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はるうた 3 真白の雪  作者: 夏衣一衣(なつい・かさね)
第四話 りことのお出掛け
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第四話 りことのお出掛け (1)

 ちゅんちゅんと、スズメが元気に朝をうたっている。あー、これが朝チュンかあって、つまらない冗談を頭の中で呟いても、一文の得にもならない。

 とにかく良い目覚めの朝だった。

 なんとなく朝日を浴びるために、階下に降りて縁側を歩く。

 朝の散歩がわり、かな。仏間を通り過ぎ、居間を通り過ぎて、中庭に降りる敷石のある場所で立ち止まる。

 そういえば、りこが昨日の晩すわっていたっけ。そうして、離れから戻ってくる俺と莉緒を待っていた。縁側から足をぶらぶらさせて。

 離れでは、莉緒と他愛のない話をしたんだったか。

 なんだよ、手伝ってくれればよかったのに、って言ったら、お邪魔だったみたいだしー。って拗ねられた。

 何かよく覚えてないのに、不機嫌になられるのは不条理だ。

 台所にいくと、俺以外、みんな起きてテーブルに揃っていた。

「今朝は、俺の寝言で起こしちゃって、悪かったな」

「なんのこと?」

 朝から食パンをもりもり齧るりこ。莉緒も何のことだろう、って顔で味噌汁のお椀を傾けている。

「えー……あれえ? 俺、うなされて目を覚ましたという夢を見たのかな?」

 俺は母さんから味噌汁のお椀を受け取って、いただきます、と口に付ける。柱に掛かった時計が目に入ってどきりとした。

「あれっ? やべえ、バスの時間過ぎてる!」

 この時間のバスを逃すと、もう車で送ってもらうしかない。が、莉緒もりこも、それから母さんも呆気にとられた様子で俺を見ていた。

「ハル、あんた寝ぼけてないで、顔洗ってきなさい」

 母さんがバカ息子にお説教みたいな声色で言う。

「ええー」

 抗議の声を俺は上げたがどうにも旗色が悪い。

「兄さん、今日は祝日だよ?」

 莉緒がさすがに心配そうな顔で教えてくれた。

 母さんが台所にぶら下げているカレンダーを見る。GWの先駆けみたいなありがたーい祝日が、日付の数字を赤く染めている。

「あー……そうだっけ」

 なんだか、昨夜の夢からなのか、ぼんやりふわふわ。俺ももっとしっかりしなきゃな。

「それで、莉緒は部活?」

「うん」

 いつもと変わらない制服姿で、きちんと身なりを整えて食事する莉緒は、やっぱりちゃんとしてる。

 片や……いけね、比べちゃいけないんだった。

「なによう」

 りこは察してぶー垂れるが、まだ何も言ってないって。

「吹奏楽部は、今は体育祭の演奏の練習か?」

「うん、他にもいろいろ発表会はあるけどね」

 俺だって、仮にも生徒会なので、ちょっとくらい把握していることはあるのだ。えへん。

「GWが明けたら、生徒会も忙しいでしょう?」

「う……まあな」

「はる兄は、今よくわからないって顔に書いてありましたー」

 りこが余計なことを言う。

「うるさいな」

 ふふっと莉緒が笑って席を立つ。

「お母さん、ごちそうさま」

 食器を流しに運んで、カバンを持つとそのまま玄関へ。

 俺とりこ、母さんも、みんなで見送った。

「ねえ、はる兄は予定あるの?」

 りこの問いは唐突というか、思いがけないもので、予定なんてものが思い出せなかった。

 朝っぱらからのカンチガイに、頭が現実にアジャストできていないのかもしれない。あ、ちょっと今どき風にカタカナを使ってみたんだけど。

「うーん、予定はないと思うけど、なんか朝からあんな調子だから、大事な用事を忘れてたりしてないよな?」

「あははっ。はる兄ってば、大丈夫だよ。それじゃさ、私とお出掛けしようよ」

 りこの提案は突拍子もないけど、拒むほどでもない。

「どこいくんだ?」

「ほら、中学の部活引退してから運動不足だからさあ。森林公園に行ってバドミントンでもやらない?」

 しゅっ、って、りこは口でスイングの音を真似る。

 ほう。

「ほうほう。俺は、素人卓球とか素人バドミントンは、強いぜ?」

 シュッ、っと、俺は口でスイングの音を真似た。

「ええ~。へっぴり腰のはる兄には負けないから」

「言ったな? 負けたほうがジュースおごりだ!」




 一時間後、俺たちは森林公園にいた。

 ここまでは、家からちょっと距離があるけど、最近できたシェアサイクルのポートで自転車をレンタルして、森林公園まで。電動アシスト付きの自転車だから、楽だよな。ポートがもっといっぱいあれば便利なんだけど。

 ちなみにりこのやつ、自転車にすっかり乗れるようになってた。子供の頃たくさん乗っていたし、ちょっと乗ったら勘を取り戻したみたいだ。

 バドミントンの道具は現地でレンタル。

 俺たちは芝生の丘の上に、バッグや石っころやら飲みかけのペットボトルやらを目印において、即席のコートとした。

「いいか、先に20ポイント取ったほうが勝ちだからな?」

「いいよ。1セットマッチにしてあげるね。はる兄、体力無いから」

「なぬ。いいぜ、3セットマッチで2セット先取が勝ちな」

 にやり。りこがほくそ笑む。こいつは策略にはまったか?

 サーブ権をかけて、じゃんけんぽん!

 俺のサーブで、世紀の兄妹対決が始まったのだった。




「行くぞ、第一投!」

 と言っている段階で俺のバドミントンの知識はたかが知れている。だって知らないんだもん。

 盛大な掛け声とともに放ったサーブは空振り!

「あっはははは! はいはいはい! 一点先取~!」

 りこが大ウケする。

「ちょっと待て! これはただのサーブのやり直しだろ?!」

 お互い細かいルールは知らないので、こういうときは外交交渉が肝だ。

「しょうがないなあ……」

「シュッ」

 気を取り直して、鋭いサーブ、を口で演出。

「ぷっ」

 くだらない兄の姿に吹き出すりこ。俺たちが戦場にしている芝生の広場は少し傾斜していて、そんな油断をしていては足も滑る。

 ずっこけたりこの横に、俺のシャトルがポトリと落ちて1ポイント先取だ。


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