光る髪の女①
<魔道士食堂、勤労、15年 ベテランシェフの話>
最近、城の中でセルフィス隊長の元へ通う、ルシウス王子と同じく光る髪をした女の話題で食堂内が持ちきりだ。
長年魔道士側のコックを任され食堂を牛耳っていたが、このところセルフィス隊長がらみの話題が多い。
あの堅物で有名だったセルフィス隊長も金剛ちゃんがきてから、とても丸くなったきがする。
私としては、現、金剛ちゃんを応援したいのだが、その光る髪の長身の女の話題により、現金剛ちゃんは仮の金剛ちゃんで、本当の『金剛』は、その長身の女の方が隊長の本命だという噂だ。
私はその長身の女を見た事はないが、最近よく隊長の部屋へと足しげく通う姿が目撃されているらしい。
私としては、今までの金剛ちゃんのほうが好きなのだが。
金剛ちゃんが、金剛ちゃんではなくなったらそれは寂しい気もする。
あの隊長にとてもよく似合っていると私は思っている。
美人より、愛嬌のある女性の方が、隊長には似合うと思うのだが…。
私と現、金剛ちゃんとの出会いは、彼女が料理を習いたいと頼みにきた所から始まる。
森を吹っ飛ばしたという女性は、どんな怪物のなりをしているのかと思いきや、とても小柄で驚いた。
何しろ魔道士側の食堂だ。
確かに甘い物は少なかった。
彼女はどうしても甘い物が食べたいので、料理を教えてもらい自分でお菓子を作ろうと考えたそうだ。
需要がなかったので今までお菓子は作ってこなかったのだが、金剛ちゃんが頼みにきて、少し置くようになったら、これが結構魔道士の諸君にも好評だった。
それに、男だらけの職場で彼女はよくやっていると思う。
この間も、洗濯機なるものを考え付いたそうで、見習いの魔道士の中では随分助かっていると聞く。
もう少し、使い勝手がよくなったらお城の皆も使えるように改良するから待っていて。との事だが、果たしてどの様なものだろう。
そんな元気な金剛ちゃんだが、可哀そうな事に金剛ちゃんは記憶をなくしてしまっているらしい。
さぞかし不憫だろうと思いきや、いたって本人は気にしていない。
そこも彼女の良さだと思うのだが、あの様子だと隊長が王子様であることも知らない様だ。
教えてあげるべきだろうか?
いや、しかし金剛と名乗っているのだから、そんな事はあるまいとは思うのだが…。
料理を習いたいのも、いずれ見習い期間が終わり他の地方へ配属されても一人で料理が出来る方が便利だからという。
『金剛』なのだから、そんな事はないとは思ったが、今までの金剛とは違い、彼女は力もある。
きっと隊長と一緒に任務を遂行するため地方にも行くことだってあるのだろうと、暇があるときはよく料理を教えてやる事にした。
週に一度、食堂がお休みの時は食材を自分で調達してお菓子を作っては皆にふるまってもくれる。
最近のお気に入りはチョコチップクッキーだ。
これがなかなか美味しいので食堂のおやつコーナーに新登場させた。
次は夏に向けてアイスクリームとかき氷とやらを作りたいらしい。
金剛はただのあだ名で、本当の金剛じゃないだろうという奴もいるが、彼女が本当の金剛になればいい。
長身の髪の光る女に何か、負けないでほしい。
そう、思うのだ。
******************************
昨日のハイテンションが…にくい。
そう、夜中のハイテンション。
深夜になると本能を制御する脳機能が低下する事により起きるハイテンション。
夜中の恥ずかしいラブメール。
仕事が終わらない時の、あのハイテンション。
より原始的な行動が表にでてしまうという、あの、ハイテンションだ。
「…金剛…。」
「…は、はい…。」
「…やはり…取れない。」
「…。」
そう、昨日、あれから妙なテンションになって、着替えてこい!と隊長がいって着替えに戻ったものの、やはり異様な光輝くかつらを手にとる勇気もでず隊長に泣きついたのが、きっといけなかった。
あの、妙なテンションの隊長の異変に早く気付くべきだったのかもしれない。
だが、こちらも妙なテンションだったのだ。
お互い様である。
光るかつらがあまりに怖すぎて手にとれず、隊長と共に再び自分の部屋に入る。
とりあえず、かつらを最後にして服から着てみたらいい。
そういうことになったものの、聖職者の服がこれまた複雑だったのだ。
上下に分かれている制服のうち、下に履くものが何着もある。
冷静に考えれば、何着もある時点で全て一緒に身に着ける物ではないと考えればすぐにわかる事だったのに。
そう、何故か解らず隊長と一緒にこうじゃないか、そうじゃないか。と、身に着けていたら。
つい悪戯心が動いて、隊長に聖職者の格好をさせてみたいという好奇心がむくむくとでて。
・・・・隊長に、かつらを装着させてしまったら…。
「…金剛、やっぱりこのかつら…取れないのだが。」
隊長の頭からとれなくなった、ルシウス王子のかつらがまだそこに。隊長の頭の、そこに存在していた…。
とりあえず、一晩寝てみたら取れる。とかじゃないですかね!
そうだな!
と、妙なハイテンションは続き、全ての問題を明日に丸投げして昨日は眠ったのだが。
…問題は解決してはいなかったらしい。
「…か…。」
「か?」
「可愛いですよ…隊長。」
「…。」
やはり兄弟。
似てない兄弟だなぁと思ったけれど、同じ色の髪の毛を装着させると似ている事がよく解る。
「可愛いとは、どういうことだ。」
「…だって…どうみても…そのかつら女性のためのかつらなので、髪型が美少女モードなんですよね。」
そうなのだ。
長髪なのはいいが、前髪がぴっちり揃えて切られている分、美少女にしか見えない。
「あ、前髪、少しいじってみてもいいですか?」
「は?」
「だって、それじゃあどう見ても女性にしか見えないですし。」
「おい、こんな体格の女性がいるものか。」
「いや、隊長顔が元々女性顔なんで。」
「どういうことだ。」
「イケメンだっていう事ですよ。顔がいいと可愛くなるんですねー。前髪をもう少しなんとかしたら、長髪のイケメンに戻れます!」
「そういう問題か!」
「…。」
そういう問題ではないですけど。
だって、それ、どうやっても取れないんですもの。
「…今日が週一のお休みの日でよかったですね。…隊長、今日お仕事ありますか?」
「…ある。」
「…。」
「…。」
「…体調不良で、欠席で頼みます。私、伝えておきます。」
「…頼む。」
途方に暮れる二人だった。
**********************************
「聞いたか?」
「聞いた。聞いた。」
「隊長の部屋にものっ凄い綺麗な髪をした長身の女性が出入りしているらしい!」
「俺、みた!」
「しかも隊長の軍服着ていたって話しだ!」
「え!それって!」
「しかも、朝だぞ!みたの。」
「え!それってー!!」
「朝帰りか!?」
「金剛はどうした、金剛は!」
「やっぱり金剛は、あれだったんじゃないか?」
「そうだよなぁー。可哀そうだけどなー。」
「ただの身代わりだったかー。」
「でも、俺、金剛、結構好きだったんだー。」
「俺も!」
「じゃぁ、金剛、舞踏会に誘ってもいいかな。」
「それはダメなんじゃないか?」
「なんでよ。」
「だって、金剛、身代わりなんだろ?だったら舞踏会も金剛として出席するだろ。」
「そうかー。」
「しかし、隊長も隅に置けないな。」
「まぁ、今まで何も無さすぎだったからなー。」
「しかし、俺も見てみたいな。その、長身の美少女!」
「俺もー。」
謎の光る髪の長身の女から、隊長の軍服を着た朝帰りの美少女へと噂話は大きくなっていくのだった。




