第百二十六章 友が突然
普通の問題に加えて、このくだらないことまで対処しなきゃならない。
フェブリモールがこんなおしゃべり野郎でよかったと感謝しつつ、女王の家へ向かった。一階の部屋をざっと回ったが誰もいなかったので、二階へ上がった。
部屋の一つで容疑者を発見。恐れる様子など微塵もなく、ただ疑問を示すように片眉を上げているだけだ。
「お前、ランク5の連中がもう出発したことを言い忘れてたよな」
「本当に? うーん、何か勘違いしちゃったのかも」シアディンはバカなふりをして口を開いた。
「かもな。それでも、俺が無理やり吐かせる前に話してくれよ」
にやりと笑うと、彼女は足を組み直し、無邪気にまつげをぱちぱちさせながら俺を見つめた。
「ニコ、あんたは優しいのに、どうしてそんなこと言うの? ただ、私たちの家族が親しくなればいいなって思っただけよ」
「そうだな……悪かった。どうやら色々ありすぎたみたいだ」
疲れたようにため息をつくと、俺はベッドに近づいて端に腰を下ろした。
「ねえ、私、あなたを少しリラックスさせる方法を知ってるわよ?」女は立ち上がって俺に近づき、猫なで声で囁いた。「数が多いからって質がいいわけじゃないでしょ? まだ王族の愛撫を試したことないんじゃない?」
優しく俺の頬に手を這わせると、女は慎重に俺の膝に腰を下ろし、首に腕を回して身体を寄せてきた。
「さあ、ニコ、何が欲しいの?」
微笑むと、俺は脳寄生体を呼び出した。
目がうつろになった女を脇にどかすと、俺はインセクトイドに切り替えて幼虫にいくつかの命令をカチカチと送った。
「ええ、もちろん。話してあげるわ」シアディンは穏やかな声でそう言うと、ベッドに腰を下ろした。「何が知りたいの?」
「なんで俺たちの子供を結婚させようとしてる?」
「アネンクレトゥスは謁見に辿り着こうとしている。その後、私たちは見捨てられて権力闘争が始まる。二人の死すべき者の血を引く子供は、そういう問題を解決するのに最高の切り札になるわ」
「待て。試練を受けずに謁見に行けるってどういうことだ? そもそも、そんな情報はどこから?」
「かつて一位だったアルヴァー派閥の遺産よ。船もね。調整はほぼ終わったから、アネンクレトゥスはここ数日のうちに出発する」
まあ、この妙なイベントで誰かに先を越されても、俺はそもそも参加する気がないから別に気にならないんだが。
「謁見って何なんだ?」
「知らないわ」
「傭兵や魔法使いの支援はあるのか?」
「ない」
「お前の子供たちは計画を知っているのか? なぜ協力する?」
「一部は。逆らえば殺すと脅した」
強度が高すぎたのか、少女の鼻から血が流れ始めた。まだ質問を続けるつもりだったが、女王は意識を失って床に倒れ込んだ。
彼女をベッドに寝かせてから、俺はフェブリモールのもとへ駆けた。
「シアディンを拘束しろ。彼女の子供たちを集めて、ブレンを俺のところに」
エルフは、この命令を聞いてむしろ喜んでいるようだった。部下たちに指示を出し始めた。
なぜだか彼女は知っていることを全部話したわけじゃない気がする。もしかすると、具体的な質問をしたから、かなり正確な答えが返ってきただけなのかもしれない。全体像を知らなければ何も分からないってことか?
アンジュヘル派閥の拠点に移動すると、俺はさっさと触媒(1)と物質の祭壇を600エネルギーで注文した。加速はせず、そのままオビテリに向かい、そこでクリオシタを見つけた。
「あら、ニコ! やっほー、ハニー! やったー!」
「ああ、どうも。ちょっと脳みそをほじくる手伝いが必要なんだ」
余計な言葉もなく、エルフの娘は嬉しそうに頷いて俺について来た。
「旅はどうだった? 娘ちゃんは? 上手くいった? もしダメなら、新しいの作りましょ! 大事なのは楽しむことよ!」
「ああ、まあ問題なく終わったよ。もうすぐ戻ってくる。お前こそなんでここ、オビテリにいるんだ? 楽園の一角ですらなく」
「あら、分かんない。なんかここって落ち着くのよね。人が近くにいると、みんなの脳みそに食い込みたくなっちゃうから。それにさ、いつになったら許可してくれるの? もう彼女に頭の中掘らせてあげてよ、じゃないとあたしたち全員の脳みそが持たないわ。そうそう、それには完全に同意!」
「いや、今はそれどころじゃない。でも、約束したからな、いつか許してやる」
余計なことを聞いて火に油を注がないよう、俺はさっさと家まで戻った。シアディンにはもう見張りがついていたが、まあ、あの状態じゃ何もできないだろう。
少女を牢屋代わりの家に移し、エメラルドを取り上げて、念のため手錠をかけた。そのあとクリオシタが傍に残ると言った。意識不明の状態じゃあまり意味がない、とのことだ。
その間に、子供たちは近くの部屋に集められていた。だが近づいてみると、ブレンがかなり大きな声で――おそらくヴィクと――話しているのが見えた。ピクニックのときから随分と成長したが、他に狼の子供はいないからな。
とはいえ、細身の体つきは相変わらずで、本人が望むような剣士には明らかに向いていない。まあ、軍用モデルなら筋肉はつくだろうが、この場合は近接戦闘とは無縁だろう。顔立ちは整っていて、後ろで三つ編みにした長い髪――母親にけしかけられなくても、王女の気を引くことは十分可能かもしれない。
ふさふさの尻尾を興奮気味に揺らしながら、少年が尋ねた。
「ブレンおじさん、どういうことなんだ! ウィトナが何か悪いことしたのか?」
少年がひどく心配しているのがわかった。本当に恋に落ちたのか、それとも年上の女の子に頭をやられただけなのか?
「なあ、落ち着けって。お前の親父の命令なんだから、本人が来たら直接聞けばいいだろ。ほら、ちょうど来たぞ!」ブレンは安堵のため息をついて言うと、俺とヴィクを角まで引っ張って行き、囁き声に切り替えた。「言っとくが、こんな急な方針転換で、かなり多くの連中が動揺してるぞ」
「父上、何があったんですか?」ヴィクはきっぱりと尋ねたが、不吉な答えを聞くのが怖くて仕方ないという様子が見て取れた。
「シアディンのことははっきりした。正確には全部じゃないが、大部分はな。あの女の旦那、つまり王が何か企んでる。で、女王の方は自分の取り分を先に確保しようって腹だ。単なる権力の再分配だけじゃ済まない気がするんだが、二人の死すべき者の血を引く子供のことを聞ける相手がいないんでな」
「でも、もうそういう存在はいるんじゃないですか? 孫が……」ブレンが慎重に確認した。
「それは分かってる。だが、あの子は彼女の血縁じゃない。だから全部がややこしいんだ。子供たちのことだが、シアディンは俺の子供の誰かを捕まえられなければ殺すと脅したそうだ」少し間を置いてから俺は言った。
ヴィクの耳がしょんぼりと垂れた。
「まさか……嘘だったんですか?」適切な言葉を選びながら、息子が絞り出した。
「断言はできない。個人的な感情ってのは、かなり厄介なもんだからな。すぐに結論を出さないで、お前の叔父が全部明らかにするまで待つことを勧める。それとも、フロルガを待つか?」俺は今度はブレンに確認した。
「あ、いや、ガキどもは俺が片付ける」と、狼男は牙を剥いて言った。「特に、甥っ子に目をつけたあの娘はな」
「ただ、あんまり厳しくしないでくれよ。いいか?」ヴィクが頼むと、しばらく考えてから、ブレンは頷いて部屋に入っていった。
こちらに女の子が近づいてきて、後ろからヴィクを抱きしめた。彼がびくっと震えた途端、彼女は容赦なく後頭部を叩いた。長い真っ白な髪にほんのり灰色がかった色合い、同じ色の耳と尻尾の毛並み。ヒルダは明らかに前よりずっと女性らしくなっていて、母親から胸のサイズを受け継いだようだ。俺の気のせいかもしれないが、彼女は多くの者が憧れる王女であるラミよりもずっと魅力的に見える。
「お兄ちゃん、しょげてんじゃないわよ! 着飾っただけの小娘一人のせいで尻尾垂らして、これから先いくらでもいるっていうのに、ほら、パパを見てみなさいよ!」
「ったく、お前は相変わらずだな」ヴィクは不満そうに言いながら後頭部を擦った。「お前こそ、もうすぐ結婚するってこと忘れんなよ」
「ふん、よく言うわ。あんなの、いつの話よ、あたしたちまだちっちゃかったじゃない」
口を挟まず、それがほんの数日前の出来事だったとも言わないでおこうと決めて、俺はこのまま見守ることにした。
「嘘つき」
「この!」ヒルダが叫んで、もう一発平手打ちを食らわせようとした。
今度はヴィクが身をかわし、くるりと回って姉の背後に回り込むと、両耳をつかんだ。
「いたたた、やめてって言ったでしょ! もう、お兄ちゃん!」
「わかったわかった。それよりお前、婿探しでもしたらどうだ。王子たちが怪しいなら、他の奴にしろよ」
「じゃあ見せてもらおうかしら、あなたの仲人の腕前を」ヒルダが挑戦的に言って、胸の前で腕を組んだ。
「例えば、マルコとか」
しまった! 彼のことをすっかり忘れていた。あいつもシアディンに忠誠を誓っている! 急いで彼も連れてくるよう命じてから、俺は子供たちのもとに戻った。
「う、うーん、マルコは候補から外れるみたいだな」ヴィクがぎこちなく笑いながら言った。
「うーん、アルビちゃんは落ち込むわね。二人、もうキスまでしてたみたいだし」ヒルダは尻尾のリボンを直しながら、思い出すように言った。「それにしても、忙しいってどういうことよ!」
「だって俺、お前らの女子トークには首突っ込まないし、誰が誰をどうとか知るわけないだろ……じゃあフェブリモールは?」
視界の端で、近づこうとしていたエルフが動きを止め、素早く角の向こうに隠れるのが見えた。
「んー、まあ悪くないんじゃない? ちょっと年いってるけど」
何かが壁に当たる音が聞こえた。
「それにクリスティーナに夢中みたいだし。でもまあ、紳士的よね。余計なことはしないで、小物ばっかりプレゼントしてくる。貧乏臭いわ」ヒルダは続けた。
もう一度、壁を叩く音。
「でクリスティーナの方はどうなんだ?」俺は確認することにした。
「正直に?」耳をぴくりと動かしながら、ヒルダが俺に近づいて訊いてきた。
「もちろん」
「彼女は……って、おい、兄貴、お前は黙ってろ。お前が聞くような話じゃないんだ。まあ、俺が見た感じだと、彼女はすごく期待を裏切ることを恐れてるんだ。荒野で何かあったせいかもしれない。俺はまだそこにいなかったから、聞いた話だけどな」
「誰の期待を裏切るのを?」
舌打ちして、ヒルダが指で俺をつついた。
「思うに、父親の祝福がもらえたら、関係を進める決心がつくんじゃないかな。逆に、もらえなかったら、一日中トレーニングで自分を追い込み続けるんだろうね、可哀想に。エヴィナもそうだけど。まあ、彼女には皇子が一人言い寄ろうとしたんだけど、すぐに断ったわ」
「そうか……ありがとう、ヒルダ」
「あら、家族のことだもの!」狼娘は笑顔で言った。「さあ、ヴィク、行くわよ。終わったら全部教えてもらえるから。ドアに穴開けちゃうわよ!」
抗議するように少年は踏ん張ろうとしたが、姉があまりに強く引っ張ったものだから、ヴィクは床に転びそうになった。
咳払いをして、フェブリモールが近づいてきた。
「マルコが逃げました。申し訳ございません、死すべき者」
「てかそういうのは真っ先に言えよ、噂話なんか聞いてないでさ。優先順位ってもんを考えろ……」
「申し訳ございません!」鎧を鳴らして、エルフはびしっと直立不動の姿勢を取った。
「暴れるようなら捕獲できるよう人員を準備しておけ。マルコは基地で復活させる」
「了解であります!」叫ぶとフェブリモールは踵を返したが、俺は肩を掴んで引き留めた。
「ああ、それともう一つ。お前がクリスティーナと付き合うのは構わない。俺から彼女に話しておく」
フェブリモールは嬉しそうに頷き、少し躊躇いながらも、ついに口を開いた。
「裏切りません! 命に代えても彼女を守ります!」
こちらも頷いて、俺は下へ降りた。謁見とやらが何なのか、どんな結果になるのかは知らないが、王に対抗する計画も視野に入れて準備しておく必要がある。首都はあまりに遠いし、今あるテクガンの輸送手段じゃ大軍を運べるほどの人数は乗らない。メカを使ったとしても、二、三人で首都を強襲するのは無理だろう。稼働時間があまりに短すぎる。まあ、アキルズに聞いてみるか。あいつは向こうに行ったことがあるし、信頼できる。
とりあえず、今は輸送門を発注することにした。だが時間が足りない。いずれにせよ、襲撃の日は外せないから、今日と明日の一部は動けないことになる。そうなると、20日目の真ん中から21日目の正午まで――試練に連れて行かれるまでの間しか時間がないってことだ。
輸送門にはクリスタリット200、加工石材800、道具100が必要。建設に丸一日かかる。長すぎる。石を使って加速させて、俺は新しい柱をロートクの反対側――首都があると思われる方角に向けて配置した。
端末を確認すると、射程はフリルガルドの近くまで一気に飛べるくらいはあるみたいだ――場所をだいたい覚えていればの話だが。うーん、そこからでも徒歩で8、9時間はかかるな。でも、ちょうど明日に間に合う。すぐ準備すればの話だが。
フェブリモールの準備が整ったのを見て、俺は繋がりを通してマルコを殺し、基地で蘇生させた。あいつはすぐに中央ターミナルの近くに現れ、そこで素早く拘束された。隊長が俺に「いいね」のサインを見せてくれたので、俺は頷いて次のことを考え始めた。
準備を部分的に自分から始めることにして、俺は屋敷へ向かい、自分のモデルを更新することにした。まあ、金もあるしな。
コンバーターに入ると、俺はすぐに列挙し始めた。
「エンジニア、治療師、マスターハーバリスト、熟練治療師、神官、錬金術師、熟練錬金術師、攻城スペシャリスト、攻城マスター、防衛スペシャリスト、防衛マスター、蜘蛛騎兵、蜘蛛騎兵、装甲豹騎兵、パラディン、レンジャー、速射クロスボウ射手、リバーサイトクロスボウ射手、重火器スペシャリスト、ドローン操縦士、上級ドローンオペレーター」
コンバーターがショートしなきゃいいんだが……
何かがやけに長くカチカチ鳴っていた。俺はもう心配になってきたが、待った甲斐があった。
「解析完了。2675ゴールド」
「よし」
「攻城兵器の製造が全モデルに追加、ポーション、毒、爆弾、武器の製作が全モデルに追加、治癒の呪文が更新されました」
「全部か?」
「アイススナイパーアーチャーとフューリアススピリットのモデルをアップグレード可能。実行しますか? 金貨400枚」
「ああ。終わったら一時停止な」
完了を待って、俺はすぐにこの指輪を試してみた。
アーチャーの形態では弓に加えて、10発のボルトが装填できるクロスボウが手に入る。矢もボルトも全てリヴァーサイト製で、氷のエンチャントが可能だ。スナイパーライフルの弾丸もリヴァーサイト製だった。
スピリットの形態では弓が現代的なものにアップグレードされ、さらにスピリット自身の体から電気の矢を生み出せるようになった。
コンバーターに戻って、俺は続けた。
「騎手スキルが追加されました。騎乗動物への強化が炎の虎に適用されました。この生物は常時召喚が可能になりました」
そういえば、あいつのことは考えてたんだが、何だかあれに乗って駆け回るのも妙な感じがしてな。まあ、一度くらいは呼び出してみる価値はあるだろう。
ポーズをかけて、俺は外に出てブレスレットを回した。
確かに、でかい虎だ。ただ、生き物というより石か骨で作られたみたいで、内側から炎を燃やす骨格みたいに見える。巨大な牙が並ぶ口の中で炎が踊り、体の一部はグバー製のプレートで覆われていた。
「グレイ・スカルの力により……パワーは俺のものだ!」
なんか勝手に口から出ちまった。たぶん、こんなこと覚えてるなんて俺ももう年寄りなんだろうし、こんなこと叫んじまうなんてまだガキなんだろう。
獣は俺に近づいてきて、頭を足に擦りつけ始めた。なんだ、見た目ほど怖くないじゃないか。
とりあえず解除することにして、俺はコンバーターに戻った。
戦闘プログラムのことを思い出して、ついでに追加した。
「専門訓練――エクゾスケルトン操縦」
「200ゴールド」
「ああ、分かった分かった」
「エクゾスケルトンの専門操縦技能が全モデルに追加されました」
「続けて」
「新たな兵科モデル――上級ドローンオペレーターが追加されました。モデルのリングをお取りください」
一時停止して、すぐに試してみた。
装甲は薄いが、それでも防弾ベストくらいはある。支援用のフレムテック製小型サブマシンガン、フィルター式防毒マスク付きヘルメット、レンズに視覚分析装置が組み込まれている。他のモデルの標準フィルターに加えて、自分が訪れた場所だけだが、地図が様々な形式で表示された。いくつかポイントを指定してみると、どこからともなく戦闘ドローンが現れて階段を降りていった。慌てて止めてから、メニューを漁ってみると、防御ドローン、ミサイルドローン、敵ミサイルへのレーザー迎撃機能付き、偵察型、修理型、医療型なんかも見つかった。ただし、同時に呼び出せる数には制限があるらしい。
モデルを解除してコンバーターに戻り、さらにプログラムを追加した。
「戦闘任務変更――強襲テクノ歩兵」
「新たな発展ラインが利用可能:エリートヘビータクティカルナイト(地)、重火器スペシャリスト、パラディン、強襲テクノ歩兵、消えぬ炎をデヴァステイター騎士(地、火)へ変換。5000ゴールド、寿命-5年」
「ああ、そうだな……」
変換装置が俺から大量の指輪を一気に解放し、作動した。筋肉が成長し、身長も少し伸びるのを感じた。
すべてが終わると、体が羽根のように軽くなった。動くのがこんなに楽だなんて。新しい筋肉を動かして試してから、指輪を回した。
◇◇◇
「現在の残存寿命――43+(310)。能力発動用ボーナス年数:155(127)(係数0.5)(捕虜――33)」




