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身動きが取れなくて目が覚めた。横を見ると白い毛並みのおこじょ。お腹を見れば狐が、その奥の足元にはシルが居る。
「もふもふの集まり…」
動いて起こすのもかわいそうだと、もう一度目を閉じて眠りについた。
「「起きろ!」」
「…ぐっ!!!!」
お腹に衝撃が走る。狐とおこじょが同時にお腹に飛びついてきた。
「…おはよう。朝から元気だね」
「おう!」
最初は警戒していたものの、人懐っこい狐はぴょんぴょんと右肩に乗ってくる。
それを見たおこじょは恐る恐るリベルの体をよじ登り、左肩に収まった。
「きみはまだ寝るの?」
シルに声をかけると、耳がぴくぴく動いて「ご飯の時に起こせ」と目を開けずに言った。
階段を降りて、縁側に出て靴を履く。そこから畑まで移動し、杖を振れば霧雨のように水が舞う。
それを見た二匹は、肩から飛び降り嬉しそうに駆け回っている。
「畑は踏まないでね」
見ると上手に畑の間だけを走り回っている。
「無邪気だな〜」
誰がその体拭くんだろうと思いながら、もう一度杖を振った。
扇風機と冷房を起動させ、縁側にタオルを二枚投げれば、二匹はタオルの上をゴロゴロ転がって身体を拭いている。
「足の裏もちゃんと拭いてね」
そう告げて、微力の火魔法を出しバーナーのように、パンを少し炙る。
少し焼き目がついたら、昨日余ったきのこを乗せて、器に盛った。
「ちょうどできたよ」
降りてきたシルは頷いて、縁側に座った。二匹はそれを見て、距離を取る。
なんだか見慣れた光景になってきたな。と横目に見ながら、それぞれの器を置いた。
◇
食べ終わった器を洗っていると、ひょこひょこと狐の後ろからおこじょが顔を出した。
「どうしたの?」
まだ警戒、いや、恥ずかしいのかもしれない。もじもじしながら、「対価が巣にあるんだ」と小声で喋った。
そうだ。対価があるんだった。忘れてた。
「…撫でさせてくれたらそれでいいけど?」
この子も立派なもふもふ具合である。
狐が『だめだ』と呟いているのが聞こえた。前に撫でられた時、嫌だったのかな。もう撫でさせてもらえないのだろうか。とても残念だ。
だめかな?と狐に目線をやると逸らされた。
「じゃあ、その対価待ってるね」
諦めておこじょにそう言うと、
「一緒に行こう」と上目遣いで伝えられた。
狐が肩に飛び乗り、内緒話をするように、
『帰らなかったの怒られるから一緒に来て欲しいんだって』と耳元でコソコソ喋る。
この可愛いの連発に心がぎゅうっとなる。狐の行動も、おこじょの理由も可愛い。
今だに上目遣いで見てくるおこじょと目線を合わせるようにしゃがんで「行かせていただきます」と頭を下げた。
目の前を二匹の魔獣が、追いかけっこをしている首元には、氷タオルが巻かれている。
「狐がまた冷たいやつ、して」と小さな木苺のような果物を差し出しながら頼んできた。ここでも対価いるのか。と感心していると、おこじょの視線に耐えられず、「その木苺で二人分ね。」と言って氷タオルを作ってあげた。
「初めて通る道だ…」
森は広い。まだまだ知らない場所が沢山ある。
「こっちは、暑いのが苦手なやつが多く住んでるところに向かう道だからな!」
「へえ」
リベルの家はどちらかというと、森の入り口に近い。湖くらいしか、奥深い方面は行ったことがない。
奥になるにつれて、木々は生い茂っている。
道に迷わないように、目印を見つけつつ、何か目新しいものはないかなと景色を見て歩く。
すると、先に走ってた二匹がぴたりと止まった。
「どうした、の、…」
最後の方は声になっていなかったかもしれない。二匹の近くに寄った、その瞬間だった。
全身が粟立つ。
肌がぴりりと痺れ、息をすることさえためらうような圧が辺りを満たしていた。
――ここは危ない。
理屈ではない。体がそう告げていた。
二匹と目が合い、リベルは静かに手招きをした。
静かに肩へ飛び乗った二匹を乗せ、息を殺して後ずさる。
足元の枝や石に目を配り、一歩、また一歩と距離を取っていく。
茂みの隙間から見えたのは、肌が黒く、目を細めている大蛇だった。
随分距離をとってから、急いで走る。
「はぁ、はぁ……」
膝に手をついて、思いっきり呼吸する。自然と、息を止めていたみたいだ。
今の魔物は一体、なんだったんだろう。あれは絶対近づいたらいけないものだ。
「まさか!こんなところにいるなんて!」
「産卵期だよ!母さんが言ってた!」
やっぱり、有名な魔物なんだ。絶対上位ランクの魔物だ。…あんなに、怖いのか。
初めて森が怖いと感じた。
首を振って気を取り直し、おこじょに話しかける。
「違う道からでもいけるの?」
「うん。大丈夫。ついてきて!」
一刻も早く巣に帰りたいのかもしれない。さっきの追いかけっこより勢いがある。
迷わないように、リベルも早歩きで追いかけた。
途中川の水を飲んだり、生えてる果物を食べたり、きのこを採ったり、薬草を採ったりしながら、川の上流の方へ歩いていくと、
「ついたよ!」
「…洞穴だ」
てっきり草木が豊富な所に住んでると思ってた。
おこじょはリベルの足元をくるくる回りながら、
「こっちだよ!早く」
洞穴の中に案内した。恐る恐る中に入る。
「おこじょがいっぱい…」
岩の隙間から顔を出す子、身を寄せ合ってこちらを警戒する子。そこらじゅうに白い毛並みの大小さまざまなおこじょがこちらを覗いている。
…どれがうちに来たおこじょだ?すっかり混ざってわからなくなってしまった。
洞穴の中は、日光が遮られている分少し涼しい。びゅうって音が響くと、風が入り込んできて気持ちいい。
相変わらず見つけられずにキョロキョロしていると、頭を小突かれているおこじょが目に入った。
多分、あの子だな。お母さんに怒られてるんだろう。着いてきた意味無くなっちゃった。
一日預かりました。と一応お辞儀しておく。説教が終わったのか、小突かれていた子が駆け寄ってきた。
「怒られた?」
「うん…。」
しゅんとなっている。可愛い。撫でていいかな?と伸ばした手を、狐が前足で押さえた。
「「……」」
お互い目を合わせるが、狐は譲らない。
ちょっとだけなのに…。
「これ、対価のキラキラ光る石!」
視線を外さず狐と見つめ合っていると、おこじょが石を差し出してきた。
「これ……本当にもらっていいの?」
リベルはゴクリと喉を鳴らした。
「うん。綺麗だから拾ったけど、何にも使えないし…。対価にならない?」
「いや、むしろ私がもっと払わないといけないよ。これだと…」
差し出してくれた、キラキラした石を眺める。
「これ、綺麗な石だな!」
「うん!キラキラしたの好きだから持ってたんだ!」
「じゃあ、遠慮なくもらうね」
「うん。」
他のおこじょは一定の距離を保って、ずっとリベルを見ている。
…可愛いんだけど、居心地が悪い。
「また、遊びにきてね。」
二匹を見ながら言った。
「「うん」」
対価としてはもらいすぎだから、最後に杖を振って二人のタオルをもう一度凍らす。
「「ありがとう!」」
「じゃあね」
手を振って洞穴を出た。
帰りは目印を確かめながら、何度も辺りを見回し、日が暮れる前に家へ帰った。
「ただいま。…ご飯食べた?」
「ん」
縁側で寝そべっているシルの横に同じように寝そべり、ポケットからおこじょにもらったキラキラした石を取り出す。
「魔石か」
「…やっぱり、そうだよね。腹痛にしては、貰いすぎだよね」
魔石の図鑑は錬金術をする時に、何回も何回も読んだ。
間違うはずがない。陽の光にあたって、キラキラ透明の紫色に光る石は魔石しかない。
「人間にしか価値がないからいいんじゃないか」
「…そっか」
「次も涼しいやつか?」
「そうだな……次は、リラックスできるものがいいな」
森の中を歩き回って疲れた体を癒す物がいい。




