第十八章 約束と論争
昨日の出来事から考えれば、もう森に隠れている暇はなかった。俺は二人の手を掴んで、建設中のセンターの裏へと急いで連れて行った。突撃兵の指輪を発動させ、角から身を乗り出して待機する。
「ねえ、あれは何?」セフィーナが心配そうに囁いて、彼女も慎重に隠れ場所から覗き込んだ。
その間にポータルが開いた。
「カオティック・ポータルだ。例の尻尾のついた新顔もあそこから来たんだよ」
数秒が過ぎたが、誰も現れない。
「なんで誰も出てこないんだ?」俺は戸惑いながら呟いた。
ポータルはまだそこにあり、鮮やかな赤い光で見る者を魅了していた。
「もしかして、アルヴァー派閥みたいな考え方してるだけじゃないの、ニコ?」ジェシーが俺の耳元で熱っぽく囁いた。「自分たちばかり襲われるって思い込んでるんでしょ。もしかしたらこのポータルって、あたしたちが攻め込むためのもので、向こうはそんなの知らないかもよ! ヒット・アンド・ランってやつ?!」
ふむ、確かにその通りかもしれない。フェブリモールの話を信じるなら、こういうポータルはランダムなはずだ。まあ、二日連続で同じ場所に出現ってのは、正直コンセプトから外れてる気もするけど、それでも可能性はある。
「仮にそうだとしても、俺たちはあそこには行かない。単純に戻って来れないだろうからな」
視界の端で、セフィーナが最後の言葉に反応して耳をピクピク動かすのが見えた。何かを呟きながら、彼女が杖を振ると目の前に大きなシルエットが形作られ始めた。高さは二メートル半ほどだ。
煌めく騎士の鎧――だが、どこか不自然なところがある。腕の鎧は直径の異なる複数の破片で構成されていて、まるでチェスの駒を何個もくっつけたみたいだ。兜は尖った面頬に菱形の目の穴、口の部分には鋸歯状の模様が刻まれている。
鎧の眼窩からは明るい青い炎が溢れ出し、背中には青紫色のマントがはためいている。その生物の手には、青く輝く刃を持つ長剣が握られていた。
セフィーナが倒れ始めたのが見えて、俺は慌てて彼女を抱きとめた。少女の瞳は青から白濁した色に変わり、視線はガラスのように虚ろになっている。
「セフィーナ、どうした?! 返事をしてくれ!」
女の子は黙ったまま、かろうじて息をしていた。何かが俺の頭に触れた。
振り返ってみると、鎧が俺の髪を撫でているところだった。俺が気づいたのを確認すると、鎧は猛スピードでポータルに向かって突進し、中へ消えていった。
「くそ、セフィーナ、こういうのは先に言っとけよ……」
俺たちにできるのは待つことだけだった。まあ、どうやらポータルももうすぐ閉じそうだが――全部だいたい似たようなものなら。
ガシャンという音とともに、鎧が縮み始めたポータルから飛び出してきた。両手には大きな箱を二つ抱えている。
「騎士」の片側が消失していて、赤熱した縁を持つ大穴だけが残っていた。鎧は戦利品を地面に置くと、消え始めた。
俺が大事に抱えていた女の子は、パチパチと瞬きを繰り返して意識を取り戻した。
「ふう、ごめんね、ダーリン。確かに先に言っておくべきだったにゃ」罪悪そうに微笑んで女の子は言い、俺の頬にチュッとキスした。
「大丈夫か?」
「ええ、ただちょっと疲れただけ」
ジェシーがじれったそうに訊いた。
「ねえ、どうだったの? 見えたんでしょ?」
セフィーナは眉をひそめて頷いた。
「ええ、見えたわ。ポータルはどこかの倉庫に繋がってた、多分。じっくり周りを見てる時間はなかったから、掴めたものだけ掴んだの。それに、何かの武器で撃たれたし」
「大丈夫だ、それでも十分すごいよ。よく冷静に動けたな」俺は妻の耳を撫でながら優しく言った。彼女は満足げににゃあと鳴いた。
俺はコンテナに近づいた。識別マークなし、銀色の金属製。触れてみると、メッセージが表示された。
「金属の知識2、進捗2/2 習得完了!」
「建造条件達成:エンジニアの兵舎!」
ああ、でもあれには建設専門家も必要なんだよな。確か、あれはもう基幹施設の部類だったはずだ。まあそれでも、良い知らせには違いない。
俺が少し黙り込んだのを見て、ジェシーが尋ねてきた。
「何か問題でも?」
「ああ、いや、たまにこうなるんだ。気にしないでくれ」
留め金は普通のものだったので、俺は箱を開けた。中には、専用の窪みに武器が収められていた。見た目は未来的で、こんなのそうそう使わせてもらえるとは思えない。触れてみると、予想通りのメッセージが表示された。
「フレムテック派閥の武器を使用するにはデータ不足」
でも触ることはできる。触った感じは金属製じゃない、プラスチックか何か別の素材かもしれない。ライフルの銃身の下には青く光るタンク状のものがあって、触れると冷たさを感じた。テクガンの連中と同じ原理なら、ここにクリスタリットが入ってるかもしれない。
二つ目の箱の中身も同じだった。なかなかの戦利品だ。あとはそこから女の子でも引っ張ってこられりゃ完璧だったんだが、はは。
「それで、ニコ、使えそう?」セフィーナが不安げに尋ねてきた。俺がライフルを眺めているのを見ながら。
「まあ、今すぐってわけにはいかないな。でも、このままでも役に立つんじゃないかと思ってる」
建設完了までまだずいぶん時間がかかる。最初の拠点に比べて、やけに長い。もしかしたら建物自体がもっと頑丈になるのかもしれないが、わからない。
戦利品を拠点の奥に運び込んでから、ライフルを二丁持って、俺たちは引き返した。
入り口で、俺はメッセージを受け取った。
「アルヴァー派閥への強制イニシエーション――習得完了」
「派閥への強制イニシエーションが可能になりました。加入用チップがアップデートされ、接続時間――1分」
女たちを休ませてから、俺は製錬所の影で暇そうにしているデフールのところへ向かった。俺を見つけると、彼は例の変な帽子をひょいと振って、水筒から一口飲んだ。
「おお、死すべき者の旦那。ちょいと走り回りすぎじゃねえか? 二人も女がいるんなら、体力維持しねえとな。じゃねえと、奴さんたち拗ねちまうぞ」
「ああ、そいつらが問題ってわけじゃないんだ。なあ、こんなの見たことあるか?」
俺はドワーフにライフルの一丁を渡した。五分ほど唇をぺちゃぺちゃさせながら考え込んだ後、デフールはようやく答えた。
「ねえな」
「おいおい、せめて大体でもわかんねえか?」
「んー、まあなんだ。バラすこたぁできるが、意味があるかねえかってのが問題だな」
「中にクリスタリットが入ってると思うんだ。取り出せるか試してみてくれないか?」
デフールは困ったように何かぶつぶつ言いながら、ひげをいじり続けた。
「ドワーフはクリスタリットをそんなによく知ってるわけじゃねえんだ。正直言うと、全然よく知らねえ」
「分かった。じゃあ今、専門家を連れてくる」
アンネリを探しに出かけた俺は、村中の人間に聞いて回った。だが最終的に、少し前にセフィーナを連れて行った丘で彼女を見つけた。
「あ、ニコ、やっほー」と少女は嬉しそうに言ったが、すぐに何かを思い出したのか唇を尖らせた。
「アンネリ、俺の太陽、最高の専門家として君の力が必要なんだ」
「うー、口が上手いこと。私、もしかしたら落ち込んでるかもしれないのに」
「お願い、今はやめてくれ。攻撃が目前なんだから、みんな協力するって約束しただろう」
「男ってみんなそう。約束を守らない言い訳ばっかり探すんだから」
はっきり約束した覚えはないんだが、まあいい。
「わかったわかった。じゃあ、俺と結婚してくれるか?」
アンネリは固まって、呆然と俺を見つめた。
「ちょっと、ロマンチックじゃないわね。どこかに連れてってくれるとか、美味しいもの食べさせてくれるとか、夕日を見せてくれるとか、私がどれだけ素敵かって言ってくれるとか……」
「じゃあ、もう行く」諦めたように言って、俺は踵を返した。
「待って待って待って、オッケーよ! そう、あなたの奥さんになるわ!」 少女が俺に飛びついて抱きついてきた。
「わかった。でも戦闘が終わってからにしてくれ、な?せっかくの祝いに水を差したくない」
彼女は少し悲しそうな顔をしたが、ほんの数秒後にはまた明るく笑顔を見せた。
「わかった、約束ね。何を手伝えばいい?」
丘を下りながら、俺は彼女に状況を説明した。デフールを手伝う必要があること、新しい拠点でクリスタリットの鉱脈を見つけなきゃいけないこと。正直なところ、誰を派遣すればいいのかわからない。今のところ、向こうに行ったら完全に一人きりになっちまう。それに、アンネリ以外に専門家がいないんだ。
デフールは気が進まない様子で彼女の話を聞き始め、同時にライフルに工具を当てがっていたので、俺はその二人から離れることにした。
だが、遠くまで行かないうちに爆発音が響いた。同じメッセージが二つ:
「アルヴァー派閥の自己犠牲(無料、1回/日・1人につき):拠点へ戻して蘇生/その場で蘇生」
その場で蘇生させて、俺は走って戻った。
「ふーむ、ここは殴らない方が良さそうだな、ああ」ドワーフは小声でぶつぶつ言いながら、ライフルの破片を拾い集めていた。
呆然とした少女が石畳の上に座り込んでいた。
「二人とも、大丈夫か?」
「ニコ!ニコ、私、死んだと思った!」
アンネリが俺に駆け寄り、胸に顔を埋めて泣き出した。呆然としていた状態から抜け出せただけでも良かった。まあ、彼女が本当に死んでいたなんてことは言わない方がいいだろう。
デフールは破片を拾い集め終えると、小さな一握りのクリスタリットを俺に差し出した。
「これだけしか取れなかったでさぁ。すまねえ、わしにゃわからんのだ」
「いや、ありがとう。みんな生きてるのが一番だ」
少し落ち着いた彼女を家に帰した後、俺はクリスタリットを倉庫に運んだ。五個――実際悪くない、箱が小銃でぎっしり詰まっていることを考えれば。まあ、誰かが特攻隊にならなきゃいけないんだろうけど。
ため息をついて、俺は強化のことを思い出し、サソリ娘のお客さんのところへ向かった。襲撃が明日なら、今のうちに彼女を味方に引き込んでおいた方がいい。後で人手不足を嘆くよりはね。
でもその前に、ウルフたちを捕まえて尋問の結果を聞いた。
ブレンは悲しげに肩をすくめ、俺が知ったこと以上のことは何も聞き出せなかったと話した。彼女が「インセクトイド」であること以外は。残念だけど、仕方ない。
部屋に入ると、捕虜は以前と変わらぬ様子だった。俺に気づくと、獰猛な笑みを浮かべた。
「ハハ、また来たのか、弱虫?」
「ああ。ちょっと聞きたいことがあってな」
「それで?」
「俺たちの仲間にならないか?」
娘は腹を抱えて笑い出し、しばらく止まらなかった。ようやく笑い終えると、こう答えた。
「なんで弱虫どもの一団に入らなきゃいけないのよ?死んだ方がマシね」
ああ、脅しの手は通用しないか。
「じゃあ、箱に入ってたガキどもはどうなんだ?あいつらのこともどうでもいいのか?」
ケルは悲しげな表情を浮かべ、憎々しげに鼻を鳴らした。
「今はもうね」
「今は?何が変わったんだ?」
女は俺に向かって唾を吐いたが、幸いなことに酸とかじゃなかった。
「あんたは私の婚約者を殺した!もう私には、あんたとその仲間どもに復讐する以外の人生なんてないのよ」
「ちょっと整理させてくれないか?」
女は驚いたようで、少し怒りを抑えた。
「何よ」
「そいつがお前の婚約者だったのは、村一番のイケメンだからとか、そういう理由か?男らしくて、その他もろもろ?」
「そうよ!」
「でも、もし俺がそいつを殺したってことは、つまり俺の方がもっと男らしくて、もっと魅力的な婚約者候補ってことにならないか?」
ケルが歯を剥き出した。
「卑怯な手で殺しといて、それはノーカウントよ」
「じゃあこうしよう。俺がお前を解放して、一対一で戦うってのは? 正々堂々とな。お前、旦那に釣り合うくらいの戦士だったんだろう?」
興味を引かれたのか、少女は俺をじっと見つめてきた。
「どうしてそんな明らかに負け筋の提案するわけ、弱虫クン?」
「お前を味方に引き入れたいんだ。もし俺が勝ったら、俺の嫁になってくれ。そういう追加条件だ。お前も子作りに専念できていいだろうし、俺も強力な仲間が手に入る」
ケルは横を向いて唇を舐めた。どうするか考えているらしい。それから薄く笑って、目を細めて俺を見た。
「じゃあこうしましょうか、弱虫クン。そこまで条件出すなら、うちの派閥のルールで嫁争奪戦やりなさい。今回の決着にもぴったりだわ。あたしは全力で戦う。あんたが本当に一流の男なら、あたしを無力化して犯せるはずよね」
ああ、良い司会者だし、出し物も面白そうだ。やってみるか、へへ。
「分かった。アルヴァーの習わしに従って、俺たちの契約を結ぼう」
俺は少女に近づき、チップで彼女の素肌に触れた。
「分析中……派閥アルヴァーへの強制イニシエーションが可能。実行しますか? はい/いいえ」
一分ほど待つと、メッセージが届いた。
「市民ステータス:+1(36)」
◇◇◇
「現在の残存寿命――26+(36)」
「倉庫№1。状態:
木材――525単位――採取中、収支+200(10単位/時×2);
石材――850単位――採取中、収支+200(20単位/時);
道具――770単位
鉄――90単位――採掘中、収支+100(10単位/時);
鋼――40単位。
高品質鋼――75単位。
クリスタリット――36単位――採掘中、収支+5(0.5単位/時)。
金――150。
アルヴァー派閥とのシナジー(100/100)。
テクガン派閥とのシナジー(35/100)。
死すべき者の現在の兵科モデル:剣と盾の達人、マスター・シューター、突撃兵。
現在の建設:集落本部、死すべき者の地下壕。
軍隊:
ランク2:12体。シールダー、ロングボウ射手×3、戦士×2、闘士×5、セフィーナ。
ランク1:0体。
ランク0:2体。ジェシー、スナイパー、インセクトイド。
訓練中:0。
待機中:0」




