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6話 地球の星歌 その2

「日本のアニメやゲームの曲で星歌っぽいといえば、ドラゴンクエストのオープニング曲でしょう?」


【No.5 序曲:ロトのテーマ 作曲:すぎやまこういち】


 ミンミがドヤ顔で指摘し、ナミーがすかさず検索して曲を流す。


「ふふふ、たしかにロトのテーマを推す日本オタク達は大勢いるが、それは浅いオタクだ。とっても惜しいが真のオタクは別の曲を候補に挙げるのだ!」


「いやー、別に私は日本オタクのつもりはないし-」


「でもたしかに星歌にふさわしい感じはしますね。日本で開催された世界的な競技会、えーとオリンピックって言うんでしたっけ? それの入場行進曲に使われたんですよね」


 重度の日本オタクのスラカンとアイドルのミンミが対立すると、すかさず仲裁するようにレッソルが介入するようになっていた。


「そうだ! 世界中が注目するオリンピックの入場行進曲の一発目に、ゲーム音楽を使ってしまうなんて、さすがは日本だな!」


 レッソルの介入には、スラカンもまんざらでもない感じだ。


「それでレッソルの推薦はなんだ?」


 先ほどミンミに問われたときは、バッハの曲とまでは答えたが、その後はキサリーが引き継いで答えてしまったため、具体的な曲名を挙げずに済んでしまったレッソルだが、今度はスラカンからも問われてしまった。


「うーん……」


 実はレッソルは音楽にはあまり興味が無いため、地球の音楽はよく知らないのだった。それでも良い感じの曲を挙げなければならないというプレッシャーのため、余計に候補が思いつかなくなってしまった。


「じゃあナミーはどうなんだ?」


 なかなか答えないレッソルの業を煮やしたスラカンは、もうひとり候補を挙げていないナミーに照準を変えてみた。


「私はドボルザークの『新世界より』の第4楽章が好きだわ」


【No.6 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』第4楽章 Allegro con fuoco 作曲:ドボルザーク】


 すかさずナミー自身の検索により、いきおいのあるこの楽曲が流れる。


「たしかに地球は我々にとっては『新世界』だな。そう考えればふさわしい曲だ」


「なにぃ! 地球が自(みずか)ら『新世界』というのはおかしいとか言うつもり?」


 またスラカンとミンミのバトルが始まりそうになる。レッソルは再び仲介しようと考えるが、自分の推薦曲が思いつかないので躊躇(ちゅうちょ)してしまった。


「ははは、そんなユーモアがあっても良いじゃないですか」


 レッソルが躊躇している間に、ゾブソーラが2人の間に入ってきた。


「まあたしかにユーモアは必要だ…… ところでゾブソーラは先ほどカノンと言ったのはもちろんユーモアだったんだよね?」


 ゾブソーラの低く落ち着いた声に、ミンミもスラカンも冷静さを取り戻したようだ。そして、スラカンは介入してきた者にはとりあえず何らかのツッコミを入れる癖(くせ)があった。


「もちろんパッヘルベルのカノンを本気で地球が星歌にするとは思ってないよ。私が心の底から好きで、星歌になって欲しい曲といえば、『展覧会の絵』だな」


【No.7 組曲『展覧会の絵』 作曲:モデスト・ムソルグスキー】


 実際の曲を流すのはすっかりナミーの役割になったようで、みんなの注目が集まるのだが、ナミーは少し戸惑っていた。


「あー、オリジナルのピアノ曲ではなく、管弦楽に編曲されたバージョンのプロムナードでお願いします」


「やっぱりそうよね…… ピアノ曲では少しわびしい感じだわ……」


「個人的にはそのわびしさが好みなんですが、星歌とするならやっぱり管弦楽バージョンです。特に金管楽器のソロから始まる出だしが良いです」


 ゾブソーラのいうとおり、印象的なトランペットソロから始まる『展覧会の絵』の演奏が流れる。


「うーむ、たしかに面白い曲ではあるが……」


「で? スラカンさんの推薦は何?」


「ふふふ、これで7曲の候補が出たか…… やっと俺の順番が回ってきたな……」


 スラカンはミンミの質問に不敵に笑いながら、ウェアラブル端末を操作し始めた。そして拡張現実(AR)映像の受け入れを許可している者には、網膜上に表示される仮想の鍵盤が見えるようになった。どうやらスラカンは将棋で使っていたAR手袋を用いて、AR演奏を行うようだ。


「それでは!」


 スラカンは両手を広げて鍵盤の上にかざすが、実際に演奏を開始すると右手の指だけで単音のみのメロディーを演奏する、とても拙(つたな)いものだった。


「ま、まあ、いいメロディーね」


 ミンミもさすがに演奏をけなすのはオーバーキルだと思い、とりあえずメロディーを褒(ほ)めることにした。


「この曲、聴いたことあります。たしか日本のゲーム音楽でしたよね?」


 キサリーには聞き覚えのある曲だった。


「どうだ、素晴らしい曲だろう!」


 スラカンは8小節の短いメロディーを真剣な面持ちで弾き終えると、再びドヤ顔になった。


「メロディーはとても良いとは思うけど、これが地球の星歌となる運命をもった曲なの?」


「このエイトメロディーズという曲は元はゲーム音楽なんだが、小説版では星歌という設定だったのだよ!」


【No.8 エイトメロディーズ 作曲:鈴木慶一、田中宏和】


 ナミーが演奏の終了を待ってから曲を流したのだが、英語の歌詞が曲についていた。


「あら、素敵な歌詞ね」


 使節団員は2言語以上の地球語の習得が選定条件なので、全員英語はかなり理解できる。そのためこの曲の平易な歌詞は問題なく聴き取れていた。


「今度の配信では、この曲も歌おうかしら?」


「う、うむ、良いと思うぞ!」


 ミンミは地球ではユーチューバーと呼ばれるようなネットでの動画配信を行っている。もともとクイーンの曲を練習していたのも、その配信で歌うためであった。


 そして、メロディーと歌詞を暗記したミンミは、自分でも弾き語りを開始する。

 そこにいたメンバーも釣られて歌い出した。みんなの心がひとつになった瞬間であった。



 いや、1人だけ、心をひとつにできない者がいた。それは、候補曲を聴かれて答えられていないレッソルだった。そして、やっと良さげな候補曲を思いついたのだが、今さら言い出す雰囲気ではなくなってしまったため、諦めて一緒に歌い続けるレッソルであった……




すぎやまこういち先生のご冥福をお祈りいたします。

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