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猫と横浜  作者: のらしろ
第一部 猫に引っかかれて明冶にまいる …

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24/75

第24話 薄暗い夜の部屋の中



 まずは、ペニシリンの製造についてや作ったペニシリンの検証方法なども、PC上で調べていく。


 梅毒治療をしていくので、梅毒菌の培養についても調べてノートにメモをしていく。

 学生時代でもここまで真剣に調べ物はしたことがなかったが、それこそ俺の生活がかかるので、真剣に調べていたら、深夜の12時を超えていた。


 久しぶりだ。

 この時代では夜は暗く、ホテル内でもこの部屋はガス灯なので、あまり明るくない。

 そういえば屋敷の電球も対して明るく無さそうなので、多分夜の明るさはこことそう変わらないのだろう。


 部屋の薄暗さについて思いを走らせていると、ふと令和時代のことをも居だした。

 あまりにくだらないことなのだが、何故か暗い電球つながりなのか、思い出して思わず吹き出してしまった。


 それは、『便所の100ワット』という表現が昭和時代に流行ったと仕事先のご隠居たちとの雑談でかわされたことだった。

 今では、トイレ内も明るいのは普通のようだが、昭和時代では便所の電球は暗いものが使われるのが普通だったようなのだが、そこに100ワットの電球を使うと非常に明るく、そこから転じて、無駄に明るい奴のことをそう呼んでいたとか。


 早い話が無駄の代名詞で、明るく騒がしい奴が鬱陶しい時につかったとか。


 ふと薄暗い部屋に居ると、どうでもいいことを考えてしまう。

 これがハードボイルドの世界では薄暗い部屋のほうがムードがあるとか言われるのだろうが、あいにく俺には異性と薄暗い部屋の中でと言った経験などがないのでというか、今まで付き合っていた人たちがそういうジャンルにいないので、そう考えてしまうのだろう。


 ……そうだよ、俺には007のジェームズ・ボンドのように女性との接点はなかったよ。

 それこそ、先の『便所の100ワット』の話ではないが、そういうバカ話をしてくるご老人ばかりだったので、ここぞという場面でハードボイルドの世界に浸れない。


 でも、この世界では別だ。

 すでに俺は二人の美女を囲っている。

 ふたりとも病気持ちだが、それだって直せなくない。


 この時代での俺は、ハードボイルドとは少し違うとは思うが、それでも美女を囲う。

 それでいて、この時代の人たちのためになる人から恨まれることもなく絵に書いたような成り上がりを目指すのだ。


 しかも、今の俺にはそれができる。

 なにせ、俺の今していることは漫画の世界ではできている。

 漫画のストーリーとは少し違うが、俺もその漫画を参考にすればそれこそ天国のような生活ができると期待して今日のところは、作業をやめよう。


 PCのバッテリーもそろそろ充電が必要になってきていることだし、明日屋敷の戻ってからはメモに基づいて作業をしていくだけだ。


  翌朝は、一人で起きたのだが、それでもいつもと変わりなく目が覚めた。

 起きがけに熱いコーヒーでも飲みたくなったが、あいにく俺には……あ、ここホテルだった。

 今までは明日香さんがいたので、明日香さんに合わせてすぐに食堂で朝食を食べたが、食堂に行けばコーヒーくらいは飲めるだろう。

 

 俺は、部屋から俺の持ち物をまとめチェックアウトのために部屋を出た。

 朝食前に、フロントで会計を済ませてから、しまったと思った。

 

 会計を済ませると、朝食は別に支払わないといけないことに気がついた。

 後の祭りになったが、別に支払いをすればいいだけなのだが、俺はそのままホテルを後にした。


 大きな荷物を持ったと言っても、一度屋敷に荷物を運んでいたので、俺が初めてこの地に降り立ったときに比べれば大したことはない。

 流石にキャスターを引きずるのは今歩いている道路事情もあまり良くないこともあるので憚れるが、中身の半分くらいにしてあることもあり、バックを持ったまま歩いて関内に向かう。


 横濱駅に降り立ったときには何もわからず、とにかく落ち着きたいとだけ考えながら、よくあの重い荷物を持ったまま、ホテルまで歩けたものだと、今更ながら感心している。


 そう、俺が初めてホテルまで歩いたときに比べると、今のほうが遥かに軽いはずなのに、異様に重く感じた。

 流石にこれであの坂は登れそうにないし、何より朝食抜きなので腹も減った。

 どうしようか悩みながら歩いていると、朝から開いているカフェを見つけ、コーヒーとパンを朝食として注文してみた。


 コーヒーは本当に上手に入れているようで、俺の望んだ味と寸分狂いはない……格好をつけたが、俺が日本、いや、令和で飲んでいたのはインスタントなので、あまり香りを醸し出していなかったが、流石に豆を丁寧に挽いたコーヒーは香りから違う。

 それだけで十分に美味しく感じた。


 だが、パンは頂けない。

 フランスパンとは違うようだが、固くて少しモサモサ感がする。

 飲み物と一緒じゃないと食べるのに苦労しそうな代物で、こんなおしゃれなカフェ、しかもお値段もこの時代としてはそれなりにするのに、これでは頂けない。

 ひょっとして、横濱の関内でこれが高級品となると、俺の望んだような美味しさは難しいのでは。

 まあ、今はそれよりも生きることのほうが大事だが、そのうちパンもどうにかしたい。

 幸い俺には強い味方が空いている。

 あの無駄にセット販売されている辞典類に、家庭の医学にはおお世話になっているが、今日の晩ごはんという料理レシピ集もあったので、そのうちそれも調べてみよう。


 しかし、手作りパンなんかのレシピもあったのかな。

 まあ、そのあたり俺に余裕ができたら考えよう。

 今は食事を終えたあとのことを考えるほうが死活問題だ。

 この荷物であの坂を登り切る自身がない……もしかしたら、この店から車を呼べないかな。

 俺はカフェの店員に人力車を頼めるかを聞いてみた。

 ダメならば駅まで戻ればどうにかなるだろうと考えていたが、流石に駅に比較的近い関内だけあって、すぐに人力車を呼んでくれた。

 しっかりと手数料を取られたのだが、それでも一円はかからない。

 本当にこの時代の経済感覚を早く身に着けないと、そのうちまずいことになりそうだな。

 

 やっとのことで自分の屋敷に着いたのが昼を少し前にまでなっていた。

 イルサさんと明日香さんには心配されたが、俺はすぐに謝ってから、朝の診察を行うことにした。


 昨日同様にセクハラ三昧で診察を終えたのだが、それほど状況には変化はない。

 まあ、そのあたりも折込済だ。

 イルサさんのほうが、腫れというのか膿を出しているのが殆どなくなっている。

 流石に筋肉注射で抗生剤を入れただけあって効果は絶大だ。

 体調も、今までと比べるべくもないほど良くなっているとかで、しきりに俺に感謝していた。


「少し体調が良くなったからと言っても油断してはダメですよ。

 まだ、完治したわけではないのですからな」


 あれ、この場合寛解とでも言うのだっけか。

 これも後で調べてみるか……いや、意味ないか。

 日本語って難しいと感じることはあるが、目の前にいるイルサさんにとって多分どうでもいいことだろう。

 俺は、二人に服を着るように命じてから、ここでの生活について話し始める。


「今日から私もここで生活をしていく。

 早速、明日香さんやイルサさんも罹患してしまった梅毒の研究を始めようかと思うので、ふたりとも協力してほしい」


「いよいよ始めるのですね」


「ああ、色々と回り道をしていたようにも思うが、拠点がないと始まらなかったこともあるので、拠点の整備を急いだこともある」


「いえ、まだ私が一様と知り合ってからそれほどの時間も経って降りませんし、非常に早いことだと思います」


「一様。

 梅毒の研究を始めるといいますが、私はすでに治療を受けているのでは」


「ああ、私が日本に持ち込んだ薬を使ってだな。

 その薬は私が生まれた場所で作られたものなのだが、あいにくここからはものすごく遠い。 

持ち込んだ量も大したことがないので、誰にでも使えるというわけでもない。

だが、二人に使ったのには理由がある。

それがここでもそれが通用するかもわからなかったので、悪いが、明日香さんやイルサさんに試させてもらったが、効き目の方は問題なさそうなので、ここ横濱でも作ってみようかを思っている」


「え、薬って作れるのですか」


「ああ、そのつもりで準備してきたのだが」


「一様。 

 私達に手伝えと申しましましたが、私はあいにく教育を受けてもおりませんし」


「そもそも、私は日本語は話せますが、読み書きに自信が……」


「大丈夫だ。

 簡単なことから始めていくから。

 おいおい色々と覚えてくれればいいよ。

 まずは私の生活を支えてほしいかな」


「料理とか掃除とかですか?

 それとも……」


「ああ、病気が治ればそっちも頼むかも知れないが、今は病気の治療に専念してくれ」


「それで、頼みというのは」


「悪いけど、食事の買い物ついでに青カビを探してほしい」


「え?

 青カビですか」


「え、カビって毒では」


「日本語のことわざで、『毒をもって毒を制す』というのがあるけど、薬って量を間違えると毒になるものも多いし、何より毒から薬は作られるのもあるからね」


「それで青カビですか」


「ああ、急がないけど、あればいいかなと言った感じかな。

 食べ物のそばにありそうなので、見つけたら持ってきてほしい。

 今はふたりに、昼の料理を頼めるかな。

 それと、必要と思われる物の買い出しだな」


 俺はそう言って、いくらかのお金を二人に渡して買い物に行かせた。

 それで誰も居なく成った屋敷で、昨日用意した培地に培養している梅毒の膿を確認してみる。

 順調に、培地にはコロニーを作りながら増えているようだ。

 最も、増えているのが梅毒菌かは調べてみないとわからない。

 この検証作業とでも言えば良いのか、けっこう大変になるはずなのだが、俺には秘密兵器がある。

 というか、そもそも俺は梅毒菌がどういう形なのかを知っている。

 無駄な買い物だった、電子顕微鏡を使えば勝手に菌の種類までもが画像判定してくれうので、梅毒菌以外にも、増えている菌までもが多分判別ができる

だからというわけではないが、野口英雄の伝記じゃないが、純正培養の成功まで待つ必要がない。

 

 このあたり、俺はこの時代の人と比べてもはるかに恵まれている。

 そもそも、梅毒菌がどんなものかを知っているので、それを探して増やせばいいだけで、他の研究者はこの中から菌を特定することから始めないといけないので、俺と比べて遥かに手間のかかることだ。


 俺も別に論文を発表するつもりもないので、とにかく菌の培養を始めた。

 まずはいくつか出来上がっているコロニーを順番に調べていき、顕微鏡の検索機能を使って梅毒菌のコロニーを特定して、別の培地に梅毒菌だけを移していく。

 後は増やすだけなのだが、これが結構手間がかかり、気がついたときには、明日香さんが俺を呼びに来ていた。


「一様。

 昼食の準備が整いましたが」


「ああ、ありがとう」


 俺は、作業を中断して、下の食堂に降りていく。

 昼食は簡単にパンとハムなどに野菜が少しといった感じの本当に軽食だった。

 パンやハムなどはイルサさんが関内の外国商人から買ってくれたようで、イルサさんが言うには高級品だそうだ。

 なので、俺の分しか用意されていない。


「あれ、二人の昼食は」


「え?

 ありませんが」


「もう材料はないの」


「いえ。

 パンなら少し」


「ならいっしょにみんなで食べよう」


 俺はそう言って、2人分をすぐに用意させて、一緒に昼食を取った。


「これから私と同じ食事をしてほしい」


「え?

 良いのですか」


「ああ、栄養を取ることも大事な治療だからね」


 少し文化の違いと言うか、習慣の違いですったもんだがあったが、これからは一緒に食事を摂ることにできた。

 とにかく二人には栄養をきちんとバランスよく食べてもらわないと治る病気も治らない。

 一緒に昼食を取りながら、俺はそのあたりについて優しく説明していった。

 今聞かせただけではふたりとも理解できないだろが、これから一緒に食事を取りながらそのあたりについても説明していく。

 俺がここで本格的に病気治療をしていくようになれば、二人には患者たちの世話を頼まないといけなくなるだろうから、彼女たちが完全に理解できるまで丁寧に教えていくつもりだ。

  

 食後に、明日香さんがみかんを見つけたと俺に報告してきた。

 しかし、報告には少し怒気が含まれている。

 なんでかなと、よくよく聞くと俺の求めた青カビが少し着いたみかんを見つけたので、八百屋から譲ってもらったのに、正規の値段が取られたと怒っていた。

 カビ付きのみかんを、まともな値段で売っていたのか。


 正直俺は少し驚いたが、今回に限り俺はカビのほうが欲しかったこともあり、別にそのまま受け取った。


「ありがとう、明日香さん。

 でも、カビの着いた食材を売るなんて、正直褒められたことではないな。

 できれは、今後はそことの付き合いを考えようか。

 でも、今回ばかりは俺の散ってカビのほうが必要だったから、正直ありがたかった。

 尤も、明日香さんの言う通り値引き位はあってもいいかとは思うがね」


「本当ですよ。

 わかりました。

 別にあそこだけが八百屋ではありませんし、そこはもともと品も良くないようですから。

 尤も、一様がカビを所望していたので、あえて品の悪い店に行ったわけですが」


 そんな感じで楽しく昼食を終えたら、仕事の続きに入る。

 まずは、青カビを増やす作業からだ。

 これは、二人が昼食の片付けが済んでから、早速寒天から培地作りをしてもらった。


「寒天を作るのですか」


 明日香さんは寒天を作る事ができるようで、早速乾燥した寒天を溶かし始めている。

 それを珍しそうにイルサさんは見ているが、できた寒天を俺が買ってきたシャーレに全て入れてもらい、培地を作っていく。

 できた培地を軽く冷やしてから、今度はピンセットで青カビをみかんから取り除き、培地の中央付近に乗せてい浮く。


 この作業を残りすべてのシャーレにしてもらい、俺は次の作業に取り掛かる。


 昨日PC上で調べたペニシリンの作り方をノートを取り出してもう一度確認する。


 まずは、水で溶かしてって、そういえばそういう実験器具類はここには全く無い。

 代用するにしても、生活する上での食器類から足りていない。

 青カビの増産を頼んでいた二人は、作業自体が単純だったことと、何より作業量が少なかったのであっという間に終えていた。


「一様。

 残りはどうしますか」


「残り?

 何だ」


「みかんです。

 食べませんよね」


「ああ、カビの生えた食材は口に入れてはダメだ」


「え、カビは取りますが」


「カビは見えている部分以外にも毒を残すので、カビを取り除いただけでは危険だ。

 でも、青カビはすぐにでも使いたいので、俺がもらおうか。

 それよりも、買い物に付き合ってくれ」


「買い物ですか。

 留守番はどうしますか」


「そうだな、今度は関内で外国商人と取引がしたいので、イルサさんに着いてきてもらおうか。

 明日香さんに留守番を頼みたいのだが」


「わかりました」


 ということで、午後はイルサさんと関内デートだ。


 いや、ただの買い物だが、イルサさんは明日香さんよりも関内の商店に詳しいわけではないようなのだが、外国商人の何人かは知っているようだ。



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