表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/28

19



蝉の鳴き声が、静かな庭に響いている。学校は夏の長期休暇に入った。


「これで一日中錬金術に充てれる」


夏が終わる前に作ってしまいたい。


けど、家に備え付けるクーラーを作ろうと思うと、あの緑の魔石を使うしかない。


「一個しかない魔石じゃ、失敗できないし…どうするべきか」


難しいな…。失敗しないなんて、ありえない。かと言って、同じ魔石を何個も取るなんて無理だ。魔獣からの魔石は早々取れる物じゃない。


紙に設計図を書こうとしても、筆が進まない。


「あれの大きい物じゃないのか」


シルはよっぽど手持ち扇風機がお気に入りらしい。


手持ち扇風機は休むことなく縁側で風を起こしている。


「大きい物ね。あるけど……あ!!!!」


ある物を思い出して、大声を出すと、シルは真横で飛び跳ねた。


「なんだ」


「小さくすればいいんだ。あれと同じで」


縁側でポツンと置いてある手持ち扇風機を指差した。


小さなクーラー、スポットクーラーを作ろう。これなら、緑の魔石じゃなくてすむ。


紙とペンに向き直って、設計図を書き出した。


魔石を使うから熱は出ない。だから羽もいらないはずだ。


リベルは設計図をどんどん書き進めていく。


「よし!できた!」


考え通りでいけば、これでクーラーができるはずだ。うまくいけば何個か余分に作れるかもしれない。


「充実した夏休みになりそう」


顔がニヤけているリベルを、シルは変なものでも見るように眺めていた。


木材と工具を持って庭に出て、まずはノコギリで外枠の箱用に長方形に切っていく。


「よし!やるか」


土台に木材を乗せ、足をかけて、ギリギリと切っていく。ノコギリが一定のリズムを刻むたびに、木屑が地面にパラパラと落ちていく。


もうこの程度の作業では筋肉痛にはならない。


「体力付いたなあ…」


しみじみ感じながら、順調に四枚切り落とした。内部の風の通り道用にニ枚、吹き出し口用に一枚サイズを計って切り落とした。


一つ一つ組み立てながら、杖を振り、魔法で固定していく。そうすれば、正方形の外枠の完成だ。


「一旦休憩しよう。」


水を飲んで、水と氷を張った桶に足をつけて涼む。


「次は魔石土台か」


水を飲み干して、あと一踏ん張りと立ち上がった。


魔石は埋め込むから土台は簡単でいい。外枠の上下にピッタリハマるような長さの板を作る。


汗は滝のように流れていたが、腕を動かし続け、


「できた!」


厚い板は切り終わった。


一枚、内部に外枠近くに杖を振って固定させる。


風の通り道を作るのに、余分に切った板をまた振って固定した。それを先ほど付けた板にくっつけて、手で支えながら杖を振る。


「うん、設計通り。一番の難問は次だね…」


吹き出し口である。


扇風機のような複雑なものじゃない。細長い木板を何枚も等間隔に並べ、上下で風向きを変えられるようにするだけだ。


先ほど切った板を正方形にくり抜くために、錐を手に取った。


グッと力を入れて、目標に錐の先端を突き刺し、手のひらを合わせてくるくる回していく。


「…じいさんに大工で雇ってもらえるかもなあ」


それくらい、工具の使い方は上達している気がする。


四つ穴が空いたら小刀でを差し込み、穴に向かって真っ直ぐ刃を滑らせた。


「…真っ直ぐ。落ち着いて」


ここが肝心。注意深くゆっくり進めて行くと、正方形に板がくり抜けた。


「…器用な物だな」


「そうでしょ?」


シルに珍しく褒められて上機嫌なうちに、薄い木板を数枚切り出した。


今までの全てにやすりをかけたら、くり抜いた四角形のところに、等間隔で薄い板を固定する。上下に動かせるように端だけにした。


「…上出来」


あとは明日、錬金術で冷たい風を作ろう。


いつのまにか辺りは薄暗くなっていた。通りでお腹が空くわけだ。


「お昼抜いてたな。…ご飯にしよっか」


シルは待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってきた。


翌日の朝から、リベルは作業台に向かって座っている。


昨日作った吹き出し口の板と、外枠と内部が完成している物を作業台の上に置いた。


「まずは風を作る錬金術」


魔石刻筆を握り、魔石の上に滑らせていく。これは、手持ち扇風機でも使った基礎の術式なので、手慣れたものだ。


内部の奥に魔石を置いて、魔力を流すと、淡い光が部屋を明るくする。


「うん、これは完璧」


次は初めての試み。冷気の術式。つまり、氷の術式の応用だ。


別の魔石を取り出し、氷と風の術式を混ぜて刻印する。これは本には載っていない。混ぜて刻印する事は、独自の術式を作るということだ。


「成功、するかな」


淡く光った魔石を風の通り道の板の上に置き、魔力を流した時、眩暈がした。


あと少しだから、魔力が持って欲しい。


お願いと念じながら、起動用の魔石を刻印する。


外枠に魔石を置き、再び魔力を流すと、ふらりと体が揺れる。思わず、隣に座っているシルにもたれかかった。


「…、ごめん」


返事は何もなかった。


けど、逃げもせず、弾き落とされもしない。


シルの毛はところどころベタついている。


見た目と違って、サラサラではないらしい。


今日はあと少ししか魔力が残ってないかもしれない。


「あと、少し」


吹き出し口と、魔石が埋め込まれた土台を魔法でくっつける。


今度はしっかり作業台を支えるように片手に力を入れた。


「ギリギリ…もった」


もう体に力は入らない。机に突っ伏しながら、完成したスポットクーラーを見る。


見た目は、設計図そのままだ。


「もう起動の魔力が流せない……」


あと少しなのに…と口を動かした。


「ここに魔力流せばいいのか?」


シルだ。そうか。シルも魔獣だから、起動できるんだ。


「ん。お願い…。これで涼しくなるはず」


「楽しみだ」


シルは口の端を持ち上げて、起動魔石を押した。


「涼しいな」


突っ伏している、後ろにいるシルはご満悦でスポットクーラーに当たっている。


「…違うよ」


確かに、風は出ている。


額に流れていた汗を風が心地よく撫でている。


これは、シルが望んでいた


「扇風機……」


冷気はどこに行ったんだ。


もう何もする気が起きず、目を閉じた。


翌日、また庭に出て、ノコギリを持ち、リベルは必死に腕を動かし、材料の木材を切り出していた。


首には手持ち扇風機がぶら下がっている。


大きくなった扇風機の魔石を剥がそうとしたら、完全に虜になっているシルが離さなかった。


…一からはとてつもなく疲れる。


疲れるんだけど、


「あれは、あれで、まあ。よしとしよう」


スポットクーラーが完成したら、サーキュレーターのような役割をしてくれるはずだ。


もともと三つくらいは作る予定だったんだ。


もう何個か先に形だけでも使ってしまおう。


この日は、一日、木材を切るだけで疲れ切ってしまった。


暑くて、寝苦しい夏でも、扇風機を体に当てながら寝ると全然違う。


トン、トンと柔らかい感触に起こされた。


「…おはよう」


「続きだ」


「、そうだね」


シルはよっぽど楽しみにしているらしい。日差し避けをシャッと開くと、まだ夜明け前だった。


眠い体を起こして、作業台の椅子に座る。ゴシゴシ目を擦って、頭を覚ます。


「間違えられないもんね」


リベルはペンを握った。


しばらくして、淡い光が薄暗い部屋を二回輝かせた。


お決まりのように、シルは起動魔石にフサフサの手を置いている。


「いいか」


「ん」


前回より少し冷たい風が吹く。


「威力弱いだけで成功かな?」


「…おい、氷出てきたぞ」


見ると、吹き出し口の隙間から小さい氷が出てきている。


しばらくすると、溶け出し、水溜まりができた。


「……これだと箱が腐ってしまうね」


「風のやつの方がいい」


「………そうだね」


少し期待していたリベルは肩を落とした。


魔力が持たないリベルは一日一つ作るのが限界だ。それから毎日、改良しては失敗し、夜明け前にシルに起こされる。


失敗例が増えるばかりだ。箱に霜がついたり、氷より風が強すぎて息が吸えなかったり。


「今回こそ」


シルが魔石を押す。


「「涼しい」」


二人同時に声が出た。


「これが完成だよ。」


机に体を預けたまま、シルを見て言う。


「これは、いいな」


リベルは体が動けないだけだが、二人してその場で冷たい風を浴びていた。


「あと何個か作ろうか」


「魔石を取ってこよう」


「ほどほどにね」



 


「…寝過ぎた」


目を開けると、日差し避けの隙間から光が差し込んでいる。


足元に重みを感じて目をやると、シルもまだ寝ているらしい。


クーラーと扇風機で冷気を回しているおかげで、汗でベタつく朝はこない。


「起きて」


シルの体を揺すると、目を覚ましたシルは、大きな口を開けて欠伸をした。


その光景を見たリベルは


「最高の夏だね」


と声に出した。





いつもお読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価、リアクションをいただき、とても励みになっています。

これからも更新を続けていきますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ