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 生きていくためにわたしたちに必要なものが一つだけあるとしたら。

 それは変な話、酸素でも、食べ物でもない。

 そういうのは全部二次的なものだ。

 わたしたちに必要なもの。


 それは『決意』だ。


 決意がなければ、時計の針がひたすらに進むだけで、わたしたちの時間は動き出さない。なにかを決意した瞬間に、歯車はすべて噛み合い、動き出す。


 これまで長いと思ってきたあらゆることが、一瞬で終わる。








 まずはじめに、大事なことを一つ。


 自殺志願者たちが借金をして集めた金は、テレビ放送枠の買い取りにほとんど使った。

 全国区、朝の情報番組の間の五分間。

 とてつもなく高価な五分だったが、ネット配

信なんかよりもずっといい宣伝になった。



『あ、……おはようございます。阿左美ちひろです』


 と倉庫内に一人で立つわたし。


『今、他局で、行方不明の女子高生のニュース、やってますけど、チャンネル回せばここにいるっていうね。あ、どうでもいいですね。急ぎましょう』


 倉庫の中を移動する。


『カメラさんこっちです。えーと、これ水爆。あのー、詳しい作り方とか作ってるときの動画とか、ネットにあげてるんで検索してください。メタルっていう人の動画チャンネルです。で、この放送は、みなさん、わたしのいうことをきかないとこれ爆発させますよ、という内容です』


 テロップで【メタル 水爆 で検索】と表示される中、わたしが前に出る。

 そして傍らに置いてあった黒いズボンをはき、スカートを抜いで、黒のパーカーを着て、フードを被った。


『こっちです』


 といって、画面には同じ格好をした大勢の人々が映される。

 銃を持っている者が何人かいて、わたしも拳銃を手に、彼らの中央に立った。


『明日、正午、首相官邸を空けといてください。べつにここからでもいいんですけど、やっぱり、官邸を占拠したほうが、みなさん危機感でると思うんで。官邸内に一人でも人が残っていたら、即、核爆発です。こちらになにか質問をしても核爆発。首相官邸、べつに何に使ってるってわけでもないし、いいでしょう? ただ立ち退くだけです。それで、この国がわたしのいうことを即座に聞けるかどうかを見極めます。できなければ核爆発です』


『核爆発いいすぎじゃないか?』

 というスガワラの声をマイクが拾った。


『ええと……、うん、あと補足ですね』


 後ろからの野田の耳打ちを受けて、わたしはいう。


『この水爆、誘爆しますし、衝撃にも弱いですから、わたしたちに攻撃を仕掛けようとは思わないことです。さらにこれ、わたしたちが定期的に入れるパスコードで起爆が延長されています。つまりわたしたちだけをうまく殺しても結局は核爆発。というか攻撃する気配をそちらが見せた時点で爆発させますんで。えーとわたしたち、全員自殺志願者で、この世に未練とか全然ないんで普通に起爆ボタン押しますから。とにかく明日、首相官邸行きますんで、空けといてください』


 そこでちょうど五分。

 放送が終わった。



 わたしは野田のスマホで、録画されてネットにあげられたその映像をもう何回も観ていた。


「雑だなぁ……」


 とつぶやく。


「だいたい生放送じゃなくて、録画編集したものを流せばよかったんだよ。今更いったって遅いけど」


 動画の再生回数を見る。

 今、一千万回再生を少し超えたぐらいだ。

 テレビでもフルサイズで飽きるほど流れてるらしいし、こんなものだろう。


 コメント欄を見ると、ただひたすら『死ね』とか『怖い』とか、『テロに屈するな』とか。そういうのが延々と続いている。

 これを見ると、事に関わってない人の発する言葉にはなんの意味もないんだな、結局、と思う。わたしとか、この人々とか、この世界にとって実際のところ重要なのは、政府がどういう対応をとってわたしがどう動くか、ただそれだけだ。


 一千万回再生か。

 去年バカ売れした有名アーティストのMVにはぜんぜん届かないな、と思いながら、


 わたしは首相官邸の閣議室に座っている。


「空けてくれて、どうも」


 とつぶやいた。

 周囲ではバタバタと慌ただしく、撮影機材のセッティングが行われている。


 今度は『放送枠を買い取った』ではない。特別番組を作らせた。もちろん向こうにもわたしたちを撮りたい思惑があっただろう。


 十八時になった。

 事前に予告していた、わたしからの本要求の全国放送が始まる。


 正面から向けられたカメラを見ながら、思った。


 あ、結局わたし、カメラの前にいるな……。

 脱いでるか脱いでないかの違いだけだ。

 でもこれって、服を脱ぐよりずっと、自分をさらけだして、魂をむき出しにしてるのかもしれない。



『もう、はじまってますよね。…………。はい、こんばんは、阿左美ちひろです』



 わたしは話しだした。





『



 よかった〜……。

 正直、昨日のあの五分間番組、誰も観てくれてなかったらどうしようと思ったんですよ。

 でもみなさん観てくれて、政府も反応してくれて、安心しました。



 まずですね、えーと。


 今度は時間がありあまってますからね、ダラダラ話しちゃいそうで怖いですね。

 でも昨日みたいなバタバタだと、伝わるものもなかなか伝わらないので、ある程度まとめてから話すようにします。


 そうですね。

 まずわたしのことから。


 わたし、阿左美ちひろです。

 こうなったことで、今わたしについて、色々と憶測とか疑問とか、そして父の発言も含めた誤情報も飛び交っていますが、それらをいちいち否定したりしていくのは手間なので、簡単に、真実だけをお伝えします。


 わたしは父に、借金のカタに売られようとしていました。

 売られないために講じたあらゆる手段が失敗しました。

 大人はあてになりません。

 世の中もあてになりません。

 もうあとは、世界から逃げるか、世界と戦うか、その二択しかありませんでした。

 わたしは戦うほうを選んだ。以上です。


 わたしの仲間たちも、境遇は似ています。

 みんな、世界から逃げようとしていました。

 そこでわたしは戦いに誘いました。もしこれで世界が変わるのなら、わたしも彼らも、逃げずに済むかもしれない、そう思って。



 以下、日本政府への要求です。


 わたしたち…………いや、わたしを、この国の最高地位の存在として扱え。


 たいていのことはこれまで通りやってください。みなさん、政治をしてください。仕事をしてください。生活をしてください。ただ、わたしの指示があるときは必ずそれに従ってもらいます。



 まぁ、基本……、

 ぐだぐだいうのは好きじゃないし、これ以上説明することもないと思うんで、わたしがいうのは、こうしてください、というだけです。

 この件に関しては以上です。



 あーーー、うん、そうだな……。


 あとね、今、困ってる人。


 どうしようもなく困ってる人、いるでしょ。


 わたしみたいに売られようとしてる人…………はそうそういないか。


 でもにっちもさっちもいかなくなってる人。


 いろんなことを試したけどだめで、


 あとはもう、死ぬしかないって人。


 …………。




 ここまで来い。




 わたしが守ってやる。


 手をあげろ。


 表明しろ。


 ――わたしは虐待をうけています。


 ――いじめられています。


 ――死に迫られています。



 わたしが、あなたたちを受け入れる。

 この世界を、あなたたちが生きられる世界に変える。

 信じて……飛び込んできてください。



 はい、以上。


 この放送のあとは、アニメでも放送しといてください。

 べつにこれ、こわい話でもなんでもないんで。

 わたし、へんなことするわけじゃないんで。

 子どもたちには、不安にならないように説明しといてあげてください。



 それじゃあ。

 国家元首……? 阿左美ちひろでした。


 さよなら〜



』

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