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3話 レッソルの出発

「お前は我が家の誇(ほこ)りだ! 一所懸命務めを果たすんだぞ!」


「体には気をつけて、それと三日に一回くらいは連絡をよこすんだよ、レッソル……」


「ああ、わかっているよ。じゃあ、行ってくる!」


 レッソルは父母に見送られて家を出た。この生まれ育った家には1年も帰ってこられなくなる。これほど長く家を出たことなどもちろんない。たとえ恒星系内の他の惑星に出かけるとしても、超空間ゲートを使えば日帰りが可能なのだ。


 ゲートをいくつか通過して、地上と軌道ステーションとの連絡船が発着する赤道直下の連絡港に到着した。全身と手荷物をスキャンされてから、軌道ステーションへの連絡船に乗り込む。手荷物といっても、必要な生活用品は別途郵送しているので、肩掛け鞄くらいだ。


 地上と軌道ステーション間には物理的な超空間ゲートは設けられていないため、わざわざ連絡船で移動する必要がある。なぜそんな手間をかけるかというと、恒星系外からの防疫やテロ対策などの安全保障上の理由が挙げられる。恒星系外からの人や物は軌道ステーション内で入念なチェックをしてから、恒星系内に迎入(むかいい)れるのだ。


 連絡船は空間エネルギーを利用した発電機による電力を用いて重力制御を行い、地上から約36,000km上空の軌道ステーションまで1時間程度で飛行する。空間エネルギー発電機と重力制御装置、超空間ゲートの3大発明によって、銀河連邦はその版図を光速に近い速さで銀河中に広げているのだった。


 レッソルは軌道ステーション到着後に再び入念なチェックを受け、ロビーでお茶を一服する。まだ家を出てから2時間も経っていないので疲労はないが、ロビーの窓から眺める宇宙船をゆっくり眺めることは、宇宙船への興味が尽きないレッソルにとって至福の時だ。主な注目対象は数時間以内に出発すると思われる大型の貨客船で、現在はスキャンを受けた貨物コンテナを宇宙船のコンテナ収容部に接続しているところであった。ひっきりなしに多数の小型宇宙船がコンテナを大型宇宙船に運んでいるのが見える。小型宇宙船はAIコンピュータによって芸術的にさえ見える連携した無駄のない動きで、効率的にコンテナを運搬してゆく。軌道ステーションからのボーディングブリッジを通して、乗客も乗り込み始めたようだ。

 軌道ステーションから恒星間超空間ゲートまでは、1Gの加速度で1日掛かる距離にある。銀河連邦ではこの距離を銀河標準宇宙単位と呼び、およそ1,550万kmもの距離がある。わざわざ遠いところに恒星間ゲートを設けているのは、検疫やテロ対策などの安全保障上や、恒星系内の産業保護のための非関税障壁が理由だ。光ファイバーのみを通す恒星間情報ゲートは惑星上にも多数設置されており、銀河連邦内のほぼすべての拠点間通信をわずかなタイムラグで結んでいる。

 大型宇宙船の加速度は0.2G程度に抑えられており、恒星間ゲートまでは2日以上の運行時間を必要とする。宇宙船への課税は最大加速度によって決まるため、恒星間ゲートまで1日で到着するための1Gの加速力を持つ宇宙船は少ない。また旅客船内の加速度は健康維持のために0.2G以上と定められており、つまり旅客船としては0.2Gの加速度で運行するのが一番コストパフォーマンスが良いことになる。


 レッソルが今回搭乗するのは2日以上かかる大型宇宙船ではなく、3G以上の加速力を持つ高速宇宙船であり、恒星間ゲートまでは半日程度で到着する。チケットは大型宇宙船よりも10倍以上高いので、レッソルも自腹で利用するのであれば大型宇宙船を選択するのだが、今回は重要任務に赴(おもむ)くという理由で公費でチケットが支給されている。宇宙船自体は3Gで加速するが、乗客エリアは2G分をわざわざ相殺するように重力制御されており、地上と同様に1G環境となっている。レッソルも過去に大型宇宙船で恒星間ゲートとの往復を何度か経験しているが、高速船の利用は初めてのため非常に楽しみにしていた。

 ただし、現在の地球でいえば飛行機程度の船体サイズの高速宇宙船の船内は狭いので、ほぼ座って過ごすことになるが、空母以上のサイズを持つ大型宇宙船の船内は広く、レストランやバー、大浴場、ゲームコーナーなどの施設もあり、席もカプセルホテルのようなものからスイートルームまで幅広い種類があり、それなりに快適に過ごすことが出来るためレッソルは嫌いではなかった。現在の地球でいうと、豪華客船の設備には遠く及ばないが、長距離フェリーと同レベルの設備は有している。0.2G環境下でのんびり過ごしていれば、うんざりする前には目的地に到着していた。


 レッソルの乗る高速宇宙船は大型宇宙船さえもまるごと通す巨大な恒星間ゲートを抜けて、その先の中継ステーションにて下船する。中継ステーション間の超空間ゲートを徒歩で2回通過した先に、関係者以外立ち入り禁止の銀河連邦軍管轄の中継ステーションに到達する。そこには派遣先の使節船へとレッソルを運ぶことになる連絡船が待っていた。


 今回の派遣先は、銀河連邦の版図を広げている亜光速宇宙船が5年前に発見した新たな知的生命体、『地球人』の住む『太陽系第3惑星 地球』だ。




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