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三日後。
市外にある、物流事情の変化で使われなくなった港湾倉庫に、わたしと、野田と、――四十九人の男女が集まった。
アウトドア用の照明が彼らの顔を照らす。
その表情はひとり残らず困惑の色を浮かべていた。
「なんだこれ……。どういうことだ」
茶色い髪を逆だてた、痩せた男がいった。
「行方不明少女」
異様に体格のいい男がいった。
「そうだ、行方不明少女だ」
と、まわりの者たちも騒ぎだした。
全員の視線をうけて、ドラム缶の上に座ったわたしは、にこりと笑った。
「阿左美ちひろです。はじめまして。【自殺志願者】のみなさん」
上向きにひろげた手を、前に伸ばした。
「そして賛同、ありがとうございます。わたしの提案は、あのサイトであげた音声データのとおりです。【死ぬ前に、おもしろいことをしましょう】【死に近づいたわたしたちにしかできない、とんでもないことを、この世界に仕掛けてやりましょう】」
思いつきと勢いでアップロードした音声データは、掲示板の中で一際目を引いたらしい。
まぁ、若い女の声だったことが影響してるのは間違いないだろう。集まったのは男の比率が圧倒的に多い。
それに単に好奇心で見に来ただけの人がほとんどだと思う。
でも結果、正解だった。
わたしはすっと息を吸った。
「これから、みなさんにしていただくことは――」
「殺し合いか?」
わたしの発言に割り込んで、体格のいい男が薄笑いでいった。
身長、一九〇センチはあるな、と思った。重機みたいな筋肉質の体……体重、一一〇キロ……たしかにありそうだ。
「殺し合い。うん。つまらないですね」
とわたしは切り捨てた。
「みなさんにしていただくのは、【借金】です」
彼らはざわついた。
「人によって借りられる額は違いますが、限度額いっぱいまで借りてもらいます。そうして集まったお金が、わたしたちの活動資金です」
「……その活動っていうのは? 俺たちはまだ、何をやるかを知らされてないんだけど」
男の一人がいった。
わたしはうなずいた。
「この国にクーデターをしかけます。武器を保持し、その力で国を制圧、コントロールする。この日本を、わたしたちが動かすんです」
しんと場が静まった。
「ここにいる方たち、大半が、この社会の歪みの犠牲者じゃないですか? わたしもそうですが、社会が変われば……もっといえば、自分たちがそれを作る側にまわれば、死ぬ理由なんてなくなるんじゃありません?」
わたしはつづけた。
「おもしろくないですか。いわばこの国に殺されようとしているわたしたちが、この国に逆襲するんです」
そこまでいったとき、失笑の声があがった。
つづいて、二つ、三つと、彼らの中から笑いが漏れだした。
「いや、すごいよ」
そういったのは、一番最初に吹き出した、髪を逆立てている痩せ型の男だ。
「十七歳にしてはよく考えたね。えらいね」
まわりが笑いだした。
痩せ男はつづけた。
「ちなみに武器ってなにかな? 銃ぐらいじゃあ銀行強盗もまともにできるかわからないよ? あと、『この国を制圧する』って、具体的にどこを? 国会とか、首相官邸とかいいださないよね、まさか」
「この国とは、この国のことです。どこか特定の場所は指しません」
わたしはいった。
彼は顔を歪めた。
「は? どういう……」
「武器は、爆弾ですね」
わたしはそういって、男たちの中から一人、汚いボサボサ髪にメガネの男性を手招きして呼びよせた。
「今日みなさんと会う前に、この方とだけ事前に連絡をとらせていただきました。ご存知、『メタル』さん。誰からもレスをもらえない『メタル』さんこと、K大学物理学教授の渋沢博さんです」
メタルさんは大の大人だというのに、びくびくしながら頭をさげた。
「ば、爆弾、つくれます。材料も、僕は、にゅ、入手しやすい立場にあり」
「ちょっといいか」
体格のいい男が手をあげた。
「俺は自衛隊にいたことがある。爆弾を扱ったこともあるし、用途は知ってるつもりだが、国を脅すのにははっきりいって威力不足だ。そりゃあ、全国の家庭に一台ずつ設置するなら話は別だが」
「ですよね」
とわたしはいった。
「わたしもそう思いました。どうしようかなって。作れる爆弾の数は無限じゃない。だから首都に集中させるとか。各地の主要施設だけを狙うとか……。でもどちらもこの国を屈服させる有効打にはならない。有効打にならないってことは、規模で劣るこちらに勝ち目はないってことです」
野田のほうをちらりと見た。
すこしうつむいてこっちの様子をうかがっている。
わたしの突拍子もない考えをいちいち現実的な側面から修正してくれたのは彼だ。そもそもわたしは国というのがどうやって動いているのかもよく知らなかった。
「思いつきはしたけど、実現は無理だろうなと思いました。命に未練はなかったですが、ダメもとで闇雲にとにかくやろうという気分ではなかったです。わたしの個人的な事情なんですが……自分のせいで人が死ぬのはNGなので、それだけのことをするならスマートに事を運ばなきゃならない。成功確率が圧倒的に高くないとやる意味はないと思っていました」
ですが、とわたしはつづける。
「わたし自身には高度な学問的知識というのがないので、書き込みからすでにそれを持っていると思われた『メタル』さんにまずコンタクトをとったんです。彼、掲示板にメールアドレスを載せてましたから。すると、『あなたにこれから爆弾を製造してもらってどれほどのことができるか』という質問に、『たいしたことはできない』との答えが返ってきました。案の定です」
自殺志願者たちを見回した。まだ何人かは嘲笑を顔に浮かべていた。
「ここでわたしも、そもそも計画に無理があったことを実感しました。――が、メタルさんは話を続けました。『今すでにある爆弾なら可能だ』。彼は、おどろくなかれ、自宅に3F爆弾を製造保有していたんです」
元自衛隊の男が目を見開いた。それ以外の者はピンとこないようだったので、補足する。
「3F爆弾、その名前はわたしもはじめて聞いたんですが、【水爆】のことらしいですね」
途端に場が静まった。
「材料は、ウランでしたっけ。違法ですけど、ネットで少量ずつなら海外から買えるみたいで。こわいですねえ。メタルさんは二十年かけて集めたんですよね。すごい」
といった拍子に、踵が座っていたドラム缶に当たって、ゴン、と音がした。
「あ、衝撃まずいんでしたっけ、これ」
途端、人々は一斉にあとずさった。
「そっ、それが?……水爆?」
「おいおいおい、よく見たらコード伸びてるし」
「タイマーもついてるぞ。しかも動いてる……。『〇二:〇〇』……あと二時間……」
「うそだろ」
彼らは騒ぎだした。
あまりパニックになってもらっても困るので説明する。
「これ延長できますから。メタルさんしか知らないパスコードを入れれば、タイマーは残り二四時間の状態にリセットされます。危なくはないですよー」
彼らは絶句した。
「僕の、さ、『作品』を」
メタルさんがいった。
「理解して、つ、使ってもらえるなら、こんなに、嬉しいことは、ない。あ、ありがとう」
「いいえ」
とわたしはいった。
「あ、あと、それ、すごく簡単な構造になってるから、臨界量オーバーしてて、しょ、衝撃で爆発するし、誘爆もする。き、き、きをつけて」
……。
「ということで」
わたしはそっとドラム缶からおりて、倉庫内の面々を見回した。
「武器というのは実際、この爆弾だけです。爆発すれば推定ですけど一千万人は死にますからね。けど、わたしたちがこれからやろうとしてるのは国を動かすことで、人々を動かすことなんです。それには、彼らの運命を我々が握っているという事実に加えて、わかりやすいイメージが必要になります。恐怖のイメージが。つまり、服装は統一されていたほうがいいとか。実際には使わないけど、物々しい重火器を持っていたほうがいいとか」
「要は、テロ組織の格好をしろってこと……?」
誰かがいった。
「そうです。まさにそれ」
わたしはうなずいた。
「一度きりの人生、最後に、やりたい放題しましょう。ていうか、でかいことしましょう。ひっそりと、誰にも迷惑かけずに死んでいくのもいいですけど、なにか……どうせなら変えましょうよ。今まで誰もしなかったことをやって、生きてるやつらを、この世の中を思い切りかき乱してから――わたしたち、死ぬってどうですか」
一瞬、空気の流れが止まった感じがした。
それから、ひとりが大声をあげた。
「乗った」
元自衛隊の男だった。にやりと笑って、わたしに歩み寄ると、手をさしだした。
「スガワラコウジ。三九歳。末期がん」
彼はいった。
「俺の残り三ヶ月を、あんたにやろう」
「……」
わたしは心の底からうれしくなって、手を握りかえした。




