第十四章 可能性の拡張
今、どうしても気になることがあった。派閥が手を組んだのは今回が初めてなのか? 死すべき者は今まで一度も生き延びたことがないと言われているが、ロートクを使って最大のシナジーを得た者は他にいなかったのか? そもそも、そんなシナジーの存在を誰か知っているのか?
疑問が多すぎる。大事なことは実際に試してみるのが一番だ。それだけだ。
「よし、ジェシー、これでお前も俺たちの仲間だ」
彼女は不安そうにチップを刺された場所を撫でた。
「本当?でも……何も変わった感じがしないわ」
「ああ、肉体的には何も変わらないと思う。肝心なのは、もしお前が死んだら、俺が蘇らせられるってことだ」
それまで平静を装おうとしていた彼女の目が、明らかに見開かれた。
「そんなことまでできるのか?」
「ああ。それに、視界の外にいても、いつでもお前を殺せるんだ」
これが前からあった機能なのか、それとも百パーセントになってから追加されたのかは知らないが、市民のステータスの最後にこんなボタンがあるんだ……
「ああ、分かったわ。信じられないけど……まあ、数日前のあの地獄みたいな状況だって、誰かに聞かされただけなら信じなかったでしょうね」
さて、そろそろ俺が知りたいことを聞く番だな。
「教えてくれ、お前たちは俺たちの武器を使えるのか?」
「えっと、剣とか弓とか、そういうの? 悪いけど、ははっ、考えたこともなかったわ」
俺は射撃用リングのエンブレムを回した。少女は、俺が突然フル装備になったのを見て、息を呑んだ。
「あ、ああ、ごめん、何か変なこと言っちゃったかな……」
俺は固まったが、すぐに状況を理解して笑い出した。
「気にすんな。ほら、持ってけ」そう言って俺は彼女に弓を手渡した。
武器は彼女の手からそのまま滑り落ちた。
「変ね、重すぎるみたい。あんたたちは一体どうやってこれで撃ってるの?」
どうやら派閥への移籍は役に立たなかったらしい。俺は弓を拾い上げ、指輪を外した。もしかして……
「お前、派閥とのシナジーレベルはどのくらいなんだ?」
ジェシーは考え込むように後頭部を掻き、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「悪い、そんなの初耳だ」
「ふむ、じゃあこう聞こう。お前の派閥では全員が自分たちの武器を使いこなせるのか?」
「ああ、そうだな。というか、訓練は全員が受けるんだが、何かを上手く扱えるようになるには専門の適性が必要なんだ。俺の場合は近距離から中距離。アサルトライフル、ハンドガン、ショットガン、サブマシンガンってところだ」
「ロケットランチャーは? 迫撃砲は? 装甲兵員輸送車の運転は?」
「おいおい、待てよ。お前、やけに詳しいじゃないか。まあ、できなくもないが、あんまり得意じゃない」
一番知りたかったことは分かったが、別の考えが俺を苛んでいた。もしこの世界を作った連中にとって血の繋がりがそんなに重要なら、子供ができたり結婚したりでシナジーが上がったんだから、俺も同じ方法でテクガンのシナジーを手に入れられるかもしれない。結婚した翌日にこんなことを考えてるなんて、俺はとんだクズ野郎だな。だが……ここは古臭い道徳が通用する場所じゃないんだ。
「なあ、ジェシー、お前たちのところじゃ結婚式ってどうやるんだ?」
「死すべき者、あなたって本当に変わってるわね。どういう思考回路してるのか全然読めないわ」少女は首を振った。「でも簡単よ。将校が誰でもいいから二人を夫婦だって宣言すれば、それで終わり」
「指輪とか、その辺はどうなの?」
「え、指輪? 何で?」
「いや、この辺の習慣に合わせようかと思って。つまり、そんな簡単なもんなのか?」
「そうだよ。ややこしくする必要ある? でも、何で急にそんな話?」赤毛の女が疑わしげに目を細めた。
俺は気持ちを固めて言った。
「ジェシー、俺と結婚してくれ」
彼女は呆然とベッドの端に腰を下ろした。
「ねえ、何かおかしくない? あんた、エキゾチック趣味ってやつ? 別の派閥の女が欲しいわけ? まあ、それなら結婚する必要ないけど。わかんないんだけど!」
ジェシーはすっかり途方に暮れた様子だった。これで落ち着くかどうかは分からないが、試してみるか。
「実はもう結婚してるんだ。だから二人目を選ぶのに時間をかける意味はない。数日後には全部終わるかもしれないし、人生楽しまなきゃ損だろ?」
彼女は苦々しく微笑んだ。
「そう、二番目ってわけね」そう言うだけ言って、彼女は黙り込んだ。
「俺は形だけの結婚で十分なんだ」
「形だけの結婚?」
ああ、この言葉も知らないのか。まあ確かに、ここじゃ誰もそんなこと思いつかないだろうな。
「ただ夫婦になるだけさ。お前に何も求めない。今まで通り生きてくれ」
「じゃあ、そんなの結婚って言えるのか?」少女が静かに言った。どうやら俺はまずい話題を持ち出してしまったらしい。これは彼女にとって、俺が最初に思っていたよりもずっと重要なことだったんだ。
頭の中には役に立たない理屈しか残っていなかった。
「でもテクガンでは、お前は俺の正妻になるんだぞ」。くそ、自分でも馬鹿げてるってわかってる。でも、次の理屈よりはマシだ。
「私たちはそこにいるわけじゃないでしょ。なんでそんな計算するの?」ジェシーが苦笑いした。
「わかった。じゃあ、俺と結婚しないなら、お前を殺す。それが望みか?」
少女は挑戦的な目で俺を見つめた。俺たちはそうやって数分間、視線を交わし合った。
「いいわよ、殺しなさい」ジェシーが静かに言って、顔を背けた。
「お前が死を恐れていないなら、他のみんなと一緒に屠殺場に行っていただろう。でも今ここにいるってことは、お前が今持っている命を大切に思っているってことだ。お前にとって何より大事なのが安全だったってことは言うまでもない」
赤毛の娘は唇を噛み締め、俺に短い視線を投げてから、きっぱりと言った。
「いいわ」
最後の理屈が効いたのかどうかは知らないが、とにかく同意は得られた。まあいいだろう。生き延びられたら、後で怒ってる連中全員に謝ればいい。
「お前の友達、儀式を執り行えるのか?」
「エンディス? ええ、できるわ」
俺は娘の手を取り、警護たちの驚いた視線を浴びながら、彼女と一緒に隣の部屋へ入った。
エルフの娘がベッドから飛び上がり、怯えた様子で最初は俺を、次に友人を見た。
「ジェシー? もう、なの?」エンディスは追い詰められたように囁き、目を固く閉じた。
なんでそんなにビビってんだ。
「ガタガタ震えてんじゃねえ! エンディス、くそったれ、しっかりしろ!」ジェシーが怒鳴った。俺まで思わずビクッとなった。
エルフの娘は恐る恐る片目を開け、それから両目を開けた。
「じゃあ、何しに来たんですか?」
「俺たちを結婚させてくれ」
静寂が訪れた。娘の顎が外れて床に派手に叩きつけられる音が聞こえそうなほどだった。
「け、結婚……ですか? あなたたちを? 死すべき者と?」
「ああ」
「ジェシー、あいつらはあんたに何をしたんだ?どうしてこんなことができるの!」
ちくしょう、せっかくの雰囲気が台無しだ。
「なあ、エンディス。答えてくれよ、ここにいる間、誰かがお前に酷い扱いをしたのか?それとも、俺たちがお前の罪の重さを理解できないから、適切な処刑方法を決めあぐねてるとでも思ってるのか?理由は何なんだ?」と俺は堪えきれずに言った。
エルフの娘は固まり、その後黙って壁に視線を落としたまま、何も言わなかった。
「それで、儀式はやらないつもり?」とジェシーがせっかちに言った。
「あんたが頼むから、やるわよ……ちゃんと分かってやってるんでしょうね」
諦めたようにため息をついて、エルフの娘はベッドから立ち上がり、近づいてきた。友人の手を取り、緑色の瞳で俺を警戒しながら見つめ、俺の手も掴むと、娘は始めた。
「ジェシー・ストーン、あなたは、ええと……」
「ニコ」
「ジェシー・ストーン、ニコと結婚することに同意しますか?」
「同意します」
「ニコ、ジェシー・ストーンを妻として迎えることに同意しますか?」
「同意します」
「お二人を夫婦として宣言します。キスをどうぞ」
「ステータス更新中……完了」
「新たな配偶者が登録されました:ジェシー、テクガン派閥。
死すべき者の心臓のユニークな強化が習得可能:
エラー。適切な強化が存在しません。
テクガン派閥の妻スロット使用中:1/3。
テクガン派閥とのシナジー+15%(15/100)。
テクガン派閥の武器と装備が使用可能。
ジェシー、新たなランクなし兵科モデルが利用可能:(???)『突撃兵』系統でランク2を取得する必要があります」
二人の娘は途方に暮れた様子だった。
「キスもしないんですか?」とエルフの娘が驚いたように尋ねた。
「嫌なら無理強いはしない、さっきも言った通りだ」少し不器用な言い方になってしまったが、ジェシーは軽く頷いただけだった。話は済んだと判断して、俺は続けた。「ジェシー、これからは拠点内を自由に歩いていい。それと、友達に派閥への加入について話してくれ。頼んだぞ」
部屋を出ると、俺は警備兵たちにジェシーが今や俺たちの派閥の一員だから自由に移動させるよう伝えた。ただし、一応見張りはつけておくようにとも。
結婚のことは言いふらさなかった。
家を出て、俺は訓練所に立ち寄り、武器庫へ向かった。手近なピストルを取って、制限メッセージが出ないことを確認する。次にアサルトライフルを手に取り、射手の兵舎まで歩いて行くと、狙いを定めて的に短い連射を放った。
音に驚いて周りの兵士たちが駆け寄ってきて、俺の手にある武器を驚いた顔で見つめた。
「死すべき者が!まさか……」
「すげえ!」
「そうだ、これで風向きが変わった。それと、赤毛の捕虜、ジェシーは今日からお前の指揮下に入る、フェブリモール。面倒を見てやってくれ」
エルフは感嘆の表情で頷いたが、はっと我に返って真面目な顔になり、嬉しそうに言った。「了解しました」
「だがその前に、お前はフェブリモール、俺と一緒に来い。イヴェットは俺たちが留守の間、指揮を頼む」
「了解しました、承知しました!」赤毛の弓使いが元気よく答えた。
装備を漁って、一丁しかない火炎放射器を取り出した。背負い袋を背負い、予備マガジンをいくつか付けた自動小銃を持って、俺はフェブリモールに出発を命じた。
二人で、そう遠くない前にデートで歩いたのとほぼ同じルートを進んだ。もうすぐだと見当をつけて、俺は指輪を起動して鎧を装着した。まあ、装備を全部つけた今は歩くのがかなりきつかったが。でも、だからこそエルフを連れてきたんだ。
ちなみに彼は黙っていた。だが、何かを思い出したように咳払いをして尋ねてきた。
「死すべき者よ、発言の許可をいただけますか?」
「自由に話せ」
「増員、おめでとうございます!」
「おお、もうそんなことまで喋ってんのか」
「ええ、もちろんです。ブレンとフロルガに話すよう命じましたから」
「お前、噂好きだな、フェブリモール」
エルフは困ったような顔をしていた。
「ただ、あなた方が来る前はとても退屈だったものですから」
「ああ、それなら納得だ。十分楽しませてるといいんだが」
エルフは慌てて手を振った。
「いや、そういう意味じゃないんだ。ただ、あの頃は毎日希望のない日々だった、とでも言うべきかな。だから、誰も何も目指そうとしなかった。でもあなたが希望をくれた。本当にありがとう」
「はは、どういたしまして。ところで、人口増加の話が出たついでに聞きたいんだが、子供ってこんなに早く生まれるのに、なんでみんな村を大きくするために、その、励まないんだ?」
フェブリモールは少し困った顔をした。まあ、彼自身まだ独身で子供もいないわけだし。
「実は簡単な話なんだ。子供ができるのは月に一回だけ、しかもブレンやフロルガみたいなベテランがいるから運がいい方なんだ。それに死亡率もかなり高い。あと、理由は分からないが、婚姻関係にない男女からは子供が生まれないんだ」
へえ、そうなのか。なるほど、血縁関係と家族を何より重視するシステムってわけだ。まあ、地球にもこういうシステムがあればよかったのかもな。避妊薬メーカーは大損するだろうけど、知ったこっちゃない。
「じゃあなんで結婚しないんだ? 誰も気になる相手がいないのか?」
「難しいな。以前はリスクが高くて重大な決断に思えたし、今はまだ慣れてないんだと思う」
「なるほどな。まあお前が旗振り役やれよ。自分も模範を示さないとな」
「手本になる? ハッ、よし、頑張ってみるよ」エルフは陽気に答えた後、小声でこう付け加えた。「ふむ、死すべき者の娘と結婚か。それは大したものだな」
「何か言ったか?」
「あ、いや、候補者について考えてただけさ」
「ああ、後でな。もうすぐ着く」
近くに見覚えのある繭が見えた。それに気づいたフェブリモールは盾を構えて先へ進んだ。
俺たちは一歩一歩慎重に進んでいた。その時、突然シューッという音が聞こえた。俺は素早く辺りを見回し、細く、ほとんど見えない蜘蛛の糸に引っかかったことに気づいた。
「急げ急げ!」
フェブリモールは繭に向かって駆け出し、俺もその後を追った。繭の上部が裂け始めたが、俺はもう近くにいて炎を放った。蜘蛛の糸はすぐに燃え上がり、熱せられて中の子蜘蛛の群れを焼き始めた。小さな生き物たちは気持ち悪い破裂音を立てて弾け、おぞましい悲鳴を上げた。
繭が片付いたことを確認してから、俺たちは木々に燃え移りかけていた火を消し止めた。
広場を調べてみると、蜘蛛の糸の痕跡を発見した。慎重にその跡を辿っていくと、大きな空き地に出た。そこにはさらに三つの繭があり、しかも前のやつより大きかった。
◇◇◇
「現在の残存寿命――26+(33)」
「倉庫1号。状態:
木材――275単位――採取中、収支+200(10単位/時×2);
石材――450単位――採取中、収支+200(20単位/時);
道具――750単位
鉄――110単位――採取中、収支+100(10単位/時);
鋼――110単位。
高品質鋼――95単位。
クリスタリット――272単位――採掘中、収支+5(0.5個/時)。
金――325。
アルヴァー派閥とのシナジー(100/100)。
テクガン派閥とのシナジー(15/100)。
死すべき者の現在の兵科モデル:剣と盾の達人、マスター・シューター。
現在の建設:なし。
軍隊:
ランク2:10体。シールダー、ロングボウ射手、射手×2、闘士×6。
ランク1:0体。
ランク0:0体。
訓練中:1。
待機中:0」




