第12話(最終話):王都陥落の危機と、真の勇者の証明
精霊の森での依頼を完遂し、俺とフィリアは数日ぶりに王都の正門へと辿り着いた。
だが、そこにあったのはいつもの活気ある風景ではなかった。
「……何、これ。煙が上がってる?」
フィリアが息を呑む。
王都の至る所から黒煙が立ち昇り、悲鳴と怒号が遠くから響いてくる。
正門を守るはずの兵士たちは倒れ伏し、空には不気味な紫色の雲が渦巻いていた。
「急ごう、フィリア。ギルドか王宮に何かあったんだ」
俺たちは街の中へと駆け出した。
大通りでは、かつて見たこともないような禍々しいオーラを放つ魔族の軍勢が、街の人々を襲っていた。
「【鑑定】! ……嘘だろ、全部Aランク以上の魔物ばかりか」
どうやら、俺たちが森に行っている間に、魔王軍の幹部による王都急襲が始まったらしい。
王宮の結界が破られ、最強の騎士団ですら防戦一方となっていた。
王宮前広場・絶望の結界
王宮の正門前。そこには、アイリス騎士団長率いる精鋭部隊が、一際巨大な魔人――魔王軍四天王の一人、破壊公ザルガスと対峙していた。
「クッ……。これほどの魔圧、結界が持たない……!」
アイリスが膝をつき、肩で息をする。
周囲の騎士たちもボロボロだ。そして、その背後には、牢から「特例」として出撃を許されたゼクスたちの姿もあった。
「ゼクス! 聖剣を使え! お前が勇者なら、あの魔人を斬れるはずだ!」
アイリスの叫びに、ゼクスは震える手で錆びついた『聖剣エクスカリバー』を構えた。
だが、レイルの加護を失ったその剣は、もはやただの重い鉄の棒でしかない。
「う、うおおおおおっ!」
ゼクスが捨て身の突撃を敢行する。
しかし、ザルガスは鼻で笑い、巨大な指先一つでゼクスの剣を弾き飛ばした。
「――ガハハハ! 勇者だと? 研ぎ澄まされた魂も、神の加護も感じられぬゴミのような剣で、この俺を傷つけられると思ったか!」
ザルガスの豪腕がゼクスを叩き伏せる。
「あがっ……がはっ……!」
地面に転がり、泥にまみれるゼクス。かつてのSランクパーティの栄光は、見る影もなかった。
「終わりだ、人間ども。この王都ごと、塵に還るがいい!」
ザルガスが両手に巨大な魔力の塊を集める。
万事休す。アイリスが目を閉じた、その時だった。
「――【概念付与:絶対切断】。ついでに【概念付与:因果逆転】」
静かな声が広場に響いた。
レイルの帰還
「……レイルさん!?」
アイリスが目を見開く。
そこには、平然とした顔で立つ俺と、凛とした表情で長剣を抜くフィリアの姿があった。
「遅くなってすみません。ちょっと道が混んでて」
俺はフィリアの持つ『魔銀の長剣』の刀身を指先でスッと撫でる。
一瞬、王都中の空気が震えるほどの銀色の輝きが爆発した。
「レイルくん、準備はできてるわ。私、負ける気がしない!」
「いってらっしゃい、フィリア。最高の一撃を」
フィリアは地面を蹴った。
その速度は、もはや人の目では追えない。空間そのものを飛び越えたかのような神速で、彼女はザルガスの懐へと潜り込んだ。
「な……!? その剣、何だその神々しい気配は――っ!?」
ザルガスが驚愕する間もなかった。
フィリアが放ったただの一閃。
それは魔人の肉体だけでなく、彼が背負っていた巨大な魔力、さらには空を覆っていた紫の雲までもを、一文字に切り裂いた。
――パァァァァンッ!
王都を包んでいた闇が、その一撃で晴れ渡る。
四天王と呼ばれた魔人は、何が起きたのか理解できないまま、光の塵となって消滅した。
結末と新たな伝説
静寂が戻った広場で、人々は呆然と立ち尽くしていた。
アイリスが、そして倒れていたゼクスが、信じられないものを見る目で俺たちを見つめている。
「……一撃? 四天王を、あんな小さな剣で、一撃だと……?」
ゼクスは壊れた玩具のように呟き、やがて力なく項垂れた。
自分の持っていた『聖剣』はただの飾りで、俺が隣にいたからこそ輝いていた。その真実を、彼はこの絶望的な敗北の中で、完全に突きつけられたのだ。
「レイルさん……。あなたは、本当の……」
アイリスが駆け寄ってくる。
俺は苦笑いしながら、彼女の言葉を遮った。
「いえ、俺はただの鑑定士ですよ。彼女の剣を、少しだけ『手入れ』しただけです」
「レイルくん、またそうやって……。でも、ありがとう。あなたのおかげで、この街を、みんなを守れたわ」
フィリアが俺の手を握り、最高の笑顔を見せる。
王都の人々から、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
その日、Sランクパーティ『黄金の獅子』は永久に解散となり、ゼクスたちは冒険者資格を剥奪され、辺境の開拓地へと送られることになった。
一方で、Fランクから瞬く間に駆け上がった『鑑定士レイル』と『剣士フィリア』の名は、救国の英雄として、世界中に語り継がれることになる。
「さて、フィリア。報酬で美味しいものでも食べに行こうか」
「ええ! もちろんレイルくんのお奢りね!」
夕日に染まる王都を、俺たちは肩を並べて歩き出す。
俺の力は、これからも俺を信じてくれる人のために。
最強の付与術師による、自由で気ままな旅は、まだまだ続いていくのだから。
第12話(最終話):完結
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ブックマーク登録と評価「★★★★★」をいただけますと、今後の活動の励みになります!




