第四話(2)
「わははは!」
りこがすってんころりん尻もちついたのを、指さして笑ってやる。
次の手は、フェイントサーブ! 放り投げたシャトルを上から打つと見せかけて空振りすると、下から掬い上げるようにサーブ!
一連の動作は激しいものの、結局ゆるいサーブを打ち返せばいいので、りこが冷静に対処してラリーが始まる。三回打ち返したところで、りこが返しをしくじって俺が二連取。
「くぅ、なんて卑怯な兄者……」
「ふ、2ポイント目は実力だと思うが……」
そんなこんなで、途中奇策を弄しながら俺が1セットを取ったが、体力負けでプレイが雑になり、2セット目は落とした。
白熱の3セット目。
「カブトムシだっ!」
「えっ、どこ?!」
りこがよそ見をした隙にサーブ!
そろそろネタも尽きんとしていたが、貴重な1ポイントを先行して3セット目の出だしは上々。
「ぐぬぬ! ひきょうナリ!」
引っ掛かったことに自分で笑いながら悔しがっている。
「ぷぷぷ、行くぞ妹よ!」
真面目にサーブ!
実力は伯仲。だがやっぱり持久力はりこの方が上で、お互い10点取ったあたりから、りこの方が先行し始めた。
だが負けん気だけは、やっぱり俺とりこって兄妹だから、似てるのかな。
りこのレシーブに、俺は真面目にプレイして食らいつき、ライン際を狙って返す。うまい返しが行った、と思った瞬間、りこが素早く元バレー部のばねを活かしてステップ。が、少し傾斜した芝生は、そんな激しいプレイでグリップしてくれる地面ではなかった。ずるっと滑って、りこが転がる。
「ははは! どうだ俺の精密レシーブ!」
「むー! くやしい!」
すっと立ち上がったりこが、すとんと蹲るようにしゃがんだ。
「りこ?」
「あてててて」
駆け寄ると、りこは足首を押さえていた。前に痛めた場所だ。
「大丈夫か? ひねったりしてないか?」
「うん、ちょっと足首がすっぽ抜けた感じがしただけ」
「今日はもうやめよう。あっちのベンチで足見せてみ」
「大丈夫だよう。たまにイテっ、てなるだけだから」
「いいから!」
運んでやる、と言ったら恥ずかしいからヤメレ、とりこに叩かれた。
何だよ、いつもおんぶしろって言うくせに。
りこは俺の肩を借りてケンケンでベンチまで行くと、腰を下ろして俺の言うままになった。
スニーカーと靴下を脱がしてみると、昔とあまりイメージの変わらない小さな足が出てきた。見たところ腫れたりはしてないようだ。
りこの裸足の足を手に乗せる。俺の手と大差ない、ちっちゃい、白い足。妹の足。
それから患部と思しき部分をすりすり触って異常がないか確かめると、関節を少し動かしてみる。
「捻挫は癖になるっていうしな……動かしても平気か?」
「はる兄、あし、汚いよ」
「なんだよ。心配してるんだろ。可動域とか、おかしくないか? 痛みは?」
「大丈夫。ちょっと休んだら、痛みも引くと思う。たまに、関節が抜けたような感じで痛みが走るときがあるんだけど、ちょっとしたら元通りになるし」
りこにとっては、何度か経験のある痛みってことか。
俺は自分の右拳を、握ったり開いたり、ぐーぱーした。
骨折した俺の右手が、たまに痺れるようなもんか。
「よし、それじゃ、少し休もう」
俺はりこの靴下をはかせてやる。
「もう、自分で履くって」
りこの抗議は取り合わずに、俺がそっとはかせてやった。
きゅ、っとりこの足首を包むように、手を当てる。
「傷の手当て、っていうだろ?」
なんのこと? っていう顔をりこがする。
「傷に手を当ててあげるだけでも、治す効果があるんだって」
だから、俺はりこの痛む足首を、ぎゅっと包んでやった。
「これでよし」
ほんとかわかんないけどな、と俺はりこの隣に座って笑った。
「信じる」
それから俺は、芝生の上にある荷物やら、飲みかけのペットボトルを回収して、ペットボトルの中身をゆっくり飲み切るくらい休憩した。
「ね、はる兄」
ふとした話題の切れ目に、りこは言った。
「なんだ?」
と、返したのだけど、りこが言い淀むので、俺はとみちゃんの言葉を思い出した。
『それは、何か言いたい、言って欲しい、っていう気持ちがあるんだけど、言葉にできないんですよ。言語化できないってやつです』
りこの手が、俺のTシャツの裾を掴む。
「ええっと……」
俺は何も言わずに待った。りこの頭がぐるぐるしてる。
「あのね……」
ぐ~~~~~、と、お腹が鳴った。
タッチパネルでランチメニューを選んでオーダー。
「最近はすすんでるよなあ」
「はる兄、じじくさいよ」
駅前のファミレスで席を陣取った俺たちは「お得な選べる日替わりランチ♪」の中からそれぞれ好きな物を頼んだ。
りこの腹の虫が窮状を訴えるので、俺たちはいつもと違う路線で駅前に出てきたのだった。
それにしても、と思い出す。
「長い腹の音だったなぁ」
録音しときたかったよ、と付け加えると、りこがプーって怒りだす。
「もう言わないでよう」
「スープはおかわり無料だから、たくさん飲めよ」
ぷんすかしながら、言われたとおりスープを取りに行くりこの足は、しっかり床を踏みしめていて、痛みはもうなさそうだった。本人が言う通り、少し休むと痛みもなくなるみたいで、安心した。
店内はがやがやと騒がしくなって、どこかのテーブルでは子供が泣き叫んでいる。連休の初日の昼どきに、すんなり座れたのはラッキーだった。四人掛けのボックス席に、二人で広々である。
と、そこへ思わぬゲストが現れた。
「お兄さん♪」
「あれっ? とみちゃん」




