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第二十九章 個人的な勝利・その2

挿絵(By みてみん)

悪路と林を抜けると、わりと平らな開けた場所に出た。低く浮かんだ――うーん、"月"に煌々と照らされている。まあ、月ってことにしとこう。誰が困るわけでもないしな。


俺が肩に触れると、彼女はちらちらと道路に目を戻しながら、何? と問いかけるようにこっちを見た。


「ちょっと停めてくれ!」


キンキンうなるエンジン音に負けないよう、俺は声を張り上げた。


車が止まり、俺たちは静寂に包まれた。遠くの森でどこかの小鳥が怯えたようにチチッと鳴き、風が木々をそっと揺らして、葉をさわさわと鳴らしているだけだ。


車から降りて、ひんやりした夜の空気を胸いっぱいに吸い込む。うん、思ったほど寒くない。もっと冷えると思ってたんだが。月に見とれていると、ジェシーも車から飛び降りてこっちへ来る足音が聞こえた。彼女は俺の手を握り、やっぱり何も言わなかった。


「綺麗だな。毎日バタバタ走り回ってると、立ち止まって周りを見る余裕なんてなくなる。でも、すぐには気づかないだけで、綺麗なものってそこらじゅうにあるんだよな」


ゆっくりと、夢見るようにそう言いながら、俺はこっそり彼女の横顔を盗み見た。


ジェシーは俺の手を少しだけ強く握り返すと、唇を舐めて、足元の地面の何かをじっと見つめ始めた。


俺は妻のほうに向き直り、髪に手を滑らせてヘアゴムを抜き取った。月明かりに照らされて緋色に輝く綺麗な髪がふわりと顔の周りに広がり、肌の白さをいっそう際立たせる。


「なんで普段からこうしないんだ? 似合ってるぞ。お前、本当に綺麗だからな」


「わ……私、ただ慣れてないだけで。あなたがこっちのほうが好きなら……これからは、髪を下ろしておくね」


ジェシーは小さな声でそう言って、微笑んだ。


言うことを聞かない巻き毛をひと撫でしてから、俺は髪から手を離し、彼女の顎にそっと指を添えて少しだけ持ち上げた。ジェシーはぎゅっと目を閉じ、唇をわずかに開く。俺は喜んでそこに自分の唇を重ねた。長く、ゆっくりとしたキスのあと、彼女は俺の胸に顔を埋め、小さく息をついた。


「ねえ、ニコ……私、もっとあなたを感じたいの」


「ああ、分かってる」


俺は彼女の手を取って車まで連れて行き、ボンネットにシャツを敷いた。ジェシーは少し照れくさそうに微笑んで、俺を見つめていた。


「今夜は、誰にも邪魔されないわね」


「ああ、二人だけだ」


俺は彼女を抱き寄せ、もう一度キスをした。そして、月明かりの下で、俺たちは互いを求め合った。


……


やがて、俺たちは荒い息をつきながら、寄り添って座り込んでいた。夜の冷たい空気が火照った肌に心地よい。ジェシーは俺の肩に頭を預け、満足そうに目を閉じている。


「こんなに長く私からこれを奪ってたなんて、ひどい男」力の抜けたジェシーが、冗談めかして俺の腕を叩きながら囁いた。


「言っとくけど、今じゃ俺だって後悔してるんだぜ」


微笑み合った俺たちは、さっそく服を着て、まもなく拠点に着いた。

※第29章の完全版(R-18版)は、ノクターンノベルズにて公開中です。

続きが気になる方は、プロフィールのR-18版リンクからどうぞ。

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