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休校中の学生におうちで楽しんでもらうという大義をもって書かれた小説
深夜のディスカウントストアで買ったハサミで、肩まで伸ばしていた髪を一気に切る。
それから、一緒に買ったメガネをかけてみる。度が入っているのでよく見えず、目を細めてしまう。レンズをはずそうかと思ったけど、鏡にうつった顔を見て、このままでいこうと思い直す。人はわりと表情だけで別人を装えるものだ。
服も変えた。さっき買ったもので、黒っぽいユニセックスなかんじのやつ。ショートの髪型とあわせるとかなりボーイッシュな印象になる。
もしかして、安直かな……。
自分だとばれないために、男っぽい格好をするとか。
背格好とかもともとの幼さのせいで、男そのもののふりをするのは難しいし……。
マスクをつけて、公園のトイレから出る。
時刻は午前一時。始発が動き出すまで時間をつぶさなきゃならない。
できれば寝たいけど……夜の公園でそれをやるのは、別種の危険を見過ごすことになる。
生垣の奥に入り込んで座り込む。
ポケットから、さっき買った果物ナイフを取り出して、刃を見つめた。
ここにきて不審者に襲われでもしたら、今まであがいて守ってきたものが何だったのかわからない。……自衛しなくちゃ。野田もオーナーもいない。今だけは完全にひとりなんだ。
……。
一時間くらいがたった。
スマホで確認したら、三十分しかたっていなかった。
はやく朝になってほしいのに、考え事をするぐらいじゃ時間はすぎてくれない。
というか、考え事もしたくない。
ほんとうに、ほんとうに、これからどうすればいいかわからないのだ。先が見えなさすぎて、とにかく一度忘れたい。……寝たい。
二時間がたった。
おしりがいたい。
変な姿勢でずっとしゃがみこんでるからだ。
動きたい。
またオーナーの店で働きたい。
……もう、むりだろうな。
そのとき、公園入口に動く影があった。
わたしは思わず身を低くして、生垣のあいだから様子をうかがった。
シルエットでわかった。男だった。警察かと思ったが、歩き方からして違った。ふらふらと無目的な感じで公園中央までやってきた。酔ってる……? でも、だとしても泥酔ではない。それよりは足取りがしっかりしている。
「ヒッヒッヒッヒッヒッ」
突然、男は声を上げた。
ぞっとした。
けど、……ある意味安心した。
相手が何者かがはっきりしたからだ。
声の感じは、酔っているというより狂気じみていた。
こういう時間帯だと、やっぱりいるんだなぁと思いながら、頭の中で対策を組み立てていく。
酔っぱらいなら、走って逃げるのが有効だった。だからそういう意味では手段がひとつつぶれたことになるけど、相手が警察なのよりはマシだ。警察ならわたしの足で逃げるなんて不可能だし、生垣の中もふつうに探してくるだろう。
……こいつなら、じっとしてればやり過ごせるかもしれない。
と思ったけど、
どういうわけか、男は公園周囲の生垣を凝視してる。
「わかっとるでェ……。おるんやろォ」
心臓が跳ねあがった。
男は、わたしと反対側の生垣にだけど、そうやって話しかけた。
「おるなら、仲間にいれろや……。ええやろ……ひひひ」
??
あ……。
あーーーー。
わかった。なんとなくわかった。
この人はつまりあれだ、その、不審者で、変質者ではあるんだけど、えーと…………。
こういう公園で隠れていろいろしているカップルを見つけて楽しもうっていう人……。
姉のDVDでそういうのがあったなぁ……。
「おい……」
男は生垣を探って、
「ん……。おらんなぁ。なんや、今の時間おるって話はガセかい」
ひ、
ひまだよなぁ……。
そして平和だよ。わざわざよくやるわ、夜中の三時に。
あのー、それって、家でDVD観るんじゃだめなんですかね……。
「こっちかなぁ」
「……!」
男が他の生垣も探しはじめたので、呆れてる場合じゃなくなった。
どうしよう。これ、まちがいなくこっちまで来るじゃん……。
あの人は、カップルを見つけて仲間に入れてもらうつもりなんだよね。
じゃあ、こんなところで丸くなってる女を見つけたら……。
どうなる……、って、向こうはそもそも、公園でいろいろしてるような人を狙って欲望を満たそうとしてるんだ。今のわたしみたいなワケアリを目にしたら、当然、強気に出るよね……。
いや、意外と話せばわかってくれるかも……。
と思っていたら、男は生垣をさぐりながら服を一枚一枚脱ぎだした。
わたしは絶句した。
男はあっというまに全裸になって、「ひひひひっ。うひゃひゃひゃ」と笑いながら生垣に首をつっこんだりしはじめた。
……あー、これはむりだ。
やっぱりお酒が入ってるのかと思ったけど、もしかしたら薬物かもしれない。
姉のDVDの内容が頭に浮かぶ。乱暴で、非情で、観ながら、作りものだとわかっていたのに泣きそうになった。寄しくも、この状況と似た話……。
だめじゃん……。
あんな目にあったら、もうまともじゃいられないよ……。
ポケットから出した果物ナイフの鞘を抜いた。
……これは、戦いだ。
思えばそれはとっくに始まっていたんだ。あの家に生まれたときから……。ただわたしが、これまで刃を抜かなかっただけ。
「ひひ……家出の女の子が隠れとったりせんかなあ」
隠れてるよ。
「さっきやってたニュースの子とかな……」
その子だよ。
「誰でもええわ、話そうや。なあ〜〜」
近づいてくる。
わたしはギリギリまで気づかれないように、精一杯体を小さくする。
相手が手を伸ばした、その瞬間が勝負だ。
「ひひひひ。ふへへへへへ」
来い。
――。
「おまえッ、そこで何やっとる!!」
深夜の空気に怒声がひびいた。
暗闇を光が切り裂いて、懐中電灯を持った警官が公園に入ってきた。
「ちっ、ちがう! 俺は脱いどっただけや!」
「あー、不審者一名発見。応援頼む。……おまえ、なんやその反応は! さては脱いどっただけやないな。ヤクやろ!」
「ちゃうっ! これ俺のささやかな楽しみやねん。許して! おねがいや、おねがい!」
「アホ!」
方言のせいでコントみたいだった。
男は手錠をかけられて、連れていかれた。
「ふう……」
わたしは息をついた。
たぶん、いろいろ調べにまた警察がくる。もう少し待てば朝だけど、一度場所を変えなきゃならない。
立ち上がろうとして、果物ナイフを握ったままなのに気がついた。鞘にしまって、ポケットへ……。
しかしうまくいかない。
なにがうまくいかないのかもよくわからない。
わたしは右手を見てみた。
ナイフを握ったまま、ぶるぶると震えていた。
力みすぎたせいで、力を抜けなくなってしまっていた。
「…………」
指の一本一本を左手で伸ばして、ナイフを放させた。
タイトルを少し変えて少しかっこよくしたつもりです




