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第八話(6)

 いよいよ騎馬戦が始まる。各組、自陣テント前に集結した騎馬武者……を装った体操服姿の騎馬軍団。

 俺は青組の大将の横につける。青組大将はサッカー部の部長で、それなりに人気もあるのか、黄色い声援が上がる。それだけではない。人望もあるのか男子の声援も熱かった。

「葉月副将、頼むぞ」

 青組大将は、俺をそんなふうに呼んだ。

「いや、そんな役割ないんだけど……」

「気分だよ、気分」

 にかっと笑う大将閣下は、裏がないというか、人懐っこいというか。人気があるのは頷ける。

 ところで、今年の俺は馬役ではなかった。

「頼むよ、馬役の皆さん」

「おう、お前こそ俺たちを乗りこなして見せろよ」

「先輩がんばってくださいよう」

「ひひーん」

 三年、二年、一年の混成トリオが俺の馬だ。

 うわあっ、と歓声が上がった。

 白組の陣地の控えテントから出てきたのは、十二単風にあつらえた衣装をまとう真白。

 真白が腰を下ろすのは、騎馬ではなく神輿だった。もはや騎馬戦の体裁を超えていた。

 ――出た! 白組大将の一ノ瀬真白会長! えー、なお、輿での競技は危険なので、特別ルールとして、輿の隣に付き従う騎馬が掲げる扇子が取られたら一ノ瀬会長の負け、という特別企画で行われます!

 実況がすかさず解説を入れた。

 面白い企画は、生徒会長としてどんどん取り入れるのが真白の方針だ。

 でもこの企画に関しては、さすがにこれは行き過ぎではないかしらと、みんなに確認をとったほどだ。まあ結果的には面白いからやろう、ということでまとまったのだった。

 俺も生徒会役員で実行委員でもあるから、内容は聞いていたけど、仕上がりを目にしたのは初めてだ。

 彼女の長い黒髪を活かした姿、楚々として輿に座る真白はまるで絵巻物から出てきたかのようだ。衣装の出来栄えもずいぶん本格的でただのお遊びにしては、作り手の気合が感じられる。

「キャー、ステキー! 真白せんぱーい!」

 もう、分かりやすいくらいに急造ファンが続出する。

 ――えーっと、ここでスタッフが得た極秘情報によると? なななんと! 真白会長の扇を奪った選手が新恋人になれる?! いやあ、さすがにこれはデマでしょう!

 大丈夫か、そんなデマを放送に乗っけて。

 実行委員会の競技委員長が諸注意を行うよそで、俺はきょろきょろとあたりを見回す。

 莉緒だ。俺は莉緒を探しているのだが、やっぱり見つからない。

 騎馬戦が始まるほんの少し前、りこは発見することができた。

 莉緒とりこ、どっちを優先というつもりはもちろんない。ただ、莉緒が見つからず、りこの居場所は偶然にもすぐ見つかったのだ。

 中庭のすみっこで、しゃがんで膝に顔を埋めたりこに、とみちゃんが寄り添っていた。




「はる兄、すごくこわい顔してた……」

「お兄さんは、りこに怒ってるわけじゃないって、真白会長が言ってたよ」

 りこを宥めるとみちゃんの声が聞こえる。

 しゃがんで膝に顔を埋めるりこ。

「じゃ、なんで怒ってたの?」

 涙声が聞き返す。

「お兄さんは、気持ちが暴れてるんだって。それでどうしようもなくてああなってるんだって、真白会長言ってたよ」

「それって、はる兄は……」

「まったく……りこの泣きべそは、ちっちゃい頃と変わんないな」

 りこととみちゃんが顔を上げる。

「お兄さん……」

「はるにい……」

 鼻水のついた顔で、涙があふれるりこの頬を、俺は指で拭ってやった。

「怒ってないぞ……俺は、お前たちが、大好きだから」

 せっかく拭った涙が、またぽろぽろと流れ落ちた。

 俺はいつものように、りこの頭を撫でてやった。




 法螺貝の音を合図に騎馬戦が始まり、俺の意識は混成トリオが組む馬上に引き戻された。

「はる兄、がんばってね!」

「おう!」

 りこの応援に手を振って応える。りこは、可哀想なくらい泣きはらした目をしていた。

 俺の隣で別の声援に手を振り返していた青組大将が、高らかに宣言した。

「ようし、副将よ! あとは任せた!」

 言い放つや、大将は先陣切って白組の方へ突き進んでいく。

 大丈夫か、あんたが負けたら青組全体が負けなんだが。

 それを考えてのことなのか、誰もが放送部の実況のデマを信じ切ったのか、青組大将の周りを固めているのか、我先に走っているだけなのか、とにかく青組軍団の大半がひと塊となって白組に突撃している。狙うは当然、真白の扇だ。新恋人という武功は、強烈な効果で多くの騎馬武者たちを誘引した。

 あたりを見ると、もう他の組も似たり寄ったりだ。

「どうする、ご主人?」

 混成トリオの中でも、頭の部分を担う三年が聞いてきた。

「んー、待機で」

「そりゃ、楽でいい」

「そうすね」

「ひひーん」

 一頭のはずだが、応じる声は三様だ。

 いろいろあって、頭がごちゃごちゃしているけど、せっかくだ。今は競技を楽しもう。

 白組がほかの三チームに包囲されて防戦一方。放送部のデマに一番迷惑しているのは白だ。

 だけど、おかげで俺からすれば、みんな背中を見せて隙だらけだ。

 そこを突こうとする俺を含めたずるがしこいやつらも、当然いる。

「まだ?」

 頭役が聞く。

「まだ」

 俺が答える。

「ひひーん」

 馬がいるらしい。

 俺以外のずるがしこいやつらが、各チームの後方に食らいつく。

 やつら、夢中で後ろから敵方のハチマキを奪い取っていく。

 しめしめ。俺たちに後顧の憂いはない。

「行こう」

「よしきた!」

「ひひーん」

 ――なんと! 白組に突撃する各組の背後を襲うのは、悪鬼のごとき葉月選手! 一ノ瀬会長に未練たらたらか? フラれたくせに往生際が悪い!

 うるせ、だれが悪鬼だ。

「赤、黄、黄、黄、赤」

 まあまあの首級を上げたな。奪ったハチマキを掲げながら悠々と馬を走らす。

「葉月先輩だ……」 「やべえ、あんなにハチマキ取ってる」 「つええ」

 俺たちの背後からの攻撃に気づいたやつらが、向きを変えて対峙してきたものの、そんな様子で、かかってこない。

 別に腕力で奪ったわけじゃないんだけど……。

「みんな、葉月先輩はおれが相手するよ」


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