04
日に日に日差しが強くなり、畑の苗も少しずつ大きくなってきた。
ジャモは青々と葉を茂らせ、トマルには小さな花が咲き始めている。
「私も夏支度しないと…」
◇
リベルはヴェリタスに来ていた。
「今回も良品ですね。合計で、銀貨八枚になります。」
「ありがとうございます」
前回と同じ受付嬢が査定をしてくれた。
…今日はギルド内が静かだな。キョロキョロ周りを見てしまう。
「今日はフォルム街で季節市があるので、静かなんです。」
「……季節市?」
「夏前に普段いない商人とか、珍しい食べ物を売りに集まる日ですよ。帰りに寄ってみたらいかがですか?」
私も行きたかった…と小声で愚痴が聞こえた気がする。受付嬢は笑顔を作り直し、
「またのご利用お待ちしてますね」
と見送ってくれた。プロだな。
……季節市か。何があるんだろう。せっかくだから行ってみようかな。
フォルム街に着くと、普段から賑やかな街が、いつもより客を呼ぶ声が飛び交っている。フードをより深く被る。
あちこちに並ぶ露店に、どこから見ればいいのかわからない。
炭火で焼かれた肉の香ばしい匂いが漂ってくる。
…お腹が鳴りそう。
候補に入れておこう。と思いながら、隣のアクセサリーには目もくれず歩いていると、仕立て服の露店で足が止まった。
…庶民向けの服じゃない。貴族が着るほどいいものじゃない。
でも、一目で生地の良さがわかる服が並んでいる。触ってみると、少し使われた跡はある。
………古着かな?十分に着られそう。
「あの、このシャツとズボンください」
「はいよ。銀貨3枚ね」
掘り出し物を見つけた気分で、お金を払って店を出た。
見るだけでも楽しいな。
色んな露店を人混みの中歩く。
他にも、布や糸など、夏支度に必要なものをいくつか買った。
「あれ?お嬢ちゃんも来てたのかい?」
…ハンナさんだ。
両手にいっぱいの紙袋を抱えている。胸元には匂い袋が揺れていた。
「うちもいつもと変わり種のもの置いてるんだ。興味あったらまたおいで」
また頭をポンポンと撫でられた。
…紙袋が当たって少し痛い。
ちょうど、苗屋で質問しようと思っていたところだから、あとで寄ってみようかな。
その前にさっきの匂いのお肉屋さんに行こう。
◇
リベルは家に帰っていた。
ハンナさんは季節市で忙しそうだったので、長居はやめた。
それでも寄ってよかったと思う。
「いいこと、教えてもらったな」
薬屋にも、苗屋にも乾燥したミントが吊るされているから、忙しい合間に尋ねてみた。
虫よけになるらしい。
…そういえば図鑑に書いてあったな。
早速今あるミントを天日干ししよう。
ハンナさんの店では、レモンバームを混ぜた蝋燭が売っていたので買ってきた。見た目も可愛い。部屋もいい香りになりそうで一石二鳥だ。
「…自分でも作れそうだな。」
また今度、図書室で調べよう。
台所のかまどには、レモンバームが鍋の中でゆらゆら泳いでいる。
時折、火加減の様子を見ながら、リベルは紙袋から男性用のシャツとズボンを取り出した。
クリーン魔法をかけ、膝丈に合うように一気に鋏を入れた。そこから、三つ折りにしてほつれが出ないように縫っていく。
…生地が分厚くなって、少し固いな。
ぐりぐり針を力任せに動かしながら、一周縫い終わった。
ベルトを通すところに麻紐を通す。
ふーっと息を吐きながら、固まった肩を回した。
作業着を脱ぎ、肌着の上から袖を通した。
「………楽だ」
肩が軽い。動きやすい。
袖を少し捲り、麻紐を結ぶ。
大きめのシャツは、お尻が隠れる長さだ。
「部屋着の完成…!」
…これだよ。家の中での楽な格好は。
鏡の代わりに窓の前でくるくる周りながら、自分の姿を見る。
…うん。いい出来だ。
一人で頷いていると、レモンバームの香りが強くなってきた。そろそろ火を止めても良さそうだ。
煮出したレモンバームを染み込ませたシーツは、今庭先で風に揺れている。
明日には新しいシーツで眠れるだろう。
古いシーツはまた雑巾にしよう。
いつもの縁側でスープとパンを齧る。
「スープが沁みる…」
キノコで出汁を取ったかいがあった。
美味しい。あとで追加でキノコも干そう。
明日は日差しよけを作ろうかな。
リベルはこのゆっくりとした時間が好きだった。
◇
翌朝、縁側へ出ると、干していたキノコがなくなっていた。
地面には見慣れない獣の足跡だけが残っていた。




