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はるうた 3 真白の雪  作者: 夏衣一衣(なつい・かさね)
第四話 りことのお出掛け
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第四話(3)

 ぽかんとしたお兄さんの向かいに、私は滑り込むように座った。

 今日の私はお出掛けモード。いつもの制服じゃないし、コーデ……服も中学生を卒業した雰囲気を出しておいた。私もちょっと高校生らしく、大人っぽくね。

「りこが連絡した?」

「はい。りこ、うれしそうに朝メッセージくれたんですよ。お兄ちゃんと出掛けるって。そしたら、いまからお昼ご飯食べるんだけど、助けて~って」

「なんの助けが必要なんだか」

「間が持たないんですって」

 私は率直に言ってみた。すると、お兄さんは真面目な顔をした。

「とみちゃん……俺、りこを困らせてる?」

 お兄さんがりこのことを考えてくれるのは、私はいいことだと思ってる。ちょっとは悩ませたほうが良い。ただでさえ、学校生活を一緒に送った時間が、莉緒さんより一年遅れているのだ。

「お兄さん、いえ、先輩。私、もうほとんど全部、伝えましたよ。大切なこと」

 悩んだほうが良いのだ。もちろん、難しいのはわかってる。兄妹だもんね。普通じゃないって、私もわかってる。でも真剣に考えてあげてほしい。

 ますますお兄さんは難しい顔をした。勇吾の、りこへの告白だって私と一緒に目撃したはず。お兄さんがいろいろ思わないわけがない。

「あー、とみちゃん! 来てくれてありがとう~!」

 そこへ、スープカップを手にしたりこが現れた。なによう、ラフな格好。ほとんどジャージじゃん! でも可愛い! さすが私の推し……じゃなくって、後でちょっと教育しなきゃ。素材がいいのに、高校デビューのタイミングを逸してしまうじゃないの。

「やっほー、りこ。呼んでくれてありがと」

 りこは満面の笑みで私を迎えてくれて、そのまま私の側に座る。せっかくだから、お兄さんの隣に座ればいいのに、って、それはまだりこには無理か。

 お兄さんは、さっと考え込んだ顔を隠して平静を装った。そこは褒めてあげます。

「注文、なに頼んだ?」

 何を食べようかな、と参考までにりこに聞いた。

「日替わりハンバーグとドリンクバー」 「ご飯は大盛りだよな」 

 ぼそっとお兄さんが差し込んでくる。

「だって!お腹空いたもん!」

「さすががっつりだね」

 バランスとろうと思ったけど、悩むのは無駄と判断して、私も好きな物を頼むことにした。パスタにデザートをつけて送信。




「おながぐるじい~」

 昼下がりの繁華街を、私はりこの肩にもたれて歩く。

 部活をしない体はすっかり食が細くて、デザートは別腹って思っていたけど、かなりきつかった。

「それじゃあ、そろそろ……」

 お兄さんのセリフを瞬時に察知する。そろそろのあとは、お開きにするワードだ。それはイカンのです!

「あー! そこのゲーセンいきましょ! 腹ごなしに!」

 私は、もたれかかっているりこの肩をグッと掴んで、しゅぱしゅぱとウィンクで目配せした。

 さすがに意図を察したりこが、お兄さんの手を取って引っ張る。

「はる兄……いこ?」

「ちょっとだけだぞ? おもに金銭的な理由で」

 りこのおねだりに、お兄ちゃんが困った顔するのも私は好きなんだけどね。

「こういうのは、賑やかな雰囲気を楽しむだけでもいいんですよ~! ささ!」

 私がりこの手を引っ張る。りこがお兄さんの手を引っ張った。よしよし。スキンシップは重要加点ポイントなのだ。

 さあ、ぐるりと店内を回ったところで二人を自然にリリース。

 いつの間にか、りこがお兄さんの手を引いて、このゲーム面白そう、とか懐かしいね、とか会話が弾んでる。

 スロットマシンの絵柄がぐるぐる回るのを見て目を回したり、盤上の競走馬を応援したりと、りこが楽しそうにするのをお兄さんが見守っているのが、私にはとても素敵に見えた。




 ◆◇◆◇◆




 りこが、俺の手を引っ張って次々とゲーム機を回る。ワンコインだって使ってないのに、人のプレイを見て感心したり応援してはしゃいだり、正直言って、りこの純真さに脱帽する。

 りこは、誰に対しても自慢できる素敵な女の子だ。

 そしていよいよ、ドがつくほどの定番。クレーンゲームのぬいぐるみを眺めてまわる。普通なら、男が女の子にさらっとぬいぐるみの一つも取ってやるのが良エピソードなんだろう?

 影で見守るとみちゃんの目がそう言っている。

 わかるぞ……その気持ち俺にもよくわかる。

 だがムリだ。俺は苦手なんだ、クレーンゲーム。

 まあ誠意だけは見せておこう。

「りこ、なんか欲しいのあるか?」

「えっ? やっていいの?」

 うん、これは父さんと母さんの教育の賜物か。無駄遣いはしないのが信条だ。

「兄ちゃん奢ってやるから、好きなの一回くらいやってみ」

「うーん……」

 りこは、クレーンゲームの一角を、真剣なまなざしでもう一周。

「うむむ」

 さらに眉根を寄せてもう一周。

「ん~」

 俺のところに戻ってきたりこは、すっきりした顔で言った。

「やっぱいいや。かわりに、あれ撮ろう?」

 りこが指さす先は、やけに可愛い女の子の顔がラッピングされた筐体だ。

「おお、プリクラか」

「プリですね」

 いつのまにやらとみちゃんが俺の傍らに立っている。親指で、くいっと「行きなよ」なんてふうにプリ機を指し示していた。

「とみちゃんは一緒に撮らないのか?」

「やだあ、私は遠慮しますよ。兄妹水入(きょうだいみずい)らずでどうぞ」

 とみちゃんが俺の背中を筐体に押し込む。

 せまい空間で、りこは七面相をした。固い表情を何とかしようと、変顔したり、イーってしたり苦労している。べーってしたり、ほっぺを膨らませたり。あっかんベーをしたところで、りこの頭に手を乗っけて俺は止めた。

「普通に笑えばいいだろ? それが一番かわいいんだから」

 りこが真っ赤になるから、かえって俺が恥ずかしくなる。

「お兄さんって、ときどき天然ですよね」

 仕上がったシールを見て、とみちゃんが呆れた。

 シールの中の俺たちは、変に盛ったりせずに普通のままで、ぎこちなく笑っていた。

「ね、はる兄、後で私にもちょうだい?」

「ん? ああ、もちろん……」

 俺はシールに写った自分たちの姿を見ながら思っていた。プリクラなんて撮った記憶は今までにないけど、何かもう一枚、撮ったはずなのに、なんて焦燥が脳裏のさらにどこかで、ほんの一瞬だけざわついたのだった。

 最近、俺、ちょっとおかしいのかも。まあいい。

 じゃあ、帰るか、と自動ドアを出ようとしたところで、俺たちは青陵学園の制服の一団と鉢合わせした。いかにも祝日の部活帰りらしく、ジャージのままの連中も混ざっている。

 先頭を歩くのは、あのイケメン・四条クン。俺に気づいて、彼は立ち止まる。

「は、葉月先輩。こんにちは」

 彼の緊張が俺にも伝わる。下級生に、そんなに怖がられてるのかなあ、俺。

 急に彼が立ち止まったものだから、後ろにいた背の低い男子が、彼の背中にぶつかった。

 ぶつけた鼻を押さえて、四条クンの背中からひょこっと姿を見せたのは、ただの男子じゃない。男子の制服を着ている少女のような、莉緒だった。

「りお……」

 その場にありえないと思っていた存在に、自分が衝撃を受けているなんて、俺はこの時ちっとも気づいていなかった。

「兄さん……」


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