第11話:エルフの里の聖域と、無自覚な恩恵
「うわぁ……すごい立派な大樹……」
『精霊の森』の奥深く。
俺とフィリアの目の前に現れたのは、天を突くようにそびえ立つ巨大な『世界樹』だった。
根元には木造りの美しい建物が並ぶ、エルフたちの里が広がっている。周囲を漂うのは、濃厚な魔力と心地よい緑の香りだ。
「人間が里に入るのは、百年ぶりです」
里の入口で、弓を構えたエルフの戦士たちが俺たちに視線を向ける。
だが、彼らが俺の肩や背中に止まって戯れる精霊たちの姿に気づくと、一斉に目を見開いた。
「精霊たちが……人間にここまで懐くなんて……」
里の長老であるエルフの女性――エレナが、杖をつきながらゆっくりと俺たちの前まで歩み寄ってきた。彼女の瞳には、深い疲労の色が浮かんでいる。
「ふむ……。あなたからあふれる魔力は、世界樹の加護にも似た純粋なものですね。旅の冒険者よ、どうか私たちの願いを聞いてはくれませんか?」
「困っているなら、できる限りのことはしますよ」
エレナ長老の話によると、里の奥にある「聖なる泉」が、何者かの呪詛によって黒く濁り、世界樹の成長を妨げているらしい。このままでは里が枯れてしまうという。
俺は【鑑定】スキルを使って、泉の様子を覗いてみた。
【鑑定結果】
・名称:汚染された聖なる泉
・状態:古代の魔神の呪詛が蓄積している。
・備考:【概念付与:浄化の光】を流し込めば即座に分解される。
「……なるほど。呪詛が溜まって泉の回路を塞いでいるだけですね。ちょっと洗い流せば大丈夫ですよ」
「な、何を言っているのですか! それは先祖代々の大魔術師たちが総出で挑んでも浄化できなかった、古代の呪いですぞ!?」
護衛のエルフが声を荒げるが、俺は気にせず泉の前に立ち、水面に手をかざした。
「よし、いきますね。――『神の理』:【概念付与:浄化の光】」
俺の手から、眩いばかりの純白の光が放たれる。
光の粒子は水面に浸透し、真っ黒だった泉の水を一瞬で透明な湧き水へと変えた。それどころか、周囲の枯れかけていた草花が、まるで春が来たかのように一斉に花を咲かせる。
「「「……っ!?」」」
周囲のエルフたちが一斉に言葉を失い、その場に崩れ落ちた。
世界中の優秀な魔術師が何世代にもわたって解決できなかった厄災が、わずか数秒で解決したのだから。
一方その頃――王都の地下牢
「だ、誰かいないのか……!」
牢の中でガリガリに痩せこけた勇者ゼクスが、鉄格子を叩いている。
彼の装備していたはずの防具や聖剣は、加護の喪失と彼自身の不始末によって、すでにギルドに没収されていた。
「もう諦めろよ、ゼクス。俺たちはただの一般人に逆戻りなんだ。お前がレイルを追い出したせいで、俺たち全員の人生が狂ったんだ……」
かつての仲間であるミレーヌが、冷たい目を見せて呟く。
「違う! 俺は勇者だ! 魔王を倒すのは俺なんだよおぉぉぉ!」
誰にも相手にされず、ゼクスの悲鳴だけが冷たい地下牢に響き渡っていた。
エルフの里での新たな出会い
「あ、ありがとうございます……! あなたたちは、里の恩人です!」
エレナ長老が涙ぐみながら頭を下げる。
里のエルフたちも一斉に俺たちを歓迎し、お礼にと世界樹の雫や、特製の弓矢を贈ってくれた。
「レイルくん、本当に凄いわ……。あなたがいると、どんな奇跡も当たり前になっちゃうのね」
フィリアが嬉しそうに俺の手を握りしめる。
その温もりを感じながら、俺は優しく微笑んだ。
「俺の力は、これからも君と、必要としてくれる人のために使うよ。……さて、次はどこへ行こうか?」
俺たちの旅は、立ち止まることなくさらに広がっていく。
第11話・完
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