王花と金剛
「今日も空が青いですよー。セル。」
「…ここは王宮だからな。空はいつも青いぞアンドレア。」
「…セル。言葉使い、言葉使い!」
「…。」
「…まだ、あきらめてないんですかー?もう、いい加減、腹をくくってくださいよ。見た目ももう、女性そのものなんですからー。」
横のブルートパーズ色の青いサテンの衣装を身に纏った女性に声を掛ける。
長身のスレンダーな女性だ。
しかも髪の毛はルシウス王子と同様の光る、綺麗な髪をしている。
口元をレースの薄いブルーの衣で隠しているが、目元がスッキリとしていてとても綺麗だ。
胸には加工された青いバラが刺さっている。
特殊加工を加えられ、簡単には壊れないブローチに変更されたバラが。
そう、この不機嫌な彼女は、あのセルフィス隊長である。
ルシウス王子に任命された後、我々は無理だと高らかに宣言したのだ。
無理であると!!!!
だって、どう考えたって顔は美人に見えるかもしれないが体系が隊長にしか見えない。
そう、主張したのだ。
隊長は長身で引き締まった体つきをしている。
軍服を着るとそれはもう、色気が出ているくらいのいい身体つきだ。
だからこそ、かつらを被り美人に見えたとして、遠くからは確かに美女とごまかしは利くが、近くからは明らかにおかしい。
長髪の男性に見えてしまう。
薄暗い朝の魔道士たちをごまかせたとしても、昼間の魔道士たちや女性である聖職者の眼をごまかせるわけはないのだ。
ということで、二人で反対の意を唱えていたのだが…。
「…まさか、あの何の変哲もない青いバラにこんな機能まで搭載されていたとは思いませんでした。」
「…。」
「まさしく変態のなせる業…。」
「…。」
「あ。御兄弟でしたね。すみません。」
「…いいんだ。確かに奴は変態だ。」
「…。」
そう、あの変装道具に一緒に贈られてきていた変哲もない青いバラ。
ただ添えられていただけの青いバラだと思ったのだが、それは実は魔法の道具だったのだ。
そのバラを身に着けると王子好みの体型にいつでも変える事が出来るという機能がつけられていたらしく…。
隊長は、今やスレンダーな美人そのものなのだった。
「…体型を変えて…何をさせたかったんでしょうか。」
「…いうな。」
「だって、結局は中身は変わらないんですよ?」
「…。」
「そう、見えるってだけで。」
「…。」
「触ったら、いつもの体型なのに…。」
そうなのだ。
変わるのは見た目だけで体型そのものは実は変わっていない。
豊満な胸は見かけだけで触るとわかるが、胸はない。
ぎゅっと抱きついてしまえば男性そのものの身体つきだという事がばれてしまう。
腰回りも男性だからだ。
今存在しているくびれなど、存在していない事がわかってしまう。
「…隊長がそもそも装着するという事でしたら、よく理解出来るんですけど…。」
「…。」
「元々は、これ私につけさせようとしてたんですよね?」
「…。」
「…それで。何故に好みの外見にみせるだけの機能を…。どうせなら、身体自体も変化させられる魔法にすればよかったのに…。」
「…王子好みの身体つきになりたかったのか?」
「いえ、そういう訳ではなく。でも、スレンダーで胸も豊満で。一度はなってみたかったです。」
「…お前、やせてるじゃないか。十分だ。」
「…胸の事は否定しないんですね。」
「ぐ…。」
「…。いえ、いいんです。いいんです。」
「いや、よくない!胸はあってもなくても俺は気にしない!むしろ、ないほうがいい!」
!!!!!!!
わー!!!!
隊長の変な好み暴露しちゃってますよー!!!!!
「た、隊長!…じゃなかった!セル!!あの!なんて事を叫ぶんですか!」
「い、いや!だから!」
「…小さい方が好みなんですか?」
「うっ。」
顔が真っ赤ですよ。隊長。
解りました。好みなんですね。
へー。
「まぁ、大きいとそれはそれで大変ですからね。」
「…大変なのか?」
「重いらしいですし。第一、動き辛そうです。魔道士は俊敏に動かなければやっていけませんから、胸が小さくてラッキーともいえます。」
「女性も大変なんだな。」
「…まぁ、私は胸の大きい方の悩みは解りませんけれど。」
「…。」
微妙な沈黙を背に二人でうつろな目をして空を見上げている昼下がりなのだった。
隊長が来ている服は、隊長のお父様のいる隊の正式な軍服らしい。
女性モノなので装飾が可憐で可愛らしい。
聖職者の服でいいじゃないか!とルシウス王子が言っていたが、流石に恥ずかしかったらしく、通常の制服が女性もパンツ姿の隊長のお父様の隊の軍服を着る事になった。
隊長の名はセル。
細胞かっ!と内心思ったが、まぁいいだろう。
セルフィス隊長は小さい頃セルと呼ばれていたらしいし。
女性の名前といえば名前に聞こえなくもない。
隊長のお父様の隊から舞踏会の為に来た来客という設定らしい。
そして代わりに隊長はお父様の元へ緊急の遠征にいっているという事になっている。
そこで金剛の私が隊長から彼女の護衛として側に付けた。という設定。らしい。
ニュー設定が沢山現れて、もう私はどういうことかさっぱりなわけだが、他の隊の名のある方のお嬢様や現在の六商のお嬢様、そしてルシウス王子の隊の重鎮のお嬢様が舞踏会の為、続々と中央の塔へと来城している今となっては、色々なお嬢様が溢れていて、実は見分けが付かなくなっている。
どうやら毎年こうなるらしく、中央の来客の塔は着飾ったお嬢様たちであふれている。
ただ、セルは隊長の身内の女性ということで隊長の隣の部屋を私、金剛と共に過ごしているという設定だ。
隊長の服を着て朝帰りをした美女の謎もとけ、一段と魔道士の噂話が盛り上がりを見せている。
隊長の身内という事だけあって、噂話も拍車がかかり、今ではルシウス王子の目論み通り、彼女が王花、もしくは金剛なのではないのかという憶測が飛び交っている。
週一の、我々がルシウス王子の部屋を訪ねる。という、行動も噂に拍車をかけていた。
「すまないな、金剛、つきあわせて。」
「いえ、いいんです。でもセルの設定が武道を嗜むという設定で助かりました。」
「まぁな。」
「朝稽古とか、キチンと出来ますし。魔道具の使い方も教われますし、一か月魔道士の講義をお休みすることにはなりましたけど、休みの間、実践的な事が学べて万々歳です。」
「そうか。」
「ええ。なんたって一番強い方に教わる事が出来ているんで。ただ…。」
「…・。」
二人でもう一度目線を前の塔へと向ける。
そう、中央の来客の塔だ。
舞踏会で続々と来城している重鎮のお嬢様方は3週間くらいを城で過ごすわけだが、その宿泊先は城下町に宿泊する者もいるが、名のしれた重鎮のお嬢様は中央の城の来客の塔を使用している。
もちろん、お嬢様だけではない。
重鎮の御子息のお年頃の青年騎士だって、お泊りになる。
お蔭で舞踏会の前の顔合わせ状態だ。
そして、もちろん3週間の日程は長い。
舞踏会までの間、彼らがじっとしている訳はないのである。
「いつも、こうなんですか?」
「さあな。…俺はいつもは仕事をしているからな。ここの塔の事は知らん。」
「あ、そうでしたね。」
「だが、今回の舞踏会は特別だからな。」
「?」
セルも一応、来客という扱いになっている。
「何で来客扱いにしたんですかね。面倒くさい。」
「…その方が、早々に事が起きやすいだろう。」
「あ、そっか。舞踏会当日よりも先に芽は摘んでおきたいですもんね。」
「…物騒な事を…。だが、まぁ正解だ。」
来客扱いになっているが故に、セルにも彼らが舞踏会の前に独自に開くお茶会の招待状もわんさか送られてくる。
大きく分けて、やはり六商ごとにそれぞれのお嬢様や青年騎士がタッグを組んで日時を決定しているらしく、お茶会は日々主催者が変わるだけの変わらない顔合わせになるだけなのだが。
ここで、まず力のないお嬢様はお茶会にすら呼ばれる事がないため、大変居づらい結果になる。
今日も庭で、あら、あちらのお嬢様は呼ばれていらっしゃらないのに来客の塔をお使いなんですの?なーんて、陰口がチラホラ出ていて怖い事この上ない。
あれでは、次回の舞踏会は地元で過ごす事になるだろう。
鉄の心臓をお持ちでなければめげてしまう。
実際、この状況で居辛くなったお嬢様や青年騎士の何人かは早々に地元へ帰っている。
興味本位で多少の地位のある親戚を頼って来客の塔を使用したお茶会に呼ばれないお嬢様や青年騎士たちには、所詮太刀打ちできない世界なのかもしれない。
まぁ、もちろん、その中にもめげずに居座るお嬢様、青年騎士もいるが、あまりその方たちとはお友達にはなりたくない。
だって彼らはお茶会に出席している彼らよりも、心が強いのだから…。
怖い。
そんな友達、いらない。
早々にこの状態に見切りをつけて地元に帰るお嬢様や青年騎士の方が好感が持てる。
むしろ、そちらの方々の方が残ってほしい。
いい人材は早々に撤退されていくこの舞踏会。
怖い。
怖すぎる。
何そのサバイバル。
これでは、確かに六商のお嬢様なんて嫁に選びたくないはずだ。
「そういえば…さっき言ってましたけど、今回は特別な舞踏会なんですか?」
「…。」
隊長が目線をずらす。
「?」
「今までは、ルシウス王子にその気がなくて舞踏会に参加しても王子に見初められる事はないというのが常識だったんだ。」
「へー。でも、もしかしたらって思わなかったんですかね?舞踏会に参加しても、王子にその気はない!なんていっても、所詮恋は落ちるモノですから、もしかしたら!なんて思いますよね?普通。」
「まぁ、思わないでもなかったかもしれないが…。ルシウスが成人した直後の舞踏会でな…。ちょっとした事件があって、それ以降の舞踏会では当分、王子が女性を見染める事はないだろうというのが大抵の者の見解だったんだよ。」
・・・・何があったのか解らないけど、深入りはしたくないなー。それ。
「でも、今回は…まぁ、俺のせいもあるんだが…。」
「?」
「お前のせいもあるというか…。」
…何だろう、凄く嫌な予感しかしない。
「…。俺が…お前を金剛にしたことでな…。」
!!!!!
やっぱりねー!!!
私のせいかー!!!!
頭を抱える。
「何で私に金剛という名称、そのまま名乗らせちゃってたんですか!」
「いやなぁ。」
「途中で私が誤解して名乗っているって気づいてましたよね!?」
「…。」
「どうして、その時に弁解しなかったんです!」
「…何故、弁解する必要がある。」
「だって、本当は金剛にするつもりはなかったのに、ついうっかり皆が噂したために金剛って…あー。もう。」
「…いいじゃないか。金剛で。」
「まぁ、もう今更ですけど。…つまり、金剛が現れたぞっていうことで、これは負けてられない!と皆さん動いたという訳ですか。」
「まぁ。そうだ。」
「はぁ。」
「それに、ルシウスが髪を切ったからな。」
「…え…。それも関係してるんですか?」
「あいつは事件以来、髪をぼさぼさにしていたんだ。」
「…。」
なんてこと。
そんな意味があるとは知らずに眼福だから切ってくださいよとお願いしちゃったわけですか。
そうですか。
そんな意味があるなら、切るなよー。
つまり、今回の舞踏会からは今まで通り王花、金剛、聖女が選ばれるかもしれない通常の舞踏会が開催されたと思っているってわけだ。
皆。
金剛を名乗る正体不明の魔道士の女が出てきたせいで。
通常髪をぼさぼさにして女性を寄せ付けなかった王子が髪を切ったせいで。
…つまりは、皆私のせいって訳か…。
ごめんなさい。
謝りますから、皆様そんなに殺気立って舞踏会に参加されないでください。
金剛だってうそっぱちです。
髪を切ったのだって、たまたまなんです。
・・あー。もう、どうしよう。
いやいや、めげていても仕方がない。
隊長だって女装させられているんだ。
私も頑張ろう!
とりあえず、偽、金剛として生き残ろうと再び誓ったのだった。




