お茶会開催②
「金剛、お前、大丈夫か?」
「?」
先ほど、お茶会参加者たちが課題と称して作成されたクッキーを聖職者の方々がチーム毎の籠に入れて足早に庭園を目指している。
その横で、金剛がデカい桶の中で彼らが使用したパレットやボールを魔力を用いて、物凄い速さで洗っている。
一人で。
洗濯機を思い出させる作業である。
「どうせなら、課題で後片付けまでやらせればよかったじゃないか。」
「まぁ、そうかもしれませんけど、あくまでゲームですから美味しい所だけを体験してもらってもいいんじゃないですか?だって、クッキー作りの課題をこなしているのは純粋にゲームを楽しもうとしている方々ですし。」
そうなのだ。
課題の紙にはバロンの魔法がかかっている。
課題を手にした者の心で課題内容が変わるように。
課題はお嬢様か青年騎士か、どちからが手にするように仕向けられ、かつ交互に課題のカードを引かせている。
二度にわたって純粋にゲームを楽しみたいお嬢様、青年騎士の心があるチームはご褒美的な意味合いで手作りクッキーの課題を時間内にこなしてもらう事になっていた。
男女混合でかつ、純粋にゲームを楽しもうと思っているチームが課題を楽しくこなさないわけはない。
実に協力的に課題は進み、それぞれのチームの手作りクッキーはチーム毎に彩りされたバスケットに入れられ庭園のテーブルへと運ばれている。
サラダやバケットはそれぞれ今朝早くに金剛と城のコック勢揃いでチーム毎に既に並べられている。
スープや紅茶の手配もバッチリだ。
会場のテーブルの手配も課題の一つ。
礼儀作法の課題として、クッキー作りの課題の前に今のチームがこなしている。
テーブル手配の課題の後、クッキーではなくメインディッシュの課題へと進んだチームの進み具合も順調だ。
お嬢様や聖職者見習いは初めての魔獣調理にきゃっきゃと青年騎士に頼ったり、怖いと魔道士に頼ったりしていた。
彼らはその後、魔道士の訓練、聖職者の訓練の課題をこなし庭園でのお茶会に参加される手配だ。
もちろん、ルシウス王子と共に。
訓練の課題をいち早く乗り越えたチーム力抜群の部隊が、退屈しているルシウス王子を見つけるはずだ。
それらの料理の課題の後片付けを全て金剛が魔力でテキパキと片付けているのである。料理の行われた教室から洗い場へと聖職者や魔道士の手伝いのおかげで続々と運ばれてくる器具をひょいひょいと片付ける。
「これ、意外に大変そうに見えているんですけど見かけほど大変ではないんですよ。」
「そうか?」
「ええ。それより、脱落したり途中でゲームを下りたチームは大丈夫でしょうか。」
隊長は今絶世の美女、セルで通っているので手伝うのは一切禁止ですからね。という謎の言葉の為に金剛の仕事っぷりを眺めていた隊長が、ほんの少し首を傾ける。
隊長の手には乾いたピカピカの調理器具が抱えられている。
金剛の仕事は手伝わないが、その他の仕事はさせろと無言の圧力を金剛に行使したからだ。
隊長が動く度にサラリと光る髪が揺れ、その姿は翼こそ背に生えていないものの、まさしく天使のそれだと金剛は思う。
窓から注ぎ込む光がキラキラと髪を煌めかせる。
ただ、腕には何の変哲もない調理器具が抱えられているだけなのに。
まるで腕の中には神々しい別のモノが抱えられている様にも見える。
ルシウス王子とは違い、何故か女性らしい煌めきがある。
青いバラの所為なのかな、とも思う。
見かけは正に絶世の美女だ。
隊長なのに。
人外の容姿って見ているだけで癒されるもんなんだなぁとか思いつつ、教室へと器具を運ぶ隊長の後ろ姿を見送る。
乾燥の魔導石も順調に作動中。
聖職者見習いも魔道士見習いも料理の質は違えども(聖職者は家庭的な料理や栄養などを考えられた料理を学ぶが、魔道士は基本外で取れるものの毒素を抜く調理法や狩った魔獣や魚を捌く調理法を学ぶ。)料理の基本講座が存在するため、数多くの調理器具がある。
それらが、順序良くそれぞれの戸棚へと、手伝うのは禁止だと言ったにもかかわらずキチンと隊長の手によって運ばれていく。
絶世の美女が仕事をしている風景をみた近くの魔道士や聖職者も何故か笑顔をセルに向けてセルを手伝っているのが少し笑える。
…隊長の人たらし…。
金剛の所は、あまりに凄まじい勢いで器具が洗浄され乾燥されて言っている為、誰も近づけないのだが本人がそれを解っていない。
隊長はモテるなぁとしみじみ思う金剛だった。
洗いものも済み、誰もいなくなった教室に最後の確認に来た二人の影が映る。
爽やかな風が開いていた窓から教室に吹き渡る。
その窓を閉めながら聖職者上位のクリスがもう一人の影を振り返る。
「脱落チームを指導するのはどなた様でしたっけ?」
一通り、調理器具を棚に入れてスッキリとした教室を見回しながら聖職者上位のクリスがセルフィス隊長部隊の魔道士、ロギオンにゆったりとした口調で尋ねた。
「確か、脱落チームが危険なんでしたっけ?」
「ええ、バロン隊長がおっしゃるには。ただのやる気のない方には、脱落ではなく宿泊者の寝具や洋装のアイロンがけの課題が待ってらっしゃるそうですから…。」
「アイロンがけかぁ。それは助かるなぁ。」
「そうですねぇ。かなりの手間が省けます。それにアイロンがけって結構難しいですから。」
「確かに。見習いの頃、苦労したかも。でも、我々は魔法を使えるからまだいいが。」
「ええ。今回はあのチーム毎に用意されたリボンや腕章で魔力が大分抑えられてしまいますからねぇ。」
「でもチームでやるなら楽しいかもなぁ。」
「そうですねぇ。でも、やる気のないチームなのでしょう?」
「そうか。見習いの生徒は別として普段、アイロンがけなんてしないお嬢様や青年騎士の諸君だもんなぁ・・・・けど、確かそのアイロンがけの指導はビーナス先生とロビン先生だったから・・・・。」
「…ふふふ。美女と美男の先生のコンビなら、やる気を見せるかもしれませんわね。」
「聖職者や魔道士見習いの生徒も、滅多に見ない先生だから嫌われたくはないよなぁ。」
「そうですわね。私もビーナス先生には嫌われたくはありませんわ。」
「おや?ロビン先生にじゃなくて?」
「ふふふ。」
ふふふ、あはは。と脱落チームの話題などすっかり忘れて見習いの時期の想いでに二人は花を咲かせながら、次の場所へと移動していくのだった。




