第八話(7)
「しじょーくん! がんばれー!」 「そんな先輩やっちゃえー!」
「いけー! 四条!」 「ぶったおせー!」 「勝てえ! 四条!」
俺と混成トリオの前に立ちはだかったのは四条だった。
いや、観客からすれば彼の前に俺たちの方が立ちはだかったのか。
すっかり悪役だよ。
――青の悪鬼・葉月選手に立ちはだかるのは、黄組の勇者・四条選手だ。イケメンが巻くと黄色のハチマキも黄金に見える!
んなわけあるか! 内心で実況に毒づく。
「先輩、決着つけましょう」
「因縁付けてきたわけだ、四条くん」
俺はここまで奪ったハチマキをポケットに突っ込んで、両手を構える。
えーっと、騎馬戦でまともにぶつかり合ったことないけど、どうやればいいんだ?
一方、四条クンは、なんとなく様になっている。
一騎打ちを察した馬同士が互いにぶつかるように寄せた。
とにかく取っ組み合うしかない!
「いけー!」 「いいぞ、四条!」 「頑張って……」
「葉月なんかぶっ飛ばせ!」 「兄さん……頑張って……!」 「勝ってえ、四条くーん!」
――さあ! 四条VS葉月もいいところではありますが、白組を包囲する青赤黄の三チームの動きはどうなっている?!
放送は俺たちをほったらかしだが、俺と四条は互いの手を弾いては掴み合いを繰り返していた。柔道で言うなら組み手争いか。
俺の手が四条の額に伸びる。まるでボクサーのように躱される。四条は俺の手を弾かずとも躱せるらしい。
次第に俺の息が上がって、空を掴む回数が増えてきた。
「いい加減、諦めたらどうです!」
「俺はこういうとき、生き汚いんだよ!」
四条の手を払って、リーチをまいっぱい伸ばしてけん制する。
「おれは! 覚悟を決めたんです!」
「何が覚悟だよ! 分かってないくせに!」
互いの手を打ち払う攻防が続く。
「莉緒のことは、これからわかっていきますよ!」
四条の手が俺の手首をつかんでけん制を力づくで止める。
――あーっと、これは白組、半数が討ち取られて劣勢確実!
実況は俺たちのことなんて見ちゃいない。が、四条への声援は絶えない。
「四条くん!」 「やっつけてー!」
「おれは、あんたを倒して莉緒に告白する! 何もしないあんたは、もう黙って見てろ!」
「自分のことばっかり、いいやがって!」
俺の左手首を封じる四条の腕を、右手でつかみ返す。四条の空いた手が俺のハチマキを襲った。
「兄さん、頑張って!!」
わかってる……りお、どこかで見てくれてるんだろ。
身をよじって四条の手を躱すと、四条の拘束から逃れた左手で四条の肩を掴み、右手でハチマキを掴む。
そのとき、ぐらりと足元が崩れた。
あともう少しだった。
俺の右手は、あともう少しで四条のハチマキを掴んだはずだった。
四条が、俺を見下ろしていた。その額には、ハチマキが健在であった。
ハチマキは取られなかったけど、俺の強引な動きで、支えてくれた混成トリオがバランスを崩したのだ。
「あちゃー! すまねえご主人!」
グラウンドの砂地に尻もちをついて、俺たちは戦国武者気分から、ただの高校生に戻っていた。
「イテテ、すみません、先輩。僕の踏ん張りがきかなくて……」
「ひひーん」
ずっこけた混成トリオにケガはなさそうだ。
なんだか、さっきまでの興奮も毒気が抜かれた気分になった。
四条を見上げる。
「行けよ。告白でもなんでも、するといい。りおが決めることだ」
「焦らないんですか」
俺は首を振る。
「俺は、りおが幸せならそれでいい」
ぷい、と四条くんは行ってしまった。優等生肌のイケメンと思ってたけど、けっこうわがままな一面もあるんだな。
立場上、好きになれないかもだけど。
――ああーーー!!!
実況の悲鳴が上がる。
――ついに! 真白姫の扇が奪われた! 奪った騎馬は……組の………!……!!?…
ワイヤレスマイクの調子が悪いのか、音が飛んで、細かいことはわからないが、しばらく学園のトピックになりそうだ。
そして、四条は勝ち残ったものの、黄組の大将が討ち取られて負け。
我らが青組も、大将であるサッカー部部長が二代目赤マッチョと盛大な一騎打ちの末、敗退。
結果、勝利は二代目赤マッチョ率いる赤組がもぎ取ったのであった。
◆◇◆◇◆
夕日が五月晴れをオレンジに染め始めていた。
最終リレーは、僅差ながらも白組が勝利。大崩れした赤組は騎馬戦の勝利での優位を失い、真白姫率いる白組が総合優勝を飾って体育祭は閉幕した。
生徒たちの下校する姿が校門坂に連なり、実行委員たちが後片付けをするなか、私と柚羽はリオくんのメッセージに呼び出されて、体育館の脇にある小さな広場にいた。
そこは西日が差す。夏はいつまでたっても暑い場所だけど、今は綺麗な夕焼けと涼しい風が流れていた。
そこは、よく告白に使われる場所だ。これから何が起きるかは、知識に実体験が伴わない私だってわかることだ。
私たちは、体育館の陰からそれを見守った。
(ね、理々香ちゃん、覗いてていいのかな?)
(リオくんが見守っててほしいって、メッセージに書いてたでしょ)




