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猫と横浜  作者: のらしろ
第二部 結婚するぞ 〜起業編〜

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第48話 パーティー直前



 結局のところ、鹿鳴館のような洗練された舞踏会なんて、俺たちには逆立ちしたって無理な相談だった。

 なんせ、主催者は俺だ。

 南米帰りの(自称)医師で、パン屋の元締め。

 そしてスタッフは、元娼婦に元船医、新米女医に孤児の子供たちだ。


 どう取り繕ったところで、生粋の貴族や財界のドンたちを満足させるような、本場の西洋式マナーに則ったフルコースディナーなんて出せるはずがない。


「だったら、俺たちらしくやるしかないな」


 俺は腹を括った。

 テーマは『和洋折衷なんちゃって洋風パーティー』だ。

 会場は、完成したばかりの病院の一階、かつて外交官たちが夜な夜な宴を繰り広げたであろう、あの広大なホールを使う。

 食事は立食形式にして、俺たちが用意できる最高の料理を並べることにした。


「一様!

 メインディッシュは、やはり一様お得意の『唐揚げ』でいきましょう!

 あれは絶品ですわ!」


 会議の席で、結さんが力強く提案した。

 元男爵夫人らしからぬチョイスだが、彼女が俺の作った唐揚げをいたく気に入っているのは事実だ。


「それに、ホテルで出されているパスタのようなものもあれば、外国のお客様も喜ばれるのではなくて?」


「パスタか……よし、マカロニグラタンでも作ってみるか」


 俺が頷くと、明日香さんやイルサさんも次々とアイデアを出し始めた。


「お刺身はダメよ。

 外国の方の中には生魚が苦手な人もいるわ」


「じゃあ、ポテトサラダはどう?

 あれなら誰でも食べられるし、ボリュームもあるわ!」


「それから、うちの子供たちが焼いたパン!

 これを出さなきゃ始まらないわよ!」


 メニューはどんどん決まっていく。

 唐揚げ、グラタン、ポテトサラダ、そして山盛りの自家製パン。

 なんだか、ちょっと豪華な子供会のクリスマスパーティーみたいになってきたが、まあいい。


 お酒は、横浜の酒屋から上質なワインと日本酒をたっぷり仕入れ、紅茶やサイダーなどのノンアルコールドリンクも充実させることにした。


 料理のメドは立ったが、次は会場の装飾だ。

 だだっ広いホールに料理を並べただけでは、さすがに殺風景すぎる。


「ホールの真ん中に、立派な盆栽でも飾ったらどうかしら?

 和の心ってやつよ」


 明日香さんの提案に、俺は膝を打った。

 盆栽なら、いかにも『日本のおもてなし』という感じがして、外国人客のウケも良さそうだ。


 俺はすぐに万事解決のドラえもん……いや、鈴谷さんのもとへ走り、相談を持ちかけた。

 すると鈴谷さんは、二つ返事で快諾してくれた。


「先生の晴れ舞台ですからね!

 我が店の自慢である、紅葉と松の巨大な盆栽をお貸ししましょう!

 あれを飾れば、ホールの格がグッと上がりますぞ!」


 さらに俺は、地元の洋裁店に頼み込んで、特大の『紅白の陣幕』を作ってもらった。

 これをホールの壁沿いに張り巡らせれば、まるでお城の宴会場のような、華やかでおめでたい雰囲気になるはずだ。


「よし、これで会場の準備も……」


 俺が満足げに腕を組んでいると、そこに水を差す人物が現れた。

 いつものようにニコニコと様子を見に来ていた、横浜市の担当職員である。


「金田先生。

 あのぅ……誠に申し上げにくいのですが」


「ん?

 どうしたんですか?」


「これだけ立派な会場で、侯爵様の名代や財界の重鎮の方々からご挨拶を頂戴するのに、『登壇ステージ』がないのは、いささかマズイかと……」


 ……しまった。完全に盲点だった。

 立食パーティーとはいえ、お偉いさんがスピーチをするための一段高い場所がないと、誰が喋っているのか後ろの人間には全く見えない。


「急いで職人さんに頼んで、木箱を並べてでもいいからステージを作ってくれ!」


 俺は慌てて大工の棟梁に泣きつき、突貫工事でホールの奥に立派な(急ごしらえの)木製ステージを設置してもらった。

 そんなこんなで、準備に奔走しているうちに、季節は十月の中旬へと差し掛かっていた。


 お披露目パーティーの開催日は十月下旬。本当にギリギリのスケジュールだ。

 招待状はすでに発送し、出欠の返事も出揃っている。

 当初の予想を遥かに超える、かなりの人数が出席することになっていた。


「いよいよですね、一様」


 ある夜、準備の疲れを癒やすために縁側でお茶を飲んでいると、結さんがそっと寄り添ってきた。

 彼女の膝の上には、相変わらずあのスケベ顔の謎の猫が丸まって、喉をゴロゴロと鳴らしている。


「ああ。このパーティーは、ただの病院の開業祝いじゃない。

 俺と結さんの『婚約』を、世間に公表する場でもあるからな」


 俺がそう言うと、結さんは少し頬を染めて、嬉しそうに微笑んだ。


「はい。

 侯爵様ご夫妻の仲介という形にしていただきましたし、皆様の前でご報告できること、本当に嬉しく思います」


「俺の方こそ、結さんのような素晴らしい女性を妻に迎えられるなんて、夢みたいだよ」


 俺は少し照れくさくなり、猫の頭を軽く小突いた。

 「ニャッ」と不満げな声を上げた猫は、俺を睨みつけてから、再び結さんの胸元に顔を埋めた。


 ……こいつ、絶対に俺のことをライバルだと思ってるな。


 まあいい。

 いよいよ、俺の人生の新たな門出となる、盛大なお披露目パーティーの幕が上がるのだ。


 唐揚げとカレーパンで、明冶のVIPたちを唸らせてやろうじゃないか。


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