呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん①
舞踏会まであと一か月をきったある日、私は盛大に悩んでいた。
踊れねえええええ!!!!!!
そう、踊れないのである。
何やら小さな頃から皆さんは一般常識的に踊れているらしく、この度初めて踊れないという事実に直面した私。
いや、そりゃそうか。
忘れてたけど、舞踏会、だもんね。
踊り、メインだったね。
事の発端は、合同練習だった。
既に皆は踊れるので、その日は朝から皆さんウキウキ状態だった。
何せおおっぴらに男女、戯れられるわけだから。
中学生とかの青い春みたいな、うぶな感じでは、もはやない。
そこには、そこはかとなく結婚を意識した男女のそれがあるわけで。
生活の場が本来中央の管理棟の役割をしている城で左右に真っ二つに分かれているわけだから普段の交流がおおっぴらには行われていないのが現状だ。
正式な魔道士と聖職者であれば現場で行動を共にすることが多いのだが、見習いとなると書庫や、管理棟ですれ違うレベル。
そんな浮足立った皆さんを後目に、私は涙目だった。
だって、踊り方を全く知らないんだもの。
そして、まさに今である。
二人一組になり、にこにこ笑いながら踊る皆様を横目に一人、教授に手ほどきを受けていた。
「いやぁ、びっくりだぜ、金剛!」
「お前、踊れないのな!」
などと、声を掛けられながら。
うるさい。
踊れる事がそんなに偉いのかー?
基礎的な事を教えてもらったものの、もちろん付け焼刃な出来で、項垂れる私。
その横では可憐な頬を赤らめた白い聖職者の制服に身を包む、乙女たちがくるくると上手に魔道士の先導の元、妖精の如く踊っている。
聖職者も魔道士も見習い含め、舞踏会では制服着用が義務付けられている。
良かった。
今更ドレスないし、恥ずかしくて着れないし、あんな動きづらいものを着て可憐に舞えるわけがない。
「…先生…。」
「どうしましたか?」
「…私、今回の舞踏会、踊らなくてもいいですよね?」
「…。」
眼鏡をかけシルバーグレーのダンディーな紳士はほんの少し考え込む。
「…そうですねぇ…少し、隊長にお話ししてみましょう。」
何故、隊長にお話しを?
「…。必ず一回は皆踊るんですか?」
踊らない人がいてもいいんじゃないか?
壁の花。とかなんとか、そういうのでいいんじゃないのか。
花というより、雑草だが。
「…そうですねぇ…普通はそうなんですけどねぇ…金剛さんですからねぇ…。」
「え…?」
また、金剛だから何かあるのか。
もうー。悪目立ちってやつなのかな。
「やっぱり注目されてしまいますからねぇ…。」
そうか。
女なのに魔道士っていうだけでも注目の的なわけだもんなー。
注目されちゃうよなー。
ただでさえ、普通にしていても日常何かと目立つらしく噂になる私。
今もちらほら、踊れない事実に聖職者の皆様があら?という顔を向けている。
可憐な乙女の皆様から異質な目を向けられてごらんよ。
流石の私も項垂れるわ。
くそう。
ラジオ体操でもおどったろか!!
第二とかな!
健康にいいんだぞ!
音楽だって爽快に始まるんだぞおおお!
結構いい歌なんだからぁ!!!
と熱くラジオ体操に関しての回想をしていてふと我に返る。
そして皆さんの踊りをみて、あれ?と、思う。
「あの…。先生。」
「?なんですか?」
「私の踊り、もしかして女の方の踊りを教えてもらっちゃってます?」
「はい。そうですが、何か?」
「…。」
あれ?
私、魔道士だから男役じゃないのか?
「私、男役の方で踊るんじゃないんですか?」
「?!」
あら、ダンディーな先生が固まったわ。
しかもダンスと礼儀作法の先生だけあって直立不動で固まってるわぁ。
すげー。
「金剛さんは…女性だと聞きましたが。」
あ、溶けた。
「はい。」
「でしたら、女性役で踊られるべきだと思いますよ?」
「でも。当日、魔道士の皆さんは制服着用なんですよね?」
「はい。」
「だったら…魔道士の制服二人が躍っているのは少し変なのでは?」
「?」
ん?変な事いったか?
「…し、しかし、金剛さん。なんですよね?」
「はぁ。」
…話がかみ合わないまま、とりあえず、女性パートをお教えしますからと、その後は無言でダンディーなダンスの先生と基礎をみっちりこなしたのだった。
基礎。
そう、足さばきを。
そして、当然の如くセルフィス隊長から御呼出しがかかったのである。
そして何故か隊長直々に夕食後、二人で舞踏会の練習をする羽目になったのだった。
問題児でごめんよ、隊長。
ラジオ体操なら踊れるんだぜ☆隊長!
舞踏会じゃなくて、武道会だったらいいのにー。
はぁ。
「…その調子だ、金剛。」
ダンディな先生のおかげで基本ステップはマスターした私だったが、上半身がついていかない。
その調子といわれても。
頭では分かっているが身体が思うように動いてくれない。
歳か。
歳なのか。
夕食後のほっと一息できるひと時を、隊長の部屋で何故か優雅な音楽が流れ二人で踊っているこの状況。
可憐に踊れていたらさぞかしうっとりする状況なのだろうが、形相が必死である。
何度も何度も繰り返し踊って、だいぶ一連の流れが身体に身についてきたと思う。
「えーと、次に、そいや!」
くるんと隊長の腕に回され、一回転!
そいでもって!こう!
「うーりゃ!」
そいで、こう!
「そーりゃ!」
最後に「そい!」
…今度こそ、決まった?…。
…。
…。
あれ。何、その隊長の眼…。
「…隊長?…」
一通り、踊る事が出来て今の私としてはこれが精一杯だ。
やっと一通り出来たと思ったのに、隊長の顔が芳しくない。
「…えーと、ダメ、でした?やっぱり…。」
出来たと思ったのになぁ…。
「いや、そうではない。」
「え?」
「一応、出来てはいるのだが。」
手を口に当て、コテンと頭を傾ける。
…何その可愛らしい仕草。
少し、うっとなる自分が恥ずかしい。
これだからイケメンは…。
「金剛…。」
「はい。」
「その…。」
「?」
「その、掛け声はどうかと思う。」
「へ?」
「…一応、音楽に合わせて踊るのだから…その…。」
「…あ!」
あー、なるほど。
「そいやっとかの掛け声ですね?」
「あ、ああ。」
「練習中だけですよー。」
「本当か?」
「…。」
信用ないな、私。
「…じゃぁ、今度は掛け声なしでやってみせます!」
任せてください!と再び踊ろうとして、足がもつれて転びそうになる。
痛い!
と思ったのに衝撃が身体にこない。
代わりに隊長がまたしても私の身体を抱きかかえていた。
今度は荷物持ちではなく、後ろから抱きかかえられる形で。
ぬあああああ!!!!
心の叫び声がマックスだ!
だって後ろに隊長が!
「大丈夫か!金剛!」
「!は!はい!」
そしてやっぱり身体が宙に浮いている。
「あ!あの!」
怖いです!と言おうとしたら、今度はそっと下ろされた。
「…少し、休憩するか…。」
後頭部の少し上から隊長の声がする。
この人…声もいいんだよなぁ。
うーん。
困る。
何が困るって顔が真っ赤になってしまう!
隊長にとっては、ただの小間使いなのに顔が真っ赤になってしまったらいらぬ誤解を生んでしまう!
休憩だ!
そうだ!休憩をしよう!
隊長の腕にすっぽりはまっているこの状況。休憩するってさっき隊長が言ったよね?
あれ?
…隊長?
休憩するんじゃないのかなーと思ったのに隊長が腕をそのまま身体から離さない。
そしてそのままぎゅっと再び隊長の腕に抱きしめられる。
「!?」
あまりの事に思考がついていかない。
固まっていると、隊長がまじめな声で「金剛、やせすぎじゃないか?」と言いながら今度は私の腰回りに腕を回してきた。
隊長おおおおおおお!???????
ふぇええええええええ!!!!!!!
声にならない声が出る。
いや、声に出てないけど!でる!
う、後ろから抱かれるの!なし!
うわああああん!!!
イケメンに抗体もってないんだよおおお!!!
と、頭がショートしかかったその時、バン!と扉が開く音がした。
「金剛はいるか!!!!」
隊長に後ろから抱きしめられながら隣の部屋に響き渡る声に二人共静止する。
「なんだ!おらんのか!!!!」
静かな溜息と共に隊長の腕がそっと身体を離れていく。
「…。」
何故か息をひそめてしまった。
いや、怪しい事はしていないんだけど。
ただ…。この声…。
もしかしなくても・・・・。
「全く!王子自ら出向いてやったというのに!あやつめ!どこで何をしておるのだ!!」
ですよねー。
王子様、ですよねー。
この、俺様な言葉の割に、隊長と同じく綺麗な声でしかも響く、この声。
王子様、ですよねー。
何故か隣に行く気もせず、静止したままでいると部屋にいない事を確認した王子様がバン!と再び扉をしめ去っていく足音が響いていった。
「…。」
「…。」
「いったか…。」
「…行きましたかね…。」
もう、何やらわからなくなってその場にへたり込む。
疲れたし。
さっきの状況についていけてないし。
思考が。
「…いいのか?」
こちらは動揺しているというのに冷静な顔で隊長が涼しい顔で問う。
「…。まぁ、王子様との約束は明日なので。」
「…。」
そう、明日が第一回王子様とのお仕事の日なのだ。
明日が!
何で今日、部屋に現れたんだあの王子。
あーもー。
こっちは一人でドキドキしてバカみたいいい。
「あのー。」
「なんだ。」
?あれ?隊長、何故か不機嫌だな。
「…。」
さっきの何だったんですか?と隊長に聞こうかと思ったけど、止めた。
何だか、きっと男の魔道士に比べて細いとか、そういう感じだったのだろう。と思い立ったからだ。
隊長が不機嫌だから聞けない。とか、そういう事では断じて!断じて!断じて!ない!
…わけではないけど。
何となく。
「お水、飲んでもう一度、復習してもらってもいいですか?」
溜息をつくと、隊長に頼んだのだった。
今度は変な掛け声を挿入する事なく、無事にこなしたのだった。
「王子の仕事を手伝う!?」
「はぁ。」
水差しからキラキラ光るクリスタルの高そうなコップに水を注ぎ、隊長の前と自分の前に置いて椅子に座る。
先ほど隊長から何故王子が尋ねてきたのかを聞かれ、王子とのなれ初めを話したのだ。
「何故か、そういう流れになってしまいまして。」
「大丈夫なのか?」
「…大丈夫ではないんですが。…まぁ、王子様の髪短くなったらしいですし。約束でしたし。頑張ります。」
「…あまり無理をするなよ。」
「はぁ。…でも、何をするのか未だにわからないんですよ。明日の集合場所も迎えをよこすからと言われたままですし…。」
「・・・。」
「隊長?」
「あ、いや。…何か困った事があったらいつでも俺の所に直ぐに来い。」
「はぁ…。」
「…因みに…王子から何か他に言われなかったか?金剛という名について…とか。」
「!何でわかるんですか!言われましたー。それはもう、嫌味な感じで!この顔で金剛とよく名乗れるな!とか!」
「最後には金剛と名乗るのもいいが王花と名乗るのもいいぞって!新たなあだ名までつけられそうになって!」
「王花?!」
「?」
「王花と名乗ってもいいと言われたのか?」
「はぁ。でも、名乗りませんよ?だって金剛ってあだ名が定着してるのに今更違うあだ名を付けられても困りませんか?しかも、王花って!」
「…。」
「王の花!ですよ?絶対!誤解されますって!」
「…誤解?」
「ええ。何そのあだ名って感じですよね!」
「…。」
「だって王子様、最初私にこの顔でよく金剛を名乗れるなっていったくせに、今度は王の花って名乗ってもいいぞだなんて!絶対、あれ、意地悪ですよ!」
「…意地悪…。」
「だって王の花って、何だか絶世の美女って感じですよね?」
「…。」
「それを名乗ったらそれこそ、顔をよくみろって皆から殺されそうじゃないですか。」
「…金剛はいいのか?」
「だって、金剛は、力自慢のあだ名ですよ?」
「…力自慢のあだ名だったのか。」
「?」
「…まぁ…。お前がいいならいいか。」
「?」
「とにかく、困った事がったらすぐに言えよ。隣の部屋だしな。」
「はい!有難うございます!あ、そういえば気になっていたんですけど。」
「なんだ。」
「そこの扉ってもしかして隣とつながっています?」
「!!」
豪奢な分厚いカーテンが引かれている向こうを金剛が指さす。
「この間、このカーテンの後ろ何だろうってみたら扉があったんですけど、これ隊長の部屋と直接行き来できる扉だったりするのかなって。」
「!」
「あ、やっぱりそうなんですか?」
「…。」
「すみません。」
「…何故、謝る。」
「だって隣の部屋も隊長の部屋だったんですよね?それを私の為に解放してもらっちゃって。」
「…。そこの扉は出入りしないように鍵をかけてもらった方がよいか?」
「え?何故です?便利じゃないですか。」
「!?」
…何で、隊長の顔真っ赤なのだろう…。
たかが隣と扉が繋がっていたぐらいで。
他の見習いたちは相部屋で生活しているのに。
「…外から行くの面倒なので、そこの扉から今度きてもいいですか?」
「!…お、お前がいいのなら…私は別に構わないが…。いいのか?」
「?え?いいですよ。見られて困るものもないですし。」
「…お前、他の者には迂闊にそういうことを言うなよ?」
「え?何をですか?」
何故、隊長は顔を手で隠してるんだろう。
何かおかしいこと言ったかな…。
「…。」
隊長の顔を覗き込もうと顔をよせると、少し眉間にしわを寄せた隊長にほっぺをつかまれ横に引っ張られたのだった。
「…金剛、お前、もう少し娘だということを自覚しろ…。」
隊長の小言付きで。




