第百八章 ニコ対夜明けの守護者たち
パニックが起きた。まあ当然だろう。そこにケイトが追い討ちをかける。モデルに切り替えた彼女は、ホールのど真ん中でバイクをエンジン音を轟かせて回転させると、背中からシートに倒れ込んで両腕を広げ、周囲のテクガン兵を信じられないほど優雅に撃ち抜いていった。ワイと一緒に床から立ち上がった俺は、転がる死体を眺めながら首を振るしかなかった。ケイトは姿勢を戻してバイクに跨ると、ワイのところまで走り寄り、素早く彼女を背中に乗せてタナトスへ向かって走り出した。タナトスの脚を駆け上がり、ワイがハッチに飛び込むのを手伝う。どうやら普段の搭乗はもっと時間がかかるらしいな……
俺は飛んでくる破片を避けながらテスラ歩兵に切り替えて、同じく建物から脱出を急いだ。タナトスの「肩」に飛び乗る。視線を走らせてトラックを探すと、さっきまでウルカストを「護衛」していた兵士たちが優先順位を変更して、今は隠れ場所を探していた。遠くでは戦車のエンジンが唸り声を上げ、誰かが対戦車砲を展開している。多分すぐに航空部隊も来るだろう。この高さからなら、コンクリートを背景に黒ずむ回転翼機が並ぶヘリコプター発着場がいくつか見えた。
フィルターがなければ、俺の嫁たちの暗い二つの影には気づかなかったかもしれない。ジェシーはすでに照準器を作動させて、遠くから接近する飛行機のエンジン音が聞こえていた。エンディスは慌てふためく兵士たちを巧みに避けて、もう監視塔の階段を上っているところだ。
ウルカストの姿は見えなかった。だが、まあ、あいつなら大丈夫だろう。
タナトスの周波数に合わせると、ヘルメットの内側にワイの顔が映った。
「マイナス7分」少女が告げた。
どうやら、強力な兵器ほど長く暴れられるらしい。高い代償には、それだけの見返りがあるってわけだ。その間に巨人が動き出し、近くに停まっていた装甲兵員輸送車に向けてロケット弾を数発撃ち込んだ。エンジン始動後に展開されたフィールドを貫こうと必死に撃ち続けていたが、無駄だった。装甲車は激しい炎に包まれて闇を照らし出し、周囲にいた歩兵たちは破片に切り裂かれて次々と倒れていった。
戦車と砲台が戦闘に加わったが、ワイはすでに両腕の兵器を起動させていた。数秒後、耳をつんざく轟音とともに闇を切り裂く光の槍が装甲車両の一部を粉砕した。対戦車兵器を持って接近しようとした歩兵は、サプレッサー付きの武器を使うエンディスとジェシーに次々と始末されていった。
ケイトはメカの機体に留まり、一番上まで登っていた。そこから撃っても大した戦果は上げられないだろうが、彼女は楽しんでいるようだった。まあ、それ以上のことは求めていない。シールドの保護下にいてくれれば十分だ。
標的指示装置で呼び出した航空機が航空機関砲でヘリポートを蜂の巣にし、ミサイル斉射でとどめを刺した。敵航空戦力の出撃は中止だ。
タナトスの肩部武装が要塞の中心部に向けて轟音を響かせ、射撃の機会を窺っていた砲台と兵士の集団を吹き飛ばした。
混乱に乗じて、激しい反撃がまだ来ていないのを確認しながら、俺はロートクを構成する円の中心部へ飛んだ。中央ターミナルはかなり早く見つかった。もちろん、イカレ野郎どものところみたいなごちゃごちゃした状態じゃなかったが、この場合、基地の指揮部はこの施設の重要性を理解していて、防衛陣地を構築していた。ただ、内部からの攻撃で計画が狂ったようで、俺は積み上げられた土嚢を誰にも会わずに通り抜けた。
ターミナルに触れると、表示が現れた。
「解析中……ロートクの新規ユーザー……死すべき者、認証完了。
所有者変更には以前の変更の取り消しが必要です。
当該ロートクのパワーポイント再計算中……変更ロールバックまでの待機時間――3時間。ロールバックを適用しますか? はい/いいえ」
ああ、これじゃもう真夜中過ぎだな。ハイヴの守護者を二体呼び出すと、俺はもっといい位置を探し始めた。
「変更のロールバックを開始……プロセス完了まで、ターミナルの有効範囲内に留まってください」
ムカデたちは別々の方向へ走り去ったが、悲鳴から判断すると、奴らは誰かをすぐに見つけたらしい。
俺は近くの屋根に飛び乗り、壁を召喚して片側から視界を遮った。傍らには防御ロボットを二体配置。攻撃型ドローンも追加だ。
コマンドーに切り替えて、近くの標的を追跡し始めた。少しずつ撃ち抜いていく。ここをしっかり確保するためにもな。それができたら捕虜の奪還も考えよう。まあ、今だって十分大仕事だけどさ。
タナトスは暴れ続けていたが、もう誰も止めようとはしなかった。みんなただ散り散りに逃げていく。何人かは輸送車両に乗り込んで基地から脱出しようと急いでいた。どうやら第二基地に向かうつもりらしい。もちろん、双銃の甲高い銃声が大勢の逃亡者を止めたが、何人かは突破に成功した。念のため道路にクラスター地雷を投げておいた。この距離じゃ正確には設置できないが、爆発音からして、まあまあ上手くいったみたいだ。出口は二つだけだったから、地雷を二回撒けば十分だった。
周辺をスキャンすると、ウルカストを発見した。あの兵士は隠れ場所から飛び出しては、エネルギー刃か何かでテクガンの連中を真っ二つにして楽しんでいた。もしかしたら魔法の類かもしれない。あいつ、本当に変わってるよな。
攻撃ドローンは弾丸をばら撒きながらどこかへ飛び去った。多脚兵器がまた誰かを喰らった。だが、どうやら生き残りは身を潜めたようだ。俺たちが建物を掃討しに行く間に始末できると踏んだか、あるいは単に反撃の機会を窺っているのか。ざっと計算して、俺は皇女を呼び出した。美しいメロディが流れ始めると同時に、熱源の監視を始める。人間はかなりいる、四十人ほどだ。だが近いうちに、彼らを見張る者は誰もいなくなる。
やがてすべてが静まり返った。夜の静寂に溶ける旋律を除けば、この静まり返った基地を乱すものは何もなかった。まあ、ナノロボットのざわめきや燃え尽きつつある装甲車両の爆ぜる音を除けば、だが。
タナトスが事前に点滅したので、ワイは急いで車から離れた。ケイトが素早く降りてきて手を貸してくれた。エンディスは念のため監視塔に残り、ジェシーはメカの盾と本体を隠れ蓑にしていたが、今は他のみんなと一緒に俺が塹壕を掘った場所へ向かってきた。少し遅れてウルカストも合流した。
兵士のヘルメットと周波数を同期させて、チェロの影響下にいる全員の位置を送信した。女性陣には直接説明する必要があったので、最も近い目標を選んで伝えた。
結局、俺は端末から離れられず暇を持て余していたが、他のみんなは捕虜を俺のところまで引きずってくる作業をしていた。俺は少しずつ彼らをイニシエートしていった。幸いなことに、民間人も何人かいたので、すべてが終わったら説得してこちら側につけることができるかもしれない。もちろん強制することもできるが、後で新たな問題が起きないとも限らない。
37人間、それに今日の16人。それに加えてホームレス女王の一家。それとバーの男。これで《繋がり》の限界ギリギリって感じだな。まあ、すべて合わせて1時間以上かかったから、もう一日がほぼ終わりかけている。
アンデッドは疲れないので、俺たちが全員集まって休憩する間も演奏を続けさせておいた。捕虜は全員縛り上げて開けた場所に配置した。
そうこうしているうちに、セフィーナと連絡を取った。
「よう」
「あ、ニコ、やっと、にゃ! こっちはすっごく心配してたんだからね、にゃ!」心配と不満が混じった猫娘の興奮した声が聞こえてきた。
「はっ、悪いな。忙しいんだよ、何せ三人も嫁がいるもんでな……」
わずかな沈黙が、すでに雄弁な答えとなっていた。自分の立場を誇りに思っている妻の頭に、どんな考えが浮かんだか明白だった。
「な、なななっ、にゃ!? あんた何してんのよ!?」
「ああ、テクガンと戦争中でさ、家族が巻き込まれないように必死なんだよ。だから一分も余裕がないんだ。お前、何を想像したんだ?」
「にゃあああ。もちろん、そのことを考えてたわよ」少しの間を置いて、そう返ってきた。
「みんな無事か?」
「うん! 早く帰ってきてよ、寂しいんだから!」
「まあ、今日はもう無理だな。今からあと一時間半くらいかかるし、その後は基地の建設が……」
まあ、真夜中くらいになるだろうな。フェブリモールに伝えといてくれ、部下たちを準備させておくように。捕虜をそっちに移送しないといけないからな。
「うん、わかったわ、愛しい人」とセフィーナは、もっと優しい声で言った。俺がここで女性に囲まれているとはいえ、そんなに楽しんでいるわけじゃないと理解したんだろう。もちろんウルカストは別として。
別れを告げて、俺はその兵士に第二拠点へ向かうよう命じた。あそこをよく知っているらしいからな。監視を続けて、何か変化があったら報告しろと。あっちにまだどんな戦力が残っているか、わからないからな。
残りの連中は俺と一緒に残った。今日一日で明らかに疲れ切っている様子だった。夜になると昼間とは対照的にかなり冷え込んできたので、俺は建物の中に入ったら制圧が失敗するかもしれないと思い、リスクを冒さないことにした。補給を呼び出して、そこから防寒着を引っ張り出し、ついでにみんなの分の配給も持ってきた。
「男爵夫人のところへの訪問は、しばらく延期ってことかしら?」とジェシーが、遅い夕食を頬張りながら聞いてきた。
「とりあえずこっちを片付けてからだな。こっちの方が重要だと思う。聞きたかったんだが、お前たちはどうなんだ? 動揺とかしてないか? なんだかんだ言っても、お前たちのギルドなんだろ?」
遠くの投光器の光でぼんやりと照らされたエンディスの顔が、きっぱりと左右に振られた。
「いいえ。まあ、これは私個人の意見だけど。正直に言うと、私は戦争なんて好きじゃない。でも、スナイパーとしての才能があるなら、それを使わなきゃいけないと思ってる。そういう意味では、このギルド自体、最初から私には合わなかったのよ。無防備な相手を常に襲撃したがるあの連中の性質がね」
ジェシーは同意するように頷いた。
「まあ、基本的には賛成だね。こういうドタバタも嫌いじゃないけど、できることなら防衛ギルドに移りたいって気持ちの方が強い。でも裏切り者ってのはあんまり歓迎されないんだよね。いや、もちろん、ギルドからギルドへの移籍を禁止してるわけじゃないんだけど、移った後も関係を維持できる人なんてほんの一握りなんだ。大抵の場合、送り込まれたスパイだと思われるだろうし、そういう疑いを晴らすには相当な努力が必要になる。その点、ジョニーは本当に立派だよ」
女性陣の意見を聞き終えた俺は、豆を物思いげに噛んでいるケイトの方を向いた。
「で、お前はどうなんだ? 別の派閥ってのはどうだった?」
まあ、俺がここで全部ぶっ壊した後にこんなこと聞くのも変な話だが、それでも知っておく価値はあった。
「最悪」少女は食べ物を飲み込んでからぽつりと言った。「派閥全体がってわけじゃないけどね。でも、もっとマシなもんだと期待してたんだ。他のギルドなら違うのかもしれないけど、ここのは見るも無残。何年も剣を持った人間を殺すことで食いつないできたってのも納得だよ。もっとまともなことをやる力なんて、そもそも持ち合わせてなかったんだろうね」
「そのうち別のとこも見られるさ。武器を握りしめながらじゃなくてもな。俺と一緒に男爵夫人のとこに行くか?」
少女の唇にほんの一瞬笑みが浮かんだが、今回は隠そうとせず、感謝の眼差しを俺に向けた。
「わかったわよ、パパ。そこまで頼むなら――」 娘はわざとらしく言葉を引き延ばし、大げさに神妙な顔を作った。
俺は笑みを浮かべて両手を合わせて拝むポーズをとり、みんな一斉に笑い出した。ワイまでもが。
ああ、俺たちはこうして笑ってるけど、つい最近あんなに大勢を殺したんだよな。でも、もしあれをやらなかったら、いつか立場が逆になってたかもしれない。だから次は、もうこんなこと考えないで済むんじゃないかと思う。
その後、俺たちはたわいもないおしゃべりで時間を過ごした。
「ねえ、電球一つ取り替えるのに、フレムテックは何人必要だと思う?」 ケイトがいたずらっぽく笑みを浮かべて言い、ワイをちらりと見た。
「えっと、一人?」 エンディスがすぐに答え、頬をかいた。
「なんで?」 ワイはそもそもなぜそんなことをするのか、よく理解していないようだった。
俺とジェシーは答えなかったので、ケイトが続けた。
「五人。四人が大袈裟にポータルから出てきて、クローンが命令通りにメカから這い出して電球を取り付けるまで待つ」
瞬きをして、ワイは笑い転げた。電球の話じゃなくても、彼女たちには実際にそんな経験があったらしい。笑い終わると、ワイはケイトにもう少し近づいて、自分たちのネタをもっと聞かせてくれるのを期待しているようだった。
その時、端末がピピッと鳴った。
「所有者変更完了。変更のロールバック読み込み完了。解体手順を開始しますか? はい/いいえ」
屋根から飛び降りながら、俺はみんなも同じようにするよう勧めた。姫は俺自身が運んでやった。強化を発動させて、ゲームから気が散らないようにしてやったんだ。
確定すると、ナノロボットがあっという間に全てを解体し始めるのに改めて驚かされた。すぐにほとんど何も残らなくなった。金庫に入っていなかった俺たちの金だけが、その場に転がったままだった。
「解体後に残った資源と金庫の中身は第二システム『ロートク』に転送されました」
よし、これで全部が第二拠点に移った。あっちで大量に兵器を作る時間がなかったことを祈るぜ。
杖を引き抜くと、俺は少し横に離れてそれを地面に突き刺し、拠点の建設を始めた。円が完成すると同時に、バンカーと司令部を発注した。これであと三時間か。
ここからは俺が傍にいる必要はないから、見張りを一人残して交代で眠ることにした。
そうして眠っているうちに、あっという間に時間が過ぎた。投下された支援物資から取り出した布を砂の上に直接敷いて横になっていた俺は、ケイトに呼ばれて急速に意識がはっきりしてきた。両脇にぴったりくっついているジェシーとエンディス、それに上に乗っかっているワイのせいで少し身動きが取りづらかったが、おかげでとても暖かかった。
身を起こすと、俺は他の連中を起こしてから、完成したばかりのバンカーへと急いだ。
地下室に飛び込んで、俺は死すべき者の館へと転移した。応接間では兵士たちとセフィーナが居眠りをしていて、俺はその無防備さに思わず感心してしまった。そっと妻に近づいて、キスで優しく猫ちゃんを起こしてやった。
「やった、ニコ、にゃ!」セフィーナが小声で囁き、俺に応えながら耳を可愛らしくぴくぴく動かした。
お返しの愛情をたっぷり受け取って、存分にキスを交わした後、俺はいびきをかいている兵士たちをじっと見つめた。
「アーサー王、我々は攻撃を受けている!」俺は叫んで、瞬時の反応を観察した。まあ、少なくとも目が覚めて意識がはっきりするのは早いな。
デリオが真っ先に俺のところへ駆け寄ってきて、直立不動の姿勢を取った。フェブリモールはいない。わざと顔を出さないようにしたんだろう。
「死すべき者、ご命令により参上しました!」
手を振って、俺は彼らと一緒にテレポートへ向かった。そこからは早かった。捕虜たちをさっさと運び込んで、俺たちの家兼牢屋に押し込んだ。民間人15人は選別して、朝になったら狼娘たちとの面談を受けさせる。
もちろん、皇女が全員を音楽の効果下に置き続けることはできないから、アルヴァー派閥へ移送された者たちはすぐに目を覚ましたが、兵士たちの監視下にある以上、もう問題ない。最後に金を運び込んでから、俺は戻ってウルカストと連絡を取った。
「報告します。敵は急ピッチで反撃を編成中です。直ちに攻撃することを進言します」兵士が素早く言った。
ウルカストの話では、今のところ戦力は大したことないが、すでに装甲車両の生産を開始しているらしい。
ため息をついて、俺は考えた。朝からポイントを大量に使うのは避けたいが、拠点が近いなら自分の拠点ごと移動できる。セフィーナに子供たちを起こすよう頼んで、俺は攻撃の準備を整えた。防御を突破するなら、アルヴァーのアバターはタナトスに劣らないはずだ。
◇◇◇
「現在の残存寿命――51+(264)。能力発動用ボーナス年数:105(105)(係数0.4)(捕虜――57)」




