ルーカスと隊長
「…セルフィスは本当にあの娘を金剛にすると決めたのか?」
扉から出て行った娘を目で追いながらセルフィスにルーカスが問う。
「ふん、やっと声が戻ったな。」
ルーカスの声から悪意が漏れる。
彼の性格からして彼女を金剛とも王花とも認めてはいないのだろう。
「…まぁ、別にセルフィスの前で猫をかぶっても仕方がないしな。」
先ほどとはうってかわってにやりと笑みを浮かべ青色のソファーに腰を下ろす。
「しかし、本当にルシウスはアンドレアを王花にするつもりなのか?」
「さぁ、私には何とも。たとえ王花になるにしろ、私には関係のない事だ。」
「お前、変わってないな。バロンの事以外は興味ないのは変わらずか。」
「当たり前だ。」
「…ルシウスもこんなのが側近だと苦労するな。」
「仕事はキチンとこなしている。むしろ働きすぎなくらいだ。なんせ、バロン様から、私の能力を最大限生かしてルシウス兄様を御守りしろとのご命令だ。バロン様の命は俺には絶対だからな。そうじゃなかったら誰が好き好んで、王子専属部隊なんて年老いた重臣共の巣窟に入りたいと希望するものか。」
「まぁなぁ。」
セルフィスが重臣の顔を思い浮かべて苦笑いする。
確かに、入隊せよと言われてもあまり行きたくはない部隊だ。
魔道士はそこそこの体力が必要なため年長者は既に引退しているか皆、王子専属部隊の重臣となっている。
知力と業が渦巻く部隊だ。
魔道士のように力が全ての上下関係を決めるわけではなく、経験も実力のうちという世界だ。さぞかしやり難いだろう。
「ところで、先ほどの件だが。」
「ん?」
「本当に、あの娘は金剛の意味も王花の意味も知らずに今まで過ごしてきたのか?」
「あぁ。」
「バカな。」
「本当にな。…因みに彼女に言わせると金剛は力自慢のあだ名なのだそうだ。そして王花はただの自分に対してのルシウスからの嫌がらせのあだ名だと思っている。」
「なんだってそんな娘が、古代語や古代魔術語を読めるんだ?記憶をなくしているんだろ?」
「あぁ、だが忘れているのは記憶だけらしいからな。…ん?古代魔術語も読めるのか?」
「そうだと聞いてるぞ。」
「…。」
魔力の強いものであれば古代語は読めて当たり前だが、古代魔術語も読めるとなると話は別だ。
古代語も読めると聞いた時は確かに驚いたが、あれだけの魔力だ。読めても不思議はない。
しかし・・・古代魔術語は魔力だけで読める代物ではない。
さて、どうしたものか。
「…それで、彼女を王花にしたいのか?」
「さぁ。自分でルシウスに聞くんだな。」
「そうだな。…で、六商が動いている情報が既にあるのか?」
「まぁ、それなりに。舞踏会も近いからな。」
「毎回、毎回懲りないな。」
「ただ、今回は金剛が決定したという噂が既に流れている。」
「そうだな。」
「今まで通りの動きとはいかないだろうな。」
「ああ。わかっている。」
「…ところで、これは興味本位なのだが。」
「?ん?なんだ。」
「彼女を金剛に仕立て上げたのは、やはり力があるからか?」
「ん?」
「いずれ金剛も王花も聖女も選ばなければならない。が、六商の力が強い今、他の娘をたてても殺されてしまう恐れがある。」
「ああ。」
「つまり、あの娘はただの身代わりなのかと聞いている。」
「いや、本当に金剛にしてもいいと思っているよ。まさか、王花の名称までつけられるとは思ってもいなかったが。」
「…。セルフィス…お前…女性に耐性がないとは思ったが…。何故、あんな女を…。本当に惚れたのか?それとも、魔力が尋常ではなく強いからか?」
「…。」
「確かに、あの魔力は捨てがたい。バロン様が魔道士の隊長だったら金剛にふさわしいと俺も推薦したかもしれないが。」
「…お前…言いたい放題だな。」
「ん?」
「…確かに…一時は、あの魔力があれば一般の娘より六商からの刺客に耐えられるとも思ったが。今は…。それに、あいつ結構面白いぞ?」
「…。それは彼女を褒めたつもりなのか?」
「ん?」
「いや、そうだな、お前だもんな。」
「…洗濯機。」
「は?」
「今、魔道士の間で洗濯機が流行っているんだ。」
「なんだそれは。」
「知らないか?洗濯をする広場に置かれているの、見た事ないか?魔道士側の。」
「…もしかして。」
「そう、あの、でかい桶だ。蓋付きの。金属のな。」
「あれ…あの娘のか?制服は洗うべからずって書いてあるから何かと思ったら。」
「そうだ。金剛が私の小間使いをしていてな、その給料で城の職人に作らせたものらしい。そして、魔道士の小間使いたちに自ら作った袋も渡してな。」
「袋?」
「あぁ、それに彼らの部隊の下着を入れて一緒に金属の桶にいれて洗うんだそうだ。制服はあの機械では洗えず、昔ながらの洗濯の方法で洗っているらしいがな。」
「…はぁ。」
それから数分、セルフィス隊長はルーカスに楽しそうに洗濯機についてを講義したのだった。
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トントン、と自分の部屋の扉を叩く。
はぁ、緊張する。
だってあのルーカスって人、腹黒いんでしょ?
嫌だな。
手には仲良くなった魔道士専属の食堂のコックさん特製チョコチップクッキーが盛られた器と紅茶の入ったポットを持っている。
いや、わざわざ食堂まで足を延ばさないでもよかったのかもしれないんだけどさ。
でも、何だか入っていけない話しだったから…。
少し、時間稼ぎにね。
むしろ帰って来たら話し終わってないかななんて淡い期待を抱いてたりしたんだけど。
ええ。
そんな期待、無駄でしたね。
まぁ、そもそもかつらの問題とか、何にも解決してないしね。
いなかったらいなかったで困るんだけど。
でも…あの人、なんか怖いんだよー。
扉の中からは何故か楽しそうなセルフィス隊長の声がしている。
内容までは解らないが、普段聞いたことのないような楽しそうな声だ。
…幼馴染って言ってたし。
久々で嬉しいのかな。
…。
まぁ、廊下でウロウロしていてもしょうがない。
ここは明るく入ってやろうじゃないの。
そう心に決めた私は
「失礼いたしまーす!」
と扉を開いて自分の部屋に入っていったのだった。
心はメイドの気分で。
入っていったら何故か隊長が洗濯機についてルーカスに楽しそうに語っていたのだった。
…隊長…洗濯機何気に気に入っていたんだ…。




