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第7話:竜の吐息と、神銀の軌跡

『黒竜の爪あと』ダンジョン、最奥部。

周囲の空気は、肌を刺すような熱気に包まれていた。足元の岩盤は赤く焼けただれ、マグマ溜まりが不気味な音を立てている。


「……暑いね、フィリア。大丈夫か?」


「だ、大丈夫……。でも、レイルくん、あれを見て」


フィリアの視線の先――溶岩の中から、巨大な赤い影が姿を現した。

全身を灼熱の鱗で覆い、口から黒煙を吐き出す巨大な竜、フレイムドラゴンだ。Aランクパーティであっても数人がかりで挑むボス級モンスターである。


【鑑定結果】

・名称:フレイムドラゴン

・状態:激高、空腹

・備考:高熱のブレスと、物理耐性を併せ持つ。


「レイルくん、私の剣、この熱に耐えられるかな……」

フィリアが魔銀の長剣の柄を握りしめ、小さく呟いた。


「大丈夫だよ、フィリア。昨日、ちょっとだけ調整しておいたから」


昨日、宿舎でフィリアが寝ている間に、俺はこっそり剣の強化を行っていた。

ただの魔銀だった剣に、神級のスキル――【概念付与:絶対耐熱】、【概念付与:空間切断】、【概念付与:自動迎撃】を上乗せしておいたのだ。


その時、フレイムドラゴンが大きく息を吸い込み、灼熱のブレスを放った。

街ひとつを灰にしかねないほどの熱量が、俺たちを飲み込もうと一直線に迫る。


「フィリア、そのまま受け止めて!」


「ええっ、無理よ! 焼かれちゃう……!」


「大丈夫だって。ほら」


俺がフィリアの背中に手を添え、スキルを発動させる。

次の瞬間、フィリアの長剣が眩いばかりの神々しい銀色の光を放ち、ブレスの熱量をまるで氷のように真っ二つに切り裂いた。


「……え?」


「そのまま突っ込んでくれ。スキマは全部埋めてある」


フィリアは俺の言葉を信じ、目をつむって強く剣を振り上げ、ドラゴンの懐へ飛び込んだ。


――ズバァァァァンッ!


ドラゴンの強固な鱗をまるで紙のように両断する音。

フィリアが剣を振るう軌跡に沿って、空間そのものがわずかに揺らいだ。

フレイムドラゴンは断末魔の叫びを上げる間もなく、真っ二つに両断され、ドサッと巨大な体躯をマグマの脇に横たえた。


静寂が戻る。

フィリアは長剣を下ろし、信じられないという表情で自分の手元とドラゴンを見比べている。


「……うそ。Aランクのフレイムドラゴンが、一撃……?」


「お疲れ様、フィリア。やっぱり君は凄いよ」


俺が微笑みながら肩の灰を払うと、フィリアは涙目で抱きついてきた。


「もう……! レイルくんのサポートが凄すぎるのよ! 私、レイルくんがいなきゃ何もできないわ……」


彼女の温もりが伝わってくる。

『黄金の獅子』からは「無能」と見捨てられた俺だったが、今はこうして、誰かを全力で支え、感謝される喜びを噛み締めていた。


一方その頃――王都の冒険者ギルド

「な、なんだと……!? フレイムドラゴンを、あのFランクの鑑定士と少女の二人が討伐しただと!?」


ギルドの酒場に張り出された速報を見て、ギルドマスターがコーヒーを吹き出した。

周囲の冒険者たちも、言葉を失って硬直している。


「あいつら、まだ正式にはAランクになってすらいないのに……!」

「嘘だろ、伝説のパーティでも半壊するような依頼を二人で……!?」


人々が歓声を上げ、ギルド内はお祭り騒ぎとなった。

そんな中、鉄格子に入れられた勇者ゼクスの耳にも、その噂は届いていた。


「レイル……? あの役立たずが、フレイムドラゴンを……? バカな、そんなのありえない……!」


ゼクスは自身の拳で鉄格子を叩いたが、もはや彼を勇者として扱う者は誰もいなかった。

彼らの栄光は完全に崩れ去り、レイルこそが王都で最も注目される存在となったのである。

第7話・完

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