第八話(8)
「やっぱ、おれじゃダメか」
「……うん……ごめんね」
四条の告白から始まったそんな二人のやり取りを、私たちはリオくんの頼み通り、見届けていた。
ありていに言って、四条くんの告白は堂々として立派だった。
それをリオくんは、さっぱりとした笑顔で断ったのだ。
「なんか、ふっ切れた顔してるね、莉緒」
四条くんが言った。
「うん、そうかも」
影から見ていて、私もそう思う。いろんな思いがリオくんの中を駆け巡って、何かを決めたのか、彼女の顔はとても晴れやかだった。
「お兄さんが、好きなんだな」
「うん」
四条くんの言葉に、リオくんは一分の逡巡もなく答えたのだった。
「おうい理々香、手伝ってくれよ」
葉月先輩が、どこからともなく呼んでいる。見ると、綱引きの綱を巻いた巨大なアレを転がしている姿が見えた。
仕方ない。リオくんはまあ平気だろう。
実行委員ではない柚羽に後を任せて、私は先輩のもとへと向かった。
「なにをやってたんだ?」
私は巻かれた綱を押しながら、先輩を見上げた。
「親友のサポートという、委員の仕事より重大事があったもので」
葉月先輩は、察しているのか何も言わない。
私は見ていた。四条くんと先輩の闘いを。
例えば、録音してあったとして、あとから聞き返すと恥ずかしいセリフのオンパレードだったかもしれないけど。
「ま、カッコよかったんじゃないですかね、先輩」
「そうか?」
「真に受けないでください」
私は頭を掻いて照れる先輩の背中をたたいた。
◆◇◆◇◆
制服に着替えて昇降口に降りると、同じく着替えた莉緒が俺を待ってくれていた。
心なしか、上気した顔。そういえば、去年の体育祭で張り切る莉緒はこんな顔だったっけ。
「待っててくれたのか」
「うん。兄さんは、打ち上げとかないの?」
「実行委員は朝も早いし、みんなへとへとだよ。違う日にやるってさ」
「母さんとりこが、車で待ってる」
じゃあ、西門だな。と俺らは歩き出した。
校門は登下校する徒歩の生徒が中心。西門は駐車場や来賓の車寄せ付きの玄関ホールのある出入口だ。
他愛のない会話をして莉緒と歩くのが、なんと久しぶりなことか。
莉緒は、いつもより少し饒舌で、いや、俺も少し口数が多いかも。
「ね、兄さん」
「ん?」
「僕、告白されたんだ……」
立ち止まった莉緒を振り返ると、そこには世界一の美少女が俺を見上げていた。
「告白……されたんだよ?」
その相手がだれか。聞くまでもない。
「なんて、答えたんだ?」
莉緒が幸せであるなら、俺はそれでいい。
「そんなに、嫌じゃなかったよ。相手が男子だから変、って感じなかったよ。僕、心も女の子になってるのかな……」
莉緒は俯き加減に自分の感じたことを思い返すかのよう。
「でもね、ちゃんと断ったんだ」
決然と、莉緒は俺に向けて言った。
「好きな人がいるから」
断った理由、それは相手が男子だからという理由ではなくなっていた。
それを口にするだけでも、莉緒はどれだけ勇気を出したことだろう。
莉緒の潤んだ瞳が、再び俺を見上げた。その瞳が、俺の焦燥感を掻き立てる。誰かに奪われることを恐れるかのように。
俺は無意識に、りおの頭を撫で、その手を頬へと滑らせる。
りおは、瞳をとじて俺の手に頬を寄せた。
「そっか……」
「うん……」
夕焼けのオレンジが色濃くなる。校舎からの放送がブツ、と無造作に下校の音楽を鳴らし始めて、俺は我に返った。
「か、帰ろう」
「うん、母さんとりこが待ってるもんね」
「ああ」
「母さんね、夕ご飯のごちそうたくさん仕込んでたから、きっとごちそうだよ」
「おう、楽しみだな」
第三部 了 第四部へつづく




