには薄着の女が立っていたが、夜の冷気など気にも留めていないようだった。体を覆っている――いや、網目で「覆う」なんて言えるのかわからないが――のは網状の何かで、腕は肩まで、太腿にはストッキング風に巻きついている。赤い下着を着けていたが、どうやらそれが防具も兼ねているらしい。馬鹿げた話だが、どう見ても網よりは頼りになりそうだった。ミニマムな赤いパンティ、かなり大きな胸をぎりぎり隠している数本の布切れ。布地が薄くて、寒さのせいか硬くなった乳首まで透けて見える。手首には刃先が防具の下から覗く装甲板。太腿には投げナイフが固定され、背中には剣の柄が見えた。
女自体は美人だったが、近寄りがたい雰囲気で、まさに氷の女王って感じだった。少しツンと上を向いた鼻、きちんと整った、自分の重要性を意識してか少し引き締められた唇、黄色い瞳。腰の下まで伸びた青みがかった黒髪、額には赤い鉢巻のようなものを巻いている。
「こら、ジロジロ見るんじゃないよ、チンコ持ちども!」見知らぬ女が毒づきながら、俺たちの神石を手の中で弄んでいた。
「だったら、そんな格好するなよ、美人さん?」ジョニーがニヤリと笑った。
ニヤリと笑い返すと、女はテクガンの男に飛びかかり、腹に強烈な蹴りをぶち込んだ。
「お前らオス共を苦しめるためさ。見せびらかして、絶対に手に入らないものをな」
息を吐きながら、ジョニーが小さく呟いた。「畜生、この女……」
「つまり、あんたが俺たちを捕まえたのは、俺たちに見られながらムカついて蹴っ飛ばすためってことか?」俺は不機嫌そうな美女に呆れながら尋ねた。
「はっ、違うね。あんたらは使い捨ての肉の壁が欲しいだけだ。大人しくしてりゃ、鎖に繋がれたまま野垂れ死にさせたりはしない――ただ撃ち殺すだけだ」
「なんて寛大なことで」
いや、まさかこんな狂った女に当たるとはな。とはいえ、脱出は試してみる価値はあるかもしれない。この手錠、そこまで強度があるとは思えない。力のエンチャントを使えば引きちぎれるかもしれないし、その勢いでこのクソ女に飛びかかって気絶させることもできるだろう。
「考えるんじゃねえぞ、クズが。触ろうとした瞬間、てめえを殺す」女は俺を睨みつけながら、毒々しく言い放った。
え、今なんの話だ?
「てめえが企んでることの話だよ、このクソガキが」
ちょ、待て、頭の中に他人の声が!
「そうだよ、ニコ。さあ、他に何を企んでるか教えてもらおうか?」
あ、いや、何でもない、何も考えてないって。まあ、こんな美人をベッドに引きずり込めたらいいなとは思うけど……
「面白いわね、バカ。あなたの相棒はそればっかり考えてるけど、あなたは私から何か隠そうとしてるでしょ」
女は近づいてきて、俺の上にまたがると、にっこり笑って俺の頬を撫でた。
「さあ、何を隠してるの?時期尚早にあなたを脳みそのない野菜にしたくないのよ」
ああ、こいつに知られたらまずい。俺の手を握ってればもっと強くなれるなんて。ジョニーですら何を思いつくか分からないってのに、こんなヤバい女に知られたら……
女の唇が冷笑に歪んだ。
「何バカなこと言ってるの?手を握る?他に望みはないわけ、この豚」
乾いた平手打ちの音。頬が焼けるように熱い。
「おい、お嬢さん、こいつは嘘ついてねえよ。本当にすげえんだ、俺なんかこいつの魔法の手のおかげで力持ちになった気分だぜ」
「馬鹿野郎、ジョニー、なんで喋っちまうんだ!」俺はテクガンの野郎に毒づいた。
「おいおい、ニコ、悪かったって。でもこの方がお嬢さんにボコボコにされるよりマシだろ?それに俺たちにとっちゃ、こいつが強くなろうがどうでもいいしな」
「黙ってろ、クソども!」娘が怒鳴りつけて、俺の手に身を寄せてきた。少し考えてから、俺の手袋を引っ剥がすと、嫌悪感を隠そうともせずに俺に触れてきた。
「あとどれくらい?」娘は五秒ほど触れたまま、せっかちに尋ねてきた。
「一分ってとこだ」俺は答えながら、目の前の見知らぬ女とのエロい妄想で頭を埋め尽くそうとした。幸い、それは難しくなかった。
「そんなこと考えるな!」
「覗き見すんなよ」俺はそう言いながら、妄想をグロ方面にシフトさせた。自分でも気持ち悪くなってきた。
「この野郎!」少女は叫んで再び俺を殴ったが、手は離さなかった。
「市民ステータス:+1(68)」
「今のは何?市民って何のこと?」テレパスは疑わしげに俺を見つめて尋ねた。
「だって俺、仲間を残してこの試験に来たんだ。それで心配してるんだよ」
「ああ、信じられない」
激しい頭痛が襲ってきて、俺は顔をしかめて思わず歯を食いしばってうめき声を上げた。
「おいおい、ヒステリー女、そいつから離れろよ」
少女はさっと飛び上がってジョニーを睨みつけた。
「お前に何の関係があるんだ、あ? 軍人風情が。なんでアルヴァーの奴を庇ってやがる?」
「だってこいつはいい奴だからな」ジョニーは俺を見て微笑んだ。
「くそ、マジでムカつく!」女は叫び、手錠を引っ張った。「さっさとついて来い、じゃないと殺すぞ! なんだよ、魔法の強化なんかに釣られちまって!」
肩をすくめて、俺たちはついていった。俺は美女の揺れる尻以外のことを考えないようにした。
前から聞こえる苛立った鼻息から察するに、女はそれに気づいていて、ひどくイラついているようだった。だが三つ目の石材をどうしても手に入れたいらしい。一体何があって、一人じゃ無理なんだ?
やがて俺たちは大きな謁見の間に着いた――雰囲気からしてそんな感じだ。とはいえ内装は質素で、控えめな松明と蝋燭の吊るされたシャンデリアが二つだけ。だが玉座は豪華に見えた。金箔を施した肘掛け、ビロード、背もたれの上部には宝石が飾られ、揺らめく炎の不安定な光を受けてきらめいている。
玉座の脇にはガラスケースがあり、その下に巻物が置かれていた。なるほど、またゾーンか。周囲を見渡すと、奥の隅に「ゾーン5。シャドマー派閥領域」という文字があった。女が巻物に近づく。静寂。だが文字が浮かび上がった。まさか精神的に通信してるのか?
「シャドマー、認証……受理。写本を手に取れ。警告! 一度の神々の試練につき写本は一つまで!」
「神の石材を入手しますか? はい/いいえ」
「受理。ゾーン5の石材守護者を起動」
巻物を取った少女は、玉座の裏から自動小銃と手榴弾を引っ張り出すと、俺とジョニーに投げてよこした。
「私に使おうなんて思わないことね。無駄死にするだけよ」
「わかった」
四方八方から狂ったような哄笑が響いた。次第に闇の中から人間やエルフ、それにどうやら様々な種族が姿を現してきた。ほとんど何も隠さない鎧を着た者もいれば、ほぼ全裸の者もいる。ジョニーは遠慮なく、近づいてくる群衆に向けて一斉射撃を放った。弾丸は空中で止まり、潰れて地面に落ちた。目に見えない衝撃波が俺たちに向かって進み、石材の床の隙間から埃の塊を巻き上げ、俺とジョニーは吹き飛ばされた。
見知らぬ女はその間にどこかへうまく逃げていた。いや、隠れたのか、シャドマー派閥なんだから。
狂ったように笑い続ける群衆、十人ほどが、虚ろな目で俺たちを見つめながら徐々に近づいてくる。さらに何発か衝撃波が飛んできて、俺とテクガンの奴は広間を走り回り、見えないものに当たらないよう必死だった。どうやら敵は取り憑かれすぎていて、戦術を考えたり先読みして攻撃したりする余裕もなく、ただ数と能力で押しつぶそうとしているだけのようだった。
「なあ、ジョニー、何かいい案があるなら出してくれよ」
「おい、兄弟、俺が真っ先に逃げ出したんだから、それだけで一つのいいアイデアだろ。次はお前の番だ」
ああ、そうだった。前のシャドマーは大口径機関銃でそこそこいけたし、ミサイルも効いた。それに、俺の初めての戦闘を思い出してみれば、あれは何だったっけ? サイコキネティックシールド、そうだ、そうだった! あれはそこまで強力じゃない。
「わかった、装甲兵員輸送車は扱えるか?」
「どこからそんなもん出てくるんだよ? ああ、もういいや、扱えるさ」
「肝心なのはミサイルだ、あとは何とかなるだろ」
もう鬼ごっこは続けられそうにない。俺たちは少しずつ隅に追い詰められつつあった。俺は装甲兵員輸送車を呼び出した。すると、ピカピカの新品が俺たちのすぐ横に現れた。
「よっしゃあ、飛び乗れ!」
俺は機銃座に着いて群衆を撃ちまくった。弾丸は潰れたが、連射するたびにどんどん奥まで届くようになっていく。最初のロケット弾が発射された!群衆への直撃だ。いくつかの肉体が吹き飛び、二度と起き上がらなかった。哄笑が憎悪に満ちた金切り声に変わる。
装甲兵員輸送車が揺れた。片側の車輪がもぎ取られ、危険なほど傾いた。もう一発ロケット弾!そして俺は弾丸の雨を浴びせ続け、このクソ野郎どもを起き上がらせない。また何体かの死体が増えた。
機銃を固定具から引き抜いた奴らが数体残っていた。もう一発ロケット弾が飛び出し、その軌道が変わり始めるのが見えたが、遅かった。爆発が最後の奴らを吹き飛ばした。
俺とジョニーは車から這い出して周囲を見回した。最初の死体がいきなり蠢き始め、それからグチュッという音を立てて破裂し、中から暗く半透明のシルエットが現れた。
弾丸は奴らを素通りした。だが奴らは俺たちに襲いかかり、確かな衝撃で壁に叩きつけた。
自動小銃を放り出し、俺は山のような奴らに手榴弾を投げ込んだが、俺たちの耳を聾する強烈な爆発以外、何の効果もなかった。最も近くにいた不定形の影が俺を掴み上げて壁に叩きつけた。今日は壁に打ちつけられすぎだ……
「どうやら詰みだな、相棒。マジで何すりゃいいか分かんねえ」ジョニーが叫び、影から逃れようとしていた。
俺は騎士を解除してナイフを手に取った。騎士は修復に回され、今は鎧なしだが、明らかに機動力は上がった。影の腕を避けながらナイフを振るうと、その生き物は驚いたように悲鳴を上げ、攻撃で開いた自分の「身体」の穴を見つめた。
「よし、お疲れさん、クズども。まあ及第点ってことにしといてやるか」 ステルス状態から姿を現したヒステリック女が言った。
彼女の手首のアーマーから刃が飛び出し、紫色の光を放つ。身軽な動きでくるくると回転しながら、女は一度に大量の影を斬り裂いていく。残った影には正確なピンポイント攻撃で、半透明の頭を軽い刃の一振りで吹き飛ばしていった。
全て終わると、女の前で石材が回転し始めた。赤と青に金の縁取り――他のやつとはちょっと様子が違うな。
「神の石材を回収せよ――補助者:アイヴィ」
女はニヤリと笑って、全ての石材を一つにまとめた。
無線越しの歪んだ声が響き、俺にメッセージが届いた。
「3個の石材が1名の参加者によって収集された!従者のポータルの位置がマークされた」
女は、どうやら最後まで聞き終えたらしく、俺とジョニーの方に振り返って獰猛な笑みを浮かべた。
俺は素早く目を細めた。
「繋がり:市民の統計情報。
名前:ステラ・フェイシュトリ・ボス・モルクソルネド。
種族:人間。
年齢:21(65)。
役割:軍人。
兵科モデル:サイオニック・ユニバーサル。
婚姻状況:未婚。
派閥:シャドマー」
「市民を殺害:はい/いいえ」
「やだああああっ!」
はい。
ステラの力なく緩んだ手から小石がこぼれ落ち、石造りの床を転がっていった。その後を追うように、彼女自身も崩れ落ちた。
俺は石を拾い上げた。その瞬間、どこへ行くべきかがはっきりとわかった――玉座の間の天井近くにあったことが判明した窓の外で、遠くに巨大な白い光の柱が眩しく輝いていた。
◇◇◇
八日目。
「あっ、やば、絶対寝坊したわ、この馬鹿!」
クリスティーナはベッドから飛び起き、大急ぎで身支度を整え、身なりを整えて通りへ駆け出した。
キャンプへ駆け込むと、兵士たちの脇を素早く通り抜け、訓練用端末に目をやった。まだだ、あと三時間ずつある。
「なんだか緊張しすぎかも……だって時計はあるんだし」少女はため息をついたが、そういえば始めた時刻を確認してなかったことを思い出し、自分を責める意味もないかと思い直した。
新しい日には建設用の何か新しいものがあるかもしれないと興味を持ち、クリスティーナは中央端末へ近づいた。
「おはようございます、親愛なる友よ。派閥戦力の配分は守護者または成人ユーザーのみ閲覧可能です、申し訳ございません。ですがあなたの村にはボーナスがあります!」
紙の上に、どれだけの資源が追加されるかを示す表示が現れた。指でなぞって倉庫へ送り、それから本をめくって建物のページを見つけた。
「わあ、すごい数……」少女は小さくささやき、耳をぴたりと頭に押し付けて首を振った。けれどすぐに踵を返してセンターへ戻り、紙と筆記用具を手に取った。端末へ戻ってくると、クリスティーナは熱心に建物リストを書き写し始めた。それから手に紙を持って村を歩き回った。
「よし、木こりは――ある。猟師も――ある。果物は……」
「おっす、姉さんたち、おはよう。何やってんの?」エヴィナがクリスティーナの肩越しに覗き込みながら訊いた。
「ああ、これね。うちにある建物が全部揃ってるか確認してるの。アンネリの管理を手伝おうと思って」
「へえ。パパのことはもう忘れたわけ?」
ニヤニヤ笑うエヴィナを睨みつけて、クリスティーナは顔を背けてぶっきらぼうに言った。
「パパのためにやってるのよ。少しでも力になれる可能性があるなら、活用すべきでしょ。尻尾振って帰りを待ってるだけじゃなくてね」
「エヴィナ、クリスティーナをいじめないで。手伝うか、黙ってて」近づいてきた白い子猫ちゃんが静かに言った。
「あ、アルビ、声が出るようになったの? あたしが探しに行こうって言ったとき、あんた賛成しなかったくせに」
「あたしはクリスティーナを信じてる。エヴィナもそうした方がいいよ。あたしたちが喧嘩してるの知ったら、パパが喜ぶと思う?」
「わかんないよ!」エヴィナは声を荒げた。「あの人、ほとんど一緒にいなかったじゃない! どうして私にあの人の考えがわかるのよ! でも……それでも、あの人が側にいて私たちと話さないほうが、もう二度とここに現れないよりずっとマシだわ」少女の声はだんだん小さくなっていき、ついに顔を背けて黙り込んでしまった。
「だから姉ちゃんは彼を探したかったんだよね? 私たちみんな寂しいんだ、彼もきっとそうだと思う。時間をあげて、姉ちゃんだってわかってるでしょ、彼はただそういうのに慣れてないだけなんだから。戻ってきたら、みんなでどこか一緒に行こうよ!」アルビは姉を抱きしめて、笑顔を見せた。
唇を噛み締めながら、クリスティーナは姉妹を見つめていたが、ついに我慢できなくなって二人を抱きしめた。
「うわっ、クリスちゃん、窒息しちゃうってば!」エヴィナは抗議しながら逃れようとしたが、アルビがしっかりと彼女の尻尾を掴んで離さなかった。
「ふう。それで、結局何してるのか教えてくれる?」抱き合いが終わると、姉妹はクリスティーナに向き直った。
「わかった! 探すの手伝って!」少女はそう言って、自分のリストを三つに破いた。
◇◇◇
「現在の残存寿命――15+(68)。能力発動用ボーナス年数:13(3)(係数1.2)」
「倉庫。状態:
木材――675単位――採取中、収支+400(20単位/時×2);
石材――640単位――採取中、収支+200(40単位/時)(-200石工の工房);
加工石材――250単位――生産中、収支+200(20単位/時);
道具――635単位;
鉄――470単位――採取中、収支+200(20単位/時×3)(-200製錬所)(-200製錬所);
石炭――50単位――採取中、収支+0(20単位/時)(-100製錬所)(-100製錬所);
鋼――100単位――生産中、収支+200(20単位/時);
高品質鋼――65単位――生産中、収支+100(10単位/時);
クリスタリット――220単位――採取中、収支+15(1.5単位/時);
アッペライト――100単位――採取中、収支+100(20単位/時)(-100製錬所);
クリスタライト――50単位――採取中、収支+100(10単位/時);
金――200単位――採取中、収支+50。
アルヴァー派閥とのシナジー(100/100)。
テクガン派閥とのシナジー(60/100)。
キルハイヴ派閥とのシナジー(40/100)。
フレムテック派閥とのシナジー(15/100)。
死すべき者の現在の兵科モデル:ヘビータクティカルナイト(修復中)、スナイパーアーチャー。
現在の建設:なし。
軍隊:
ランク2:15体。シールダー、ロングボウ射手×3、戦士×4、闘士×3、スナイパー、セフィーナ、ジェシー、ケル。
ランク1:3体。闘士×3。
ランク0:4体。闘士×4。
訓練中:3。
待機中:0」。




