↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

4話 太陽系第3惑星地球へ

 銀河連邦軍管轄の中継ステーションでは、すぐに連絡船に乗って地球使節船に向かうことはせず、前年度までの使節団員との懇親会が設けられた。昨日までは何百光年も離れたところに住んでいた者達が、初めて直接顔を合わせて会う機会であったが、事前にネットを介した会議を重ねていたので、初対面という感じは持っていない。狭い船内で1年もの共同生活を送るため、事前にみんなが協調してやっていけるかの確認を実施していたのだった。

 またこの懇親会の間に、前任者が使用していた居室をクリーニングするための作業時間が取られていた。居室は使節船に連結された居住船内にあり、浴場や広場などの憩いの場も船内に設けられている。


 今年度の使節団員の目玉は、芸術家でアイドルのミンミだ。これまでの3回の使節団は真面目なエリート研究者ばかりが選ばれていたが、ミンミは初めての非大学卒業者だ。進学率が2割ほどしかない高校には入学しているので、それなりに勉強は出来るが、飛び抜けてエリートとは言えない。

 彼女は高校在学中に音楽の才能で人気に火がつき、さらに絵画も売れて忙しくなり、高校は中退している。アイドルとして忙しい日々を過ごすうちに、地球発見に興味を抱(いだ)き、2カ国の地球語を猛勉強して使節団に応募したのだった。使節団員への応募資格は、2カ国語以上の地球語の習得が条件であり、地頭の良かったミンミは見事それを成し遂げたのだった。

 昨日までのネット越しのミンミは、生まれつきの褐色の肌に黒髪であったが、今日は派手な七色の蛍光色に髪を染め上げていた。それがやけに似合っていたので、彼女に文句を言う者はいなかった。

 ミンミはアイドルと言ってもローカルな惑星内の有名人だったが、使節団員となって以降は銀河中にその名を知られた超有名人となる。


 他に目立つ存在としては、低重力惑星ヒーヌをルーツに持つソウ人のゾブソーラだ。惑星ヒーヌは約0.3Gと低い重力のため、ソウ人は他の人種と異なり平均3mと高い身長を持つ。惑星ヒーヌは惑星トヤから銀河中へ版図を広げていたニュゼン人が初めて出会った異星の知的生命体であった。次に発見した知的生命体である惑星ドゥのウウ人と、最近発見した地球人は惑星の重力も近く、大きく変わらない外観をしている。彼らの身体を構成する材料のアミノ酸やタンパク質などの構造はまったく同じで、外観もソウ人を除けば大差ないのだが、DNAの順番はバラバラでお互いの自然な交配は出来ない。ニュゼン人とウウ人のDNAを混ぜ合わせた人工生命としてウゼン人が創造されており、今回の使節団員ではレッソルが該当する。

 ソウ人のゾブソーラはソウ人としては身長低めの245cmで、これは他の人種に合わせて設計された使節船への適合を考えて、意図的に選抜されている。また他の人種は1G環境が快適な重力であるのに対して、ソウ人にとっては相対的には3G以上の重力となり、立ち上がることも困難であるため、常に重力を調節する装置を身にまとっている。

 ソウ人は低重力環境で進化してきた生命体のため、他の人種と比べて力は弱いが、脳は大きく、思考能力や記憶力は高い。しかし温厚で闘争心が低いためか、科学技術の飛躍的な発展がニュゼン人よりも遅く、文明の発祥はソウ人の方が早かったが、空間エネルギー発電や超空間ゲート、重力制御装置の3大発明もニュゼン人に発見されるまで出来ていなかった。



 懇親会の翌日は、とうとう使節船に搭乗だ。使節船の実態は宇宙戦艦でもある。宇宙戦艦として、強力なレーザー砲、3G以上の加速力、充分なステルス性能という定義をクリアし、地球の全兵力と戦っても余裕で勝てる戦闘力を保有していた。使節船が倒せない地球の兵器は、海に潜(ひそ)む潜水艦くらいであり、地球の技術力ではステルス性を発揮した使節船を発見できず、超長距離からのレーザー射撃で一方的に攻撃されるだけだ。

 その宇宙戦艦には機密が大量にあり、使節船といえども搭乗するには多くの制限が課せられる。民間人であっても、非常時には軍隊の指揮下に入って行動することが求められ、いろいろと機密に接する機会があるからだ。


 レッソル達使節団員は、入念な検査を受けたのち、まずは連絡船に搭乗する。中継ステーションを発進した連絡船は、地球へと繋がる超空間ゲートへと向かう。連絡船は使節団向けの専用船ではなく、通常は銀河連邦軍の輸送艦として使われている。



「お、遠くに見えるのは新型の惑星改造船かな?」


 レッソルは窓超しに惑星改造船を見つけ、横に座る同僚に話しかける。髪と肌が白く、ややぽっちゃりの日本オタクの男、スラカンだ。銀河連邦内では地球発見と同時に新しい文化への注目が集まったが、特に目を惹いた文化のひとつに日本があった。19世紀後半にヨーロッパで発生したジャポニズムが、100年以上の時を経て銀河系でも流行したのだった。そのジャポニズムに傾倒した者達を日本オタクと呼ぶのだが、自らも自称しており、そこに蔑称の意図はない。


「へー、『小さい傘』ってこんなところにいるんだ。初めて見たけど、大きすぎて距離感がバグってくるなw」


 『小さい傘』というのは、惑星改造(テラフォーミング)で太陽光を遮断や反射する傘を開いたときに、惑星すべてを覆う必要がないので傘が少し小さめに作られており、惑星がはみ出して見えることから名前がついている。宇宙船としては他に比類ないほどの大きさなのだが、惑星との対比であえて小さいと名付けられているのがポイントとなっている。 ちなみに現在の銀河連邦内では、傘を使う者はほとんどいない。軽い雨などは重力制御で弾き飛ばしてしまうので、余計な物を持たずに済むのだ。


「対いん石用に強力なレーザー砲を備えているし、あれ自体が巨大な質量兵器として使われる可能性もあるからね」


「コロニー落としだなw」


 日本オタクのスラカンは、もちろんガン○ム知識もちゃんと備えていた。



「はい、そろそろゲートを通過して太陽系に入りますよ!」


 客室の前方で、使節団のサイラエス団長が声を上げた。彼女は42歳とこの使節団の中では年配で、去年は使節団の副団長も務めていたベテランだ。42歳でも銀河連邦ではアンチエイジング技術が進んでいるため、20代にしか見えない。


「おっ、レッソルの腕時計って機械式?」


 レッソルが腕時計の時間を確認しているのを、スラカンは不思議そうに見ていたのだが、やがてレッソルがしている腕時計が機械式であることに気づいた。

 銀河標準時間は空間エネルギーや重力制御装置、超空間ゲートを発明した惑星トヤで一番長い歴史を紡(つむ)ぐホンド国が基準となっており、使節団の標準時間のひとつとなっている。しかし『太陽系』に存在する使節船のメインの標準時間は地球の協定世界時(UTC)となる。UTCとはグリニッジ標準時(GMT)を修正したものであり、現在の『地球』の標準時だ。


「これは僕が自分で設計と組立をした機械式腕時計で、既に地球の協定世界時に合わせてあるんだ」


「へー、ちゃんと脱進機の周期も地球基準にあらかじめ設定した時計か…… 確かにそんな機械式時計は市販されてないよね」


 他の使節団員で腕時計をしている者はすべて電子制御の時計だ。時間も狂わないし、現在位置の標準時に自動的に修正してくれるし、薄くて軽いし、防水性や耐衝撃性も高い。その便利な腕時計さえ、使っているのは半数以下だった。時間が知りたいときは、ウェラブル端末に声や手振りで指示すれば、すぐに網膜上に時間を表示してくれる。

 機械式腕時計だと、振り子時計の振り子の役目をする脱進機の周期が、その調整範囲内に各惑星の1秒が収まらないことが多く、多くはその惑星専用となってしまうという問題があった。また、多くの惑星は地球と同じく1日を24時間としているが、自転周期が中途半端な惑星だと6時間とか30時間となる場合もあった。そうなると文字版も変更する必要が出てくるため、ますます機械式腕時計を使うのは厳しくなる。そんなわけで恒星間を旅する者達は機械式腕時計を使わない者ばかりだが、恒星間の移動を伴わない一般の人々のなかには、趣味として機械式腕時計を愛用する者も多くいる。


「まあ、地球と自転周期の近い惑星用時計の設計を流用したので、そんなに難しくはないよ。居住船にも3Dプリンターがあるので、スラカンも作ってみる?」


「わー、私も作ってみたい! 落ち着いたら教えてくれる?」


 前列に座っていたミンミが立ち上がって振り返り、レッソルにとびきりの笑顔を向けてお願いをした。アイドルをやっているだけあって、レッソルが今まで会ったことのある女性の中でも一番の美女だ。どきまきする感情を抑えて、冷静に返事をしようと心がけた。

「も、もちろんOKだよ。居住船の3Dプリンターについて調べておくよ。性能とか部材とか予約方法とか……」


「ありがとね、レッソルさん!」


 前日の懇親会でもあまり話せていなかったミンミとの突然の会話を、なんとか無事にこなせたレッソルであったが、その後も他の使節団員に機械式腕時計のことを質問され、最終的には団員全員で統一のマークを入れた腕時計を作ることになった。マークを考案するのはもちろん芸術家で絵の才能もあるミンミだ。ミンミがデザインした団員限定のオリジナル機械式腕時計は、後々高いプレミアムがついた貴重品となる。



 連絡船は無事に地球付近のゲートを通過した。新たに発見した知的生命体が居住する惑星を直接肉眼で視認した銀河連邦人はまだ300人にも満たないとされており、使節団員達もしばらくは地球の姿に釘付けとなった。

 超空間ゲートは銀河連邦の科学技術力だと遠くからもその位置を発見できるのだが、まだ地球の技術力なら発見は難しいと考えられている。しかし、万が一と言うことがあるので、ゲートは地球から100万km以上離れた場所に設置されている。この距離は光速でも約3.6秒もかかり、銀河連邦内と通話をする際は往復で7秒以上の遅延が発生することになる。ちなみに地球と月は約38万km、光速で約1.3秒の距離だ。

 5Gもの加速力を誇る連絡船でも、ゲートから使節船までは4時間程度を要する。しかし、先ほどのオリジナル腕時計の話で団員達は盛り上がっており、だんだんとその姿を大きくする地球に対する興奮と相まって、使節船まであっという間の船旅となった。


 使節船に到着した連絡船は、使節船ではなく居住船にドッキングし、団員達は定められた部屋にまずは向かう。ひとりひとりに2DKと充分な広さの部屋が与えられており、先に送っておいた荷物を開梱して部屋の整理を行う。


 居住船は曲がりなりにも戦艦として機能する使節船とは異なり、戦闘能力はほとんど持たず、加速力も1G程度しかない。その替わり団員向けの充分な広さを持つ居室や、食堂や公園、運動場なども備えている。


 団員達が居住船の食堂で昼食をとったあとは、やっと使節船に入り、会議室で最終的な注意事項が船長から教育される。使節船を運用するのはすべて銀河連邦軍所属の軍人であり、戦艦でもある使節船の機密に触れる事項はこうして直接対面で教育を実施するのであった。

 大気圏飛行能力のない居住船では地球人を招き入れる事態に対応できないため、使節船にも会議室が設けられている。そして、地球人を歓待するための小型宇宙船も使節船に付随している。展望ガラスが大きく、大気圏飛行能力を持つ小型宇宙船カノープスは、使節船での様々なイベントの会場にも使用されており、そして今回は使節船での最初の晩餐ということで、再び懇親会会場として使用されることとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。