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第五話(2)

「仲、いいんだね……妹さん?」

「うん。香音(かのん)っていうんだ。私に似て、出来のいい子だよ」

 ぽかんとするリオくんに、私は笑って見せる。

「笑うとこだから!」

 私が言うと、ちょっと微笑むリオくん。

 そのあとは、お茶を入れて、夕食までの間おしゃべり。最近の部活の様子を聞いたり、私らのクラスの出来事を振り返ったり。

 そうこうするうちに、母さんが夕食をトレーに載せて運んできてくれた。

 肉じゃがとサラダとお味噌汁。

「ごはん、遠慮せずにおかわりしてね」

「はい。いただきます」

 母さんは、すっかりリオくんがお気に入りみたいだ。物腰と礼儀正しさは、確かに魅力的。うきうきとおひつからご飯をよそって台所へ戻っていった。

 二人での食事中の話題は、あの高梨 絢ちゃん先生について盛り上がった。

 盛り上がったといっても、一方的に私がしゃべることが多いのだけど。リオくんは聞き役。でも、話題を膨らませるような指摘をしたり、視点を変えるようなことを言ってみたり、話題の転換点を作ったり、やっぱりリオくんは頭がいいんだなって思う。

 そんなリオくんが、心がいっぱいいっぱいになって、あんな顔をして歩いていたのだから、やっぱり放っておけないよね。

 いろいろ聞きたいのは山々だけど。

「リオくん、お風呂使って?」

 食事が終わったら、お風呂どうぞって、今しがた母さんが言ってきたのだ。

「あ、っと、でも着替えがないから……」

「私の着替え、かしてあげるから。下着もね、ボクサーパンツっていうの? 男物もあるから安心して。新品だし」

「えっと……」

「ほら、男物の下着って、家にいるだけの時に、楽なときがあるからさ」

 私は聞かれもしていない理由をつらつらと言い訳した。

 言い訳しながら、はい、はい、と、洗い立てのジャージと、新品のパッケージのままの下着をつぎつぎ渡して、お風呂場へ連れていく。

「脱衣所も鍵かかるから」

 リオくんが心配しそうなところを考えるだけ考えて、私はリオくんを放り込んだ。

 それからお布団を部屋に運んで敷いておく。

 敷き終わった布団と、その隣の私のベッド。

 その光景を見て、私はどきどきした。

 リオくんと、お泊まりなんだ……。

 てか、リオくん、下は男物の下着でよかったよね、ブラをしてるのは知ってるけど、変なこと言ってないよね……?

 今更そんなことを思い返す。リオくんがお風呂から上がるまでの時間は、途方もなく長いようでいて、あっという間だった気もする。

 入れ替わりで、私はそそくさとお風呂場に逃げ込んで、よくわからないけど念入りに体を洗った。

 部屋に戻ると、濡れ髪の神々しいリオくんがそこにいた。

「あっ、ごめんね。ドライヤー、これ使って?」

 引き出しから取り出して渡そうとすると、リオくんが私の手を押し返す。

「理々香が先に使ってよ」

「ん、じゃあ……私が乾かしてあげる」

 部屋の姿見の前にぺたんと座らせて、私は膝立ちでリオくんの髪にドライヤーの風を当てた。

 リオくんの髪の毛はふわふわさらさら。指がするりと通る。つやつやしていてきれい。感動でため息も出ない。乾かしていくと、私と同じシャンプーの匂いがした。

「理々香、交代しよ?」

 リオくんが、私の手からドライヤーを優しく取り上げる。譲られた場所に座って、私はリオくんの手に髪をゆだねた。

 リオくんの手が私の髪を掬い上げるたび、くすぐったさで体が縮む。

「理々香の髪、長いね」

「うん、ほどくと意外とあるでしょ?」

 いつもは高い位置で結んでいるから。そんな説明をしながら、鏡の中で私の髪がリオくんの手の上をすべるのを私は眺めていた。




 翌朝、食卓にリオくんがいる。そんな不思議な光景が広がっていた。

 埃や毛玉を落として生地色が鮮やかになった上着。母さんが洗濯して、アイロンがけまでしたパリッとしたワイシャツ。丁寧に結ばれたネクタイ。すごくリオくんの姿がピカピカしている。

 それを愛でている母さんと私……と、ついでに言えば香音と父さんと、お爺ちゃんお婆ちゃんも。家族勢揃いの朝ごはん。

 ちょっとだけみんなにリオくんを紹介していただきますをする。

 出された朝食を、パンくず一つこぼさずきれいに食べて、リオくんは席を立った。ちゃんと食器を下げるのも母さんのポイント高い。

 私たちは二人そろって出発。もちろん学校。ゴールデンウィーク本番直前の平日だ。

「いってくるねー」

「いってきます」

「リオくん。今日もその子と一緒に帰ってらっしゃいね。ご馳走つくっておくから~」

 母さん、すっかりリオくんをわが家の子扱いだ。ちなみに、女の子だけど、事情があって男子制服を着ていて、だからリオくんって呼ばれてるんだって説明した。

 わが家から学校までは、徒歩で三十分かからないくらい。バスもあるけど、ちょっと遠回りになるから、歩いていく。

 道すがら、地域のことをリオくんに紹介して歩いた。

 リオくんと二人で校門の坂を登ると、ちょっと目立った。

 男子の目線が、ちらちらと……。

 いや……。

 女の子たちのトキメキをもとめる視線も……。

 いや、いやいやいやいや!?

 興味と好意の目線で串刺しになりそう。

 ちょっとじゃない。いつも葉月家ってこの注目を浴びてるの?!

 リオくんが、いつものお兄さんや妹でなく、私という女子と歩いているだけで、注目は増しているような気もする。


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