第百三十二章 王の昼食とラズへの手助け
甘美な幻惑が少し薄れたので、俺は頭を振って歩調を少し緩め、再びセフィーナと連絡を取った。
「何か分かったか?」
彼女はすぐに答えた。
「イザベラが言うには、全部静かだって、にゃ。でも……それが逆に気になるみたい」
まあ当然だろう。これまで何度もフレムテックが損害を度外視して攻撃を仕掛けてきたのなら、こんな急な「休戦」は色々と勘ぐらせる。そして残念ながら、俺が連中をボコボコにしたから戦力を立て直してるんだと思いたいところだが、理由はそれじゃないだろう。それに、いつかはリストが更新されるはずだ。一体どれだけのメックが破壊されたんだ? どうやら最低でもランク3、下手したらそれ以上で製造されているらしい。
「分かった。他には?」
「ニコ、にゃ! 何だと思ってるのよ、何かあったらすぐ連絡するわよ!」猫娘の不満げな声が聞こえてきた。
「わかった、わかったよ。ただ心配なんだ」
セフィーナは態度を和らげ、今度はもっと優しい口調で言った。
「うん、いいわ。連絡するから、そっちの用事をさっさと済ませなさい」
別れを告げて、俺は急いで他の連中の後を追った。とはいえ、急ぐ必要はなかったんだが。その高い塔には階段もエレベーターも、そういった類のものが一切なかったんだ。レギとグリシは慣れた動作で翼を広げ、上へと飛んでいった。一方、ラズは唇を噛みしめ、悲しそうに床を見つめていた。
急いで娘のところへ行き、俺はラズの肩を抱いた。
「ニコ? あ、グリシ、待って」動揺したレギが慌てて戻ってきて、ラズの隣に軽やかに着地した。「ニコ、何やってんのよ、娘に飛行を授けてないの? どうして……」
目を伏せたレギもラズを抱きしめ、ついでにまた俺に触れた。ラズは顔を上げ、女王を問いかけるような目で見つめた。
微笑んで、レギは俺とラズの手を取り、出口へと急いだ。
見知らぬ建物に駆け込んで、俺はラズに飛行能力がない理由を理解した。単純に、まだそこまで進化していなかったんだ。
ここには普通の変換装置に似た部屋があったが、壁が石ではなくキチン質でできている点が違っていた。
「さあさあ、入って。怖がらなくていいから」レギが優しく囁き、ラズの角をそっと撫でながら、少女がニッチの中に入るのを待った。
「黄昏のドラコニド、進化強化――飛行」レギが厳格な口調で告げた。
「50ムタゲン」キルハイヴの声がカチカチと鳴った。
「もちろんよ」
光が消えると、ラズが出てきた。だが、見た目には何も変わっていない。幸い、困惑していたのは俺だけだったらしい――嬉しそうに微笑んだラズがエネルギーの翼を広げ、かなり暗い室内を紫色の光で明るく照らした。数回羽ばたくと、彼女はもう天井近くにいて、急旋回しながら歓声を上げて俺たちとレギに突っ込んできて、床に倒れ込んだ。
笑いながら、俺たちは全員で床に転がっていた。そしてほんの一瞬、俺はケルが何を考えていたのか理解した。こんな珍しい子供ができた喜びはあっても、彼女は本物のドラコニドには母親として敵わないと分かっていたんだ。もっとも、今のところの功績は単に基地を建設したことだけだが、レギはラズが何を感じているかをちゃんと理解していたんだと思う。
立ち上がると、俺は尋ねてみることにした。
「レギ、お前『黄昏の腺』って変異知ってるか?」
膜状の冠を直しながら、少女は考え込むように翼をゆらゆらと揺らしていた。
「まあ正直なところ――ラズみたいなのは本当に珍しいから、大まかなことしか知らないんだ。それって取得できるの? 試してみようよ!」
無関心を装おうとしているラズは、浮かんだ笑みを堪えながら、落ち着いた足取りで変換装置の中へ入っていった。扉が閉まる間際、俺は唇だけで動く「ありがとう」という言葉を目にした。
どうやら精神伝達は使わなかったらしい。集中力を失って周囲全員に感情がバレるのを恐れたんだろう。俺自身も、時折現れる背景ノイズを遮断するのに苦労していた。
変異が完了すると、システム音声が告げた。
「ラズ、新たなノーランク変異2が利用可能:Cエネルギー触媒。75ムタゲン」
明らかに驚いた様子で、レギは首を横に振ったが、それでも確認してくれた。
神経質に尻尾を揺らしながら、レギは俺と同じように完了を待ち焦がれていた。
「変換完了。新たな進化強化が開放されました。ラズ――黄昏の女帝、ムタゲン150、金原石200、バイオメタル100」
一秒たりとも迷わず、レギは確認した。
「なあ、俺が払うよ」と言いかけた。なんだか申し訳ない気分になってきた。客として来たんだよな? それなのにこんなに資源を使い込んでしまって。レギは俺の言葉を手で遮り、隙間から差し込む白い光の筋を緊張した面持ちで見つめていた。
「変換完了。最大ランクなし変異」
変換装置から出てきたラズは、呆然とした様子で俺たちを見つめ、ふらついて座り込んだ。彼女のもとに駆け寄って、俺も隣に座った。
「どうした? 何かあったのか?」
力なく首を巡らせ、娘は微笑んで言った。
「あ、ううん、大丈夫。心配しないで、パパ」
「試してみる?」レギが慎重に尋ねた。隣に立ったものの、座る勇気が出なかったようだ。
額に皺を寄せ、少女はしばらく考えてから頷いた。
娘の手を取って立ち上がるのを手伝い、レギが俺たちを訓練所へ案内した。すぐにルスが駆けつけてきて、女王の話を聞いてから、とても甲高い声で何かを鳴らした。一分後、いや、もっと早かったかもしれない。地面の下から大型犬ほどの大きな甲虫が数匹這い出してきた。
虫たちは元気よく訓練場へ這っていき、ラズがその後を追った。肩幅に足を開いて立ち、ラズは甲虫たちが訓練所の反対側に配置される間、焦れったそうに尻尾を揺らしていた。
「いいわよ!」明らかに興味津々のグリシが叫び、甲虫たちが突進してきた。
ラズの体に生まれた時から刻まれた独特の紋様が、内側から鮮やかな紫の光を放ち始めた。角の紋様も同様に輝き、その間に途切れることのない紫のエネルギーの流れが生まれた。翼を広げ、ラズは少し宙に浮かび上がり、甲虫たちが近づいてきた時、爪先に巨大な炎の塊を集めると、両手を叩き合わせた。
少女の前を紫の波が通り過ぎ、虫たちは……ただ消えた。いたのに、もういない。死骸も灰も、何の痕跡も残っていなかった。
「え……全部こんな感じなのか?」俺は動揺して尻尾を揺らしながら尋ねた。畜生。
ラズの体の紋様が消え、着地した彼女は嬉しそうに笑いながら俺たちの方へ歩いてきた。
「ううん、今回は力の差がすごく大きかったの」
娘を抱きしめて、俺は彼女の頭を撫でた。
「それでもめちゃくちゃすごいぞ!」
レギとグリシは同意するように頷き、ルスは嬉しそうに前脚を打ち鳴らした。
「じゃあ今度こそ行くわよね?」レギが尋ね、俺たちは全員で再び塔へと向かった。
「別に俺がそこまで好奇心旺盛ってわけじゃないんだけどさ、一応聞いとくけど、他のみんなはどこ? それとも元々人口が少ないのか?」
「んー、ここに大勢でひしめき合うの、好きじゃないのよ」女王は微笑んで答えた。「それに、テレポートで簡単に移動できるんだから、全員を一つの拠点に集めておく意味なんてないでしょう?」
「単にドラコニドの数が少ないってだけよ」グリシが俺に囁いた。「インセクトイドの方は今、エクスマッハの残党を食い尽くしてる最中なの」
「それって文字通りの意味で、それとも……」確認しようとしたんだが、ドラコニド娘の顔に浮かんだ嫌悪の表情を見て、本当に食べてるんだと理解した。
塔の内部を飛び上がって、俺たちは無事に中間あたりまで到達し、そこでレギが開けたフロアに急降下した。そもそも、空っぽの中央垂直「トンネル」を除けば、ほとんどのフロアは壁で仕切られていて、広いアーチ型の開口部があった。おそらく翼が引っかからないようにだろう。
だが、部屋や広間の一部には壁が全くなく、俺たちが着地したのもそんなフロアの一つだった。
部屋は意外と小さかったが、外に面した正体不明の透明素材でできた巨大な「窓」が、周囲の景色を見渡す素晴らしい眺めを提供していた。窓際には木製の長テーブルが置かれ、肉厚の蕾と太い茎を持つ珍しい花々で飾られていた。椅子は四脚、各辺に一つずつ。とはいえ、四人で使うにはテーブルがやけにでかい気もするが。
どこからか生き物が這い出してきた。外見はハイブのワーカーに似ているものの、見たところもっと小型だった。木製の皿を蓋付きで運んできた「召使い」たちは、小さな扉の向こうへと急いで姿を消した。おそらく塔の別セクションへ続いているんだろう。
テーブルの真ん中で何かが動いた。俺が無邪気にも花か飾りだと思っていたものが、うごめいた。太い茎が膨らみ、蕾が何かの液体で満たされて花弁を開き、続いてさらに三つの蕾が同じように開いた。
座るよう身振りで促すと、レギは「グラス」の一つを手に取って席に着いた。
器の蓋を開けると、俺の心配をよそに、中には食欲をそそる肉料理が入っていた。確かに、この世界の肉は独特かもしれないが、美味けりゃどうだっていいだろう。一口食べてみると、香辛料の香りに彩られた繊細で奥深い味わいに驚いた。ドラコニドの娘たちは興味津々で俺を見つめ、明らかに満足そうだった。ラズなんかノンストップで肉を頬張っている。
「ちなみにこれ、レギが作ったんだけどね」グリシが素っ気ない様子で言うと、女王は恥ずかしさと懇願に満ちた視線を向けてきた。
「なんでそんなこと……」
「女王が自分の仕事放り出して、旦那に飯作ってやってるんだぞ。可愛いじゃないか」グリシが肩をすくめ、だるそうに肉を噛んだ。「さっさと乾杯しようぜ。ソウルメイトっぽくないぞ、お前ら」
レギの恥じらいが俺にも伝染して、今や俺たちは初デートみたいに座っていた。
ラズが同意するように頷き、蕾を持ち上げて言った。
「未来の子どもたちのために!」
レギは私の娘からそんな言葉を聞くとは思わず、危うく花弁を取り落としそうになったが、何とか持ち直して急いで飲み干した。
俺には甘すぎるが、喉を焼くような酸味の後味が残る飲み物だった。十数秒後、胃の中で炎が燃え上がるような感覚が襲ってきて、この酒がどれほど強いか理解した。幸い、その感覚はすぐに消えた。
「ふう。これは……」とラズが息を呑んだ。彼女も不快な驚きを感じたようだ。
「強すぎた? うーん、『老いたる竜』に切り替えるわ」レギが慌てて言うと、花が変化し始め、別の形の花弁を形成した。
「まさか旦那を酔い潰す気じゃないでしょうね」グリシが咳払いしながら、爪で髪をかき上げて言った。「そんなにベッドに連れ込みたいなら、はっきり言えばいいのよ。私とラズは散歩に行くから」
またあの恥ずかしさの波が押し寄せてきた。
「番についてなんだけど」俺は何とか話題を少し変えようとした。「ラズの相手探しを加速させたり、手助けしたりする方法ってあるのか?」
「もしできれば……」とグリシが言いかけたが、レギの視線を受けて黙り込み、「一人でここに座ってるなんてごめんだわ」とぼそぼそ呟いた。
「試してみることはいつでもできるわ。この愚痴屋は気にしないで」とレギは食事を脇に置きながら急いで言った。「でも、いつでも落胆する覚悟は必要よ。メンタル繋がりでさえこの大陸より先には届かないんだから、ソウルメイトを探すもっと繊細な感覚なんて言わずもがなでしょ……要するに、運良くあなたの相手がドラコニドなら、私のセンサータワーのおかげで分かるかもしれない。そうじゃなければ、たぶん派閥を渡り歩くことになるわね」
グリシは花のつぼみを摘み取り、乾杯もせずに飲み干して言った。
「そんな助けがあっても誰もいないかもしれないわ。待ってれば、いつかは見つかるわよ」
「大陸の話をしたけど、ってことは相手が別の大陸にいる可能性もあるってこと?」
腕の鱗を物思わしげに撫でながら、レギは答えた。
「そういう観点では考えてなかったわね……でも、十分あり得る。問題はポータルよ、めったに開かないんだから」
「よし、とりあえず今あるもので試してみよう。それから、どこを探すか決めればいい」ラズの作り笑いがどんどん悲しげになっていくのを見て、俺はそう締めくくることにした。
実は本当にそうなんだ。街に遊びに行こうって誘われたのに、自分だけ彼女がいない状況になったみたいな感じ。あんまり楽しい仲間じゃないよな。
俺の気分が変わったのを感じ取って、レギが訊いてきた。
「ニコ、話してよ。いなかった間、何かしてたんでしょ?」
フレムテックについての俺の疑念を詳しく話して、準備のことも少し語った。
「へえ、あなたって色んな派閥を回ってるのね……きっとすごく面白いわ! それとあの野郎どもに関しては、早めにあなたの拠点を作った方がいいと思うわ、ニコ。そこにテレポートを設置すれば、いざという時助けられるもの」とレギがゆっくり肉を噛みながら考え込んでいた。
「実は、ロートク持ってこなかったんだ」と俺は申し訳なさそうに言った。路上の貧乏な若造を金持ちのお嬢様が気に入ったみたいな気分になってしまった。しかも杖もまだあったというのに。
グリシは目を回し、レギは可愛らしく微笑んだ。
「まあ、いいわよ。とりあえずあなたに住居を建ててあげるから、それからまた考えましょ」
黙って少し座っていたが、また酒を飲むことにした。今度は協力関係を祝って。プライベートな話題は避けるためにもな。
似たような味だが、さっきほど強くない酒だった。ラズは杯を空にすると、満足げに頷いて肉のおかわりを頼んだ。
「試練についてどう思う?」会話を続けるために俺は質問を投げた。
「んー、何を考えるって言うの? 呼ばれたら行くだけでしょ、ねえレギ?」グリシは微笑みながらそう言うと、突然隣に立てかけてあった剣の柄を掴んだ。
「ああ、もちろん」女王は機械的に答えたが、何か別のことを考えているようだった。じっと俺を見つめたレギは、何も言わなかった。
「ねえ、少し滞在していくんでしょ?」少し気が散って精神的な残響がより鮮明に聞こえるようになった時、レギの声が頭の中に響いた。
「ああ、でも長くはいない」
「試練の後、戻ってきてくれる?」短い沈黙の後、レギは素早く尋ねると顔を背けた。
彼女に今日のうちに帰るつもりだったなんて言えないよな、でも……そもそも今何時だ? 昼の一時前後だと思うけど……暖かいのに空は雲に覆われているから、よくわからない。後で別のモデルで確認するか。
「今のところわからない。もう脅威がなくて、俺たちの拠点間のポータルが安定してるなら――まあ、いいんじゃないか」
心臓が愛する人の告白を聞いた時みたいに跳ねて、レギはそれ以上何も言わなくなった。
残りの食事を片付けた後、俺たちは下へ向かった。まずレギから建設権を取得し、アパートメントを発注してから、俺たちの拠点にあるものより高性能なセンサータワーの方へと向かった。
その周りに集まって、俺たちは待ち始めた。ラズが慎重に近づいて、嫌々ながら表面に触れた。明らかに結果を知るのが怖いようだった。
一分、二分、五分が過ぎて、レギがゆっくりと俺の娘に近づき、後ろから抱きしめた。
「大丈夫よ。見つかるから」
ラズは頷いたが、それで気が楽になったわけではなかった。
グリシも落ち込んだようだった。咳払いをすると、彼女はラズに近づいてその手を掴んだ。
「いいわ、あたしと一緒に飲みに行きましょ。男どもなんてくそくらえよ!」
返事も待たずに、グリシは塔の方へ走り出し、ラズを引っ張っていった。
二人の姿が見えなくなると、レギが近づいてきて、俺の手を取り、優しく引き寄せた。飛び上がった俺たちは、どんどん高く上昇し、塔の最上部――あの広がった部分――まで辿り着いた。中に入ると、豪華な調度品が並び、たくさんのクッションが敷き詰められた巨大なベッドのある部屋が目に入った。キルハイヴ特有の素材――虫の遺骸を思わせることが多い――が使われているにもかかわらず、装飾が施された家具の上に置かれた数々の小物や、床でふわふわと揺れている苔は、とても独特で素晴らしかった。
レギが何か指示を出すと、窓が分厚い膜で閉ざされ、天井の下の生物発光だけが残った。
訪れた静寂の中、キルハイヴの女性が服を脱ぐときの独特の擦れる音が聞こえてきた。




