光る髪の女②
「何故、お前が私のかつらを被っているんだ。」
椅子に座ったままの格好でルシウス王子がセルフィス隊長に向かって開口一番、面倒くさそうに言い放った。
かつらに何等かの魔法がかかっていたのならば、魔法を解く事が出来るのも魔法をかけた人間に違いない。
と、言うことで我々はルシウス王子に朝一番での面会を試み、こうして王子の前に立っているのだ。
「…何故、おまえのかつらが取れんのだ。」
こちらもこちらで、機嫌が悪そうだ。
怖すぎる。
私の隣には仁王立ちしたセルフィス隊長が横にいる。
「…愛情を込めたからな。」
ふん、と鼻で笑いながら王子が答える。
…愛情が込められていたのか。
嫌すぎる。
「お前の愛情は変態か!」
いいぞ!もっとやれー!
隊長!ばんざーい!
セルフィス隊長の横に立ちながら心の中で万歳三唱をする私。
かつらに愛情を込めた結果がかつらが取れないって何それ、いや、本当にね。
とか思っていたら王子に「お前もな。」と反撃される。
ぐっ。
「なっ!?」
「私のかつらを被っておいて、私だけを変態というのか?お前ももはや変態だ。」
言いきられたー!
いや、でも…そうですね。
被せたのは私ですけど、傍から見ると兄弟の地毛で作られたかつら(しかも愛情を込められたらしい)を被るだなんて、ちょっとあれですよね。
眼が泳ぐ。
「俺のは、事故だ!」
…そうともいう。
「どうだか。」
ぐっ。
「そんな事より、さっさとこれにかけた魔法を解け。」
「…解けん。」
「何?」
ええええー。
解けないのー???
心の中で叫ぶ。
「どういう事だ。」
本当だよ、どういうことだよ!
「それを解くにはある一定の条件が必要でな。」
「…そんな面倒な魔法をこれにかけたのか、お前は。」
「別に良いだろう。本来だったら横にいるアンドレアが被るはずのものだったのだから。」
「それだって問題だろうが!」
そうですよ!
私が被ってしまっていたとしても、大問題でしたよ!
取れないんだよ?
その、光る髪のかつら!
どうしてくれるんだ!日常生活!
一人二役なんてやってる場合じゃなくて色々な問題発生しまくりだから!
などと言いたかったが、ここは大人しく事の成り行きを見守る。
「…とりあえず、似合っている様子だから良かったじゃないか。」
「なっ!!」
「今朝は隊長殿の部屋から美少女が朝帰りをされた様子です!なんて魔道士の小間使いたちが騒いで楽しかったぞ。」
「…あいつら…。」
…やっぱり見られてたんだ…。
「…お前、とりあえず王花のふりして過ごせ。なんなら魔道士たちが騒いでいた様に、本当の金剛として過ごしてもいい。」
「はぁ?」
「…本来だったら、アンドレアが王花として過ごす所をお前がかつらを被ったばっかりに予定が狂った。」
「…やはり金剛に王花のふりをさせようと思っていたのか。」
…やっぱり一人二役だったんだ?
「ふりではない。」
「は?」
あ、しまった。私、声だしちゃった。
「いずれ王花にするつもりだった。」
「はぁぁぁぁ?いやいや、ありえない!」
「…アンドレア、心の声がダダ漏れだぞ。」
「あ。」
ルシウス王子が私を睨む。
いや、だってあり得ないでしょ。
「…ん?…お前、王花の本当の意味を知っているのか?」
「昨日、知りました。金剛の本当の意味も。」
「知っているなら話しは早い。私はお前に金剛ではなく、本当に王花と名乗って欲しいと思っている。」
「いや!それはない!」
「…何でないんだ。…私が言っているのに。」
「だって、王子と話したのって泉で会ったっきりですよ?ないない。」
あるわけがない!
絶対ない!
「てっとりばやく、近寄る娘さんを撃退させたいだけですよね?隊長に身代わりの件に関しても昨日、聞きましたけど身代わりなら身代わりだ!と、言ってくれた方がまだいいですよ!」
「何?どこからそんな話しが出た。」
「どこからって!王花にしろ金剛にしろ、六商の娘さんを王子たちのお嫁さんにする訳にはいかないんでしょ?」
「…。」
「とりあえず強靭な娘が必要だった。そこでのこの私だったわけですよね?それなのに、初心な乙女心を騙して、心があるような言い方はよしていただきたい!」
「…どこが初心な乙女心だ。さっぱり信じてないじゃないか。」
「あのですね。眼をみれば、この人が恋をしているかしてないかくらい、わかるでしょ!」
「…わかってないじゃないか。」
「はああああ?わかってないのは王子の方です!モテすぎて女性嫌いになりつつあるのは何となくわかりましたけど、これはない!」
「…お前、自分をこれ呼ばわりか。」
「当たり前です!珍獣を好きになる気分で、王花にするなんて冗談でも言ってはいけないでしょう!本当に王花になられる方に失礼だ!」
「…おい、セルフィス…。」
「…何だ。」
「こいつ、いつもこうなのか?」
「…。」
なんですか、いつもこう?とは。
…隊長のその目…どういう意味ですか…。
「…よく、分かった。」
「本当ですかー?」
「何だ、その目は。仮にもこの国の王子だぞ。」
「…だって、初対面があれだったので王子って感じがまだしないというか、何というか。」
「何だ。お前の言う通りに髪を切ったのに。」
「あ。それに関しては、有難うございました!」
そうだった。
私が切ってくださいって言ったんだった。
素直に頭を下げる。
「…どうですか?切って。」
「お前はどう思う。」
「眼福です!」
「そうか。」
先ほどとは打って変わって少し嬉しそうにする。
「まぁ、頭も軽くなったしな。そろそろ目を背けてもいられなかったから丁度良かったのかもしれん。だが、切ったせいでやはり周りが煩くはなった。」
「いいじゃないですか。モテて。」
「よくはないと言っただろう。」
「でも、皆さん結構勇気ありますよね?」
「何故だ。」
「だって、こんな不機嫌な顔をしている王子によく声を掛けられるなぁと。だって一国の王子様なんですよね?うかつに声、かけられませんよ?」
「お前も声を掛けてきたじゃないか。」
「だって、王子って知りませんでしたし。」
「まぁ声をかけられて困るという事ではないのだ。舞踏会の時じゃなければ別に声を掛けられたりなどは普段はしないからな。」
「え?じゃあ、何で髪ぼさぼさにしてたんですか?」
「…私の顔を見るだけで失神したりする奴がいるのだ。たまに。だから普段は顔をああやって隠していた。」
「…。」
何、それ。
「…へー…。」
「…信じてないな?」
ええ、全く。
「王子の魔力が強すぎるからとかですかね。」
「…もう、いい。」
「え?」
「お前には所詮、分かるまい。」
…なんだ、それー。
セルフィス隊長は密かに笑ってるし。
まぁいいか。
さっきより和やかな雰囲気になったから。
笑いを隠せないセルフィス隊長の顔をチラリと見てほほ笑む。
良かった。
セルフィス隊長の機嫌が直って。
と、思っていたら次の王子の台詞で隊長が再び不機嫌になるのだった。
「よし、話しを戻す!セルフィス!お前、かつらが取れるまで隊長の仕事は休め!代わりに王花及び金剛の役職を命ずる!アンドレアは今まで通り金剛の役職を全うせよ!ただし、セルフィスと共に行動をし、両者は金剛の部屋を使用すること!これは王命だ!」
こうして、よく解らない王命が高らかに宣言されたのだった。




