02-02
目的のフォルム街は、屋根から眺めるくらいだった。馬車は使えないから、森を勘で突き進んでいく。足取りは軽い。
しばらく歩き、草むらをかき分ける。
「……わあ」
その先には、生まれて初めて見た賑やかな街が広がっていた。
人の話し声があちこちから聞こえてくる。馬車も絶えず行き交っていた。
…あの景色の中で、みんな暮らしていたんだ。
よく見れば、貴族が出入りするような立派な店構えの店もあれば、気軽に入れそうな店もある。
焼き菓子の甘い匂いに思わず足が止まる。
…帰りに寄ってみようかな。
豪華なドレスを纏った令嬢が、護衛を連れて通り過ぎていく。
…やっぱり、目立たないようにしよう。
リベルは深くフードを被り、人目を避けるように歩き出した。
「どこの薬屋がいいんだろう…。」
薬屋だけでも何軒もある。
辺りを見回しながら歩いていると、一軒の木造の薬屋が目に入った。窓辺の観葉植物が並び、家に似た木の匂いがした。自然と足が向く。
……ここに入ってみよう。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん一人?」
エプロン姿の、少しふくよかな女性が朗らかな笑みで奥から顔を出した。
…よかった。優しそうな人だ。
少し緊張していたリベルはほっと息を吐いた。
「おつかいかい?」
「薬草の買取をお願いしたいです…」
袋を開いて中身を少し見せると、困ったように眉を下げた。
「ごめんね。この辺りの薬屋は個人で買い取っちゃだめなんだ」
…嘘でしょ。
リベルは肩を落とした。
その様子を見かねたのか、
「ちょっと薬草見せてごらん。」ともう一度声をかけてくれた。見えやすいように袋を傾ける。
「…品質は悪くないね。薬草はギルドが買い取る決まりなんだ。…ここらなら、ヴェリタスギルドが良心的だよ。行ってきな」
そう言って、ぽんぽんと頭を撫でられた。
さっきから思っていたけど、…私っていくつに見えてるんだろう。でも情報はありがたい。ギルドか…。行ってみよう。
「…ありがとうございます」
深く頭を下げ、薬屋を後にした。
フォルム街を抜けると、ギルドや商会が並ぶ一角に着いた。
すぐに周りより一回り大きな建物が目に入った。
…ここだ。思ってたよりずっと大きい。
ドキドキしながら扉を押すと、書類を抱えた二十代前半くらいの女性と目があった。
「こんにちは。ご用件をお伺いします」
「観葉植物が並んでる薬屋さんに教えてもらって…薬草の買取お願いします。」
「ああ!ハンナさんのお店ですね!こちらにどうぞ。」
カウンターに案内される。
…あの親切な女性はハンナさんというのか…有名なんだな。
先ほどの女性を思い浮かべながら、袋を差し出す。
「では、査定しますね。少々お待ちください」
ルーペを取り出し、一つ一つ薬草を確かめていく。
一体、いくらになるんだろうと、リベルは女性の手元から目が離せなかった。
「……全体的に状態がいいですね」
受付嬢は一株ずつ並べながら頷いた。
そして、一株持ち上げながら、
「これは、ポーションの材料になるので、五倍で買い取れます」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
本当にそんな金額になるのかな…。
受付嬢は、にこりと笑って手際よく薬草を種類別に分け、何かを書き込んでいく。
…見たいけど、何を書いてるか見えない。
時折何か弾く音が聞こえる。そろばんかな?
覗き込むのを諦めて、受付嬢の顔を見て待つ。
…ドキドキする。まだかな。
「お待たせいたしました。合計、銀貨六枚になります」
「…間違ってないですか?」
「もちろんです!状態も良かったですから」
差し出された小さな革袋は、思ってたよりもずっしり重かった。
◇
リベルは帰り道を歩いていた。
右手は、ポケットの中だ。落とさないように、その中の袋をぎゅっと握りしめていた。もう片方の手には、今日の戦利品の肉を抱えている。
「薬草だけで銀貨6枚…」
思わず口元が緩む。
何度も革袋を指先でなぞるって確かめる。
初めて給料をもらった日をふと思い出した。自分で稼いだお金で、好きなものを買える。
あの時と同じくらい、嬉しかった。
食料や日用品など、最低限の生活物資は公爵家から支給されているから、生活には困らない。
……けど、贅沢はできないんだよね。
「今日の夜ご飯は、お肉を焼こう」
お金はまだ、余っている。
次に買う物も決まっている。
フォルム街を背にスキップしながら森へ入って行った。




