第百五章 アイビスの話とピクニックの終わり
俺は女の子に、あんまりきつい話を子供たちにしないように、と耳打ちするのが精一杯だったが、アイビスはもう覚悟を決めたらしく、俺のコメントを振り払うように首を振っただけだった。
アイビスが話し始めると、子供たちはもっと近くに寄ってきた。
「あれは二年くらい前のことで……」
◇◇◇
襲撃の日に目を覚ましたとき、彼女は明らかに何か良くないことが起きたと悟った。急いで起き上がり、船の廊下へと飛び出した。空中戦艦「女王の誇り」は巨大な艦だったが、アイビスの父が司令官の一人だったこともあって、彼女は父がどこにいるか正確に分かっていた。
暗い技術区画の廊下を駆け抜け、彼女は舷窓までたどり着き、あちこち動き回る魔術師たちを不安げに見つめた。
目の前には岩だらけの平原が広がり、少し離れたところでは夜明けの光を受けて広大な海が輝いていた。襲撃の日だということを考えれば、それはただ一つのことを意味していた――大きな問題が起ころうとしている。もちろん、ランキング表では中位だったにもかかわらず、「下から」の襲撃がテルツィオのアルヴァーに当たることはなかったが、次の場所も普段は大した問題を起こさなかった。サイバーハイヴは厄介な隣人たちのせいで艦隊を建造するだけのバイオマスを集められず、王立空軍の基本艦艇と沿岸砲台で簡単に阻止できる自殺的な地上作戦に限られていた。
先を急いで、アイビスは父の艦長室まで走り、ノックもせずに素早く中へ飛び込んだ。
コルヴスは、四十歳ほどの白髪交じりの男で、艦隊の厳格な制服に身を包んでいた。侵入者に怒鳴りつけようとしていたが、娘の姿を見ると途端に表情を和らげ、慌てて何かを机の下に隠そうとした。
「おはようございます、お父様!」アイビスは恭しく言い、軽く頭を下げた。父も同じように、四方八方に突き出た黒い羽根を揺らしながら応えた。
父が何も言わないのを見て、アイビスは近づいて静かに尋ねた。
「何かあったんですか?」
一瞬顔をしかめた男は、再び厳しい表情を作り、きっぱりと言った。
「大したことじゃない。休んでいなさい、アイビス」
怒った娘は尻尾を膨らませ、机に飛びつくと、コルヴスが長剣を隠そうとしているのが見えた。
数秒間呆然とした娘は、泣きそうになりながら言った。
「どうして大したことないなんて言えるのよ!? だったらなんで剣なんて持たされてるの!? 下に降りるつもりなの?」
「指揮官全員に剣が配られたんだ、そう興奮するな」コルヴスは静かな声でそう言うと、悲しげにため息をついた。「何とかなるさ」
「ママはあなたの嘘のせいで死んだのに、また同じことするつもり!? 本当にどうでもいいの? 妹がポータルゾーンのすぐ近くにいるのよ!」
「分かってる、分かってるさ! 誰よりもな! みんなピリピリしてるんだ」最後の言葉はずっと小さくなった。コルヴスは疲れた様子でこめかみを揉んでいたが、もう怒鳴る気力はなかった。「最下位だった派閥が数回の『襲撃』でいきなり俺たちを飛び越えてランキングを駆け上がったら、誰だって神経質になるさ」
娘はそんなニュースに驚いていた。フレムテック、あの虫の息で、クローニングシステムの不具合で何とか食いつないでいた連中が……今やトップ争いに?
その間にもコルヴスは続けた。
「あいつら今じゃ自分たちをクローンテックなんて名乗り始めた。くそったれの死すべき者め、一体何をしでかしたんだか……まあいい。頼むから家族用の船室に避難してくれ。俺は……お前まで失いたくないんだ」
唇を噛み締めたアイビスは反論しようとしたが、父の懇願するような表情を見て、ただくるりと身を翻して走り去った。だが船室ではなく、訓練センターへと。
「あ、ノクトゥア様、これは光栄です……どなたかお探しで?」学習用端末の接続を担当している職員が尋ねた。
「いいえ、ランクアップが必要なの」
職員は、少女が自信満々にベッドに横たわるのを見て、口ごもった。
「申し訳ございません、ノクトゥア様、ですが料金が……」
アイビスは凶悪な視線を投げつけると、天井を睨みつけた。
「うちの家の口座につけておいて」
職員の顔が一気に喜びで輝き、男は素早く台帳の文字を押していき、それから尋ねた。
「えっと、どのランクまで、失礼ですが?」
「十五番まで全部だ」
金額を計算した職員は素早くランク昇格を実行し、期待できる手数料に満足げに手を擦り合わせながら脇へ退いた。
「ランク昇格完了」――緊急メッセージが飛び出し、端末の拘束から解放されたアイビスは壁に倒れ込んだ。船が傾き、ゆっくりと地面へ近づいていく。廊下を走り抜け、彼女はパノラマ窓のある区画へ辿り着いた。ガラスを踏み割らないよう慎重に歩きながら、少女は恐怖の表情で下で起きている光景を見つめた。何百、いや何千という歩兵がポータルゾーンを埋め尽くしていた。彼らの武器が放つ一発一発が、地上で抵抗を試みるアルヴァー派閥の者たちを何人も地に伏せさせる。少し先の海上には巨大な輸送艦が陣取り、そこからゆっくりと巨大な機械が出てきて、甲高い音を立てながらアルヴァー派閥の艦隊をロータリー機銃で撃ち抜いていた。途切れることのない金属音が鳴り響くたび、眩い光を放つ一斉射撃が船体に大穴を開けていく。移動要塞の前部ハッチからは敵の歩兵が次から次へと溢れ出し、まるで数に限りがないかのようだった。
浮遊リフトまで急いで走ったアイビスだったが、そこにいたのは光の槍を直撃されて死んだ転送魔術師たちだけだった。仕方なく彼女は死体のマントから布を引き裂いて両手に巻きつけ、ワイヤーを滑り降りた。
少女は走り続けた。そしてようやく、じりじりと迫ってくる戦艦の影から抜け出した。
前方にアルヴァー派閥の一団を見つけた彼女は急いで駆け寄ったが、すぐに速度を落とした――自分の目が信じられなかったのだ。メタルの守護者たちに囲まれ、明らかに負傷しているキーパーが、両手いっぱいに剣を抱えて戦場から逃げようとしていた。
涙をこらえようと努めながら、彼女は彼のもとへ急ぎ、何も聞かずに自分の家紋が刻まれた武器をひったくった。
「ああ、ノクトゥア様、逃げてください、逃げてください、手遅れになる前に」老人は咳き込みながら、余計な言葉もなく武器を渡した。「首都でもどこでもいい、ここ以外なら。ポータルゾーンの都市は全て壊滅しました」
歯を食いしばり、アイビスは喉に込み上げてきたものを飲み込んだ。もう自分一人しか残っていないのなら、せめて復讐を果たさなければ――どこかのクソ野郎どもに怯えて臆病に逃げ出すわけにはいかない。
剣を抜き放ち、彼女は迫りくるフレムテックの兵士たちに向かって走り出した。メタルの守護者たちも、もう自分たちも逃げられないと悟り、兄弟であるキーパーが十分に離れたことを確認すると、急いで少女を助けに向かった。
最初の光線がすぐ近くをかすめた後、アイビスはルーン呪文を詠唱し、空中に指先でその軌跡を描いた。剣の金属が光を放ったことで、すべてが正しく発動したとわかった。だから、空中で身体を回転させると、アイビスは父の剣を鋭く振りかぶり、兵士たちに向けて波動を放った。
純粋なエネルギーが密集していた兵士たちを貫通し、後ろから走ってきた者たちを足止めさせた。その隙を逃さず、少女はすでに十分に接近していた――メタルの回復を待つ間、近接戦闘でフレムテックの連中を切り刻み始めるには十分な距離だった。
衝撃波で多くの者から仮面が剥ぎ取られ、アイビスはすぐに理解した――自分たちを襲った兵士たちは全員、一人の人間だったのだと。狂ったように斬りまくるアイビスは、自分が一つ、二つ、三つと傷を負っていることに気づかなかった。血を流しながら、彼女は膝をつき、力の抜けていく手で剣を握りしめた。もう一発の銃声――そして、虚無。
◇◇◇
ガバッと飛び起きた彼女は、辺りを見回した。そこは金でできているかのような巨大な広間だった。周囲には人の気配がなかったため、アイビスは少し落ち着きを取り戻し、寄せ集めた小さなテーブルで作られた即席のベッドから起き上がった。
「復讐したいか?」――耳元で響くような、荒々しく超越的な声が聞こえた。
振り返ってみたが、誰の姿も見えない。それでも彼女は慎重に答えた。
「ええ」
「父親を、妹を、あるいは母親すら、生き返らせてほしいか?」
唇を噛みしめ、アイビスは堪えた。息を吐いて、続けた。
「もちろん」
次に機械的な声が響いた。
「変換。ランクなしモデル、アイビス――金属を切り裂く守護者へ昇格」
「素晴らしい。これで本当に良く仕えることができるな。50年――お前の願いにしては、それほど大きな代償じゃないだろう」と、あの世ならぬ声が続けた。
「待ってください、50年って、どういうことですか!? なぜ!?」
「神々の契約は成立した」
◇◇◇
ここでアイビスの話は終わった。俺は少し呆然としていたが、子供たちは気に入ったようだった。
ロレインは涙を拭うと、また泣きじゃくり始めた。他の子たちはそれぞれ何かを考え込んでいた。
「大したことない話だって?」俺は静かに尋ね、少女の肩に手を置いた。
アイビスは頷き、どこか遠くを見つめたままだった。
炭火はもう冷めてしまったが、肉はまだ残っていたので、薪をくべながら、俺はやっぱり聞いてみることにした。
「それで、なんで俺の戦闘の時はそんな能力を使わなかったんだ?」
「金属は、いい加減な扱いを許さないの。本当に必要で、心から求めている時にだけ、隠された力を発揮できる」 アイビスは鞘を見つめながら、重々しく語った。
「パパ、アイビスおばさんを助けてくれるよね?」 アダムが、すがるような目で俺を見つめて尋ねた。
「ええ、もちろん。私たちに何かできることがあれば、みんなで協力したいわ」 ウェンディが他のメンバーを見渡しながら続けた。全員が同意するように頷いた。
アイビスは掌を唇に当て、それから慌てて浮かんだ涙を拭った。
「あ、ありがとう、本当に」 アイビスは唾を飲み込んでから言った。 「みんな、こんなに素敵で……ニコが私の石材を見つけてくれて、本当に良かった」
「でも、俺が最初じゃないんだろ?」
少女は否定するように首を横に振った。
「ええ、でも他の人については話せないの」
「じゃあ結局、どうやって助ければいいんだ? それに、もし俺たちが助けたら交換は成立するのか? アイヴィがさ、誰かを彼女と交換するっていう案を出してたんだけど」
「もしかしたら、そういう方法でもいいかもしれない」アイビスは不安げに言いながら、頭の羽根を撫でた。「正直に言うと、あまりよく分かってないの。私の代わりに寿命年数を交換するっていう考えはあったんだけど、そんな大きな数字を誰かに頼むなんてできなくて……」
ここで俺は考え込んだ。そうだよな、50年ってのは冗談じゃない。たとえ悪党ぶって捕虜を50人ぶっ殺したとしても、それをどうやって受け渡すんだ? 彼女が何か策を考えてると思ってたんだけどな。
しばらく考えた後、俺はもう一つ石をひっくり返した。
「おや、ニコニコじゃない、まさか休憩中? しかも子供たちまで連れて来て、もう、なんて可愛いのかしら!」アイヴィが皆の間を飛び抜けながら叫んだ。明らかにその場の空気をかなり和ませた。ただアイビスだけは自分の「同僚」をあまり歓迎していないようだった。「んー、でもシャシリクをコニャックで流し込むなんて美味しそうね、って、私何言ってるのかしら?」
「パパパパ、この人誰?」アダムが、周りをひらひら飛び回る実体のない女の子を眺めながら、興奮気味に言った。
「あ、また呼び出しのお姉ちゃんだ……」
アイヴィはそんな言い方を聞いて咳き込み、それから怒ったように頬を膨らませた!
「誰がここで……」女の子が言いかけたが、ヴィクが遮った。
「あ、アイヴィおばちゃん、お肉作って!」
「もう、こんなの怒れないじゃない……怖い顔したおじさんの子供たちってこんなに可愛いんだもん、ぎゅーってしたくなっちゃう! あら、ここにいるもふもふちゃんは誰かしら!」
アイヴィはヴィクとヒルダに飛びつくと、くすぐるふりを始めた。どうやら子狼たちは本気でそれを怖がっているらしく、針で刺されたように飛び上がり、追いかけてくる女の子から逃げ回り始めた。
「ねえパパ、寂しくないの?」ウェンディが微笑みながら言った。
「ああ、全然退屈なんかしてないよ。やることはいつもあるからね!」俺は答えて微笑んだ。この穏やかな時間を満喫していた。
追いかけっこを終えて、アイヴィは焚き火の近くに降り立った。目を閉じると角を出して、実体化した。
「串焼きちょうだい、そしたらくすぐらないであげる。いいでしょ!?」
ヒルダはすぐに半分食べかけの串をそのまま差し出したが、ヴィクは躊躇して、残った肉片を名残惜しそうに見つめていた。
「うー、これがニコ・ニコの遺伝子ってやつね! 同じくらいケチんぼ、うーちゅーちゅー。もう、捕まえた、耳長ちゃん!」アイヴィが叫びながらヴィクに駆け寄り、くすぐり始めた。逃げるには遅すぎると悟った少年は、声を上げて笑いながらアイヴィの器用な指をなんとか阻もうとしたが、すぐにヒルダとエルフの娘たちも加わって、もう勝ち目はなかった。
アイビスはその光景を首を傾げながら眺めていた。
「すごくいいな。私も子供が欲しいな……それにアイヴィも、本当はあんなにいい人だったなんて思わなかった。だって彼女の噂ってあまり良くなかったから、あっ」
謝るように頭を下げると、アイビスは急に黙り込んで、遊んでいる子供たちを見つめ続けた。
ヴィクがもうへとへとになった頃、娘たちは彼から離れた。アイヴィは俺の隣に腰を下ろし、新しく出てきた肉の中から引っ掴んできた熱々の肉を嬉しそうに眺めていた。
「ほれ、何の話だっけ?」アイヴィは口いっぱいに熱い肉を詰め込みながら訊いてきた。
「アイヴィおばさんも、パパのお嫁さんなの?」ロレインが尋ねた。
危うく喉に詰まらせそうになったアイヴィは、慌てて咀嚼を済ませると、驚いた様子で俺を見た。
「ニコニコ、あんた子供たちに何教えてんのよ? まったく、恥ずかしくないの……」
怒りで金のブレスレットをじゃらじゃら鳴らしながら、彼女は新しい肉片にかぶりついた。
「やっぱり、お嫁さんなんだ」エルフの少女は狡猾に目を細めて、意味深な視線をアイヴィに向けた。
「でも、とても若く見えます……」アダムが不意に言うと、アイヴィはくすくすと笑い出した。
「あらら、バレちゃったか。私、スクラブのクリーム使ってるのよ。だってもう30歳だし……」
悲しげにため息をつくと、アイヴィは金の装飾品をジャラジャラと鳴らしながら首を振り、わざとらしく涙を拭ってから、また食事を再開した。
「それ、効果あるんですか!?」ロレインは期待を込めた目で彼女を見つめながら、興味津々といった様子で尋ねた。
「あんたまだ若いじゃない、何でそんなの必要なの?」アイヴィは驚いたようにエルフの娘を見つめた。
「いえいえ、私ずっと綺麗でいたいんです!」
瞳孔のない目でエルフの娘をじっと見つめ続けながら、アイヴィは串を置き、指をパチンと鳴らすと空中から小瓶を取り出し、それを彼女に手渡した。
「わあ、本当にありがとうございます!」
「ねえ、ロレインちゃん、私たち姉妹じゃない……」ヒルダがいつの間にかエルフの娘のすぐそばまで詰め寄り、小声で囁いた。小瓶を目にした小柄な狼娘の尻尾が地面を叩き、明らかに興味を示していた。
「ああ、ヒルダ、持ってけよ。お前が将来結婚することになる年寄り旦那に塗ってやるんだな、その……いてててっ!」 ヴィクが自分に向かって飛んできたバスケットをかわしながら叫んだ。
アイヴィは堪えきれず大笑いした。こんな光景が嬉しくて仕方ないようだった。すぐに他のみんなも笑い始めた。
「ねえ、ニコニコ、ありがとう。楽しかったわ」 少し落ち着いたアイヴィが俺に囁いた。 「でも、これだけのために呼んだわけじゃないでしょ?」
「ああ、契約を中断する方法について知りたかったんだ。できれば条件を満たした上でな」
「アイビスのことね? ああ、ニコニコ、考えてみるわ。でも私たちの契約は違うのよ、彼女の方が複雑で……」
笑っているアイビスを心配そうに見て、アイヴィは微笑んで食事を続けた。
残念ながら雲行きが怪しくなってきたので、俺たちは急いで残りを片付けて車に乗り込み、さっさと戻ることにした。




