金剛と王花
隊長が何故か真っ赤になっている。
さっきから、ずっと…。
お茶とお菓子を運び終え、洗濯機の講義(隊長談の)も終わり、ルーカスさんが帰った後(説明は隊長がする。明日は必ずこの一式を着用してくるようにと念を押された)ルーカスさんが言った通り、隊長が事の次第を話してくれた。
一旦場所を変え、再び隊長の部屋で何故か先ほどのチョコチップクッキーを二人で食べながら話しが始まっている。
因みにこの、チョコチップクッキーは私とコックさんの共同作業の傑作だ。
真夜中にも関わらず、食堂のコックさんがわざわざこのお菓子を持たせてくれたのは私とコックさんの手創りのお菓子だからだ。
仲良き事は美しきかな。
クッキーの作り方を覚えていた私を褒めてあげたい。
あ、いかん、思考が脱線した。
っていうか、さっきから思っているんだけど、これ、傍から見る分には絶対仲良しに見えるよね…。
隊長と仲良く月明かりに包まれながらチョコチップクッキーとお茶を飲む二人…。
はっ!
夜中にチョコチップクッキー!!
太るだろう!
あ、いや、そうじゃなくて。
ここが聖職者の塔じゃなくてよかった。
男性オンリーの塔、万歳。
ここが中央の城や聖職者の塔の中だったらメイドさんとか聖職者さんとかに見られて、絶対殺される。
もう一度言おう。
男性オンリーの塔、万歳。
あ、いかん、また話しがそれていた。
とりあえず、隊長が言うに、国は中央の城を中心に六地域に分かれていて、その六地域を牛耳っているのが六商らしい。
六商というからには、多分流通を牛耳っているのだろうと推測される。
独占だから、やり方によってはがっぽがっぽだ。
六商は代々、任命されるらしいが、年々自分の子供に役職を譲る重臣も出てきているようで若干困っていたりもしているらしい。
まぁよくある事だよね。
自分の子供に権力を継がせたいのは何処の世界でも同じらしい。
で、もちろん、3人の王子の妃に自分たちの娘が選ばれれば六商の座は固いと判断されるわけで。
ただ、六商の中で3つの地域には前、魔道士隊長と聖職者隊長(要は、前王子様でセルフィス隊長とバロン隊長の父親代わりだった王族の方)と、現王子のルシウスのお父様であられる方が牛耳っているらしく、問題はない様子。
問題はその他の3地域の六商の重臣たちらしい。
皆、王子の妃の座に自分の娘を座らせようと考えているのだ。
ただでさえ、イケメン王子の皆さんだ。
女同志の戦いだってあるだろうに、加えて権力抗争に巻き込まれるなんて最悪だ。
これはもう、妹に王子の嫁の座を勧めようなんて気楽に考えている場合ではない。
「…本当に分かったのか?」
「何となく。…とりあえず、妹に王子様を紹介しようなどとは絶対に思いません。」
ええ。思いませんとも!
こうなったら妹たちは魔道士狙いでGO!だわ。
「…お前…妹たちに俺を紹介しようとか考えていたのか?」
「へー?」
あ!
そうだったー!!!
何だか色々あって忘れていたけど!
隊長も王子様だった!
「いえ!いえいえ!そんな事思ってませんよ!バロン隊長の事です!」
「…。そこまで否定されるのも傷つくな。」
「ええええ!っていうか、さっきまで隊長が王子様だって知らなかったんだからそこはスルーしてくださいよ。」
「…バロンも王子だとは思ってなかったよな、お前。」
「…あ。」
墓穴を掘った。
「えーと。まぁ、いいじゃないですか。そういう話は。」
やってしまった。
「と、とりあえず!話しを戻しましてですね!」
「お前が脱線したんだろうが。」
「…えーと、す、すみません。でも、大体わかりました。」
「…わかったのか?」
六商の説明をしただけだぞ。
「はい。つまり、私は身代わりなわけですね?」
「は?」
「実は先ほど隊長が王子様だってわかった時点から納得出来た事があるんです。」
「…?」
「…何故、ルシウス王子がこの顔で金剛とよく名乗れるな。とか、王花となのるのもいいぞと言ったのか。それに、この部屋の構造です。」
「?」
「金剛と王花、それって実は力自慢のあだ名とかカッコイイあだ名とか、そういった類のあだ名ではなくて、名称ですね?」
「う…。」
「つまり、王子様たちのお嫁さんに贈られる、名称。」
実はずっと思っていた。
ルシウス王子に会ってから。
金色に光る剛力!と金剛に関しての名称の由来を話した時のあの反応は、明らかに違うと言っていた。
金剛と名乗る私に対しての物言い。
王花というあだ名。
もちろん、さっきまではただの意地悪とは思っていたけれど、隊長が王子だというのなら話しは別だ。
それに、この隊長の隣の部屋の構造。
隊長の部屋と直で行き来できるくせに、部屋そのものはどちらも豪華だ。
隊長に至っては、私の部屋は隊長の部屋ではそもそもないと言っていた。
と、いうことは、だ。
隊長が王子なら、そう考えて合点がいった。
そう、この部屋は本来、隊長の恋人が使うべき部屋。
だって、魔道士の塔は基本男性しか入れない。
にも関わらず、この部屋の調度品はそこかしこに女性の好むような可愛らしい装飾が施されている。
最初は、私の為に?
わざわざ?
なんて少し思ったりもしたが、そんな訳はなかったのだ。
そう。
ここは魔道士の王子様の奥様の部屋だ。
と、言うことは。
そう、私は金剛という仮の名称を与えられた身代わりだということだ。
「…隊長、顔、赤いですよ?」
「は?いや、どこがだ。」
…どこがって、顔が。
何で、顔、赤くなるんだろう。
「とりあえず、普通の娘さんではその六商たちに太刀打ち出来ないから、金剛だの王花だのの名称を仮に私に名付けて、やりきろう。そういうことですね?」
「は?」
「わかりました!この、金剛!喜んでその役割!引き受けます!!!」
「はぁぁぁぁ?」
「…え。何か問題でも?」
「いや、問題というか、根本がそもそも間違っているというかだな。」
「は?」
「あ、いや。何というか。」
「え?金剛とか王花の名称の意味、間違ってました?」
「い、いや、それはあっている。」
「やっぱりー!!」
「いや、そうじゃなくてな。」
ん?
何?どこが間違ってた?
とりあえず、あってるよね?
「え?この隣の部屋、隊長のお嫁さんの部屋じゃなくて、やっぱり隊長の趣味の部屋とかですか?」
「はー?何で俺の趣味の部屋ってことになるんだ!いや、部屋は確かに、俺の妻の部屋として用意されていたが。」
「ほら!やっぱりー!!だって、可愛いですもんね。」
「は?何がだ。」
「装飾がですよ。色々と。」
「そうなのか?」
「ええ、だから、おかしいなーと思っていたんですよ。それか隊長が内緒で可愛いもの集めるための部屋なのかなーとか。」
「なっ!そんなわけあるか!」
「ですよねー。」
じゃぁ、何が違うんだ。
ずっと隊長の顔、真っ赤だし。
それはそれで可愛いから眼福なんだけど。
イケメンは何をしても見ていられるなぁ。
とりあえずだ。
「だからこその変装!なわけですね!」
そう!そうなのだ、きっと。
「金剛と王花。どちらの身代わりも任せたい!そういう事ですね?そこでこの変装。一人二役ってわけです!」
「はぁぁぁ?」
「はぁぁ?って何ですか。じゃ、どういうつもりの変装だと言うんです?まさか変態王子の趣味とかじゃないでしょう。」
「変態王子って。おまえ…。」
「バロン王子のお嫁さんの代わりの方はきっと聖職者の能力の力が強い方が立たれるんですよね。だけど流石に魔力の強い娘さんは私しかいなかった。」
「お、おい。」
「そこで、金剛、王花、どちらも身代わりをやってくれ。そういう事なんですね?」
「…。」
…え。なんで隊長、あきらめた顔してんの。
「?」
「…もう、それでいい。」
「へ?」
「そういうことにしておく。」
「…何でそんなに投げやりなんですかー。」
「確かに、ルシウスの行動は俺には解らんしな。この変装もそうなのかもしれないしな。」
なんで、いじけてるの。
「よし!金剛!頑張れ!」
…何で隊長、投げやりなのー!!???
「とりあえず、変装、してみろ。な、金剛。」
「…。」
「どうした、金剛、さっきの勢いはどうした。」
「…隊長、ちょっと面白くなってきてませんか。」
「ぐ。…いや、そんな事はない。別人に見えなかったらどうする。さぁ、金剛、着てみせろ。」
「…。まぁそうですよねぇ。とりあえず、着てみます。」
かつら、気が重いけど。
この際、任務の為なら仕方がない。
「あ、そうだ。」
「なんだ。」
「私、実は防御の魔法はこの間習ったんですけど、攻撃の魔法はまだなんです。」
「?お前、攻撃、出来なかったか?」
森を吹っ飛ばしたはずだ。
「うーん、今のままだと反撃等をしたときにお城そのものを吹っ飛ばしてしまいますけど。それでいいなら…。」
「…。そ、それは困るな。」
「ですよね。なので、魔道具を使いこなしたいと思っているんです。力だけだと制御がきかないんですけど、魔道具だと一点に集中できるってジルさんがこの間言っていたので。でも、魔道具を使う講義ってまだまだ先の様なので、出来れば教えていただけませんか?」
「…わかった。」
「有難うございます!では、明日からよろしくお願いします!」
「明日からで大丈夫か?」
「んーとりあえず、早朝が洗濯を回す講義が終わってからの午後になるんですけど。隊長、忙しいですか?」
「俺は春だから、時間がある。」
「そうなんですか?」
「ああ。春は魔獣も襲ってこないし、我々も攻撃出来ないんだよ。」
「へー。」
「春は魔獣も恋愛の季節だからな。」
「…隊長から恋愛って言葉を聞くとは思いませんでした。…ちょっと…。」
「ちょっと何だ。」
「いえ。」
ちょっと照れた事はないしょだ。
「いいから、早く着替えて来い!」
扉の向こうから隊長の照れた声が響いていた。




