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はるうた 3 真白の雪  作者: 夏衣一衣(なつい・かさね)
第二話 葉月莉緒、高校二年生
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第二話(2)

 なんか、今日はそういう空気になってしまったのか、登校中の莉緒への声かけが止まらない。

 大人気だ。それこそ、次の生徒会長になれるくらい。

 そんななか、少し低めの、透きとおった声の男子が莉緒を呼んだ。

「おはよう葉月」

 声色にぴったりの、さわやかな微笑。

「おはよう、四条くん」

 と、莉緒が返すと、その四条クンとやらはちょっとうれしそうな顔をした。軽く手を掲げて莉緒の挨拶に返すと、長い足の余裕のある歩幅ですいすいと昇降口へと行ってしまう。

「四条くん、オハヨー」 「ああ、おはよ」

 そんな声が彼の行く手から聞こえてくる。なるほど、彼もそこそこ人気のようだ。

「特派員、あれは?」

 後ろに控えるとみちゃんに、体をよじって耳打ちする。

「お兄さん、あれは莉緒さんの話題に隠れがちでしたが、いわゆる普通のイケメン枠で人気の四条かなめ先輩です。一年の女子にも人気ですよ。ちなみに私はイケメン過ぎて好みじゃないです」

 さらっと、情報が返ってきて、俺は呆れた。

「ほんと、とみちゃんって新入生? 俺よりこの学校のこと知ってそうだよね……」

「ちなみにお兄さんも噂です」

「んん?」

 それはちょっと興味ある。

「藤原っていう怖い卒業生を、莉緒さんのために拳で黙らせた、怒らせると超・怖い先輩♡」

「それを言ってるやつらには、うへえ、と言ってやれ」

 がっかりだ。俺がなりたい俺ではない。

「なんです、それ?」

「うへえ、だ」

 とみちゃんの疑問には答えず、繰り返した。

「よくわかんないけど、なんかわかりました」

 たぶん伝える機会は一生来ないと思いますけど、と、とみちゃんは付け加えた。




 昇降口の下駄箱でいったんばらけた俺たちは、靴を履き替え廊下から階段へ向かう流れで再合流。

 二階に上がって、じゃ、と三年の教室に俺が流れていこうとすると、莉緒が俺の制服の裾を引いた。

 二年の莉緒は三階、一年のりこたちは四階だ。

「りお兄、先行くね~」

 りこたちが階段を上がっていくのを、俺たちは手を振り返して見送ると、互いに向き直った。

「兄さん、今日……僕、病院なんだ。定期通院」

 あ、と俺は思い出した。

 莉緒は、身体のことで病院に通っている。あの修学旅行の事件があってからだ。

 去年までは毎月。去年のちょうどこの時期からは、二か月に一回。最近では三か月に一回。

 今は体の検査より、心のカウンセリングが中心って聞いている。

 去年の春、付き添って以来、莉緒は自分ひとりで病院に行くようになったが、今回は特別なことがあるのだろうか。

「おう、たまには一緒に行こうか。いやなら、俺は行かないし。なにか不安なことがあるなら、教えてほしい」

 こういうときは、さらりと何でもない、って顔が出る。兄としての修行の成果だ。

「あ、の……最近ちょっとね……む……ねの……サ、イズ……とか」

「ん?」

 しぼんでいく声が、ちょっと聞き取れなかったので、顔を覗き込む。

 俯く莉緒の白いほっぺたが、すごく赤くなっていた。

「ごめん、やっぱりなんでもない!」

 ダッシュで階段を上がっていく莉緒を、俺はわけもわからず見送っていた。

 教室に入り、自分の席に着くと、軽く額を押さえる。竹内が寄ってきてなんか頭上で喋ってるけど、莉緒の様子が気になって耳に入らなかった。

 莉緒のアレ、なんだったかなー……。顔を赤らめて駆けていくなんて。




 ◆◇◆◇◆




 リオくんが、息を切らして教室に入ってきたのは目に入っていた。登校の時間はいつもと同じくらい。毎朝同じ時間のバスに乗っているらしいから、当たり前か。

 でも、息を切らせて走る必要はないはず。始業のチャイムまでは時間がたっぷりある。なんなら生徒会室でお茶を入れておしゃべりするくらい余裕がある。葉月先輩は、少し後ろの時間にずらしたバスがあれば、もうちょい寝られるのにと、いつぞやぼやいていたっけ。

 私は、ひと呼吸おいてからリオくんに声をかけた。ほかのクラスメイトが、リオくんに話しかけてくれるかなって、ちょっとした期待を込めて間を取るのが私なりの気遣い。だって新しい友達が増えたほうが、きっとリオくんにはいいことなのだ。

 でも、この早い時間で数人いたクラスメイト、大半は女子なんだけど、声をかける子はいなかった。男子だからなのか、リオくんだからなのかわからない。最近アイドル的な存在になったリオくんに対して、遠慮する心情が働いているのか。

「リオくん、どうしたの? なにかあった?」

 結局、今朝も真っ先に私がリオくんに声をかける。ほかの級友にリオくんを任せたいわけじゃない。むしろ、リオくんの一番の友達は自分でありたい。

 はあはあ、と息を整えるリオくんを見下ろすと、上気したほほが赤くて、こっちも赤面する。

「理々香……あの……ちょっと、兄さんに相談しそこねちゃって」

「なんの?」

 まあ、ふつうそう返すと思う。私に非はないはず。

 だけどリオくんは固まってしまった。混乱して目がぐるぐる、口があわあわしている。私に非はないはずだけど、なんかごめん。

 最近気づいたことがある。こういう時は妹のりこちゃんとそっくりだ。

 だとすると、お兄さんの葉月先輩は随分落ち着いているほうなんだなって思う。さすがお兄ちゃん。いろいろあったらしいから。先輩、へんに歪んでなきゃいいけど。

「その……えっと……耳かして?」

 なんか、リオくんがかわいいことを言うので、私は椅子に座るリオくんのほうに、耳を傾けてあげた。ちょっとだけ。級友たちの目線が気になる構図。リオくんの唇が、耳に触れそうで、こそばゆい。


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