表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/42

第八話(4)

「それで理々香。どんな様子?」

 真白会長……真白さんに、そんな気遣いをさせるのは酷に思える。真白さんは実況先輩のクレームを受け取ったあと、借り物競走を終えた葉月兄妹の様子を訊いたのだった。

「あ、あの」

 とみちゃんが、言葉を探すように声を発した。

 私は発言を避けて、とみちゃんの感性に委ねた。

「お兄さんは、怖い顔で行ってしまって、りこも莉緒さんも、どこかに行ってしまって……」

 それはみんなが見ていた。わかり切っていることだ。とみちゃんもそれをわかっているから、自分の発言を恥じて俯いた。私が期待するのはその先だ。

「……たぶん、りこは泣いてると思います」

 やっぱり、りこちゃんのことをよく見ている富田さんだからこそだ。

「自分では、これ以上どうにもできなくて、一生懸命あがいて、でもお兄さんを怒らせてしまって……」

 私は真白さんにうなずいた。

「リオくんも、落ち込んでるのだと思います」

「そうね……」

 真白さんは少し考える様子を見せた。

「会長! そろそろ準備お願いします!」

 実行委員の担当者が呼んでいる。真白さんに熟慮する時間はない。

 次は騎馬戦。競技間の時間はわずかしかない。真白さんは白組の大将として、出場しなければならないのだ。ここで三人して暗い顔をしていても仕方ない。

「富田さん、りこさんを探してそばにいてあげて。そして伝えて。春詩くんは、りこさんを怒ってるわけじゃないの。自分の気持ちが暴れるのを抑えられないのよ」

 真白さんは、その短い間にも、葉月先輩の心情をかみ砕いた言葉で説明した。やっぱり、この人は本当に好きだったのだな、あの人を。

「はい! そうします!」

「やっと、彼の心が動いたの。いえ、ほんとは最初から動いていたはずなのだけど……ね」

 その言葉に、私は真白さんを見つめた。

 真白さんも気づいて私を見つめ返すと、微笑み返してきた。

 ああ、真白さんは、自分こそ葉月先輩の心を動かす存在でいたかったに違いない。

 とみちゃんがりこちゃんの理解者であるように、私がリオくんの理解者であろうとするように、真白さんも葉月春詩という男の子を分かり、分かろうとしていたのだ。

「さ、あなたも莉緒さんを探して」

 私の背中を押す真白さんの笑顔が、切なくてたまらない。

「私は大丈夫だから」

 私はうなずいて駆け出した。ちょっとだけ、涙がこぼれそう。




 リオくんは、すぐに見つかった。呆然と、黄組テントの自分の席に座っていた。

 私が行くと、リオくんは泣き笑いみたいな顔で、私を見上げてくる。

 私だって、どういう顔をしてあげればいいかわからない。

 なんで四条なんかに頼ったのかと怒るべきなのか。可哀想にと慰めるべきなのか。

 リオくんが手を取れる友達は少ない。あのとき借り物競走で四条くんが声をかけなければ、リオくんはグラウンドの真ん中で途方に暮れていたはずだ。

 四条くんもそれは見過ごせなかったのだろう。

 私は何も言わずにリオくんの手を引いた。

 リオくんは抵抗もなく、私についてくる。

 それにしても四条のやつは、リオくんの手を取ったくせに、こんなリオくんをほうっておいて、どこにいったのだ。

 いや、そもそも探すべきは葉月先輩だ。




 そこは、グラウンドの体育用具倉庫と部室棟が連なる通路で、体育祭のさなかにひと気はなかった。

 目撃証言をつないで、私とリオくんはそこに辿り着いた。

 顔立ちの良さ、いわゆるイケメンの四条くんと、去年までの藤原先輩のポジションを確立しつつある葉月先輩。二人とも顔と名前が知れ渡っていて、目撃情報を聞き取るのは容易かった。

 ふたりの会話が聞こえてきて、思わずというか、必然なのか。私たちは隠れた。リオくんが、私の背中にひっついてしゃがむ。

「おれ、弟さんと、友達のつもりでした」

 四条くんが葉月先輩に向かって語る。私は二人の姿を部室棟の通路の陰から見守った。

 なんでこの二人がここで対話することになったのか、私には想像もつかないけれど……これは、ひょっとしてある種の決闘なのではなかろうか。

「そうなんだ……りおのいい友達でいてくれたら、俺はうれしいよ」

 応じる先輩に、だがしかし四条くんはかぶりを振った。

「おれは、もう友達でいられそうにないです。好きになってしまったから」

 背中にひっついているリオくんが、身じろぎするのがわかった。

「そう……でも、りおは男だよ?」

 先輩はただ事実を述べたまで。それは分かっている。けれどリオくんの吐息が私の体操服の背中を熱くする。

「知ってます。去年の学園祭も、丸尾の告白の、莉緒の返事を聞いてた。おれはずっとずっと前から、莉緒を見てた。まさか丸尾に先を越されるなんて思ってもみなかったけど。綺麗だなって、入学したときから思ってた。ずっと見てたからわかります。すごく気がつくし、すごく人のことを思いやれる、いい子だって」

 四条くんは、自分をクールダウンさせるように息をついて、間を取った。

「あ、勘違いしないでくださいよ。おれも、たぶん丸尾も、ちゃんと女の子が好きです」

 葉月先輩の目を見る四条くんは、そのひと言ひと言で、先輩に対してカードを切っていくかのようだった。

「りおだって……そうだよ、恋愛対象は男じゃなくて、女の子だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ