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「白い球根なんて珍しいな」
大きなニンニクかと思った。匂いがしないし、シルも興味を示さないから食べ物でもないと思う。
ダンさんからもらった鉢植えが残ってたはずだ。
畑から土をもらい、小さな鉢に入れる。狐が置いていった球根をそっと植え、水をやった。
「どんなものが生えるんだろ」
見たこともない球根だから楽しみだ。
畑に水をやり、虫が食っていないか確かめ終えると、リビングに寝転んだ。隣ではシルも同じように寝そべっている。
「…これが夏休みだよね」
何も考えずに過ごせる時間が、何より幸せだった。
頭を空っぽにして目を閉じると、シルの寝息が聞こえてきた。…寝るの早いな。寝息を子守歌にうとうとしていると、トトトトっと何かが走る音がした。
目を開けて、体は動かさずに目だけで音の方を見ると何もいない。
気のせいか、とまた目を閉じれば、トトトトと走る音がだんだん大きくなる。だいぶ近いところまで来たんじゃないかと、そーっと目を開くと、
「……また来たの」
「!!起きてたのか!!」
顔の真ん前に狐が覗き込んでいた。
「そうだ。球根、ありがとう」
礼を言いながらゆっくり体を起こすと、顔を近づけていた狐は驚いたようにひっくり返った。ころころ転がる姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「べ、別に!助けてもらったから当たり前だ!」
子供狐はツンデレなんだな。
「あれ見て、植えたよ」
先ほど植えた鉢植えを指す。
「俺のお気に入りの花だからな!楽しみにしてろよ!」
「うん。大事に育てるね。
それより、どうしたの?また冷たいのを食べに来たの?」
「!そうだ!助けて欲しいやつがいるんだ!」
「あのねぇ…私何でも屋じゃないんだよ?」
「俺の友達なんだ!」
「そうは言ってもなあ…」
狐はかわいい。そりゃ助けてあげたい気もするけど、キリがなさそうだし…。
「見捨てるのか…?」
狐がわかりやすくシュンとする、その姿は尻尾も耳も垂れ下がっている。
「…対価は?球根はもういらないよ」
魔物は対価があるんだよね。等価交換。
「…俺の!大事な宝物をやるよ!」
可愛いとつい甘やかしたくなる。
「宝物はいらないよ。その代わり…」
リベルはにやにやして願いを口にした。
シルは興味なさそうに、鼻を鳴らした。
森の中を歩いていく。
狐はリベルの腕の中だ。手は忙しなく毛並みを撫でている。
「ここを真っ直ぐ?」
「そうだ…」
狐は力なく答える。
「もういいだろ。暑いんだ!離せ!」
腕の中でジタバタ暴れている。…しょうがない。狐を地面に放し、解放すると狐はぶるっと震えて、毛並みを整え、ぴょこぴょこ走っていく。
「待って、待って。」
慌てて追いついて、暑さ対策に最近持ち歩いているタオルを狐の首元に巻いた。
「暑いだろ!なにすんだ!」
「まあまあ、落ち着いて」
杖を振って、お馴染みの氷タオルの完成だ。
「…冷たい」
尻尾がぶんぶん回っている。
「じゃ、行こうか?」
さっきよりも早く駆け出した狐の後を追った。
随分登った先の、小川の側の草むらに着くと、狐が声を上げた。
「ここだ!あれが俺の友達!」
駆け寄っていく狐のそばにいたのは、
「おこじょだ」
これまた白いふわふわのおこじょだった。お腹あたりを押さえて倒れている。
「連れてきたぞ!もう大丈夫だ!」
『お腹痛い…』
「お医者さんじゃないからね。治るかはわからないよ…」
おこじょの横に齧りかけの果物がある。
…これ、随分熟してないか?
なんなら、ちょっと腐りかけの見た目だけど、食べたの?
「…とりあえず、家にいこっか」
おこじょを抱え直し、狐と一緒に来た道を急いで引き返す。家へ着くなり靴を脱ぎ捨てるように上がり、小さな桶を引っ張り出した。
桶の中に大きめのタオルを敷いて、おこじょを寝かせる。
「暑いけど、我慢してね」
お腹が冷えないように薄手のタオルをかけ、手持ち扇風機をおこじょの前に置いた。
「なんだこれ。…すげえ!」
おこじょの近くで様子を見ている狐は扇風機に当たって喜んでいる。
「こら。風奪っちゃダメでしょ。きみはこっち」
スポット扇風機を狐の前に置く。
「すげえ!風が強い!」
嬉しそうに飛び跳ねている。
胃薬…はないし、薬草煮出したら大丈夫かな?齧った後が付いていた果物は以前からシルが好きだって言ってたものだから、毒性はないだろう。
薬草畑で育ててといてよかった。初めて売る以外の使い道ができてよかった。
薬草を摘みに縁側へ向かう途中、冷房を咥えたシルとすれ違う。
「どこ行くんだろう」と首を傾げたものの、今はおこじょが先だと薬草畑へ急いだ。
さっと数枚摘んで、また家に入ると、びびってる狐の横で、ドヤ顔をしたシルは冷房の風を浴びていた。
「…自慢したいのか?」
リベルはくすっと笑った。
すっかり一つはシル専用になっている。
鍋に薬草と水を入れ、10分ほど煮出す。
少量を小さめの器に移して、器の周りが凍るように調整しながら杖を振る。
「うん。丁度いい温度になった」
おこじょの口の大きさの器はないので、多少大きくなるが口元に器を置いた。
「これ、飲んでね」
体を起こしたおこじょは苦い顔をしながら、ペロペロと煎じ薬を飲み干した。
頭を撫でて、「ちょっと寝ようか」と声をかけたら、おこじょは疲れからかすぐ寝落ちした。
リベルは台所に立って、夜ご飯を作っている。
特にシルが何かしたわけでもないのに、狐はシルが怖いのかリベルの肩に乗って離れない。
「何作ってるんだ?」
「ミルクスープとサラダとキノコの包み焼きだよ」
「きのこは好きだ!」
「そっかそっか。じゃあちょっと多めに作るね。あ。お肉もう切らしそうだな」
また買い出し行かないと。シルが物足りないよね。
考えながら、手を動かす。
もうちょっと、食材が欲しいな。いつもワンパターンなんだよね。野菜は畑のおかげで充実してる。けど、小麦か米があればな〜…。薬草また売りに行って、奮発しよう。
縁側に料理を盛った器を置いていく。シルは桶に。狐はちょっと大きめの器にワンプレート盛りだ。
「…いい匂いがする」
狐はリベルの肩から飛び降りて、おこじょに駆けつけた。
「大丈夫か?!お腹!」
「うん!もう元気だ。…お腹減った」
「じゃあ食べよう!人間が作ってくれたぞ!」
「人間が…?」
「こんにちは。もう元気そうだね」
「俺が見張ってたから大丈夫だ!それにお前を助けてくれたんだぞ!」
「…うん。覚えてる」
意識が朦朧としてて、覚えてないのかなと思ったけど、どうやら記憶してるらしい。
二匹して、縁側にちょこちょこ走ってくる。器へ一直線だ。
途中、シルに気づいたおこじょは飛び跳ねたが、狐が気にせず食べ出したので、お尻を引きながら一緒に食べている。
…シルは相変わらず何も気に留めてない。
「…今日は賑やかだな」
二匹のやり取りを眺めながら空を見上げると、丸い満月が静かに夜空を照らしていた。
「そういえば、帰らなくて大丈夫なの?」
もうすっかり月が出ている時間だ。
「俺、今日ここで寝る!」
狐の尻尾はピンと立っている。
「……じゃあ、俺も」
おこじょは立ち上がった。
「「ここ、涼しいから!」」
二匹は口を揃えて声に出した。
「でしょ?」
リベルは自慢げに口の端を持ち上げ、隣でシルは頷いた。




