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 縁側から眺める庭の土の上で、陽炎がゆらりと立ち昇る。


 今日で長かった夏休みも終わりだ。


「あっという間だったなあ」


 膝の上には水で冷やした食べかけのスイルが乗っていて、横ではシルも頬張っている。夏の終わりにどうしても食べたくなって、フォルム街で見つけた時に思わず買ってしまった。


 一口かじって種を飛ばし、庭へ目を向ける。


 最初は何もなかった庭も、今ではすっかり様変わりした。


 薬草畑には青々と葉が茂り、貯水樽には水がたっぷりと満ちている。家の裏の野菜畑も順調に育ち、この前完成した露天風呂まである。


 一つ一つ、自分で作ってきたものだ。



「こうして見ると、結構頑張ったなあ」


 夏も終わりに近づき、夜になると扇風機だけで済むようにもなってきた。


「秋になったら、また何か作ろう」



 夏の過ごし方としては、もっとやりたいことは沢山あるけど、とりあえずもう十分だろう。また来年、不便が出たら作ろう。



 空になった器を横に置き、そのまま縁側へ寝転んだ。


 夏休みに入ってから昼寝ばかりしていたせいで、すっかり生活リズムは崩れてしまっている。


「……明日から起きられるかな」


 苦笑いしながら目を閉じた。








 じんわりと汗ばむ感覚にたまらず目が覚めた。頬を刺す日差しはもう弱く、庭は夕暮れの色に染まり始めていた。


 冷房があるはずなのに暑い。寝返りを打って冷房へ目を向けると、おこじょと狐が冷気を独占するように丸まって寝ていた。


「暑いわけだ」


 体を起こし、貯水樽から汲んだ水でタオルを濡らす。ぎゅっと絞って熱った体を拭くと、ようやく涼しさが戻り、再び縁側へ寝転んだ。



 また眠ろうとしたその時、頭にぷにっと肉球の感触がした。薄く目を開けると、シルの前足が頭に乗っている。目が合ったが、気づかなかったふりをしてそのまま寝たふりを続ける。すると、パシパシと頭を軽く叩かれ始めた。




「………」


 寝たふりを決め込んでいると、頭を叩く肉球の力が少しずつ強くなっていく。


「おい」


「ぃたっ、いたい」


「目が合っただろう」


「合ってません」


「腹は減っているんだろう?」


「いやだ。今日は何もしたくない」


 そう呟いて寝返りを打ち、そのまま伏せる。どうせまた引きずられるんだろうと身構えたが、頭上から聞こえてきたのは意外な言葉だった。




「わかった。今日は肉を狩ってきてやる」


 その言葉にリベルは飛び起き、


「待って!ごめん!ご飯作るから!」



 声を張り上げてシルを呼び止めると、もう狩ってきた獲物を見るのは勘弁してほしいと心の中でぼやきながら、重い腰を上げて台所へ向かった。



 フォルム街で買ってきた小麦を取り出し、「せっかくだし今日はこれを使おう」と決めると、ギョクネを千切りにし、肉を薄く切り、小麦粉を水で溶いていく。



 フライパンを火にかけ、油をひく。温まったところへ野菜と肉を入れると、じゅわっと音を立てて湯気が立ち上った。木べらで返しながら火を通し、水で溶いた小麦粉を流し入れて具材を包むように丸く形を整えていく。


 焼き色がついたところでひっくり返し、反対側もこんがり焼き上げる。最後に調味料を回しかければ、なんちゃってお好み焼きの完成だ。




「ソースとか醤油とか味噌もほしいな」


 これは将来作るリストに入れよう。


 そのまま何個か焼き終え、スープを作っていると、


「いい匂い」


「これなんだ?!」


 起きたおこじょと狐が肩に乗ってくる。


「きみたちいつ来たの?」


「暑いから涼しいところに来たんだ!」


「起こしたのに寝てたぞ!」


 すっかり暑さしのぎの場所になってるな。


 左右の耳元で好き勝手しゃべられ、頭が忙しい。








「さっ、ご飯食べよ。シルも!」


 声をかけると、シルの耳がぴくりと動き、のそのそと歩いてくる。


 相変わらず怖いのか、二匹は首にしがみついたまま席へ向かった。……苦しい。



「いただきます」


 焼きたてのお好み焼きを頬張る三匹は、口々に「美味しい」と声を上げる。その様子を眺めているうちに、食卓はあっという間に空になっていた。


 お腹いっぱいになった二匹は仰向けに寝転んで腹をさすっている。


 シルは多分、物足りてない。



「いつかいっぱいご飯食べれるようにしようね」


「別に狩るから問題ない」


 やっぱり狩りに出かけてたのか。薄々そうじゃないかとは思っていたけど、今日で確信した。




「でも今日は、これもあるよ」


 樽で冷やしていた果物を切り分け、二匹の前へ置き、シルには丸ごと一つ手渡す。


「冷たい!美味しい!」


「もうお腹いっぱいで食べられないと思ってたのに!」


「…魔物にも別腹ってあるんだね」



 三匹が夢中で果物を頬張る姿を見ていると、自然と頬が緩んだ。







 果物を食べ終え、そのまま皆でお風呂へ向かう。リベルとシルが先にザブンとお湯へ浸かると、恐る恐る縁へ近づいてきた二匹の首根っこを掴み、そのまま足からそっとお湯へ浸けた。


「はぁ〜……」


 二匹から同時に気の抜けた声が漏れる。思わずシルと顔を見合わせて笑い、湯に体を預けながら、こんな穏やかな日が毎日続けばいいのにと、リベルはしみじみ思った。


 暑いのが苦手な種族なのに、初めてのお風呂が気に入った二匹は、背泳ぎをするように腹を水面へ浮かべ、気持ちよさそうにぷかぷか浮いている。


 ……おこじょたちは、もうシルのことを怖がらなくなったんだろうか。


 みんなでお風呂に入る日が来るなんて、思ってもみなかった。これから秋に向かえば、お風呂はもっと気持ちよくなるだろう。



「明日から学校かあ……」


 ぶくぶくと泡を作りながら、顔の半分までお湯に浸かる。


「学校?」


「わかんないけど、がんばれ!」


 のんきにぷかぷか浮かぶ二匹を見ていると、思わず指鉄砲を作り、ぴゅーっとお湯を飛ばした。


「「うわっ……!」」


 顔にお湯を浴びて慌てる二匹を見て、リベルはにやりと笑う。


 シルだけは我関せずと、気持ちよさそうに湯へ浸かったままだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。


明日からお盆休みに入るため、更新が不定期になるかもしれません。できるだけ更新したいと思っていますが、お休みする日があったらすいません。


皆さまもよいお盆をお過ごしください。

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