第二章 世界との出会い
信じられないほどの脱力感だったが、どうやら俺は何かの上に寝かされたらしい。多分、盾の上だろう。完全に無言のまま、少し揺れながら運ばれていたので、結局俺はそのまま意識を失った。
少しずつ眠りから浮上してくる。目の前に文字列が流れていく。
「新しい日の始まり。寿命-1年。現在の残存寿命――42年」
なんてこった、じゃあこれは全部悪い夢じゃなかったわけか。つまり、俺に残されたのは一ヶ月半弱ってことだ。皮肉なもんだ、実質、医者たちが宣告した余命と同じくらいじゃないか。でも医学がもう確実に俺を救えなかったのに対して、ひょっとしたらここでなら自分の死を先延ばしにする方法があるかもしれない?
その間に新しい文字列が現れた。
「現在の派閥分布表――
1.所属派閥不明。
2.所属派閥不明。
3.所属派閥不明。
4.所属派閥不明。
5.所属派閥不明。
6.所属派閥不明。
7.テクガン派閥。
8.アルヴァー派閥」
そして、すぐに次の情報が表示された。
「あなたの派閥は遅れています! 落胆しないでください。全ての基礎村は基礎資源セットを受け取ります」
一体何なんだ、この朝っぱらからの頭の中へのスパム攻撃は?
俺は不満げにうなりながら、ようやく完全に意識を取り戻し始めた。休息の邪魔にならない柔らかな光、家庭料理の心地よい香り、ふかふかで温かい枕……待てよ、温かい? 俺は両脇を手探りして、ぼんやりと察しながら少し頭を後ろに傾けた。上から俺を見下ろしていたのは、恥ずかしそうな表情の少女で、俺はその膝の上に頭を乗せて横になっていたのだ。
整った顔立ち、少し上を向いた鼻、美しくてエロティックに半開きになった、ぷっくりとした唇の口元。その奥には真っ白な歯が整然と並び、少し長めの犬歯も見える。大きく見開かれた青い瞳には濃い睫毛と優美な細い眉。横になった状態から判断する限り、見事に長い、青みがかった黒髪。そして頭の上には、内側に白い毛が生えた猫耳。
俺がじっと見つめていたせいで恥ずかしくなったのか、少女は耳をぴくぴく動かすと背筋を伸ばして座り直した。ふむ、今は結構大きめの胸の膨らみしか見えない。青いぴったりとしたドレスに隠れているが。これ以上見つめるのは失礼だろうと思い直し、前に目を向けると、色とりどりの料理が盛られた皿の並ぶテーブルが目に入った。リンゴのような見慣れた果物もあれば、真っ白なトゲトゲの球体みたいな珍しいものもある。皿には焼き肉、野菜添えの魚(にんじんは分かる、他のも似たようなものだろう)、丸焼きの鳥も載っていた。皿の脇にはピンク色の何かが入った瓶が置いてある。常識的に考えれば酒だろう。まあ、異世界にいて現地の文化や習慣も知らない以上、何が出てきてもおかしくないが。
テーブルには四十から五十くらいの男が座っていた。少し太り気味だ。髪も顎鬚もかなり白くなっているが、この見知らぬ男は元気そうで、できる限り自分の身なりに気を配っているのが分かる。とても小綺麗で、装飾された襟元が大きく開いた刺繍入りのシャツに、服の上からでも目立つ腹に豪華な装飾のベルトを締めていた。周りには色々な本が広げられていて、本人は静かにパイプをくゆらせている。だが普通のタバコの煙ではなく、空気には香のような心地よい香りが漂っていた。男はもう一度パイプを吸い込むと、にっこりと笑って明るく元気な声で話し始めた。
「お目覚めになられましたか、死すべき者よ! 我が村にとって素晴らしい知らせです! 私はファリンと申します。長老として、あなた様に全力でお力添えさせていただきます。そして、慎ましくも膝をお貸しした美しい娘は、私の愛娘、セフィーナでございます」
なるほどね。だが、この親父はどう見てもネコ科じゃない。まあ、初対面でそんなこと聞くのも筋違いだろうけど。もしかして養女で、俺がここで「家庭の事情暴露バラエティ」みたいな展開を始めちゃうのか? とはいえ、村の主の娘の膝枕に乗っかったまま話すのは礼儀に欠けるな、と思い直した俺は、彼女に静かに礼を言ってから身を起こし、テーブルの前に座った。なんで今、あの腰布じゃなくて高そうなズボンとシャツを着てるんだ、なんて疑問は抱かなかった。
「ファリンさん、温かく迎えていただいて本当にありがとうございます。心から感謝しているんですが、残念ながら俺は異世界から来た人間でして、その、何と言いますか、状況が全然呑み込めてないんですよ」
「呑み込めてない? タバコでも吸うか?」――長老は嬉しそうに俺にパイプを差し出してきた。
俺は丁重に断って、言葉の意味を説明した。どうやら、俺が彼らの言葉を理解できて、彼らも俺の言葉を理解できるのは直感的なレベルでのことらしく、一部の単語は意味が違って伝わるようだ。
話の内容を理解すると、ファリンは続けた。
「ああ、それなら問題ない。実はな、召喚というのは我々にとって日常茶飯事でね、だからニコ殿も珍しい存在というわけではないんだ。まあ、今まで我々のところに来た死すべき者の中で、ここまで人間そっくりな者は滅多にいなかったがな」
そっくり? ということは、やっぱり違いがあるのか? 俺はもっと注意深く観察してみたが、外見上の違いは見つからなかった。それにしても、あの娘のせいで名前を省略されて呼ばれるのが定着しちまった……。
俺が考え込んでいる間、ファリンは話を続けた。
「だが肝心なのはこれだ。あんたは俺の記憶にある限り、いや、もしかしたら歴史上初めて、生き残った死すべき者なんだよ。民はこれを天からの御告げだと信じている。神々がついに我々の祈りを聞き届けてくださり、これで俺たちも前に進めるんだってな!」
長老は決然とテーブルを拳で叩き、荒い息を吐いた。どうやら本当に心配しているらしい。
「お父さん、興奮しないで!」セフィーナが心配そうに言って、さっと立ち上がり男性に駆け寄ると、後ろから愛おしそうに肩を抱きしめた。彼女が歩いてくる間に、俺はドレスの下の魅力的な身体の曲線と、服の特別な穴から通された長い黒い尻尾に目を奪われていた。
長老は俺の視線に気づいたようで、微笑んだ。かすかに頷くと、娘に合図を送り、彼女は顔を真っ赤にして一気に言い放った。
「ニコ様、もし私と床を共にしたいとお望みでしたら、私の身体は完全にあなたのものです!」
「おいおい、うちの馬鹿娘。そんなことから始める奴がどこにいるんだ? これじゃあ死すべき者が、お前が全ての客にこんなことを提案してると思っちまうだろうが」
少女は髪の先まで真っ赤になり、両手で顔を覆った。耳が力なく垂れ下がる。
俺は慌てて何とか状況を取り繕おうとした。
「いやいや、そんなこと思いませんよ! まあ、確かに予想外の提案ではありますけど……」
長老はとても驚いているようだった。
「意外でしたか? 若い娘で、旬の盛りで、誰にも手をつけられていない、英雄への報酬として期待していたのはこういうものではなかったんですか? もしかして、お好みではない? 村にはまだ娘がたくさんいますから、別の子を探してきましょうか!」
まあ、最後の言葉は悲しげに言われたし、娘さんの方なんて泣きそうになってたけど。俺、また何か間違ったこと言ったか?
「いやいや、娘さんは素晴らしい方ですよ、ただ俺としてはまず、その、周囲の状況を把握してから、それから私生活を整えようかと思ってたんです」
「ああ、我々が急ぎすぎましたか? すみません、ただ我々のところでは普通こういうことは先延ばしにしないもので、へへ」
何だその下品な目つきは、誰のことを思い出してるんだ、長老?
俺は咳払いして、話を本筋に戻そうとした。
「それで、状況についてなんですが」
「ああ、そうだ! つまり、簡単に言うと、八つの派閥が互いに隔離されて存在している。五日に一度、ランダムな場所にポータルが開いて派閥の領土同士を繋ぐから、軍事衝突と資源の奪い合いが起きるんだ。ポータルの位置自体はランダムだが、派閥同士の相互作用はそうじゃない。毎日、戦力表での順位が決まって、それに基づいて対戦相手が決まる仕組みだ。弱い派閥は自分より強い全ての派閥を攻撃できるが、防衛するのは自分より一つだけ強い派閥からのみ。八位は全ての順位を攻撃できるが、攻撃を受けるのは七位からだけ。七位は全ての順位を攻撃できるが、攻撃を受けるのは六位と八位からだけ。六位は八位以外の全てを攻撃できる。攻撃を受けるのは八位、七位、五位から。こんな感じで続いていくんだ」
頭の中で計算してみた。まあ、今のところ全部を覚えておく必要はないな。はっきりしているのは、自動小銃を持った連中が五日後にまた攻めてくるってことだけだ。
「すみません、私はあまり良い語り手ではないかもしれませんね?」――長老は心配そうな顔をしていた。
「ああ、いや、少しずつ分かってきましたよ。続けてください」
「とにかく、何年も我々の派閥は最下位なんです。もちろん、最下位ボーナスはもらえますが、発展しない。王が臆病すぎて、首都の城に閉じこもってエリート戦士に囲まれている間、民はポータル地帯で少しでも何か掴もうと必死なんですよ!」
ファリンがまたテーブルを叩いた。娘が彼をなだめる。可愛いな。
「最弱の派閥には、月に一度、防衛のために『死すべき者』を召喚することが許されています。この異邦人は自らを犠牲にし、勝利の祭壇に命を捧げるのです!」
ああ、なんて大げさな。吐き気がするくらいだ。
俺の顔色が変わったのを見て、ファリンは慌てて言い直した。
「いや、あなたが死ななかったことを責めているわけじゃありません、とんでもない! それどころか、あなたは見事に戦いに勝ち、戦士たちの一部まで救ってくれました。本当に感謝しています!」
「ああ、それで? 死すべき者なしで、剣と盾でどうやって勝つんだ?」
長老は顔をしかめた。
「勝っているとは言っていません。頼みの綱は魔法と高価なエンチャントされた金属ですが、それらは全て首都にあります。唯一の魔法使いはあなたの目の前で殺されました」ファリンは苦々しく言った。それから、少し間を置いて続けた。
「正直なところ、辺境の住人である我々は『死すべき者』とさほど変わりません。ただ、無駄に死んでいくだけです」
ああ、わかるよ。他人から期待を背負わされたのに、状況的にどうしようもない時の重荷の辛さ。どうやら事態は本当にやばいらしい。
「ですが今回は幸運が微笑んでくれました!」長老は叫び、机から飛び上がった。「我々は再びロートクを見つけ、あなたのおかげで守り抜くことができたのです!」
「えっと、ロートク?」
「そう、ロートク!」
「それって何?」
そこでファリンは急に顔色を変え、ゆっくりと腰を下ろした。顎を撫でながら、考え込むようにこう言った。
「正直なところ、俺にも分からない。だがテクガン派閥はいつもロートクを回収していったから、俺たちがじっくり調べる機会はなかったんだ」
「じゃあ、調べてみようぜ」
「何、今すぐか?」――ファリンは自分の耳を疑っているようだった。
「ああ、なんでダメなんだ? 飯なら後でいくらでも食える」
長老が飛び上がり、俺の袖を引っ張りながら出口へと駆け出した。テントから――正確に言えば、かなりでかい天幕から飛び出すと、眩しい光に思わず目を細めた。真昼間だ。
周りにはまだたくさんのテントが張られていたが、今の俺が気になるのは、さっき見えていた街がどこに消えたのかってことだった。
俺が何を考えているのか分かったかのように、長老が申し訳なさそうに言った。
「あの街は亡きマーリンの幻影だったのです。こんな場所で本物を建てる時間など、とてもありませんから」
ああ、やっぱり本当にマーリンだったのか。宝くじでも買うべきかもな。
ファリンはほとんど走るような勢いで、俺を丘の方へと引っ張っていった。この辺りの自然は素晴らしかった。丘が天然の窪地のようなものを作り出していて、その中の平原は色とりどりの草で覆われている。近くには小川が流れ、右手には林があった。林の少し先には、岩がちな地形が広がっていた。
俺たちは平原のちょうど真ん中まで走り、長老が金属製のレバーのようなものを指し示した。
深く考えずにそれを引っ張ると、大地が震え始めた。足元の土がぼろぼろと崩れ落ち、草が根こそぎ引き抜かれて、地中から現れたコンクリートの板に場所を譲る。いや、円形をした一枚の巨大なコンクリート板だ。数分後、揺れが収まり、レバーが伸びて画面付きのパネルへと変わった。
「防衛者/所有者のチップをかざしてください」
えっと、チップ? 俺の人差し指が点滅した。これって、視覚的なヒントみたいなものか?
右手の人差し指の腹には、紋章のタトゥーが浮かんでいた。盾を背景にした剣が炎に囲まれている図柄だ。俺は指を画面に押し当てて待った。
「スキャン:アルヴァー派閥。基地再構築」
コンクリートが瞬く間に石畳に変わった。呆然とそれを眺めてから、俺は再び画面に目を向けた。画面は今や古めかしい本の形になっている。
「基地建設を開始しますか? はい/いいえ」
はい、迷う理由なんてないだろ。
「基本建築物リストを読み込みました。
新たな建造物:死すべき者の館、村の中心、住宅、木こりの小屋、狩人の小屋、漁師の小屋、石工の工房、石切り場、倉庫、食料貯蔵庫、クリスタリット鉱山。
新たな兵科モデル:戦士、射手。
アルヴァー派閥とのシナジー+20%(20/100)」




