第5話 真実への接続(Connection)
ーー地下施設
深い闇の底から引きずり戻されるように、僕は意識を取り戻した。
(また知らない天井だ……)
頭上を覆う、緩やかに湾曲した半透明の隔壁。
僕は、まるでガラスか何かで出来た密閉型のカプセルの中に横たわっていた。
「──、っ」
慌てて起き上がろうとしたが、胸や四肢を固定している淡い波長を放つ数本の「光の帯」によって、動くことができない。
何をする気だっ! と声を上げようとするが、喉の奥が引き攣ったように固まり、声が出ない。
カプセルの向こう側。
空中にいくつも浮かぶ淡いブルーのホログラムモニターを眺めている人影があった。
白衣を羽織り、赤いスカートを穿いた『アイ』だ。
「気が付いたようだな」
彼女はゆっくりとモニターを消し、カプセルのガラス越しに僕を覗き込んできた。
「落ち着け、何もしないさ。
私はただ、キミのデータを見ているだけだ。
どうやら問題はないようだな。」
「先ほどからキミの記憶と体験を改めて見ていたんだ。
彼女、名はユキと言ったか。」
横目でタケシを見ながら続けた
「喋らなくていい、キミの声は私にはちゃんと聞こえている。
こちらから先にいくつか質問をさせてくれないか」
「キミにとってユキとはどんな存在だ?『好き』とは、どういう繋がりの感情なんだ?」
「(そんなの考えたこともないよ)」
タケシの思考がアイに届く
「ん、すまない。
声が出るようにしよう。
不思議な感じだ。
なんだか会話をしている気がしない。」
「私にはキミたちの『好き』という感情が理解できないんだ。
『親密度』とも違うように感じる。」
「……まぁいい。
さて、そろそろキミの質問に答えていくとしようか。」
アイの淡々とした声が、カプセル内に響く。
「いいか、落ち着いて聞くんだぞ」
ひと呼吸おいて
「まず、キミは普通の人間ではない。
産まれてすぐ、先天性心疾患で命を落とした赤ん坊だったんだ。」
アイはタケシを覗き込み、尋ねた
「大丈夫か?」
「ええ、……続けてください」
タケシの反応を確認してから続けた
「今のキミの身体はほとんどが義体だ。
DNAから病巣の元を正常なものへ修正し、
ナノマシンで成長させた。
そして、地球人として生活できる環境を用意していた。
しかし、数年前に事故に遭い、脳に酷い損傷を負い、肉体の大部分を失った。
だから脳を電脳化し、身体を義体で作り直したんだ。
そして、その時に私のコピーをキミの電脳に防御プログラムとして組み込んだんだ。」
アイはタケシを見て再び尋ねた
「続けていいか?」
震えるような声でタケシは答えた
「……続けてください」
「私はキミたちの言うところの『エイリアン』だ。
もっとも、その呼称を使うことはほとんどないがね。
地球人へ技術提供を行うためにこの星へ来た。
キミはその技術が地球人社会へ適合するかを確認するための実験体だった。」
(なっ……なんだって?……
じゃあ、僕は…人間じゃないのか?……)
「そして、キミの最後の質問はこの施設のことだったか?
もう気付いているだろう。
ここは、キミが二回生まれ変わった場所だ。
そう、私のラボだよ。
キミからの質問の答えはこれでいいかね?」
(途中から疑問はあった……どこでそんな手術をと……
じゃあ、今の僕は本当に……)
「そんなに暗い顔をするな。意思はちゃんとあるだろう?
だったら、キミはキミのままだ。
安心したまえ。
とはいえ……相当ショックだったようだな。
少し休むといい。」
アイが画面を操作すると、
カプセルの内側に薄い霧のようなガスが噴射され、僕の意識は再び強制的に眠りへと落ちていった。




